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第二章

第八話 定番の魔物以外の……厄介な魔物・後編

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 俺は考えていた、もしかしたら…あの手が通用するかも知れないと。
 確率は殆どない。
 一か八かの手だからだ。
 俺はなんとか立ち上がり、テディールベアーの前で…先程の冒険者の身体に触れた。

 「ハイタッーチ!これで、今度はこの人が遊んでくれるよ!」

 これはあくまでも賭けだった。
 ハズレたら、俺は間違いなく勘違い野郎のレッテルを貼られるだろう。
 こんな事をして効果があるのかと思ったが、テディールベアーは俺から視線を逸らし、冒険者の方に視線を向けた。

 「良し、成功!」
 「おい、お前!今のは一体なんなんだ⁉︎」
 「そんな事を説明している暇は無いぞ、その証拠に…」

 俺は指を刺した方向に…テディールベアーは、両手を広げて冒険者の方にジリジリと歩み寄って行った。
 そして冒険者がその場から逃げ出すと、テディールベアーは後を追い掛けて行ったのだった。
 
 「あの時に、俺を見捨てて走り去って行った報いだ!」

 俺はあの時の恨みを晴らせて、少し胸がスッとした。
 先程の冒険者は、右の壁に沿う様に走って行ったのだった。
 このままだったら、数時間もすれば…再びこの場所に帰って来るだろう。
 それまでに何か対応策を考えなければな。
 そんな事を考えていると、俺は後ろから声を掛けられた。
 俺はその人物を見ると、見覚えがあった。

 「あんたが投げてくれる本を見て対処法が思い付いたんだ。感謝する…」
 「いえいえ、役に立ってくれたのなら本望です。それにしても、テディールベアーのターゲットを逸らすというやり方は見事でした。アレはどうやって…?」
 「その前に、お前は一体何者なんだ?」
 「あ、申し遅れました。私は魔物研究室長のヒュベリウスと申します。」
 「俺は、テルヤ=ザイエンジだ。」
 「なんと…貴族の方でしたか!」

 俺より少し若い、目にモノクルをしたヒュベリウスは言った。
 そう言えば異世界では、名字があるのは貴族だけなんだっけか。
 俺は別に貴族と言うわけではないし、今後は名字を名乗るのは控えよう。

 「そう言えば、ターゲットを逸らすやり方について聞きたいんだよな?」
 「そうです、テルヤ様…」
 「様はいらん。」
 「かしこまりました、テルヤさん…で宜しいですか?」
 「敬語も必要ないし、呼び方はそれで構わない。」

 俺とヒュベリウスは話し始めた。
 ヒュベリウスは、俺の言った事を用紙にメモをしていた。

 「森の中に棲み着く森の妖精…と言うのは間違えてはいないと思う。人好きで、人を見ると追い掛けて来るという言葉や、捕まると過剰なスキンシップという言葉に、違和感を感じてな。」
 「違和感…ですか?」
 「テディールベアーは、多分だが…精神的に幼い年齢なんだと思う。そして人を見ると追い掛けて来るというのは、多分遊んで欲しいんじゃないかという表れじゃないかと思っている。」
 「では、過度なスキンシップは?」
 「それは一緒に遊んでくれたのに、疲れ果てて捕まってしまったので、これ以上一緒に遊んでくれないと思って…テディールベアーからはスキンシップをしている訳じゃなくて、労いと心配の為にマッサージをしていた…という感じじゃないかな?」
 「マッサージ…ですか?」
 「まぁ、そうは言っても…相手は魔物で人間相手に加減が難しいから、側から見たら…過剰なスキンシップと勘違いするんだろう。」
 「あ、そういう事ですか。…となると、テルヤさんを無視して、リーダーを追いかけて行ったのは…」
 「俺の体力が限界を感じたが、これ以上無理に遊ばせるのは気の毒と感じていたところに、元気になる為にマッサージか何かをして癒そうと考えて近付こうとした矢先に、俺がアクションを起こしてリーダーが遊び相手になってくれると伝えれば、今度は別な人が遊んでくれると思って、俺からリーダーにターゲットを変えたんだよ。テディールベアーは人間と遊びたいと思っているから、交代は好都合と感じたんじゃないかな?」
 
