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第四章 別大陸での活動の章
第八話 ダンの修業(初日からこんな感じです。)
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ここは、サーテイルの港町だ。
半月以上の長い船旅を終えて、この港町に着いた。
この町で最初に行う事…それは食堂で飯を喰う事だった。
ガイウスやクリスは、船酔いを克服した!
……筈だったのだが、満腹状態だと強い揺れで吐き気を襲ってくるらしく、常に半分程度しか腹に入れられなかった。
なので陸に着いた時は、満腹になるまで食べるつもりでいたのだ。
そして着いてから宿屋で今後の話をする…予定だったのだが、ガイウスとクリスが腹が限界という事で、食堂を探していたのである。
港町とは元来、交易の中心地である。
なので、港町と言っても王都ほどではないが、それなりに栄えているのである。
ましてや、聖竜国グランディオは世界で一番大きい国なので、交易も他国とは比べ物にならない位に盛んなのである。
「さぁ、ダンよ! 何を喰うか!? ここには何でも揃っているぞ!!」
「あちきは魚が良いにゃ! いまならマグロー1匹でも完食出来る自信があるにゃ!」
「二人とも落ち着けって…」
僕は露店で買ったジュースを飲んでいた。
それは木の実に穴を開けて中身を飲むといった物で、ヤシの実みたいなジュースだった。
港町は活気付いていた。
様々な露店や食堂が開いてて賑わっていた。
そして何よりサーディリアン国とは違い、普通に歩いていても誰も声を掛けてくる者がいなかった事が嬉しかった。
その店の中で人だかりが出来ていた店があったが、ガイウスとクリスが店を見渡していて気にもしなかったのだが。
『今は2つの特集を組んでいる! 1つはテルシア王国から旅立った勇者パーティの特集。 救世主召喚で呼び出された勇者パーティは魔王を倒せるだろうか!?』
翔也達の話か…
とうとうテルシア王国から旅立ったんだな!
いつかどこかで会えると良いな…なんて考えながらジュースを口に含んだ。
『続いては、サーディリアン聖王国を救った英雄ダンの特集だ! あの十六鬼影衆を2匹も倒した英雄ダンのパーティ…もしかしたら、彼らが魔王を倒すかもしれない!?』
「ブッーーー!」
「きったねぇな、ダン! 何するんだ?」
僕は口の中の物をガイウスの背中に噴いた。
僕は謝りながらクリーン魔法で綺麗にした。
まさか、ここでも僕の名前が上がるとは思わなかった。
幸い、この世界には写真という技術はない。
なので、絵描きスキルを持っている者が絵を描く訳なのだが、勇者の翔也達と違い僕は絵のモデルにはなってない。
そう思っていたのだが…?
『これが英雄ダンの姿だ!』
僕は絵を見てみた。
実際の僕より5割増しで美形に描かれていた。
うん、大丈夫!
これが僕だと気づく人はいないはず。
ただ翔也達が見たら爆笑しそうだな…?
僕達は一番大きい食堂を見付けて入って行った。
「俺は肉を喰うぞ! ブルステーキ3人前を大至急頼む!!」
「あちきは、ブルステーキとマグローステーキを2人前頼むにゃ!!」
「私はトコブシェーターのステーキをお願いします。」
「シェリンプフライと海鮮マリメットお願いします」
「僕は、ブルステーキのみで」
いくら腹が減っているとは言っても、喰い過ぎではないかと思った。
…と思ったら、ペロリとたいらげてから、更に追加注文をしていた。
本当に、今まで食べれなかった分を取り戻す勢いで口に入れていた。
これは…帰ってから宿屋で話をするのは無理そうだな。
とりあえず、皆が食べ終わるのを待った。
「では、腹が落ち着いた所で…ダン、話があるんだろ?」
「ん?」
ガイウスが僕に尋ねてきた。
今日は絶対に話をするのが無駄だと思っていたのだが…
「そうだね、皆も聞いてね。 僕はしばらくの間、1人で修業をしたいと思ってる。」
「え? 何でにゃ!」
「何故ですか?」
「ガイウスとレイリアには話したんだけど、僕は剣の方はあまり得意ではなくてね。 それを鍛える為の修業なんだ。」
「なら、一緒でも出来るにゃ!」
「そうですよ、パーティ活動すればレベルも上がる…」
「クリスとベルには話していなかったけど、僕のジョブはね…呪いによってレベル1なんだ。」
「「えぇ~~~~~!?」
「その代わり、スキルが現在28個ある。 ユニークスキルを入れれば29個か…」
「そういえば、ダンと戦った時にスキルがいくつあるのかと思った事があるにゃ!」
「私も、スキルの数が多くないかな?…と思った事がありました。」
「そして、この話はベルには話していなかったけど、僕はこの世界の住人ではない。」
