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第一章 異世界召喚の章
第六話 スキルの確認と初めての実戦(果たして上手くいくでしょうか?)
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異世界召喚から4日目の午前…。
ようやく僕もみんなも城での生活に慣れてきた。
僕の【生活魔法】もバイトの時の経験をイメージすると、効果が発揮される事がわかった。
さて、今回は僕のスキルのおさらいをしようと思う。
1m四方の範囲なら球体に変化する事が出来る【球体魔法】を試してみるのである。
まず、城の訓練所の端の方に積まれている土に手を触れて、球体魔法を発動する。
2mくらいの山になっていた土の内、1mだけごっそりなくなり球体に変化した。
球体に変化した大きさは、ビー玉位になった。
球体解除で元の土に戻った。
なら…?
少し離れて球体魔法を発動した!…が、球体に変化する事はなかった。
どうやら、球体に変化するのは直に触れてないと変化する事はないという事だ。
少し不便さを感じた。
なら、球体解除はどうなるんだろう?
もう一度土に触れてから球体にし、それを放り投げてから球体解除すると土が戻った。
球体魔法は、球体にするには対象物に触れないと球体にならない。
解除は直に手に触れていなくても良いという事がわかった。
よし、次だ。
木のバケツにお湯を作り、球体魔法を発動。
そのまま10分待つ。
解除を行うと、バケツが元に戻る。
お湯を触ると、冷めている様子はない…か?
これは旅での料理が温かいままで保温ができるという事がわかった…が、どの程度の時間なら大丈夫なのか?
腐らないか?とか…これは実際に数日間調査してみないことには解らない。
現段階ではそれを試している余裕はない。
テストまで後3日しかないからだ。
あ、生物無効ならこれはどうだろうか?
1m四方の木箱を借りて、その中に生きた仔豚を入れて蓋をする。
球体魔法を発動すると木箱だけ球体になり、仔豚はそのままだった。
やはり、生物には無効なのか。
厨房から借りた巨大な肉の塊で試したら、普通に球体になった。
生きたモンスターを球体にするのは無理そうだな…?
レベルが上がれば可能になるのかな?
次に【貫通魔法】を試してみることにした。
50cm以下なら貫通出来ると書いてあったが…そうだな?
土が積まれている横に大きな岩があった。
騎士に許可をもらい、岩に手を触れて貫通魔法を発動した。
そして騎士にお願いして盾を借りて試したが、弾かれた。
やはり、何でも貫通する訳ではないみたいだ。
岩には見事に穴が開いた…が、それが何に役に立つのだろうか…?
考えてみた結果、思い付いたのは…
冒険中の用足しやゴミを捨てる時くらいかな?
実用的なのか、そうでないのかがよく分からない魔法だった。
【生活魔法】は、基本的に一通り試した。
使える属性は、光・火・風・水・土・氷・雷・無の8つだった。
メイド長から話を聞いた時に使える属性は、光・火・風・水・氷の5種類だけらしい。
レベルが違うだけで使える属性も変わるのかと思った。
まぁ、これはおいおい試すとしよう。
そして良くわからない、【性質変化&形状変化】の魔法…
木の枝を広い、岩に思いっきりぶつけてみたら折れた。
まぁ、木の枝だしね。
もう1本の木の枝に今度は性質変化を行い、それで岩にぶつけてみたら今度は折れなかった。
ただ、性質が変化して若干硬くなったとかな?…と思い、折れた枝と一緒に【舌鑑定】を試してみた。
折れた枝は、普通の木の枝と鑑定されて、性質変化の枝は強度が若干上がった木の枝と鑑定された。
物質の強化が出来る魔法なのかな?…と思い、騎士団屯所で折れた剣をもらってきた。
それで、もう一度性質変化を行い、岩にぶつけると刀身が粉々に砕けた。
性質変化の魔法は、どうやら本人のイメージ次第では強化にも弱体にもなるという事が分かった。
ただし…物質限定である。
続いて形状変化を試す事にする。
性質変化が強化と弱体なら、形状変化は軟化と硬化なのかな?…と思った。
騎士からくたびれている剣を貰った。
形状変化を発動すると、刀身がダランと垂れた。
形を保っていられない刀身に渦巻き状に形を整えてから形状変化をすると、渦巻き型の剣が完成した。
ただこれ…?
性質変化はともかく、形状変化については活用の仕方が思い付かないので、とりあえず保留にする事にした。
あとは【闇魔法】についてなんだが…?
発酵は料理に役立つという事が分かったけど、腐食と腐敗については食材で役に立つかな?くらいしか思い付かない。
よし、保留!
