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第二章 エルヴ族での生活の章

第一話 初体験…(エッチな話ではありませんよ。)

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 僕は現在、牢屋に入れられています。
 エルフ族の牢屋とかなら、大樹の中の牢屋で木の柵という感じの牢屋を想像しますが、でも彼らはエルヴ族です。
 石を積み上げたような建物で鉄の柵です。
 そして、見張りは誰もいません。
 それだけ堅固な牢屋という事です。
 多分、これを抜け出せる人は殆どいないのでしょう。
 当然の事ながら、デカ包丁は没収されました。
 球体魔法の玉は無事でした。
 さて…どうしましょうか?
 ここは土地勘のない森の中。
 例え脱出に成功しても、すぐに捕まるのは目に見えてます。
 うん、大人しく待ちましょうか…。
 その間、どうして牢屋に入る事になったのか…その時の話をしましょう。

 ~~~~~数時間前~~~~~
 
 「オイ、貴様…何者だ?」

 槍を突き付けた筋骨隆々のエルヴ族の戦士が睨みつけながら言った。
 態度によっては命を落とす者もいると言ってたなぁ…?

 「失礼! エルヴの民よ。 実は、テルシア王国からサーディリアン聖王国に向かう際に馬がモンスターにやられて、地図を見ながら歩いていたら道が途切れた事に気付かずに崖から落ちて、いまに至るという訳です。」
 「貴様…嘘を付くな!」

 エルヴ族の戦士は、槍を崖の方に向けた。
 崖の上を見ると、普通にビル10階くらいの高さがある。
 
 「あの高さから落ちて、無傷な筈はなかろう!」
 「途中で枝に引っ掛かりしたので、スリ傷程度で済みました。」

 エルヴ族の戦士は首を横に1回振ると、背後にいた2人のエルヴ族がデカ包丁を没収し、僕の身体を縛った。
 「貴様は怪しい!」といって、何処かに連れて行かれそうになった。

 「オイ、貴様…仲間は無事に弔ったのか? まだなら墓くらいなら作ってやる。」
 「仲間なんかいませんが?」
 「貴様、シルフィンダーと悲痛な叫び声を上げていたではないか!!」
 「あーあれ、聞かれてたのか…。」

 シルフィンダーの事を説明するのが面倒だったので、木の下に埋めたと嘘を付いた。
 でもその嘘が気付かれたらしく、そのままエルヴ族に連れて行かれた。
 
 歩くこと10分後…
 二本の太い木の間に立ち、エルヴ族の戦士は、まじないの言葉を唱えた。
 すると、空間が現れて集落が現れた。
 なるほど、結界か。
 しばらく歩くと、集落の端の方にある石の牢屋に放り込まれた。
 鍵を閉められ、エルヴ族の戦士たちは去って行った。
 んで、牢屋に入る羽目になったのだ。

 まぁ、抜け出そうと思えば抜け出せるんだよね。
 鉄の柵に腐食魔法を掛けて、腐らせれば簡単に外れる。
 ただ仮に抜け出せたとして、集落の出口がまじないで開く物ならまずアウト。
 このパターンだと、いきなり処刑って事はないと思うんだけどねぇ…?
 
 それにしても、何故嘘だとバレたんだろう?
 シルフィンダーの事は仕方ないとしても、木の下に埋めたという話の時は無表情だったからバレて無いと思ったんだけどなぁ?
 あ、そういうスキルか魔法でもあるのかな?
 そんな事を思っていると、エルヴ族の戦士が器を持ってきた。

 「飯を用意した、喰え…喰い終わったら、尋問に入る…」

 そういって、エルヴの戦士は立ち去った。
 とりあえず、腹減ったし…そう思って、器の中のスープを見た。
 灰色のスープにボコボコと気泡が弾け、肉と野菜が浮いている何とも不味そうなスープだった。
 灰汁を取らないで煮込んだスープみたいだな。
 一口食べると、案の定不味い。
 この不味さは、華奈の料理に匹敵する…!