「この世界って…どういうことですか?」
「テルシア王国が勇者を呼び出す為に救世主召喚を行った話は知ってる?」
「はい、発表されましたし皆が知っています。」
「勇者パーティの勇者翔也、聖女華奈、剣聖飛鳥、賢者賢斗、そして僕…この5人が異なる世界から救世主召喚で呼び出されたんだよ。 まぁ、僕のジョブは発表できない位にダメなジョブでね、城から追い出されて勇者パーティは4人だけという事になっている。」
「だからですね、馬を使わない乗り物が作れたのって…」
「普通に考えたらおかしな話だ! 勇者は会った事ないが、ダンの強さは俺達が良く解っている!」
「ダンの覚醒した姿は、私以上の力を感じました。」
「でも現在はそのスキルの内、3つは封印されているんだ。 無属性魔法が使えなくなった。」
「え? どうしてですか?」
「僕の中には、もう1つ別な人格と観察者と呼ばれる悪戯を好む者がいて、そいつが僕のスキルを封印して楽しんでいるんだ。」
「観察者って何者なんですか?」
「そうだな、ガイウスにもレイリアにも話していなかったね。 観察者…元は遊戯の神で現在は悪戯の邪神ルキシフェルだ。」
「「「「ルキシフェル!!」」」」
皆の意外な反応に僕は驚いた。
この世界の邪神なら知っていてもおかしくはないのか。
「あれ?知っているの?」
「太古の昔に、遊戯の神は娯楽を用いて世界に平和をもたらしていたけど、その娯楽に飽きたルキシフェルは、人々をゲームの駒にして世界中の人達と戦わせるように仕向けたんだけど、善なる神がそれを仲裁したら、ルキシフェルが地獄の門を開いて魔の者を呼び出したっていう御伽噺。」
「この世界に住む者なら、誰でも知っている話だ。」
「僕は魔剣アトランティカから聞いたよ。 アトランティカは太古の昔に英雄が使った剣の1本だそうだ。」
「だと、それなら…ダンの修業の目的って?」
「僕自身が剣を自在に使いこなす事と、アトランティカのレベル上げが目的なんだ。」
「ダンの中にいるルキシ…観察者をどうにかする為だな?」
「あぁ…実は地竜との戦いの時に観察者に面白半分でスキルを全部封印された事があってね、今後の事を考えると、いつ全てのスキルを封じられても良い様に剣を鍛えておきたいんだ。」
「解ったにゃ! ダン、言ってくると良いにゃ!」
「その間、私の修業はどうしたら良いですか?」
「ベルの修業に関しては、トコブシェーターの戦いの時に合格点になる位の糸を使う事が出来たので、次の段階に移行しようと思う。 次はね…こうするの。」
「壁…ですか?」
僕は生活魔法の無属性で、巨大な盾を作りだした。
「いや、盾だよ。 ただし、この盾を極限まで厚さを薄くして、透き通る状態になっているよね?」
「あ、はい。 ダンさんが見えます。」
「この状態で、如何なる攻撃も弾き返せる様になるのが第二段階の修業。 この修業の完成形は、無意識な状態でも盾を思い浮かべたら出現出来るようにする事。」
「如何なるものもですか?」
「糸修行は、極限まで細くして見えなくなるまでになる事だったけど、今回は広範囲に盾を形成してから極限まで薄くという2つを同時に行わないと出来ない魔法だよ。 頑張ってね!」
「な…なるほど! これは大変そうですね。」
「ガイウス、君に2つ選択権を与える。」
「ん? なんだ?」
「当初の様に、この町で冒険者ギルドの依頼を受けて僕を待つのと、先に聖竜国グランディオに向かって向こうで合流するというのと、どちらが良い?」
「ここで待とう。 俺達にとってもこの地は未開の地だ。 下手に遠出して戻ってこれない事を考えると、合流出来なくなる可能性があるしな。」
「では、皆もそれで良いね?」
皆は、そろって頷いた。
「よし、明日から宜しくね…って、ベルどうした?」
「私の故郷は、聖竜国グランディオ領内にあるんです。 聖竜国グランディオを抜けた先の方にある港街が私の故郷です。 それと、私とネギア先輩が通っていた魔法学院が聖竜国グランディオの手前にあるんです。」
「なら、この辺は解る?」
「いえ、この辺は余り良く知りません。 ですが、モンスターの生態には力になれるかと思います。」
「なら、僕が合流したら行こうか。」
「私の故郷にですか?」
「ベル、嬉しそうだね?」
「はい、しばらく家に帰ってないので嬉しいです!」
「でも残念、魔法学院に。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
本当に、嬉しそうな人間を地に落とすのは面白い。
さて、これから準備をするか…。
僕は様々な食材や薬草を買って収納した。
翌日、僕は皆と別れて旅立った。
それは波乱に満ちた修業の旅になった。
~~~~~翌日~~~~~
宿から旅立った僕は、出口に向かう前にまず冒険者ギルドに寄った。