あとは自分専用の武器なんだが、これが少し厄介なのである。
翔也はミスリルの剣を使っていた。
聖竜国グランディオという国に聖剣があるので、それまでの繋ぎとして装備していた。
華奈は聖杖という杖を使っている。
テルシア皇国は巫女と魔道士が集う国なので、華奈には専用の杖があった。
賢斗は魔導師の杖というのを使っている。
宮廷魔術師のテルセラと同じ杖らしい。
飛鳥は武器はまだない。
最初の剣聖が刀鍛冶師だったらしく、武器は刀だったのだがこの時代には刀は扱いが難しくて使おうとする者がいなかった。
ただ、城の図書館に製法があったらしく、その文献を頼りに城下町にある鍛冶ギルドのドワーフたちが制作しているのである。
…と、ここまでは良いのだが…?
僕は剣を握ろうとすると弾かれたのであった。
普通に持つ分なら大丈夫なのだが、いざ握ろうとすると弾かれた。
槍も弾かれたし、弓も弾かれた…ダガーやナイフ、ショートソードも弾かれた。
包丁を持った時は別に平気だったのに、それ以外の刃物は無理だった。
そして先ほどの様に、破損した物や木刀の様な実用性では無いものは問題なく使えた。
包丁かぁ…包丁ねぇ…?
厨房には骨断ち包丁というのがあり、文字通り骨ごと切る包丁なのだが。
マグロ解体で使われるような長い包丁に厚みと幅が広くなった包丁だ。
はたから見たら巨大な剣にしか見えないのだが、それなら弾かれずに持てた。
つまり、包丁なら何でも良いのである。
剣と魔法が存在し、モンスターがいるこの世界で包丁を携えて冒険にでる…
なんだろう、なんか泣けてくる。
最後にジョブの【器用貧乏】なのだが…?
この世界にもクラスチェンジがあるらしいのだが、それはこの世界の人達が出来る物で、召喚者はクラスチェンジは出来ないのである。
…というか、そもそも…
【勇者】や【聖女】、【賢者】や【剣聖】はこの世界でも最上級のジョブに位置するのに、クラスチェンジは不要だろう。
スキルと同じようにジョブ欄をタップすると詳細が出るのかと思ったのだが、何も反応しなかった。
仕方ない、包丁を武器に生活魔法を駆使して皆の役に立って見せよう!
この時の僕は、みんなと一緒に冒険できると思っていた。
~~~~~~~~~
その日の午後、僕は再び訓練所に来た。
何だか皆の気合の入り方は尋常ではなかった。
翔也は剣で木人形を片っ端から斬ると、雷の魔法を使って止めをさして消滅させた。
華奈は木人形にホーリーランスを放ち、5体の木人形を貫いた。
そして光の壁を展開して防御魔法を使ってみせた。
賢斗は炎系魔法以外に、水系魔法、風系魔法、土系魔法を使いこなして見せた。
どれも魔法の威力としては中級魔法だったが、威力は申し分なかった。
飛鳥も刀が完成したみたいで、刀に炎の力を宿らせて木人形を斬った瞬間に燃やした。
刀を鞘に納めると、背中に背負っていた弓で遠くの的を射った。
「よし!早くモンスターと戦ってみたいぜ!!」
翔也は自信満々で叫んだ。
他の3人も頷いて見せた。
僕は思った。
自分のジョブ能力をフルに活用できているのは素晴らしい事である。
だが、いままで皆が戦っていたのはあくまでも…動かない木人形だ。
実戦で役に立つのだろうか…?
僕は城の騎士にお願いして、ギルドマスターのヴァルガンを呼び出してもらう事にした。
「慱殿、お待たせ致しました。 それで、どういった御用でしょうか?」
僕は城の応接室で、ヴァルガンと面会した。
「実は、冒険者ギルドの依頼…とかで魔物討伐のが無いかを聞きたかったのです。」
「ほぅ…? それは、実戦を行いたいという事でしょうか?」
「はい。 ただし、僕ではありません。 他の4人です。」
「勇者様達の…ですか?」
「正直な話、僕達5人は元の異世界では平和な国で過ごしていました。 とは言っても犯罪が全く無かった訳ではありませんが、殺人といった行為は僕らの年齢ではあまりありませんし、野生動物で危険な生き物もいますが山奥にでも入らない限りはまず出遭いません。」
「でも、勇者様達は素晴らしい上位ジョブをお持ちですよね? それに剣技も魔法もかなり使いこなしているとか?」
「はい、4人は確かに素晴らしい能力を持っています…が、実戦での経験がありません。 モンスターを倒す事は出来るでしょう。 ですが、トドメをさせるかどうか…いえ、命を奪えるかどうかはまた別の話になると思います。」
「ふむ…? そうですねぇ…」
ヴォルガンは依頼書をテーブルに置いて見せた。
ゴブリン洞窟の制圧・森でのウルフの群れの討伐・はぐれ魔獣の討伐をピックアップしてくれた。
僕は見て考えた。
初陣な上に、連携がまだ取れてない状態で、狭い洞窟の中での戦闘はまだ無理だろう。
森でウルフの群れの討伐かぁ…、視界が悪い中で障害物もある場所での戦闘もまだ早いだろう…?
