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第二章 エルヴ族での生活の章

第二話 記憶を探るスキルと苦い過去(翔也視点とは別の慱視点の話です。)

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 僕は集落の中を歩いてみた。
 閉ざされた空間だと思ったが、話によると行商人が買い付けに来たりするらしい。
 エルヴの集落では、合図を知っている者には客人として招くという。
 ここでの主な物品は、獣の肉や革や骨に近くに流れる川の魚や甲殻類、採掘による鉱石だという。
 無論、木材も取引があるらしい。
 エルヴ大森林の木材は、他の地域と違い良質な木材が採取出来るらしい。
 その他、薬草や毒草などもある。
 鍛冶屋もあるし、服屋もあるし、武器屋もある。
 これだけ色々揃っているのに、何故街ではないのだろうか?
 まぁ、考えても仕方ない。
 種族にはそれぞれ文化の違いもある。
 ここが集落と呼ばれる由縁もそこにあるのだろう。
 さて、厨房に向かうか…。

 「待っていたぞ、早く飯を作れ!」

 ガイウスが仁王立ちで厨房の前に立っていた。
 あのクッソ不味い飯なんだが、エルヴ族では普通らしい。
 肉と野菜を一度に摂れるが、栄養面だけを考えての食事で美味を求めている訳ではないのだ。
 それ以外では、ホットチョコレートみたいなものを飲んでいる。
 どうやってチョコレートを作っているのかは知らないけど、チョコレートは栄養価は高いので、あの料理の補填で摂取しているのだろうか?
 ただし、砂糖が全く入ってないのでブラックな味です。
 
 さて、何を作るかな…?
 ちなみにガイウスは、僕を見ている。
 あれだけコケにされたので、本当に料理が作れるかどうか監視しているみたいだった。
 まず、新品のロープを【創造作製】で網の袋にする。
 その中に砕いた骨を入れて入り口を紐で縛る。 
 次に大きな鍋を用意して、水魔法で鍋の5分の4まで水を満たし、強火を使って沸かす。
 鍋が煮立ってきたら、骨の袋を入れてさらに煮込む。
 しばらくすると灰汁が浮いてくるので、全てすくって捨てる。
 灰汁は悪です。
 大きなブロック肉を用意して、適当な大きさに切って鍋に投入。
 水魔法で洗った様々な野菜をそのまま入れる。
 ガイウスは口を出そうとするが、静止する。

 さて、鍋はこれで良いとして本当に何を作ろうか…?
 小麦粉はあるけど、卵がない。
 なのでラーメンは無理だな。
 うどんにするか。
 そうなると、肉だけのスープはいただけないか…他に魚とか無いかと探したら、これアユかな?
 火の柱をつくり、アユ…らしきものを何度か火にくぐらせて30匹の焦げ目が少しついたものを肌理の細かい袋の中に入れて鍋に投入。
 鍋の火を中火にしてコトコト煮込む。
 コンブとかあったら欲しいところだが、この辺海ないしな。
 まぁ、今回はこれで良いだろう。

 麺作り開始。
 小麦粉に水と塩をボウルの中に入れて良くこねる。
 こね上がったのをテーブルに出し、風魔法で圧力を掛けて叩く。
 その間、鍋の中を風魔法でかき混ぜる。
 丁度良くこね上がった物を薄く延ばしてから包丁で切る。
 前回は風魔法を使って切ったが、今回は包丁を使った。
 スープの味見をする。
 魚の出汁と肉の旨味が出ているが、正直ちと物足りない。
 以前、土魔法で作った丼を用意して、スープを入れて、味噌を入れてから茹でたうどんを入れ、刻んだネギを入れる。
 鍋から取り出したブロック肉を薄切りにしてうどんの上に乗せれば完成!
 