別に更新をするつもりはない。
討伐モンスターの欄を見る為だった。
「サーベルクーガー金貨8枚、スミロドンディーガー金貨23枚、バトルガザミー金貨4枚、フェザーティーガー金貨32枚か…結構大物だね。」
「おいおい、お前みたいなガキにこんな大物は無理だ! 帰って寝ろ!」
どこのギルドにも、こういう輩はいるんだな…。
僕は無視した。
「お、腰の物は良い物持ってんじゃねーか! それを置いて行けば見逃してやるよ!」
僕は無視してギルドを出ようとした。
だが、先程の男が立ち塞がった。
背後を見るが、ギルドの人間は見て見ぬふりをしている。
僕は相手の鳩尾に掌底を喰らわしてから、蹴りをして吹っ飛ばした。
僕を見て笑っていた他の者たちは急に黙った。
ギルドを出てから歩いていると、先程の男と仲間が僕を囲んだ。
「さっきは良くもやってくれたな! 慰謝料として有り金と腰の剣を置いて行け!!」
「ここまで来ると、冒険者というよりただの盗賊だな。」
「誰が盗賊だ!!」
「じゃあ、追剥か…」
早く修行の旅に行きたいから、あまり関わりたくなかったのだが…仕方ないか。
「掛かってくるのは構いませんが、向かって来たら痛い目に遭わせますよ。」
「お前みたいなガキにやられるかよ! やっちまえ!!」
僕は生活魔法の巨大な水魔法を奴等の頭からぶっ掛けて、水たまりに奴等がいるので雷魔法で水たまりに手を置いた。
死なない程度の電流だけど、気絶する位には威力を高めている。
静かになったので、僕は出口に向かった。
「それにしても、こう知名度が低いとあぁいう輩に目を付けられるし、かといって知名度が高いとお近付になろうと擦り寄ってくる人が多いな…」
門を通る時に、門番に挨拶をした。
そして僕の後方より少し離れた場所で僕を見つめて後を付けてくる影があった。
町を出るとそこは街道が続いていた。
左には草原、右には森があった。
「さて、どっちにいくか…な?」
昨日の買い物の間に、この辺の地図は購入しておいた。
だが、地図に頼るのは港町に帰る時だけにして、あとは適当に旅する事にした。
「よし、森に行こう!」
僕は森に向かって歩き出した。
森の前に着くと、中から色々と鳴き声が聞こえて来た。
うん、中々スリルがありそうだ!
森に入って行くと、別に暗くはなく空が見える箇所がいくつもあった。
考えてみれば、エルヴ大森林と比べるから異世界の森は全部あんな感じだと思っていたが、そうでもないんだな…と思った。
「それにしても、さっきから何の用だろう? あんな雑な尾行していて気付かないと思っているのだろうか?」
僕は風魔法を足から発動して、木を駆け上がり枝に立つと、別な木の枝に飛び移った。
6つ目の木の枝に飛び移ってから下を見ると、先程の影が下を走っていて辺りを見渡していた。
身なりを見ると、短剣にレザーアーマーを着た冒険者だった。
《アトランティカ、どう見る?》
《装備や年齢的に見て、新人冒険者という感じだな。》
そうだな、僕を探すのに夢中で周りを警戒していない。
背後にバーゲストがいるのに前を見過ぎだ。
《相棒、あの新人…囲まれているぞ!》
《だね、なのに気付いている様子がない。》
《助けるのか?》
《いや、少し様子を見よう。 どうせなら関わり合いになりたくないし…》
新人冒険者らしき者に前から側面から後ろからとバーゲストが迫ってきている。
新人冒険者は、短剣を抜いて構えているが震えてもいた。
《バーゲストって、下級モンスターだよね? なら経験値は期待できないか…》
《そうだな、あんなの100匹倒しても大した儲けにはならん。》
とりあえず、危なくなったら助けるとしよう。
それまで腕前を拝見。
新人冒険者は、前から来たバーゲストの攻撃をかわすと、背中に短剣を突き刺した。
だが、攻撃が浅くて大したダメージは追ってはいない。
僕は枝の上から声を掛けた。
「助けてほしかったら言ってくれ。 助けてやるから、銀貨1枚で…」
《相棒、意外とがめついな…》
《勝手に人の事を付けてきて、タダで助かろうなんて甘い考えをしているのを教えてあげるのさ。》
「どうするの? 助けはいる~?」
「い…いらないよ! こんな奴等僕だけで充分だ!!」
「あ、そう! それじゃ、頑張って!」
僕は別な枝に飛び移って行った。
しばらく飛んでいてから下を見ると、先程の新人冒険者がバーゲストの群れを連れて逃げている。
だが、その前方に先程討伐書でみたスミロドンディーガーがいた。
バーゲストとは比べ物にならない位に大きなサーベルタイガーだった。
「さすがに新人冒険者では無理だな。」
僕は剣を抜いて、スミロドンディーガーの首を目掛けて剣を振り下ろした。
討伐書に載っていた割には、なんか呆気なかった。
討伐書のミスかな?