はぐれ魔獣の討伐…?
「ヴァルガン様、このはぐれ魔獣というのはなんですか?」
「魔獣はその個体にもよりますが、基本は群れで行動するのですが、極稀に狂気に駆られて同族を殺して喰らう奴がいます。 群れを持たない魔獣をはぐれと呼び、他の魔獣や人を見境なく襲うようになります。」
「ちなみにこのはぐれ魔獣のいる場所はどこですか?」
「城から半日ほど行った場所の草原で目撃されています。 何故か、その場所から動こうとしないんです。」
「ちなみにこのはぐれ魔獣は、どんなモンスターなのですか?」
「災害級の熊の魔獣です。」
はぐれ魔獣の依頼書を見たら、【Bランク以上】と記載されていた。
見通しの良い場所で1匹なら…とも思ったが、いや…これから【魔王】と戦おうというのにこれ位を倒せないようでは無理か…。
「ヴァルガン様、はぐれ魔獣の討伐を勇者パーティーが請けます。 手続きを宜しくお願いします。」
「解りました、陛下に許可を戴き外出許可を戴いてまいります。」
僕は応接室をでると、訓練所にいる翔也達にこの事を告げた。
翔也達は、初めての実戦で腕がなるぜ!と息巻いていたが、不安が残った。
1時間後に出発すると伝えたら、各自準備を始めた。
僕も城から支給されたデカ包丁を装備した。
王立図書館の隣にある、王立研究所からポーションを分けてもらった。
~~~~~1時間後~~~~~
城の城門付近で皆と合流した。
この門は、城下町に繋がる門とは違い、外に繋がっている門だった。
みんなを見ると、翔也はフルプレートの鎧にマントを付けていた。
華奈は、召喚時に迎えてくれたアルカディア王女の様な白い法衣を着ていた。
賢斗は魔導師のローブに身を包んでいた。
飛鳥は、上は道着で下は袴でその上に戦国時代の様な甲冑を身に着けていた。
コスプレ会場なら上位を狙えるようなレイヤーに見えた。
僕はというと、冒険者に相応しいような旅人の服を纏っていた。
僕達は出発した!
整備された街道を歩いている。
僕以外にも騎士が4人同行していた。
道中の護衛だった。
半日ほど歩いていると、はぐれ魔獣のいる草原が見えた。
ここで僕達は、一度休憩と打ち合わせをした。
「戦法はこうしよう。 賢斗と華奈の補助魔法で翔也と飛鳥に掛けてから2人は前進して…」
「おいおい、慱さぁ…俺達には力があるんだぜ! 小難しい作戦なんか必要ないだろ! 賢斗も飛鳥もそう思うだろ?」
「「あぁ、もちろん」」
「そうは言ってもなぁ…華奈、何とか言ってくれ。」
「慱、私たちはもうあの頃とは違って戦う力があるの。 もう心配いらないわ!」
翔也達は休憩を終わらせて、草原に足を踏み込んだ。
僕は溜息をつくと、後を追っていった。
騎士達は少し離れた場所で待機してもらった。
翔也と飛鳥は草原の中まで進む…その離れた後方に華奈と賢斗が立ち止まっていた。
「おいおい、いねーじゃん! 魔獣はどこにいるんだよ?」
翔也は声を落とさずに叫んだ。
確かにこれだけ広い草原とは言っても、災害級の同族殺しの熊が隠れそうな場所はない。
この世界にも熊はいるようなのだが、小型でも2m近くはあるらしい。
魔獣ともなると大きさは5mを超えるとか…
災害級ともなれば、それ以上に大きいはずなのだが…?