 とりあえず3つ作ってガイウスと、匂いにつられてやってきた女族長のレイヴンに渡す。
 僕も試食をするが…なんというか、味噌ラーメンのスープの中にうどんが入っている感じで変な気分だ。
 だが、ガイウスとレイヴンには衝撃的だったらしい。
 勢いよく麺を啜り、スープを飲み干した。
 ガイウスは言葉を失い、レイヴンの感想は…

 「天と地ほどの差があるものを作るといったダンの言葉は嘘ではなかったのだな! 今までアタイは毒を食べていたんだな!!」
 
 あのクッソ不味い飯とうどんを比べられるのは非常に不愉快だが、まぁ良しとしよう。
 この後…この料理を集落全員に作る羽目になり、久々に疲れた。

 僕は寝床として宿舎に案内された。
 買い付けに来る行商人が泊まる場所だ。
 僕はベッドの上に座り、記憶を遡った。
 そう、ここに来た理由は、レイヴンから言われたシルフィンダーの制作だった。
 作るとしたら本格的な物を作るしかない。
 前回の様なあり合わせの材料で作ったシルフィンダーではなく、新たなシルフィンダーなのだ。
 今回のシルフィンダーで色々改善しなければならない事に気付いた。
 僕は瞑想して、記憶を探した。
 過去に車の仕組みというか、設計図みたいな本を見た事があるのだが…?
 いまいち、思い出せない。

 「エンジン…ステアリング…ステアリングボックス…サスペンションアームと…?」

 駄目だ、これ以上思い出せない。
 言った手前、完成をさせなければならないのだが…そう思った時、ギルドカードが光った。
 新たなスキルを覚えていた。

 【古昔追想こせきついそう
 昔に見た景色や文献等を事細かく思い出せるスキル。
 これにレベルはありません。
 追想時間が長ければ長いほど、精神力がやられます。

 僕はスキル【古昔追想】を使った。
 なるほど、頭の中に映像が流れる感じか。
 どんどん遡って見ると、見たくもない記憶が見えた。
 あの頃の出来事は思い出したくはなかったが、甦ってきたのだった。

 それは、ダンに関する過去の話だった。
 今回の話は、7年前の事件のダン視点です。

 7年前、僕は病院のベッドで目を覚ました。
 ここは…どこだ?
 白い部屋の中で、ベッドが1つで他には誰もいない。
 身体を見ると、包帯が巻き付いている。
 
 「そうか、僕は大怪我して病院にいるのか…」

 でも目を下にするだけで、身体は動かなかった。
 目を閉じて思い出そうとするが、狼の様な動物が襲ってきたという記憶しかない。
 では、この身体は狼にやられた傷か。
 それ以上思い出そうとすると、頭が痛くなる。
 考えるのを止めた。
 しばらくすると、看護婦が入ってきた。
 看護婦は、点滴の交換をして僕に声を掛けてきた。

 「ダン君、大丈夫ですかー? いつでも目を覚ましても良いですからね。」

 ダン? それは僕の事かな? 
 看護婦に呼ばれたと思い、僕は目を開けた。
 看護婦と目が合うと、看護婦は部屋を出て行った。
 しばらくして、白衣を着た医者を連れてきた。
  
 「ダン君、良かった。 あのまま目を覚まさないのかと思ったよ。 あの事故から2か月半眠ったままだったんだ。 あ、無理をしない方が良いよ。 いま保護者の方に連絡を取ろう。」
 「あの…聞きたい事があるんだけど?」

 医者は、僕が言葉を発した事が信じられない様な顔をした。
 
 「さっきから、僕の事をって言われてますが、それが僕の名前なんですか?」
 「え…? そうだよ。 君の名前は、洲河 慱君だよ。」
 「さっき保護者を呼んでくると言っていましたね? 普通は親御と言いませんか?」
 「ダン君のご両親と妹さんは、半年前に亡くなっているので、ダン君の保護者を名乗り出た人に連絡をするんだよ。」

 そういって医者が出て行った。
 そうなのか、両親に妹もいたのか…。
 目を閉じても、両親や妹の顔は思い出せない。
 鮮明に残る記憶は、狼みたいなのに襲われた記憶だけだ。
 しばらくすると、医者と2人の大人と1人の女性が入ってきた。
 女性は涙を流して僕を見つめてくる。
 僕は医者に頼んで身体を起こしてもらった。

 「初めまして、僕は洲河 慱という名前らしいです。」
 「え…何を言っているんだい、ダン君。 僕は翔也の父親だよ。 二人は華奈ちゃんの両親さ。」
 「翔也…君? 華奈ちゃん?」
 「先生、ダン君は一体どうしたんですか?」

 翔也の父親という人が医者に詰め寄っている。
 医者が言うには、出血多量で記憶が混濁しているんじゃないかという話なのだが…?