僕は血を払って鞘にしまうと、球体魔法でスミロドンディーガーを収納してから新人冒険者を見た。
泣きそうな顔をして、バーゲストに追い掛けられている。
「助けいる~?」
「はぁ…はぁ…い…いらないよ!」
なら何故わざわざ森の奥に行くんだろう?
森を抜けた方が奴等も追っかけて来ないのに…?
僕は右に走って大木の後ろに隠れると、新人冒険者は僕が曲がった方向に走って行った。
そのまま真っ直ぐ走れば森を抜けるという道を教えてあげたのだ。
「まぁ、森を抜けて町の近くまで行けば、門番が撃退するだろう。」
《しかし、あの新人は何だったんだろうな?》
僕は更に森の奥を目指した。
討伐書のモンスターにもう1匹、フェザーティーガーという翼のある虎がいると書かれていた。
正直言って、スミロドンディーガーは歯応えが無かった。
《アトランティカ、スミロドンディーガーで経験値は入った?》
《ほんの少しな。》
《なら、討伐書のモンスターではなかったのかな?》
《良くは解らんが、あれに手こずる様な冒険者は、多分下位ランカーでもない限りいないだろう。》
《相棒、前方に巨大な反応がある!》
《あれは、銀貨300枚のバーストボアか…これからの修業を考えると、食材として残しておく方が良いか、報酬の為に始末するか…》
体長4mの巨大な猪は、僕を見て向かってきた。
僕はアトランティカを抜き、前足を斬って切断した。
そして側面に回ると、ジャンプしてから首を刎ねた。
そして腹に【吐血】をして血抜きをしてから収納した。
《今のは…って聞くほどではないか。》
《先程のスミロドンディーガーよりは少ないがな…》
う~ん……?
これじゃあ、修業にはならないなぁ。
僕は休憩を取りながら、地図を見た。
本来なら帰り用として見る筈だったが、こうまで弱いモンスターばかりだと修業にはならないからだ。
一度森を抜けて街道に戻ってから、真っ直ぐ行くと山のダンジョンと呼ばれる高レベルモンスターがいるゼイギア山という山がある。
そこに行こうと思った。
僕は来た道を戻って、街道を目指した。
森を抜けて町の入り口を見ると、2人の門番がバーゲストの群れと戦っていた。
まぁ、あれなら平気だろう…と思い、僕は街道を進んだ。
その背後に、先程の新人冒険者が距離を開けて着いてきていた。
《相棒よ、気付いているとは思うが…》
《さっきの新人冒険者でしょ? あれで尾行のつもりかな?》
着いて来られても迷惑だし、時間もないので…
修業中は使わないと決めていたシルロンダーだったが、時間節約の為にシルロンダーを出して、ゼイギア山に向かった。
後方の方で新人冒険者は、シルロンダーを見て驚いていた。
ダンはシルロンダーに乗ると、山に向かって走りだした。
新人冒険者も後を追ったが、当然追いつくはずもなく引き離されて行った。
「あの高そうな剣に、馬を使わない乗り物…間違いない、あいつは金持ちのボンボンだ。 だから、武器の性能でスミロドンディーガーを倒せたんだな! 全て奪ってやれば、僕は金持ちだ!! それにあの方向は、ゼイギア山だな! 」
どうやら新人冒険者は、盗賊だったみたいだ。
それにしても、知名度が低いのも問題だが、それ以上に勘違いというのも厄介な物だ。
そして、その新人冒険者が山に着く頃には、ダンは別な場所に移動していたのだった。
ダンと盗賊の彼は今後、会う事はあるのだろうか?
ちなみに…
ダンの倒したバーストボアの討伐ランクはB級。
スミロドンディーガーの討伐ランクはA級だった。
魔剣アトランティカは十六鬼影衆の2匹を倒して経験値を獲得してから、驚異的な速さで進化しているのであった。
だから、スミロドンディーガーを目の前にしても大した強敵にはならなかったのだ。
半月以上の長い船旅を終えて、この港町に着いた。
この町で最初に行う事…それは食堂で飯を喰う事だった。
ガイウスやクリスは、船酔いを克服した!