依頼書によれば、最後に発見されたのは2日前で、そこから動こうとしなかったと書いてあったから、もしかすると餌を求めて離れたのかと思った。
が、妙な違和感に気付いた僕は…
「翔也! 飛鳥! 急いで戻れ!!」
僕は叫んだ。
だが、翔也も飛鳥もその場から動こうとはしない。
賢斗と華奈は僕を見て言った。
「どうしたの? 何かいたの?」
「さっきまで泣いていた虫の声が一斉に止んだんだ、近くにいるよ…翔也、飛鳥早く戻れ!!」
そう言っても、2人は動こうとはしなかった。
それどころか、迎え撃つつもりで構えている。
「賢斗と華奈は、翔也と飛鳥に補助まほ…」
僕がそう言い終える前に地面が盛り上がり、黒い何かが立ち上がると腕を振り回し、攻撃を喰らった翔也と飛鳥は吹っ飛ばされた。
災害級の魔獣が立ち上がると、全貌がハッキリと現れた。
額に赤い目が光り、腕が4本ある体長およそ5mある大型の熊だった。
『グォワウォォォォォォォウォォォォォォォォ!!』
腕を広げ地面が震える様な叫び声を上げた。
なるほど、これが魔獣か!
元いた世界のヒグマ位を想像していたが、考えてみれば異世界の熊だもんな。
弱肉強食の世界の熊が、元いた世界の熊と同じはずはないわな!
「ちきしょう! よくもやりやがったな!」
起き上がった翔也が魔獣を斬りつけた…が、攻撃を弾かれた。
続いて飛鳥もブーストを使って攻撃を仕掛けた…が、ほんの少し斬れただけで致命傷は与えてはいない。
「だから2人とも、翔也と飛鳥に…」
そう言い終える前に、賢斗はファイアストームを…華奈はホーリーランスを放った。
「はぁ…駄目だなこれは。」
僕はそういうと、この場を離れた場所で待機することにした。
賢斗のファイアストームは弾かれて、華奈のホーリーランスは魔獣の背中に数本刺さった。
それをチャンスだと思った翔也と飛鳥は、二人で一斉に斬りかかった。
だが、魔獣は腕でガードして、もう一方の腕で裏拳を放つと、翔也と飛鳥は攻撃をモロに喰らって倒れた。
魔獣は賢斗と華奈に狙いを定めて突進してきた。
焦った賢斗と華奈は、急いで防御結界を展開したが、焦って集中できていない防御結界はいとも簡単に破れた。
そして魔獣に突き飛ばされた2人は、遠くに吹っ飛ばされていった。
翔也がライトニングボルトを放ったが、魔獣には大したダメージがなかった。
魔獣は翔也を横目で見ると、『フン!』と嘲笑うような素振りをした。
そして、じりじりと賢斗と華奈に近寄って行った。
騎士達が助けに入ろうと駆け込んできたが、僕は制止した。
「はぁ、仕方ないなぁ…」
僕は初めは助ける気はなかった。
自信満々で言う事を聞かずに勝手にやろうとしていたので、少しは痛い目に合わせようと思っていた。
だが、このままでは賢斗と華奈は危ないと感じた。
僕はポケットから玉を取り出して、魔獣の顔に投げた。
【球体解除】を行うと、大量の液体が魔獣の顔全体に掛かり、苦しそうに悶えている。
この中身は、厨房で酸化が進みすぎて使えなくなったワインビネガーとハバネの実の粉末を混ぜ合わせた物だった。
まぁ、元いた世界の熊も熊撃退スプレーは苦しんでいたからなぁ…。
僕は反対側のポケットから玉を3つ取り出すと、魔獣めがけて投げつけた。
当たる寸前で【球体解除】を行うと、大量の油を浴びせた。
そしてすかさず、強火の炎を放つと、魔獣は炎に包まれた。
「翔也! 飛鳥! こっちに戻ってこい!!」
僕は2人を呼ぶと、全力で走ってきた。
そして賢斗と華奈にポーションを与えると、ゆっくりと起き上がってきた。
「よし、この場を離脱する! 騎士達に向かって走れ!!」
そういって走り出そうとするが、翔也は止まって魔獣を見た。
そして剣を抜いて、「今ならこいつに止めを刺せるんじゃないか?」と言って構えた。
翔也はさっきの戦いで何も学んでない事を知った僕は、翔也の胸倉を掴んでこう言った。
「野生の獣はなぁ、追い詰められてからが一番危ないんだ!! 僕の攻撃は気休め程度でしかない、ましてや相手は魔獣だぞ!!」
「だが、今がチャンスだと思うんだ、やらせてくれ!!」
僕は溜息をついてから袖を捲って見せた。
僕の腕を見た翔也は、無言で頷きその場を後にした。
騎士達の元に戻ると、僕は騎士達に「お願いします!」と頼むと、騎士達は抜刀して魔獣に斬りかかって行った。
騎士達の活躍により魔獣は倒されたが、僕達の初戦は敗戦を飾った。
今回の戦いの事で4人は学んでくれていると良いのだが…?
