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第五章 悲恋の章

序章

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 私は現在…移動中の馬車の中で拘束されていた。

 「この馬車は一体どちらに向かっているのですか?」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 馬車内にいる男達は一切口を開こうとはしなかった。

 「おい、彼女が聞いているだろ、さっさと答えろ‼︎」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 そう…拘束されて乗っているのは私だけではなかった。

 偶然にその場に居合わせたドミニクも拘束されて運ばれていた。

 何故こうなったのかは、少し前に遡る。

 ~~~~~30分前~~~~~

 私は店をティファルさんに任せて魔物の素材を入手する為に外に出ていた。

 目的の素材は、森にいるマンドレイクだった。

 ティファルさんに店を任せる様になってからは、私がお店にいる必要がなくなった為に時間を見つけては素材集めをする様になっていた。

 マンドレイクは回復ポーションの材料に使用するためではなく、治癒万能薬のオールエスナを製作する為に必要な素材だった。

 今までの治癒薬は、主に毒や麻痺などのバッドステータスを回復する物で種類が結構多かったのだけれど、新しく発見されたダンジョンの下層の方では複数のバッドステータスのブレスを吐き出す魔獣が現れて梃子摺らされているという話だった。

 多少何かの耐性のある者でも全てを防げる訳ではなく、何かしらの障害があるのだけれど…?

 全くに耐性がない者がそのブレスを浴びると全てのバッドステータスになるそうだった。

 毒・麻痺・衰弱・興奮・酔い・眠り…などなど。

 サポーターやアイテム士といったジョブの持ち主は、複数の薬品を所持出来る為に対応にあたることが出来るが…一般の者達ではそうは行かない。

 それで冒険者ギルドから、全てのバッドステータスを回復出来る治癒万能薬の開発を頼まれたのだった。

 グリモアールの薬学の章には、全てのバッドステータスを回復するという材料は載っていた。

 私は緑園龍の加護を使ってディメンションガーデンの畑であらかたの材料は入手出来た…んだけど、流石に魔物のマンドレイクだけは緑園龍の加護でも生やす事は出来なかった。

 なのでそれを入手する為に街を出ていたんだけど…?

 「お嬢、複数人に尾行されていますね。」

 私は注意しながら森の方へ歩いていると、何故か国から帰還要請で戻った筈のドミニクがそこに居て私に話しかけて来た。

 ドミニク以外に騎士団は見掛けない。

 騎士団でもいれば尾行している者達も無闇に飛び込んでは来ない筈…という当てが立てられなかった。

 私は一刻も早くにその場から離れたくて速度を早めてその場から去ろうとしたのだけど、運悪く無視されたと思ったドミニクは私の腕を掴んで止められた。

 「あの時の事は悪かったと思っていたが、何も無視しなくても良いだろ‼︎」

 「急いで此処を離れないと行けないので離して下さい!」

 私は後方を見ながら言うと、ドミニクは髪をかき上げて剣を抜いて行った。

 「追われているのか? なら俺が助けてやろう…が、その代わり………」

 ドミニクが何を言おうとしているのかは大体想像がつく。

 だけど、私の体に針の様な物が刺さると…私の体は麻痺で動けなくなっていた。

 「ドミニク…さん、誰か…応援を呼んで…来て下さい!」

 「必要ない! この程度の奴等は俺1人でじゅうぶ………あろ?」

 ドミニクも一緒に針を刺されてその場に倒れた。

 私はブリオッシュに掴まって立ち上がろうとしたけど、体に上手く力が入らずに動けなかった。

 麻痺には多少の耐性はある…んだけど、針に使われている麻痺薬はうちの店で売られているものより遥かに強力な物だった。

 そして動けない私に男はブリオッシュを遠くに放り投げられて、私とドミニクは近くにあった馬車に放り投げられて運ばれて行った。

 私は抗えずに意識を失い…そして目覚めた時には、馬車から見える景色が全く覚えのない景色が広がっていた。

 そして…最初に戻る。

 体はまだ少し麻痺が残っていて動けなかったけど、話す事は出来ていた。

 「コイツらにさっきから聞いているが、一切口を閉ざして話しやがらねぇ!」

 「そんな事よりも…何故言われた通りに応援を呼んで来てくれなかったのですか‼︎」

 「君に良い格好を見せたくて功を焦ってしまった。」

 私は溜め息しか出なかった。

 ドミニクが素早く行動を起こしていれば、誰かしらに伝わるという事になった筈なのに。

 私とドミニクはそのまま運ばれて行き…気が付けば辺りから潮の香りの風を感じていた。

 「まさか…船に乗せられるの⁉︎」

 「どうやらその様だな! だが安心しろ、君の事は俺が守ってやるからな!」

 拘束された状態で格好を付けてそんな事を言われても、全くと言って良いほどに頼りになるとは思えない。

 すると港街に到着する前に馬車は停車し、ドミニクは男達に担ぎ上げられて…そのまま崖から放り投げられた。

 下は海だと思うので、拘束されていなければ助かるとは思うけど…?

 再び男達が馬車の中に乗り込むと、馬車は発車し…港の方に運ばれて行ったのだった。

 果たしてリアーナは、一体何処に運ばれてしまうのだろうか?

 第五章…これより始まります!
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