……筈だったのだが、満腹状態だと強い揺れで吐き気を襲ってくるらしく、常に半分程度しか腹に入れられなかった。
なので陸に着いた時は、満腹になるまで食べるつもりでいたのだ。
そして着いてから宿屋で今後の話をする…予定だったのだが、ガイウスとクリスが腹が限界という事で、食堂を探していたのである。
港町とは元来、交易の中心地である。
なので、港町と言っても王都ほどではないが、それなりに栄えているのである。
ましてや、聖竜国グランディオは世界で一番大きい国なので、交易も他国とは比べ物にならない位に盛んなのである。
「さぁ、ダンよ! 何を喰うか!? ここには何でも揃っているぞ!!」
「あちきは魚が良いにゃ! いまならマグロー1匹でも完食出来る自信があるにゃ!」
「二人とも落ち着けって…」
僕は露店で買ったジュースを飲んでいた。
それは木の実に穴を開けて中身を飲むといった物で、ヤシの実みたいなジュースだった。
港町は活気付いていた。
様々な露店や食堂が開いてて賑わっていた。
そして何よりサーディリアン国とは違い、普通に歩いていても誰も声を掛けてくる者がいなかった事が嬉しかった。
その店の中で人だかりが出来ていた店があったが、ガイウスとクリスが店を見渡していて気にもしなかったのだが。
『今は2つの特集を組んでいる! 1つはテルシア王国から旅立った勇者パーティの特集。 救世主召喚で呼び出された勇者パーティは魔王を倒せるだろうか!?』
翔也達の話か…
とうとうテルシア王国から旅立ったんだな!
いつかどこかで会えると良いな…なんて考えながらジュースを口に含んだ。
『続いては、サーディリアン聖王国を救った英雄ダンの特集だ! あの十六鬼影衆を2匹も倒した英雄ダンのパーティ…もしかしたら、彼らが魔王を倒すかもしれない!?』
「ブッーーー!」
「きったねぇな、ダン! 何するんだ?」
僕は口の中の物をガイウスの背中に噴いた。
僕は謝りながらクリーン魔法で綺麗にした。
まさか、ここでも僕の名前が上がるとは思わなかった。
幸い、この世界には写真という技術はない。
なので、絵描きスキルを持っている者が絵を描く訳なのだが、勇者の翔也達と違い僕は絵のモデルにはなってない。
そう思っていたのだが…?
『これが英雄ダンの姿だ!』
僕は絵を見てみた。
実際の僕より5割増しで美形に描かれていた。
うん、大丈夫!
これが僕だと気づく人はいないはず。
ただ翔也達が見たら爆笑しそうだな…?
僕達は一番大きい食堂を見付けて入って行った。
「俺は肉を喰うぞ! ブルステーキ3人前を大至急頼む!!」
「あちきは、ブルステーキとマグローステーキを2人前頼むにゃ!!」
「私はトコブシェーターのステーキをお願いします。」
「シェリンプフライと海鮮マリメットお願いします」
「僕は、ブルステーキのみで」
いくら腹が減っているとは言っても、喰い過ぎではないかと思った。
…と思ったら、ペロリとたいらげてから、更に追加注文をしていた。
本当に、今まで食べれなかった分を取り戻す勢いで口に入れていた。
これは…帰ってから宿屋で話をするのは無理そうだな。
とりあえず、皆が食べ終わるのを待った。
「では、腹が落ち着いた所で…ダン、話があるんだろ?」
「ん?」
ガイウスが僕に尋ねてきた。
今日は絶対に話をするのが無駄だと思っていたのだが…
「そうだね、皆も聞いてね。 僕はしばらくの間、1人で修業をしたいと思ってる。」
「え? 何でにゃ!」
「何故ですか?」
「ガイウスとレイリアには話したんだけど、僕は剣の方はあまり得意ではなくてね。 それを鍛える為の修業なんだ。」
「なら、一緒でも出来るにゃ!」
「そうですよ、パーティ活動すればレベルも上がる…」
「クリスとベルには話していなかったけど、僕のジョブはね…呪いによってレベル1なんだ。」
「「えぇ~~~~~!?」
「その代わり、スキルが現在28個ある。 ユニークスキルを入れれば29個か…」
「そういえば、ダンと戦った時にスキルがいくつあるのかと思った事があるにゃ!」
「私も、スキルの数が多くないかな?…と思った事がありました。」
「そして、この話はベルには話していなかったけど、僕はこの世界の住人ではない。」
「この世界って…どういうことですか?」
「テルシア王国が勇者を呼び出す為に救世主召喚を行った話は知ってる?」
「はい、発表されましたし皆が知っています。」
「勇者パーティの勇者翔也、聖女華奈、剣聖飛鳥、賢者賢斗、そして僕…この5人が異なる世界から救世主召喚で呼び出されたんだよ。 まぁ、僕のジョブは発表できない位にダメなジョブでね、城から追い出されて勇者パーティは4人だけという事になっている。」