僕達はこの場を去り、帰還する為に城に向かった。
ようやく僕もみんなも城での生活に慣れてきた。
僕の【生活魔法】もバイトの時の経験をイメージすると、効果が発揮される事がわかった。
さて、今回は僕のスキルのおさらいをしようと思う。
1m四方の範囲なら球体に変化する事が出来る【球体魔法】を試してみるのである。
まず、城の訓練所の端の方に積まれている土に手を触れて、球体魔法を発動する。
2mくらいの山になっていた土の内、1mだけごっそりなくなり球体に変化した。
球体に変化した大きさは、ビー玉位になった。
球体解除で元の土に戻った。
なら…?
少し離れて球体魔法を発動した!…が、球体に変化する事はなかった。
どうやら、球体に変化するのは直に触れてないと変化する事はないという事だ。
少し不便さを感じた。
なら、球体解除はどうなるんだろう?
もう一度土に触れてから球体にし、それを放り投げてから球体解除すると土が戻った。
球体魔法は、球体にするには対象物に触れないと球体にならない。
解除は直に手に触れていなくても良いという事がわかった。
よし、次だ。
木のバケツにお湯を作り、球体魔法を発動。
そのまま10分待つ。
解除を行うと、バケツが元に戻る。
お湯を触ると、冷めている様子はない…か?
これは旅での料理が温かいままで保温ができるという事がわかった…が、どの程度の時間なら大丈夫なのか?
腐らないか?とか…これは実際に数日間調査してみないことには解らない。
現段階ではそれを試している余裕はない。
テストまで後3日しかないからだ。
あ、生物無効ならこれはどうだろうか?
1m四方の木箱を借りて、その中に生きた仔豚を入れて蓋をする。
球体魔法を発動すると木箱だけ球体になり、仔豚はそのままだった。
やはり、生物には無効なのか。
厨房から借りた巨大な肉の塊で試したら、普通に球体になった。
生きたモンスターを球体にするのは無理そうだな…?
レベルが上がれば可能になるのかな?
次に【貫通魔法】を試してみることにした。
50cm以下なら貫通出来ると書いてあったが…そうだな?
土が積まれている横に大きな岩があった。
騎士に許可をもらい、岩に手を触れて貫通魔法を発動した。
そして騎士にお願いして盾を借りて試したが、弾かれた。
やはり、何でも貫通する訳ではないみたいだ。
岩には見事に穴が開いた…が、それが何に役に立つのだろうか…?
考えてみた結果、思い付いたのは…
冒険中の用足しやゴミを捨てる時くらいかな?
実用的なのか、そうでないのかがよく分からない魔法だった。
【生活魔法】は、基本的に一通り試した。
使える属性は、光・火・風・水・土・氷・雷・無の8つだった。
メイド長から話を聞いた時に使える属性は、光・火・風・水・氷の5種類だけらしい。
レベルが違うだけで使える属性も変わるのかと思った。
まぁ、これはおいおい試すとしよう。
そして良くわからない、【性質変化&形状変化】の魔法…
木の枝を広い、岩に思いっきりぶつけてみたら折れた。
まぁ、木の枝だしね。
もう1本の木の枝に今度は性質変化を行い、それで岩にぶつけてみたら今度は折れなかった。
ただ、性質が変化して若干硬くなったとかな?…と思い、折れた枝と一緒に【舌鑑定】を試してみた。
折れた枝は、普通の木の枝と鑑定されて、性質変化の枝は強度が若干上がった木の枝と鑑定された。
物質の強化が出来る魔法なのかな?…と思い、騎士団屯所で折れた剣をもらってきた。
それで、もう一度性質変化を行い、岩にぶつけると刀身が粉々に砕けた。
性質変化の魔法は、どうやら本人のイメージ次第では強化にも弱体にもなるという事が分かった。
ただし…物質限定である。
続いて形状変化を試す事にする。
性質変化が強化と弱体なら、形状変化は軟化と硬化なのかな?…と思った。
騎士からくたびれている剣を貰った。
形状変化を発動すると、刀身がダランと垂れた。
形を保っていられない刀身に渦巻き状に形を整えてから形状変化をすると、渦巻き型の剣が完成した。
ただこれ…?
性質変化はともかく、形状変化については活用の仕方が思い付かないので、とりあえず保留にする事にした。
あとは【闇魔法】についてなんだが…?
発酵は料理に役立つという事が分かったけど、腐食と腐敗については食材で役に立つかな?くらいしか思い付かない。
よし、保留!