 俺の考えが間違えていなければ、恐らくはそういう理由だろう。
 テディールベアーは、人を好きな妖精…には違いが無いが、純粋に一緒に遊びたいだけなんだろう。

 「なぁ、ヒュベリウス…もっと、テディールベアーの生態をもっと知りたくは無いか?」
 「そうですね、今の話だけでも大発見ですが、これ以上に何かが分かるなら…」
 「ヒュベリウス、護衛の冒険者達にもう少し報酬を上げてやることはできるか?」
 「それくらいなら構いませんが…」
 「もうすぐ、リーダーが街を一周して戻って来るから、今度は別の冒険者に交代して貰い…その人間が馬で逃げた場合、テディールベアーは追いかける為に速度を上げるかどうかを確認してみるというのはどうだ?」
 「あ、それも気になりますね。普段は人の足に合わせた速度ですが、馬の場合はどうやって追い掛けるのか?…それとも諦めてしまうのかが?」
 「良し、馬に乗って街中を走るのは迷惑になるだけだから、門を開けて外に逃げる様にして貰い、暗くなる前に街に帰って来るをしてみよう。」
 
 何故、この様な提案をしたか…?
 俺はこの先、安住の地を見つける為に旅を続けるのだが…またテディールベアーなんかに出くわした時の対抗策が知りたい。
 だって、ヒュベリウスの話によると…テディールベアーは、ほぼ全世界にいるという話だからだ。
 場所にもよるが、旅を続けていると確実に会う確率が高いからだ。

 「テルヤさん、門番に話して扉を開けて貰いましたのと、冒険者に馬を渡しました。後はリーダーが帰って来れば……帰って来ましたね。」
 「良し、次の作戦に移るぞ。おいリーダー、馬に乗っている仲間の身体に手を触れてから、こう叫べ。「今度はこの人が遊んでくれるよ!」…と。」
 
 リーダーに聞こえたみたいで、頷いてから馬に乗った仲間にタッチしてから、テディールベアーに向かって先程の言葉を伝えると?
 テディールベアーは、ターゲットを馬に乗った冒険者に視線を移した。
 そして馬が走り出すと、テディールベアーも追いかけて行ったのだった…が?
 速度は馬に合わせているのか、多少速度が上がった感じだった。

 「やはり、人や馬によって速度を調節出来るみたいだな。」
 「とびっきり速いというわけではありませんが、それでも人が全力で走っている速度に簡単に追い付く位の速さですね。」

 ヒュベリウスは感心した様にメモ書きをした。
 後は最後の工程だが、これは当たるか外れるかが半々なんだよな。

 「それで、テルヤさん。次の策も考えているのでしょうか?」
 「あぁ、考えている。次は暗くなる少し前に、街に戻って来てから…「人間は夜に活動は出来ないから、続きは明日にしよう…」と伝えると、テディールベアーは森に帰って行くかどうかを…」
 「もしも帰らない場合は?」
 「その人間を関係無しに追い掛けて、捕まえてから過剰なスキンシップの可能性が…」
 「なるほど、確かにその可能性が高そうですね。」

 もしもそうなった場合、最後の相手が捕まって過剰なスキンシップの洗礼に遭うかも知れない。
 まぁ、テディールベアーの精神年齢が幼いから、そう伝えれば帰ってくれると思いたいんだがな。
 すると、空に夕日の赤みが帯びて来たと同時に、先程の馬に乗った冒険者が帰って来た。
 …と、同時に…その背後にはテディールベアーが追い掛けていた。
 俺はテディールベアーベアの前に立ちはだかって、先程の言葉を伝えた。

 「これからはもう暗くなる。暗くなると、俺達は活動出来なくなるから…また明日遊ぼうぜ!」

 すると、テディールベアーは…その場に立ち止まって動かなかった。
 微動だにしないので、言葉が通じているのかが怪しかった。
 そして、俺とヒュベリウスとリーダーとの打ち合わせした内容を、テディールベアーに伝える事にした。