 ~~~~~同時刻・テルシア王国城内~~~~~

 「むぅ…?」
 「如何なされましたか、聖女様?」
 「誰か私の悪口を言っている気がします!」
 「聖女様に対して、そのような事を…きっと気のせいでしょう。」

 ~~~~~場所は戻って、エルヴの集落~~~~~

 「うっぷっ…」

 出されたものは残さず食べるのが礼儀だ。
 ただ、これは酷い。
 灰汁を取らない肉のスープで、野菜は生煮え。
 おまけに小麦粉でとろみがある上に、味がない…。
 ここの料理人、まさか華奈じゃないだろうな?

 ~~~~~同時刻・再びテルシア城内~~~~~

 「むっかぁーーー!! やっぱり誰かが私の悪口を言ってる!! 一体誰なの!?」
 「聖女様、だから気のせいですって…」

 ~~~~~場所は戻って、エルヴの集落~~~~~
 
 食休みしていると、エルヴの戦士がきた。
 牢屋の鍵を開けると「出ろ!」と言われて別な場所に連れて行かれた。
 そこは、木で出来た大きな屋敷だった。
 「ここで待て!」そう言われて、ロープで渦巻きになっている場所に座らされた。
 あたりを見ると、入り口に槍を持ったエルヴ族が2人、一段上の座布団がある。
 
 「族長が来られた!」

 そう言って後ろの扉が開く。
 少し年配だが、筋肉の逞しい女性が入って来て座布団に腰掛けた。
 
 「貴様がこの森に勝手に入ってきた侵入者か?」

 鋭どく睨む目つきで僕を見ている。
 これは…なるほど。
 態度次第では命を落とす者もいるというのは、満更嘘ではなさそうだ…。
 とりあえず僕は【洲河 慱】ではなく、【ダン・スーガー】と名前を名乗った。
 そして、ここまでの経緯を話した。

 「貴様! 嘘を付くな!!」
 
 僕はエルヴ族の男に怒鳴られた。
 僕は先程の地図を見ながら歩いていて、気付いたら崖から落ちたという話をしたら、そう言われた。
 出会った時に僕に槍を向けたエルヴ族の戦士が言った。

 「俺には精霊の加護がある。 嘘はすぐに見破れるぞ!」

 そういって睨まれた。
 僕は考えた。
 嘘がすぐにバレる精霊の加護があるのなら、嘘と真実を織り交ぜたらどうなるのだろうか?

 僕は話した。
 テルシア王国が【魔王】討伐の為に救世主召喚を行った事。
 その中には伝承の4人の英雄と同じジョブを持つ者が現れた事。
 僕のジョブやスキルがハズレだった事で国王が落胆した事。
 アルカディア王女の優しさに浸け込んで手を出してしまった事。
 それを見た国王陛下が僕に対して大激怒した事。
 監禁か追放かと聞かれて追放を選んだ事。
 実はメイドにも手を出していて、アルカディア王女と修羅場になった事。
 城から追い出される際にメイド達が泣いて引き留めて来たが、それを振り切って…
 そうして僕は旅立った。

 「貴様なぁ…真実も話していたが、嘘も混じっていたろう! 俺には精霊の加護があると言ってあるだろう! アルカディア王女に手を出したとか、メイド達が泣いて引き留めようとしたとか、メイドとアルカディア王女が修羅場になったとか。 貴様…俺の事を馬鹿にしているのか!?」
 「おぉ、凄い…真実と嘘を織り交ぜたのに、本当に嘘だけ見抜けるんだ?」

 エルヴ族の戦士は、ワナワナと体を震わせ青筋を立てていた。
  
 「オイ、貴様…何か言い残す事があるのなら死ぬ前に聞いてやる。 言ってみろ!」
 「では、1つ。 馬鹿になどしてません、からかっているだけです。」

 エルヴ族の戦士は、歯が砕けるんじゃないかというくらいにギリギリと音を立てた。
 ここで殺されることはないだろうと思って好き勝手に言ってみたのだが…あ、これちとヤバいな…。
 エルヴ族の戦士は、槍を僕の前に突き付けてこう言った。

 「俺は誇り高きエルヴの民、ガイウス! 族長、俺にコイツを始末する許可を!」
 「へぇ、丸腰の相手に槍を突き付けて、誇り高き民ねぇ…? 聞いて呆れるよ。」