「だからですね、馬を使わない乗り物が作れたのって…」
「普通に考えたらおかしな話だ! 勇者は会った事ないが、ダンの強さは俺達が良く解っている!」
「ダンの覚醒した姿は、私以上の力を感じました。」
「でも現在はそのスキルの内、3つは封印されているんだ。 無属性魔法が使えなくなった。」
「え? どうしてですか?」
「僕の中には、もう1つ別な人格と観察者と呼ばれる悪戯を好む者がいて、そいつが僕のスキルを封印して楽しんでいるんだ。」
「観察者って何者なんですか?」
「そうだな、ガイウスにもレイリアにも話していなかったね。 観察者…元は遊戯の神で現在は悪戯の邪神ルキシフェルだ。」
「「「「ルキシフェル!!」」」」
皆の意外な反応に僕は驚いた。
この世界の邪神なら知っていてもおかしくはないのか。
「あれ?知っているの?」
「太古の昔に、遊戯の神は娯楽を用いて世界に平和をもたらしていたけど、その娯楽に飽きたルキシフェルは、人々をゲームの駒にして世界中の人達と戦わせるように仕向けたんだけど、善なる神がそれを仲裁したら、ルキシフェルが地獄の門を開いて魔の者を呼び出したっていう御伽噺。」
「この世界に住む者なら、誰でも知っている話だ。」
「僕は魔剣アトランティカから聞いたよ。 アトランティカは太古の昔に英雄が使った剣の1本だそうだ。」
「だと、それなら…ダンの修業の目的って?」
「僕自身が剣を自在に使いこなす事と、アトランティカのレベル上げが目的なんだ。」
「ダンの中にいるルキシ…観察者をどうにかする為だな?」
「あぁ…実は地竜との戦いの時に観察者に面白半分でスキルを全部封印された事があってね、今後の事を考えると、いつ全てのスキルを封じられても良い様に剣を鍛えておきたいんだ。」
「解ったにゃ! ダン、言ってくると良いにゃ!」
「その間、私の修業はどうしたら良いですか?」
「ベルの修業に関しては、トコブシェーターの戦いの時に合格点になる位の糸を使う事が出来たので、次の段階に移行しようと思う。 次はね…こうするの。」
「壁…ですか?」
僕は生活魔法の無属性で、巨大な盾を作りだした。
「いや、盾だよ。 ただし、この盾を極限まで厚さを薄くして、透き通る状態になっているよね?」
「あ、はい。 ダンさんが見えます。」
「この状態で、如何なる攻撃も弾き返せる様になるのが第二段階の修業。 この修業の完成形は、無意識な状態でも盾を思い浮かべたら出現出来るようにする事。」
「如何なるものもですか?」
「糸修行は、極限まで細くして見えなくなるまでになる事だったけど、今回は広範囲に盾を形成してから極限まで薄くという2つを同時に行わないと出来ない魔法だよ。 頑張ってね!」
「な…なるほど! これは大変そうですね。」
「ガイウス、君に2つ選択権を与える。」
「ん? なんだ?」
「当初の様に、この町で冒険者ギルドの依頼を受けて僕を待つのと、先に聖竜国グランディオに向かって向こうで合流するというのと、どちらが良い?」
「ここで待とう。 俺達にとってもこの地は未開の地だ。 下手に遠出して戻ってこれない事を考えると、合流出来なくなる可能性があるしな。」
「では、皆もそれで良いね?」
皆は、そろって頷いた。
「よし、明日から宜しくね…って、ベルどうした?」
「私の故郷は、聖竜国グランディオ領内にあるんです。 聖竜国グランディオを抜けた先の方にある港街が私の故郷です。 それと、私とネギア先輩が通っていた魔法学院が聖竜国グランディオの手前にあるんです。」
「なら、この辺は解る?」
「いえ、この辺は余り良く知りません。 ですが、モンスターの生態には力になれるかと思います。」
「なら、僕が合流したら行こうか。」
「私の故郷にですか?」
「ベル、嬉しそうだね?」
「はい、しばらく家に帰ってないので嬉しいです!」
「でも残念、魔法学院に。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
本当に、嬉しそうな人間を地に落とすのは面白い。
さて、これから準備をするか…。
僕は様々な食材や薬草を買って収納した。
翌日、僕は皆と別れて旅立った。
それは波乱に満ちた修業の旅になった。
~~~~~翌日~~~~~
宿から旅立った僕は、出口に向かう前にまず冒険者ギルドに寄った。
別に更新をするつもりはない。
討伐モンスターの欄を見る為だった。
