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第一章 異世界召喚の章

第七話 7年前の事件(慱の長袖の理由が明らかに…)

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 今回の話は、翔也視点で進みます。

 初戦が敗戦だった。
 翔也達は城についても無言で静かだった。
 あの時…慱が居なければ倒せると思っていたが、慱が袖を捲って見えたを見たら言う事を聞く以外出来なかった。
 慱は俺達の中で誰よりも獣が危険な存在だという事を知っている。
 そして、慱があんなに傷だらけになった原因を作ったのは俺の所為だった。
 俺は、あの時の過去の出来事を思い返していた。
 今から7年前…あの悲惨な事件が起こった。
 
 俺の家…咲良井家は、結構な金持ちの家だった。
 総祖父の代から続く大企業で、親父の代になってからは様々な経営をしていて、幾つかの企業を手掛けていた。
 俺は幼稚園に入るまでは自分の敷地から出た事がなかった。
 遊具が豊富で、外に出る必要性を感じなかったからだ。
 でも、その日だけは違っていた。
 慱との出会いだった。
 親父の会社の従業員を集めたパーティで、俺は慱と出会った。
 年齢が同じだという事もあり、すぐに仲良くなり敷地で遊んでいた。
 今まで同じ年齢の子供と遊んだことが無かったので新鮮だった。
 でも、パーティが終わり慱は帰ってしまった。
 初めて仲良くなったので、別れが名残惜しかった。
 ところが翌日、慱が家に尋ねてきた。
 
 「しょうやくん、あそびにきたよ~!」

 慱が遊びに来てくれた。
 しかも、慱が友達を連れて。
 本を持ってオドオドしている賢斗。
 鼻に絆創膏をしている活発な男の子っぽい飛鳥。
 すっごく可愛くて一瞬で好きになった華奈。
 慱の住む町内会での子達だった。
 俺達はすぐに仲良くなり、毎日一緒に遊ぶようになっていた。
 
 幼稚園に入るという事になり、俺は皆と別なセレブが通うエスカレーター式の学園に入らされそうになったが、慱達と一緒に居たいと親に説得したら、地元の幼稚園に入る事が出来た。
 それから幼稚園時代は、俺達はいつも一緒だった。
 遠足も同じ班だったし、どこへ行くのもいつも一緒だった。
 そして楽しかった幼稚園での生活は終わり、小学校に入学した。
 もちろん小学校も慱達と一緒だった。
 クラスも離れ離れになる事なく、いつも一緒だった。
 
 そして小学校3年生の9歳の時、慱の両親と妹が事故で亡くなった。
 交差点で信号待ちをしていた際に、暴走したトラックが突っ込んできた。
 慱は父親に突き飛ばされて助かったが、両親と妹は即死だった。
 その翌日、慱の家の洲河家の葬式が行われた。
 慱の両親は駆け落ち婚だったので親戚は誰も来なかったが、慱の両親は町内会で精力的に活動していて人気があったので、葬式には町内会の人のほとんどが来ていた。
 親父の部下でもあったので、親父の会社の人間も全員来ていた。
 その時親父が「あんな有能で気の合う奴はいなかった…」といって涙を流して血が出るくらいに拳を握っていた。
 慱は大丈夫かと思って近づこうとしたが、お袋に「いまは止めてあげなさい…」といって止められた。
 慱をみると、泣かずに必死に耐えていたのを覚えてる。

 その後、しばらく慱は物静かだった。
 それも仕方ない、慱の目の前で両親と妹が死んだからだ。
 慱には親戚と呼べる人はいないので、頼る相手がいなかった。
 華奈の両親が慱を引き取るなんていう話も出たらしいが、慱は両親と妹がいた場所を手放したくないと1人暮らしを貫いた。
 そして華奈の両親が保証人として契約し、親父が家の家賃を肩代わりしていた。
 その後俺達は、慱をいろいろ元気づけようと頑張ったのだが、頷くことはあっても笑う事はなかった。
 そんな事が3か月くらい続き、俺達は慱以外の3人で慱を元気づける為に、秘密基地にある奇麗な石を取りに行こうと山に向かった。
 慱が小学校2年生の時に山の上にある廃工場を見つけ、そこが俺達の秘密基地にしたのだった。
 元々近くに炭坑があったのでそれに関係する工場だったらしいのだが、炭が取れなくなって廃坑になり工場も潰れたのだ。
 その廃工場を探検している時に見つけた日にかざすと緑色に光る石があり、それが俺達の宝だった。
 そしてその宝は、決してその場から持ち出さないというのが俺達の掟だった。
 だが山に行く途中で買い物帰りの慱に会った。
 