 「いえ、意識はハッキリしています。 ただ、みなさんの事を思い出せない訳ではないのです。 初めて会ったというのが僕の印象です。」
 
 僕がそういうと、3人は泣いていた。
 何だか僕は申し訳ない思いがした。
 
 「君の両親や妹の瑠香ちゃんの事は覚えているかい?」
 「いえ…両親の顔はおろか、妹がいたという話もさっき聞いたばかりで顔は覚えてません。」

 僕は少し考えてみた。
 これが記憶喪失という物なのだろうか?
 どういう訳か、言葉や知識はそのままあるのだけど、身近な親の存在は覚えてなかった…というか、全く記憶にない。
 
 「先生、ダン君は治るのですか?」
 「わかりません。 ダン君の場合は、記憶喪失かとも思ったのですが…ありえない話だとは思うのですが、全く別な人格という気がしてならないのです。」
 「その認識で間違ってないと思います。 言葉や知識はあるのですが、思い出せるのは狼みたいな獣に襲われている記憶が強く、その前の生活の記憶がないので…」

 華奈ちゃん?のママさんが僕を抱きしめて泣いていた。
 華奈ちゃん?のパパさんと翔也?君の父親も頭を抱えてる。
 3人は「これからどうしたら良いのか…」と悩んでいる。
 僕は3人に打開策を申し出た。

 「先生、最初先生は言いましたよね? 出血多量で記憶が混濁していると。」
 「あぁ、その可能性があると言いましたが…。」
 「なら、その設定で行きましょう。 僕の身体を見る限り、狼みたいな獣に襲われている怪我ですよね?」
 「はい、そうです。」
 「だとすると、心に強いショックを受けたのと記憶の混濁で誤魔化せると思います。 ところで僕の友達というのは、翔也君?と華奈ちゃん?以外に他にいますか?」
 「他に賢斗君と飛鳥ちゃんがいますよ。 あなたたち5人は幼い頃からとても仲が良かったの。」
 「翔也君と華奈ちゃん…と賢斗君と飛鳥ちゃん…だめです、全く記憶にない。 もし出来たら写真とかありませんか?」
 
 僕がそういうと、華奈ちゃんのママがスマホの画像を見せてくれた。

 「この子が華奈で私の娘。 これが翔也君で、これが賢斗君で、これが飛鳥ちゃんね。」
 「あれ? この男の子は誰ですか?」
 「それはダン君だよ。 その隣にいる小さな女の子が瑠香ちゃんだ。」
 