「サーベルクーガー金貨8枚、スミロドンディーガー金貨23枚、バトルガザミー金貨4枚、フェザーティーガー金貨32枚か…結構大物だね。」
「おいおい、お前みたいなガキにこんな大物は無理だ! 帰って寝ろ!」
どこのギルドにも、こういう輩はいるんだな…。
僕は無視した。
「お、腰の物は良い物持ってんじゃねーか! それを置いて行けば見逃してやるよ!」
僕は無視してギルドを出ようとした。
だが、先程の男が立ち塞がった。
背後を見るが、ギルドの人間は見て見ぬふりをしている。
僕は相手の鳩尾に掌底を喰らわしてから、蹴りをして吹っ飛ばした。
僕を見て笑っていた他の者たちは急に黙った。
ギルドを出てから歩いていると、先程の男と仲間が僕を囲んだ。
「さっきは良くもやってくれたな! 慰謝料として有り金と腰の剣を置いて行け!!」
「ここまで来ると、冒険者というよりただの盗賊だな。」
「誰が盗賊だ!!」
「じゃあ、追剥か…」
早く修行の旅に行きたいから、あまり関わりたくなかったのだが…仕方ないか。
「掛かってくるのは構いませんが、向かって来たら痛い目に遭わせますよ。」
「お前みたいなガキにやられるかよ! やっちまえ!!」
僕は生活魔法の巨大な水魔法を奴等の頭からぶっ掛けて、水たまりに奴等がいるので雷魔法で水たまりに手を置いた。
死なない程度の電流だけど、気絶する位には威力を高めている。
静かになったので、僕は出口に向かった。
「それにしても、こう知名度が低いとあぁいう輩に目を付けられるし、かといって知名度が高いとお近付になろうと擦り寄ってくる人が多いな…」
門を通る時に、門番に挨拶をした。
そして僕の後方より少し離れた場所で僕を見つめて後を付けてくる影があった。
町を出るとそこは街道が続いていた。
左には草原、右には森があった。
「さて、どっちにいくか…な?」
昨日の買い物の間に、この辺の地図は購入しておいた。
だが、地図に頼るのは港町に帰る時だけにして、あとは適当に旅する事にした。
「よし、森に行こう!」
僕は森に向かって歩き出した。
森の前に着くと、中から色々と鳴き声が聞こえて来た。
うん、中々スリルがありそうだ!
森に入って行くと、別に暗くはなく空が見える箇所がいくつもあった。
考えてみれば、エルヴ大森林と比べるから異世界の森は全部あんな感じだと思っていたが、そうでもないんだな…と思った。
「それにしても、さっきから何の用だろう? あんな雑な尾行していて気付かないと思っているのだろうか?」
僕は風魔法を足から発動して、木を駆け上がり枝に立つと、別な木の枝に飛び移った。
6つ目の木の枝に飛び移ってから下を見ると、先程の影が下を走っていて辺りを見渡していた。
身なりを見ると、短剣にレザーアーマーを着た冒険者だった。
《アトランティカ、どう見る?》
《装備や年齢的に見て、新人冒険者という感じだな。》
そうだな、僕を探すのに夢中で周りを警戒していない。
背後にバーゲストがいるのに前を見過ぎだ。
《相棒、あの新人…囲まれているぞ!》
《だね、なのに気付いている様子がない。》
《助けるのか?》
《いや、少し様子を見よう。 どうせなら関わり合いになりたくないし…》
新人冒険者らしき者に前から側面から後ろからとバーゲストが迫ってきている。
新人冒険者は、短剣を抜いて構えているが震えてもいた。
《バーゲストって、下級モンスターだよね? なら経験値は期待できないか…》
《そうだな、あんなの100匹倒しても大した儲けにはならん。》
とりあえず、危なくなったら助けるとしよう。
それまで腕前を拝見。
新人冒険者は、前から来たバーゲストの攻撃をかわすと、背中に短剣を突き刺した。
だが、攻撃が浅くて大したダメージは追ってはいない。
僕は枝の上から声を掛けた。
「助けてほしかったら言ってくれ。 助けてやるから、銀貨1枚で…」
《相棒、意外とがめついな…》
《勝手に人の事を付けてきて、タダで助かろうなんて甘い考えをしているのを教えてあげるのさ。》
「どうするの? 助けはいる~?」
「い…いらないよ! こんな奴等僕だけで充分だ!!」
「あ、そう! それじゃ、頑張って!」
僕は別な枝に飛び移って行った。
しばらく飛んでいてから下を見ると、先程の新人冒険者がバーゲストの群れを連れて逃げている。
だが、その前方に先程討伐書でみたスミロドンディーガーがいた。
バーゲストとは比べ物にならない位に大きなサーベルタイガーだった。
「さすがに新人冒険者では無理だな。」
僕は剣を抜いて、スミロドンディーガーの首を目掛けて剣を振り下ろした。
討伐書に載っていた割には、なんか呆気なかった。
討伐書のミスかな?