 「お前も森に、お前の帰りを待っている家族や仲間がいるだろ?」
 「あまりにも帰りが遅いと、家族や仲間が心配するんじゃ無いか?」
 「私達は、今日はもう遊べなくなりましたが…明日になったら遊ぶ事ができますよ。だから今日は、あなたもお帰りくださいね。」

 俺達はそう伝えると、テディールベアーは手を口元に当てて考えている感じだった。
 そして暫くしてから頷くと、Uターンしてから森の方に向かって走って行った。

 「良し、どうやら上手く行ったな。」
 「まさか、あんな方法で帰って行くとは…」
 「だがこれで、昼夜問わずに終われる事がないと分かったから…収穫です。」

 こう約束をしたら、テディールベアーは明日もこの街に来るだろう。
 この隙に逃げるということも出来なくはないが、例え護衛がいるからと言って…夜に出回るのは、正直言ってかなりのリスクがある。
 でも、これでテディールベアーに言葉が通じるという事が分かった。
 後は、次に手を考えないとだなぁ?

 ~~~~~翌朝~~~~~

 まだ日が昇って霧が晴れ上がらない程の早朝。
 門の所にテディールベアーがやって来ていたと、門番から報告を受けたのだった。
 まさか、逃亡させまいと先手を打っての行動なのか…?
 それとも単純に、昨日の約束を守っただけなのだろうか?
 ともかく俺は、ヒュベリウスとリーダーに相談する為に、宿の食堂に呼び出した。

 「こんな朝っぱらから、一体何の用だ?」
 「実はさっき門番が俺の部屋にやって来てな、テディールベアーが街の外で待ち構えているという話を聞いたんだ。」
 「え、こんなに朝早くに…ですか?」
 
 そういう反応をとるのは凄く分かる。
 実際は俺も驚いているからだった。
 
 「恐らくだが、人間と違って日を跨げば…それはアイツらにとっては、例えまだ薄暗くても明日という事になるんだろう。」
 「そうですよね、その辺が魔物と人間の違いということですか。」
 「それで、どうする?何か対策は考えているのか…?」

 一応考えている事はある。
 ルールを決めて、そのやり方を実行出来るかを検証してみたい所だが…?

 「今回は君が逃げる番と伝えて、こちら側は馬を使って追い掛けるという事が出来るかどうかを…」
 「でもその作戦は、テディールベアーが追い掛けるのが好きだったりすると、成立しませんよ。」
 「そこなんだよなぁ…?俺等が逃げてばかりよりも、今度は逆をしてみたいと訴えれば…遊び好きの妖精だったら、言うことを聞くんじゃないかと。」
 「そう言えば、あの姿だから忘れていましたが…中身は精神年齢は幼い子供でしたよね?」
 
 これが俺も検証してみたい事だった。
 旅をしている時に、もしもテディールベアーに出くわした時に、この方法が通用するかを確認したかったからだ。
 そして探すフリをして、逆の道を進んでやり過ごせば…逃亡が可能になるのではないかと。
 まぁ、小さな子供を騙す様で、若干の罪悪感が湧くが。

 「なるほど、確かにその方法なら…テディールベアーから逃げる事が出来ますね。」
 「だが、追い掛けて来たらどうする?」
 「その時は、テディールベアー見~っけ!後は捕まえるだけだぞ~!と言って向かって行けば、奴も捕まりたくなくて必死に逃げるんじゃないかと。」
 「「う~~~ん?」」
 「それでその隙に逃げる…というのは可能になるか?」
 「今迄に考えた事もない作戦ですね。ところで、テルヤさんはどうしてこんなことを思い付くのですか?」
 「お前達は子供の頃に、追い掛けっ子をして遊んだりしなかったのか?」
 「……考えてみれば、かなり幼い頃にそんな遊びをした事があったかも知れません。」
 「俺もやっていたな、なるほど…相手は精神年齢が低い子供なら、有効な手かも知れないな。後は上手く離れて逃げ切れれば…だが?」