あとは自分専用の武器なんだが、これが少し厄介なのである。
翔也はミスリルの剣を使っていた。
聖竜国グランディオという国に聖剣があるので、それまでの繋ぎとして装備していた。
華奈は聖杖という杖を使っている。
テルシア皇国は巫女と魔道士が集う国なので、華奈には専用の杖があった。
賢斗は魔導師の杖というのを使っている。
宮廷魔術師のテルセラと同じ杖らしい。
飛鳥は武器はまだない。
最初の剣聖が刀鍛冶師だったらしく、武器は刀だったのだがこの時代には刀は扱いが難しくて使おうとする者がいなかった。
ただ、城の図書館に製法があったらしく、その文献を頼りに城下町にある鍛冶ギルドのドワーフたちが制作しているのである。
…と、ここまでは良いのだが…?
僕は剣を握ろうとすると弾かれたのであった。
普通に持つ分なら大丈夫なのだが、いざ握ろうとすると弾かれた。
槍も弾かれたし、弓も弾かれた…ダガーやナイフ、ショートソードも弾かれた。
包丁を持った時は別に平気だったのに、それ以外の刃物は無理だった。
そして先ほどの様に、破損した物や木刀の様な実用性では無いものは問題なく使えた。
包丁かぁ…包丁ねぇ…?
厨房には骨断ち包丁というのがあり、文字通り骨ごと切る包丁なのだが。
マグロ解体で使われるような長い包丁に厚みと幅が広くなった包丁だ。
はたから見たら巨大な剣にしか見えないのだが、それなら弾かれずに持てた。
つまり、包丁なら何でも良いのである。
剣と魔法が存在し、モンスターがいるこの世界で包丁を携えて冒険にでる…
なんだろう、なんか泣けてくる。
最後にジョブの【器用貧乏】なのだが…?
この世界にもクラスチェンジがあるらしいのだが、それはこの世界の人達が出来る物で、召喚者はクラスチェンジは出来ないのである。
…というか、そもそも…
【勇者】や【聖女】、【賢者】や【剣聖】はこの世界でも最上級のジョブに位置するのに、クラスチェンジは不要だろう。
スキルと同じようにジョブ欄をタップすると詳細が出るのかと思ったのだが、何も反応しなかった。
仕方ない、包丁を武器に生活魔法を駆使して皆の役に立って見せよう!
この時の僕は、みんなと一緒に冒険できると思っていた。
~~~~~~~~~
その日の午後、僕は再び訓練所に来た。
何だか皆の気合の入り方は尋常ではなかった。
翔也は剣で木人形を片っ端から斬ると、雷の魔法を使って止めをさして消滅させた。
華奈は木人形にホーリーランスを放ち、5体の木人形を貫いた。
そして光の壁を展開して防御魔法を使ってみせた。
賢斗は炎系魔法以外に、水系魔法、風系魔法、土系魔法を使いこなして見せた。
どれも魔法の威力としては中級魔法だったが、威力は申し分なかった。
飛鳥も刀が完成したみたいで、刀に炎の力を宿らせて木人形を斬った瞬間に燃やした。
刀を鞘に納めると、背中に背負っていた弓で遠くの的を射った。
「よし!早くモンスターと戦ってみたいぜ!!」
翔也は自信満々で叫んだ。
他の3人も頷いて見せた。
僕は思った。
自分のジョブ能力をフルに活用できているのは素晴らしい事である。
だが、いままで皆が戦っていたのはあくまでも…動かない木人形だ。
実戦で役に立つのだろうか…?
僕は城の騎士にお願いして、ギルドマスターのヴァルガンを呼び出してもらう事にした。
「慱殿、お待たせ致しました。 それで、どういった御用でしょうか?」
僕は城の応接室で、ヴァルガンと面会した。
「実は、冒険者ギルドの依頼…とかで魔物討伐のが無いかを聞きたかったのです。」
「ほぅ…? それは、実戦を行いたいという事でしょうか?」
「はい。 ただし、僕ではありません。 他の4人です。」
「勇者様達の…ですか?」
「正直な話、僕達5人は元の異世界では平和な国で過ごしていました。 とは言っても犯罪が全く無かった訳ではありませんが、殺人といった行為は僕らの年齢ではあまりありませんし、野生動物で危険な生き物もいますが山奥にでも入らない限りはまず出遭いません。」
「でも、勇者様達は素晴らしい上位ジョブをお持ちですよね? それに剣技も魔法もかなり使いこなしているとか?」
「はい、4人は確かに素晴らしい能力を持っています…が、実戦での経験がありません。 モンスターを倒す事は出来るでしょう。 ですが、トドメをさせるかどうか…いえ、命を奪えるかどうかはまた別の話になると思います。」
「ふむ…? そうですねぇ…」
ヴォルガンは依頼書をテーブルに置いて見せた。
ゴブリン洞窟の制圧・森でのウルフの群れの討伐・はぐれ魔獣の討伐をピックアップしてくれた。
僕は見て考えた。
初陣な上に、連携がまだ取れてない状態で、狭い洞窟の中での戦闘はまだ無理だろう。
森でウルフの群れの討伐かぁ…、視界が悪い中で障害物もある場所での戦闘もまだ早いだろう…?