僕は血を払って鞘にしまうと、球体魔法でスミロドンディーガーを収納してから新人冒険者を見た。
泣きそうな顔をして、バーゲストに追い掛けられている。
「助けいる~?」
「はぁ…はぁ…い…いらないよ!」
なら何故わざわざ森の奥に行くんだろう?
森を抜けた方が奴等も追っかけて来ないのに…?
僕は右に走って大木の後ろに隠れると、新人冒険者は僕が曲がった方向に走って行った。
そのまま真っ直ぐ走れば森を抜けるという道を教えてあげたのだ。
「まぁ、森を抜けて町の近くまで行けば、門番が撃退するだろう。」
《しかし、あの新人は何だったんだろうな?》
僕は更に森の奥を目指した。
討伐書のモンスターにもう1匹、フェザーティーガーという翼のある虎がいると書かれていた。
正直言って、スミロドンディーガーは歯応えが無かった。
《アトランティカ、スミロドンディーガーで経験値は入った?》
《ほんの少しな。》
《なら、討伐書のモンスターではなかったのかな?》
《良くは解らんが、あれに手こずる様な冒険者は、多分下位ランカーでもない限りいないだろう。》
《相棒、前方に巨大な反応がある!》
《あれは、銀貨300枚のバーストボアか…これからの修業を考えると、食材として残しておく方が良いか、報酬の為に始末するか…》
体長4mの巨大な猪は、僕を見て向かってきた。
僕はアトランティカを抜き、前足を斬って切断した。
そして側面に回ると、ジャンプしてから首を刎ねた。
そして腹に【吐血】をして血抜きをしてから収納した。
《今のは…って聞くほどではないか。》
《先程のスミロドンディーガーよりは少ないがな…》
う~ん……?
これじゃあ、修業にはならないなぁ。
僕は休憩を取りながら、地図を見た。
本来なら帰り用として見る筈だったが、こうまで弱いモンスターばかりだと修業にはならないからだ。
一度森を抜けて街道に戻ってから、真っ直ぐ行くと山のダンジョンと呼ばれる高レベルモンスターがいるゼイギア山という山がある。
そこに行こうと思った。
僕は来た道を戻って、街道を目指した。
森を抜けて町の入り口を見ると、2人の門番がバーゲストの群れと戦っていた。
まぁ、あれなら平気だろう…と思い、僕は街道を進んだ。
その背後に、先程の新人冒険者が距離を開けて着いてきていた。
《相棒よ、気付いているとは思うが…》
《さっきの新人冒険者でしょ? あれで尾行のつもりかな?》
着いて来られても迷惑だし、時間もないので…
修業中は使わないと決めていたシルロンダーだったが、時間節約の為にシルロンダーを出して、ゼイギア山に向かった。
後方の方で新人冒険者は、シルロンダーを見て驚いていた。
ダンはシルロンダーに乗ると、山に向かって走りだした。
新人冒険者も後を追ったが、当然追いつくはずもなく引き離されて行った。
「あの高そうな剣に、馬を使わない乗り物…間違いない、あいつは金持ちのボンボンだ。 だから、武器の性能でスミロドンディーガーを倒せたんだな! 全て奪ってやれば、僕は金持ちだ!! それにあの方向は、ゼイギア山だな! 」
どうやら新人冒険者は、盗賊だったみたいだ。
それにしても、知名度が低いのも問題だが、それ以上に勘違いというのも厄介な物だ。
そして、その新人冒険者が山に着く頃には、ダンは別な場所に移動していたのだった。
ダンと盗賊の彼は今後、会う事はあるのだろうか?
ちなみに…
ダンの倒したバーストボアの討伐ランクはB級。
スミロドンディーガーの討伐ランクはA級だった。
魔剣アトランティカは十六鬼影衆の2匹を倒して経験値を獲得してから、驚異的な速さで進化しているのであった。
だから、スミロドンディーガーを目の前にしても大した強敵にはならなかったのだ。
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