 野犬に襲われたあの時以来、僕には恐怖感というのがあまりなかった。
 いざとなったら、魔法をぶっ放して暴れて一矢報いればよいと思った。
 僕は、ガイウスの睨みに対し、笑みを浮かべて見せた。

 「ハーッハッハッハッハッハッ!!」

 女族長が大笑いをした。
 僕とガイウスは呆気にとられた。

 「我がエルヴの土地に無断で入ってきて、尋問に対してその開き直った性格…気に入ったよ! 今までの奴らは、槍を突き付けた瞬間、命乞いをしたり漏らした奴もいたというのに、大した肝の据わった奴じゃないか!」

 女族長は手を振る仕草をすると、ガイウスは槍を収めた。
 良かった、どうやら気に入られたようだ。
 
 「んで、異世界の旅人よ。 本当はどうやってこの森に入った?」
 
 さすがにこれ以上は嘘を付く必要はないだろう。
 僕はシルフィンダーが入っている玉を【球体解除】して、いきさつを話した。
 女族長は信じられない様な顔をしながら、僕の話を聞いていた。

 「馬を引かないで走れる乗り物ねぇ? 正直信じられねぇな。」

 女族長は、半壊したシルフィンダーを見て言った。
 シルフィンダーには悪いが、半壊したシルフィンダーは鉄と木のゴミにしか見えん。
 女族長は頷くと、条件を出してきた。

 「なら、馬を引かないで動く乗り物を証明してくれ! しばらくはダンを我らの客人として迎えるとしよう。」
 「ご厚意感謝致します。」
 「よせよせ、そんな敬語は不要だ! 今から我らは対等になった、禁止区域もあるが集落では自由にして良い…わかったな、ガイウス!!」
 「はっ!」
 「んで、ダンよ。 必要な物はあるか?」
 「そうですねぇ、金属とか木材とか…ですかねぇ? 分けて戴けることは出来ますか?」
 「揃えられなくはないのだが…木はこの通り森なのでいくらでも手に入るが、金属に関しては鉱山があるから、そこから掘ってくれば良いんじゃないか。」
 
 エルヴ族ってエルフから派生した一族と聞いていたが、森を愛する民って普通木を切られると嫌がるものだと思ったのだが…その辺は違うんだな。
 それにあの牢屋の鉄柵も見て思ったけど、この里であれが作れるのなら高い技術を持っているのかな?
 う~ん…?
 ここまでしてもらって、何も恩を返さないのは気が引けるなぁ…。

 「あの、族長様。 ここまでしてもらって他に何も手伝わないというのは気が引けますので、何かお手伝いをさせていただけませんか?」
 「ふむ、ダンは何が出来る?」
 「そうですね、狩り…はここに本職の人がいますし、森の中では足手まといになりますから…」

 考えてみると、狩り以外の手があまり思い付かない。
 畑があれば、作物の成長を上げたりとか…あ!

 「僕なら料理が作れます。」
 「ほぅ、料理か?」
 「はい、先程ガイウス殿から戴いた、あのクッソ不味いスープに比べたら、天と地ほどの差がある料理が作れますよ。 そもそも、あのクッソ不味いスープは誰が作ったのですか? 未だに気持ち悪くて吐き気がしますが…?」
 「えーと、あれはなぁ…」

 女族長はガイウスを見た。
 あー…こりゃ、地雷踏んだかな?
 ガイウスは再び槍を構えて、再び僕を睨んだ。

 「やっぱり、族長! コイツを殺す許可を!!」
 
 集落では、飯作りは当番制で今回はガイウスだったらしい…。
 
 「あれはあれで個性的な味でしたよ…うっぷ。」
 「貴様、さっき俺が作った飯をクッソ不味いと言っていたではないか!!」 

 僕がそう言うと、ガイウスは真っ赤な顔をして槍を突き付けた。
 それを見て女族長は笑っていた。
 僕は扉を出て逃げ出した。
 ガイウスは槍を持って追っかけてきた。
 それが3時間ほど続き、僕とガイウスは力尽きて倒れた。
 
 なんか良いな、久々に楽しい!
 僕の旅はしばらくの間だけ、ここに留まる事にした。
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