 「どこにいくの?」

 慱は聞いてきたので、俺達は適当に誤魔化した。
 そう、これは慱を元気づけるミッションだったからだ。
 
 「いま廃工場の近くで野犬が数匹目撃されているらしいから、当分の間は近づかない方が良いよ…」

 慱は俺達が向かう方向を見ながら不安そうに言ったのだが、今までに何度も行っていたが野犬なんてあった事もないし大丈夫だろうと高を括っていた。
 
 しかしこれが、俺達にとって大事件に発展したのだった。

 俺達は念の為に一応、慱の忠告通りに武装をした。
 俺は1m位の鉄の鎖を、賢斗はタバスコ入りの水鉄砲を、飛鳥は木刀の小太刀を、華奈はフライパンを持ってきた。
 俺達は自信満々で山に登り、廃工場まで着いた。
 特に野犬がいるような気配はなかった。
 
 廃工場の奥にある積みあがっている石をどかしていくと、僕達の宝はあった。
 俺は手に取り、振り返り皆に高々と見せた。
 皆の背後に大きな野犬が4匹見えた。
 俺達は急いで奥行きが2mくらいある小さな穴に逃げ込んで、俺と賢斗は木の板で入り口を塞いだ。
 野犬は木の板に体当たりをした。
 木の板は脆く、小さな穴が開いた。
 その穴から野犬が顔を入れて、牙を見せて唸っている。
 木の板を賢斗に抑えて貰い、俺は鉄の鎖で野犬を殴った。
 野犬は悲鳴を上げてその場を去ったが、別な野犬が首を突っ込んできた。
 他の野犬も木の板に爪を立ててガリガリと削ってきた。
 俺は賢斗のタバスコ入りの水鉄砲を借りて、野犬の顔に撃った。
 野犬は一旦退いたが、怒らせてしまったのか更に剣幕で吠え掛かってきた。
 華奈と飛鳥は穴の奥で抱き合って泣いていた。
 もう木の板が持たない…!
 そう思っていたら、木の板が砕けて守れる物がなくなった。
 目の前には野犬が牙を見せて威嚇している。
 もう駄目だ!…と思っていたその時!

 「やめろーーーーー!!!」

 慱が穴の近くにいた野犬にタックルした。
 タックルされた野犬は、突き飛ばされたがすぐに体制を立て直した。
 そして慱は、包丁を2本取り出して構えて唸ってみせた。
 よく見ると、慱は震えていた。
 
 「翔也! 近くにある板で穴を塞げ!!」

 慱が野犬を攻撃している隙に、俺と賢斗は別の木の板をとって入り口を塞いだ。
 この木の板も2つくらい穴が開いていたが、先程の板より丈夫そうだった。
 野犬が襲ってきて、慱の左腕に噛みついた。
 慱は呻き声を上げたが、右手の包丁で顎の下を刺すと野犬は血を流して倒れた。
 2匹の別な野犬も襲ってきたが、慱は避けて犬の腹に包丁を突き刺すと、もう1匹の野犬の目を斬りつけた。
 目を斬られた野犬の首に包丁を刺すと、そのまま横に払って野犬の首の皮を掻っ捌いた。