はぐれ魔獣の討伐…?
「ヴァルガン様、このはぐれ魔獣というのはなんですか?」
「魔獣はその個体にもよりますが、基本は群れで行動するのですが、極稀に狂気に駆られて同族を殺して喰らう奴がいます。 群れを持たない魔獣をはぐれと呼び、他の魔獣や人を見境なく襲うようになります。」
「ちなみにこのはぐれ魔獣のいる場所はどこですか?」
「城から半日ほど行った場所の草原で目撃されています。 何故か、その場所から動こうとしないんです。」
「ちなみにこのはぐれ魔獣は、どんなモンスターなのですか?」
「災害級の熊の魔獣です。」
はぐれ魔獣の依頼書を見たら、【Bランク以上】と記載されていた。
見通しの良い場所で1匹なら…とも思ったが、いや…これから【魔王】と戦おうというのにこれ位を倒せないようでは無理か…。
「ヴァルガン様、はぐれ魔獣の討伐を勇者パーティーが請けます。 手続きを宜しくお願いします。」
「解りました、陛下に許可を戴き外出許可を戴いてまいります。」
僕は応接室をでると、訓練所にいる翔也達にこの事を告げた。
翔也達は、初めての実戦で腕がなるぜ!と息巻いていたが、不安が残った。
1時間後に出発すると伝えたら、各自準備を始めた。
僕も城から支給されたデカ包丁を装備した。
王立図書館の隣にある、王立研究所からポーションを分けてもらった。
~~~~~1時間後~~~~~
城の城門付近で皆と合流した。
この門は、城下町に繋がる門とは違い、外に繋がっている門だった。
みんなを見ると、翔也はフルプレートの鎧にマントを付けていた。
華奈は、召喚時に迎えてくれたアルカディア王女の様な白い法衣を着ていた。
賢斗は魔導師のローブに身を包んでいた。
飛鳥は、上は道着で下は袴でその上に戦国時代の様な甲冑を身に着けていた。
コスプレ会場なら上位を狙えるようなレイヤーに見えた。
僕はというと、冒険者に相応しいような旅人の服を纏っていた。
僕達は出発した!
整備された街道を歩いている。
僕以外にも騎士が4人同行していた。
道中の護衛だった。
半日ほど歩いていると、はぐれ魔獣のいる草原が見えた。
ここで僕達は、一度休憩と打ち合わせをした。
「戦法はこうしよう。 賢斗と華奈の補助魔法で翔也と飛鳥に掛けてから2人は前進して…」
「おいおい、慱さぁ…俺達には力があるんだぜ! 小難しい作戦なんか必要ないだろ! 賢斗も飛鳥もそう思うだろ?」
「「あぁ、もちろん」」
「そうは言ってもなぁ…華奈、何とか言ってくれ。」
「慱、私たちはもうあの頃とは違って戦う力があるの。 もう心配いらないわ!」
翔也達は休憩を終わらせて、草原に足を踏み込んだ。
僕は溜息をつくと、後を追っていった。
騎士達は少し離れた場所で待機してもらった。
翔也と飛鳥は草原の中まで進む…その離れた後方に華奈と賢斗が立ち止まっていた。
「おいおい、いねーじゃん! 魔獣はどこにいるんだよ?」
翔也は声を落とさずに叫んだ。
確かにこれだけ広い草原とは言っても、災害級の同族殺しの熊が隠れそうな場所はない。
この世界にも熊はいるようなのだが、小型でも2m近くはあるらしい。
魔獣ともなると大きさは5mを超えるとか…
災害級ともなれば、それ以上に大きいはずなのだが…?