 華奈ちゃんのご両親がそう言った。
 それにしても、自分の顔すら解らないとは…。
 こんなのでは、鏡を見ても自分の顔だと認識するには時間が掛かりそうだな。
 翔也君のパパさんは、皆に連絡してくるといって部屋を出た。
 しばらくしてから、また大人の人が入ってきた。
 飛鳥ちゃんの両親とお兄さんとおじいさん、賢斗君の両親だ。
 先程の僕の話をしてもらい、皆さんは納得してくれた。
 ただ、皆さんに泣かれると僕はどうしても申し訳ない気持ちになる。
 皆さんからしてみたら、僕とは長い付き合いかもしれないが、僕にとっては皆は初対面なのだから。

 ~~~~~数日後~~~~~
 
 僕の幼馴染?達がお見舞いに来てくれた。
 皆の両親達が僕の設定の事を子供たちに上手く話してくれたらしいので、僕はそれに合わせれば良いのだ。
 僕は下手に話すとボロが出そうになると思うので、感情を殺して俯いて「あぁ…うぅ…」と答えた。
 翔也君が僕を笑わせようと、変顔をした。
 それがもう中々の破壊力で、僕はお腹を押さえながら耐えた。
 賢斗君が止めなければ、僕は間違いなく笑っていただろう。

 僕が入院している間は、常に誰かが見舞いに来てくれてありがたかった。
 特にありがたかったのは、賢斗君が持ってきてくれたタブレットだった。
 ネットを自由につなげる事が出来るので、かなり暇を潰せた。
 初めの内は、賢斗君が図書館で本を借りて来てくれていたのだが、あまりの本の量なので申し訳なかったので手を振って断ったら…翌日、タブレットを持ってきてくれたのだ。
 中に入っていたアプリは殆ど勉強に関する物だった。
 車の仕組み、船の仕組み、建設の仕組み、料理のレシピ何ていうのもあった。
 病院にいると基本的には暇だったので、片っ端から読んで頭に入れていた。

 僕が退院が近くなった頃、華奈ちゃんの両親が一緒に住まないか?と誘ってくれた。
 だけど僕は断った。
 一緒に住んでいたら、きっといつかボロが出るので断った。
 それなら…と、華奈ちゃんのパパさんが僕の家の保証人になってくれた。
 そして翔也君のパパが毎月の家賃を支払ってくれる事になった。
 僕は断ろうとしたが、息子の仕出かした不始末と僕の父親の友人という事で話を通された。
 
 そして僕は病院を退院して、家に帰った。
 家には誰もいない…。
 家族で写っている写真を見るが、これが両親と妹だという実感が沸かない。
 それに、小さい頃からここに住んでいたという実感もない。
 どこかの誰かの家という感じしかしなかった。
 この後、僕は小学校に復学した。
 ここでもボロが出ないように感情を殺して過ごしていた。
 これが小学校を卒業するまで続いた。
 正直、後ろめたい気持ちの方が強かった。

 中学校に入学してしばらくした後に、翔也は色々目立っていた。
 1年でレギュラーを獲ったり、女子にもモテていた。
 だからなのか、調子に乗っている翔也を痛めつけようと言っている上級生の会話が聞こえた。
 その上級生は校内でも不良みたいな存在だった。
 結構悪さをしているのが目立っているが教師たちは気付いてない。
 明日やる…と聞いたので、僕はその場を離れた。

 翌日、時間までは解らなかったので翔也を張っていた。
 だが、いつまで経っても上級生が来る感じがない。
 僕は用足しにトイレに行き、教室に帰ってくると翔也はいなかった。
 翔也を探しに色々人に聞いた。
 ある女子から屋上に連れて行かれたという話を聞いた。
 
 屋上へ行くと、翔也が痛めつけられていた。
 僕は「何をしているの?」と声を掛けたら、翔也は「慱には関係ない!」と叫んだ。
 そして上級生が僕に絡んできたので、友達の仇を討つために上級生に殴りかかった。
 顔面にパンチを入れてそのまま倒すと、頭に蹴りを入れて踏みつけた。
 次に翔也を多く蹴りを入れていた上級生に顔から血が出るくらいに殴りまくった。
 最後の奴を見たら、ビビッて震えていた。
 腹に蹴りを入れて、後頭部を掴んで壁に何度も打ち付けた。
 あの獣たちに比べたら大したことないなと思った。
 まぁ、つるんでないと何もできない奴なんて、はなっから強くなんてない。
 僕は思わず笑ってしまったよ。
 その時に翔也と目が合った。
 おっと…感情を殺している演技をしている最中だった…が、もう良いだろう。

 この事件の後に、僕と翔也は職員室に呼ばれた。
 上級生が病院送りになってからすぐに、今まで虐められていた人達が証言してくれたおかげで、僕達に罪はないと言われた。
 この後、翔也に見られていたのもあって、僕は少しずつ感情を表に出すようにした。
 幼馴染達は感情が戻ったと喜んでくれた。
 んで、この後は普通に学校生活を楽しみましたとさ。
 めでたしめでたし…じゃないよ!

 車の設計図を探しに来てたんだ。
 回想を振り返っている場合じゃない!!
 えっと…車の設計図はどこで見たんだっけか…?
 あ、賢斗から貰ったタブレットか!?
 あれなら今でも球体魔法の学校カバンの中にある!
 
 …で、これどうやったら目を覚ませられるのだろうか?
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