 「慱、やったな!」
 
 俺はそういって木の板をどかそうとしたが、慱は…

 「まだだ! ここに入る前に他に数匹見かけた!!」

 そう言い終わると、野犬が5匹入ってきた。
 慱はウンザリしたような声をだした。
 その時、賢斗が叫んだ。
 
 「慱、僕達が最初に見たのはのは4匹だ!!」

 慱は殺した野犬を見る…が、数えてみると3匹しかいない。
 すると、俺達の上から野犬が現れ慱に飛び掛かった。
 慱は野犬と共に倒れこむと、他の野犬達が一斉に慱を襲った。
 慱に飛び掛かった野犬は慱の首に噛みつき、他の野犬達は慱の両腕や両足に噛みついた。
 慱の衣服を爪で引き裂いて、同時に皮膚も切り裂いていた。
 慱は呻き声をあげると、左腕に噛みついている野犬を振りほどいて首に噛みついている野犬の喉に何度も包丁を刺した。
 でも、それが慱の抵抗できた最後だった。
 野犬は慱の皮膚を食い破り、慱は血だらけになった。
 両腕や両足は皮膚を切り裂かれて肉が見えている。
 そして野犬の1匹は慱の背中を爪で切り裂くと、皮膚を食いちぎっていた。
 慱はもう抵抗できる力はなかった。
 慱の周囲は血溜まりになっていた。
 慱がもう生きているのかすら解らなくなっていた。
 俺は何も出来なくて、ジッと見ている事しか出来なかった。

 その時、野犬に矢が刺さった。
 飛鳥の祖父が入ってくると、刀を抜いて野犬の首を飛ばした。
 続け様に他の2匹の首を落とすと、他の野犬は逃げようとした。
 
 「喬介、絶対に逃すな!!」

 飛鳥の祖父の一言で、喬介兄ちゃんと瑛夜兄ちゃんと他の門下生達が野犬を射った。
 これで野犬は全て討伐されたが…?

 「これは酷い…」

 飛鳥の祖父は、持ってきた大量の手拭いを慱の体中に巻き付けて持ち上げた。
 
 「お前達は喬介や瑛夜と一緒に来い!」

 飛鳥の祖父は、慱を抱き上げて外に走って行った。
 遠くに救急車の音が聞こえていた。
 恐らく飛鳥の祖父が事前に呼んでいたのだろう。
 その後、慱はICUに入り治療をされていた。
 慱はかろうじて生きている状態で、呼吸器なしでは呼吸が困難な状態だった。
 何十時間たったか解らなかったが、手術は成功だと聞かされた。

 何故、飛鳥の祖父が助けに来たか、それは慱が助けを呼んだらしいからだった。
 あとで聞いた話だが、慱は俺達の態度がおかしいと思い後をついていったのだが、山に向かったようだったので慱は武装をして先に行くと、飛鳥の兄の喬介兄ちゃんに伝えて助けに来てくれたのだった。
 
 俺達は病院でそれぞれの両親に怒られた。
 言い出しっぺで皆を危険に晒した俺は、親父に思いっきり殴られた。
 腹を蹴られ、顔が腫れ上がるくらいに殴られた。
 何度も謝ったのだが、親父は許してくれなかった。
 
 「お前の怪我はすぐに治っても、慱君の怪我は一生治らないんだ!!」

 ……といって、俺が気絶するまで殴られ続けた。
 それから3か月以上、慱が目覚める事はなかった。
 慱が入院してから1か月後にICUから個室に移されたが、面会謝絶だった。
 やっと目を覚ました時に面会できるようになったのだが、慱は太いチューブが沢山付いた機会に繋がっていた。     
 ただ、重そうな機械に繋がれているからなのか、何というか…感情が全くなかった。
 それどころか、俺達の事が全く解らなかったみたいだった。
 医者の判断によると、大量の出血による意識障害という事だった。
 俺達が何度話しかけても、「あぁ… うぅ…」と返事するだけだった。
 この治療にはどれくらいまで掛かるか解らないと言われた。
 もしかしたら一生このままかもしれない…とも言われた。