依頼書によれば、最後に発見されたのは2日前で、そこから動こうとしなかったと書いてあったから、もしかすると餌を求めて離れたのかと思った。
が、妙な違和感に気付いた僕は…
「翔也! 飛鳥! 急いで戻れ!!」
僕は叫んだ。
だが、翔也も飛鳥もその場から動こうとはしない。
賢斗と華奈は僕を見て言った。
「どうしたの? 何かいたの?」
「さっきまで泣いていた虫の声が一斉に止んだんだ、近くにいるよ…翔也、飛鳥早く戻れ!!」
そう言っても、2人は動こうとはしなかった。
それどころか、迎え撃つつもりで構えている。
「賢斗と華奈は、翔也と飛鳥に補助まほ…」
僕がそう言い終える前に地面が盛り上がり、黒い何かが立ち上がると腕を振り回し、攻撃を喰らった翔也と飛鳥は吹っ飛ばされた。
災害級の魔獣が立ち上がると、全貌がハッキリと現れた。
額に赤い目が光り、腕が4本ある体長およそ5mある大型の熊だった。
『グォワウォォォォォォォウォォォォォォォォ!!』
腕を広げ地面が震える様な叫び声を上げた。
なるほど、これが魔獣か!
元いた世界のヒグマ位を想像していたが、考えてみれば異世界の熊だもんな。
弱肉強食の世界の熊が、元いた世界の熊と同じはずはないわな!
「ちきしょう! よくもやりやがったな!」
起き上がった翔也が魔獣を斬りつけた…が、攻撃を弾かれた。
続いて飛鳥もブーストを使って攻撃を仕掛けた…が、ほんの少し斬れただけで致命傷は与えてはいない。
「だから2人とも、翔也と飛鳥に…」
そう言い終える前に、賢斗はファイアストームを…華奈はホーリーランスを放った。
「はぁ…駄目だなこれは。」
僕はそういうと、この場を離れた場所で待機することにした。
賢斗のファイアストームは弾かれて、華奈のホーリーランスは魔獣の背中に数本刺さった。
それをチャンスだと思った翔也と飛鳥は、二人で一斉に斬りかかった。
だが、魔獣は腕でガードして、もう一方の腕で裏拳を放つと、翔也と飛鳥は攻撃をモロに喰らって倒れた。
魔獣は賢斗と華奈に狙いを定めて突進してきた。
焦った賢斗と華奈は、急いで防御結界を展開したが、焦って集中できていない防御結界はいとも簡単に破れた。
そして魔獣に突き飛ばされた2人は、遠くに吹っ飛ばされていった。
翔也がライトニングボルトを放ったが、魔獣には大したダメージがなかった。
魔獣は翔也を横目で見ると、『フン!』と嘲笑うような素振りをした。
そして、じりじりと賢斗と華奈に近寄って行った。
騎士達が助けに入ろうと駆け込んできたが、僕は制止した。
「はぁ、仕方ないなぁ…」
僕は初めは助ける気はなかった。
自信満々で言う事を聞かずに勝手にやろうとしていたので、少しは痛い目に合わせようと思っていた。
だが、このままでは賢斗と華奈は危ないと感じた。
僕はポケットから玉を取り出して、魔獣の顔に投げた。
【球体解除】を行うと、大量の液体が魔獣の顔全体に掛かり、苦しそうに悶えている。
この中身は、厨房で酸化が進みすぎて使えなくなったワインビネガーとハバネの実の粉末を混ぜ合わせた物だった。
まぁ、元いた世界の熊も熊撃退スプレーは苦しんでいたからなぁ…。
僕は反対側のポケットから玉を3つ取り出すと、魔獣めがけて投げつけた。
当たる寸前で【球体解除】を行うと、大量の油を浴びせた。
そしてすかさず、強火の炎を放つと、魔獣は炎に包まれた。
「翔也! 飛鳥! こっちに戻ってこい!!」
僕は2人を呼ぶと、全力で走ってきた。
そして賢斗と華奈にポーションを与えると、ゆっくりと起き上がってきた。
「よし、この場を離脱する! 騎士達に向かって走れ!!」
そういって走り出そうとするが、翔也は止まって魔獣を見た。
そして剣を抜いて、「今ならこいつに止めを刺せるんじゃないか?」と言って構えた。
翔也はさっきの戦いで何も学んでない事を知った僕は、翔也の胸倉を掴んでこう言った。
「野生の獣はなぁ、追い詰められてからが一番危ないんだ!! 僕の攻撃は気休め程度でしかない、ましてや相手は魔獣だぞ!!」
「だが、今がチャンスだと思うんだ、やらせてくれ!!」
僕は溜息をついてから袖を捲って見せた。
僕の腕を見た翔也は、無言で頷きその場を後にした。
騎士達の元に戻ると、僕は騎士達に「お願いします!」と頼むと、騎士達は抜刀して魔獣に斬りかかって行った。
騎士達の活躍により魔獣は倒されたが、僕達の初戦は敗戦を飾った。
今回の戦いの事で4人は学んでくれていると良いのだが…?
僕達はこの場を去り、帰還する為に城に向かった。
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