 テディールベアーが追い掛ける側なら、何をやっても逃げ切れる事は不可能だ。
 人の足で走っても、馬に乗って走っても、付かず離れずの速度で追いかけてくるのだからまず不可能だ。
 だが、こちら側が追いかける側なら?
 テディールベアーは、どれくらいの速度で逃亡するのだろうか?

 「分かりました、今回もテルヤさんの作戦を実行するとしましょう。」
 「だな、他に案も思い付かないし…」
 「良し、それなら飯を喰ってから…行動に移すぞ!」

 こうして、俺の作戦を実行する事になった。
 ヒュベリウスは、門の外で待っているテディールベアーに、今日は我々が追い掛けます…と伝えると、テディールベアーはバンザイをしながら嬉しそうにジャンプをしていた。
 いつも追い掛ける側だったから、逆に追われる側というのは新鮮だったのだろう。
 そして、ヒュベリウスはスタートの合図をすると…?
 テディールベアーは急いでその場所を離れて行ったのだった。

 「奴の逃亡するスピードは、なかなか速いな…」
 「それは、馬で追いかけている所為では無いでしょうか?」
 「よし、これでこの方法も有効という事が分かったし、俺はそろそろ行くとするよ。」
 「テルヤさんも、皆と一緒に追い掛けるのですか?」
 「は?何を言っているんだ…俺は元々、ヒュベリウスから借りた本の…街に入って、他人になすり付けられるかを検証しただけで、その後に色々と作戦を話したが…協力するとは一言も言ってない。」
 「な、何ですかそれ…」
 「だって、俺はあの煩わしいテディールベアーを他人に任せて、旅を続けようと考えていただけだ。俺は馬で追い掛けるという指示をしたが、俺自身が馬に乗って追い掛けるとは言っていないしな。」
 「確かにテルヤさんは、言ってはいませんでしたが…」
 「…という訳で、後は頼む。俺は奴等が追い掛けて行った、反対側の門から旅を続けるからな。」
 「テルヤさん見損ないましたよ…そんな人だったんですか?」
 「そうだよこれが俺の本性だ、誰だって自分が1番可愛いからな。自分が助かる為だったら、他人がどうなろうが知った事ではない。」
 「何て…酷い考えを持っている人ですか、騙されました。」
 「だがお前等も昨日草原で会った時に、討伐の手伝いを要請したら…襲って来ていたのがテディールベアーと知って、俺の事を見捨てただろ?あの時にやっていたお前等の行動と、俺の行動…違いがあるか?」

 俺はそう言って、ヒュベリウスに手を振りながら反対側の門を目指して歩き出した。
 ヒュベリウスもリーダーも、今回限りの縁なので…別にその縁が途切れても、何の問題もなかった。
 どうせ、この広い世界で再び会うほど…この世界は狭くは無いだろうしな。
 俺はこんな…会って間もない友人になるかも知れない者達を見事に裏切ってしまった所為か…?
 旅を続けている内に、再びテディールベアーに出くわした。
 俺はあの時の方法を試そうとしたのだが、このテディールベアーにはその手が通用しなかった。
 そして俺は、全速力で逃げたのだが…?
 結局は捕まって、過剰なスキンシップの洗礼を受ける事になったのだった。
 どんなに離れたくても、テディールベアーの腕の力が強すぎて離脱は不可能だった。
 そして俺は3日間もの間、過剰なスキンシップの餌食となり…開放された時には、大事な何かを失うという意味が分かったのだった。

 それから俺は、テディールベアーが何処かに行ったのを確認してから、その場を脱兎の如く逃げ出したのだった。
 俺に旅はまだ終わらない。
 理想の居場所は、果たして見つかるのだろうか?

 ~~~~~~~~~~

 どうも、アノマロカリスです。
 この作品を読んで頂き、誠にありがとうございます。
 面白ければ、是非に感想を下さいませ。
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