 ある時、4人で見舞いに行こうと部屋に近づくと、部屋の中から叫び声が聞こえてきた。
 心配になって部屋に向かおうとしたが、看護師に止められた。
 慱は野犬に襲われた時の記憶と着替えの時に見た身体の傷を見て叫び声をあげるという話だった。
 俺が慱の忠告をちゃんと守っていたら、慱がこんな事にはならなかった筈だった。
 俺が慱をあんな風にしてしまった。
 
 ~~~~~それから3か月~~~~~

 慱の身体は奇跡的な回復で退院が出来た。
 あれから8か月後、慱は学校に通う事になった。
 でも、慱の感情は未だに戻ってなかった。
 クラスメートは「おかえり!」と話し掛けるが、声を出さずに頷くだけだった。
 事情を知っているクラスメートは、慱を見ても同一人物だと信じられない感じだった。
 両親と妹が亡くなる前の慱は、明るくて頭の良いクラスの人気者だった。
 両親と妹の事故後は、静かだったが今程酷くはなかった。
 それが今では全く感情という物がない人形みたいだった。
 この状態は、小学校の卒業式を迎えても変わらなかった。

 中学生になり、俺は上級生に呼び出された。
 俺には全く覚えがないのだが、目立っているのが癪に障ったらしい。
 殴られ、蹴られて体を丸めて耐えていた。
 慱の怪我に比べたら、大した事が無いと感じた。
 
 「何してるの?」
 
 慱は感情の無い声で声を掛けてきた。
 慱は俺の事を探していたみたいだった。
 俺は「何でもない!」といって慱を遠ざけようとしたのだが、上級生がそれをさせなかった。
 上級生は慱に「こいつのダチならこいつと同じ目に遭ってもらう」と言って絡んでいった。
 慱はチラリと俺を見ると、上級生に殴りかかって行った。
 3人いた上級生の内の1人を殴り倒すと、その顔を蹴っ飛ばし踏みつけた。
 他の1人も殴り倒すと、血だらけになるまで殴り続けた。
 最後の1人が何も出来なくて震えていると、慱は腹に蹴りを入れて九の字に曲がっている奴に髪を掴んで何度も壁に打ち付けた。
 さすがにやりすぎだと思う俺は慱を止めた。
 慱は攻撃をやめたが、慱の顔を見ると感情が無いと思っていた慱の表情が嬉々とした笑みを浮かべていた。
 俺は慱の表情を見て、少し恐怖を感じていた。

 ~~~~~昼休み~~~~~

 俺と慱は職員室に呼ばれていた。
 事情を話すと、俺達の罪は無かった。
 この上級生3人は何かにつけて下級生に被害を出していたらしいが、やられた方は口をつぐみ証拠が発見できなかったという。
 この件で慱は上級生に恐れられる存在になっていた。
 俺を殴りつけた上級生3人は、全治半年の病院送りになったからだ。
 この件があってから少しして、慱の感情が少しずつ戻って行った。
 他の3人は喜んだが、俺は少し複雑な感じがした。
 
 夏休みになって、俺達は海に行こう!という企画を立てた。
 皆は乗り気だったが、慱は断った。
 肌を晒す事は出来ないと言ったからだ。
 考えてみれば、夏場でも慱は長袖を着ている。
 体育も長袖長ズボンのジャージだった。
 着替えも別室を用意され1人で着替えている。
 
 俺と皆は、あの事件以降の慱の服の下は見た事がない。
 何度頼んでも「見ても気分の良い物じゃない」といって断られたのだった。
 それでも、あの事件は俺にも皆にも無かったことは出来ない。
 俺は慱を家に呼び出して皆の立会いの下、頼みこんだ。
 慱は観念して、服を脱ぎ始めた。
 下着だけの姿になると、その傷は凄まじい物だった。
 腕や足はほとんど皮膚という物がなく、体は胸や背中がえぐれていた。
 皮膚が残っているのは身体に少しと、手と顔くらいだった。
 見ていて胃が逆流してきそうな思いをしたが、必死に耐えた。
 俺達の為に命懸けで助けてくれた慱にそれは失礼だと思ったからだ。
 華奈も飛鳥も賢斗も、慱の身体の傷を目に焼き付けた。
 慱の身体の傷は、俺達にとって決して忘れてはならないものなのだから…。

 ~~~~~高校入学~~~~~

 高校に入った俺達は、初めてクラスがバラバラになった。
 慱はあの事件に比べたら、かなり感情が…というより、ほぼ完治している。
 ただ、家族との思い出という記憶の一部が欠損しているみたいだった。
 
 すべての原因は俺の所為だ。
 これが7年前に起きた悲惨な事件だ。
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