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第二章
第十六話 勘違い貴族令嬢ミファレト登場!
しおりを挟む「本当に済まなかった!」
僕は宿の部屋に入った瞬間、ブレイドとダーネリアとルーナリアが土下座で謝って来た。
手を上げて軽めの謝罪ならどうしてくれようかと思ったが、ここまでされて許さないほど僕の心は狭くない。
まぁ、3人の性格上では必ずこういう謝罪をしてくるだろうと踏んでいたのでまぁ、良しとする…が、まさか土下座をするとは思わなかった。
「そこまでして貰っては、僕は何も言えないな。この間の事は水に流して、これからも仲良くしよう。」
「あぁ!」「「はい!」」
これで主導権は取り返した!
まんまと僕の策通りに動いてくれるとは…。
だがこのままでは何かしらの遺恨が残るので、次に飴を渡す事にする。
「アルセルトの街で新調した武器がある。今迄の装備している武器を渡してくれ!」
僕は3人から今迄使っていた武器を回収してから、新たに作って貰った武器を渡した。
親方が頑張ってくれたみたいで、前回のと比べてかなり性能が良くなっていた。
それにしても本当に親方は金を受け取らないよな?
次に行く時は、ドラゴンの肉でも持って行ってみるか!
テオドール地方では、目撃情報があるというし…?
「それでミレイとラキも申し訳ないが、出発を少し早めたいと思う。」
「この街ではあまりやる事が無いから別に良いが、出発を早めるって何かあったのか?」
「アルセルトの街でかつての仲間の元勇者パーティーに会ったのだが、どうやら僕の事を探しているみたいなので、早めに出発して痕跡を消しておきたい。」
「バルーデンの街から出てしまえば、確かに痕跡は途絶えるだろうが?」
「ミレイと一緒に街を出て行くとなったら、次に向かうのはハルーラ村に向かうという事がバレるのでは?」
「それには考えがある!冒険者ギルドに僕達の次の行き先は、ハーネスト村での長期滞在と嘘を付く。奴等は入るのを躊躇う筈だし、ミレイとラキにはハーネスト村で学ぶ事があると言えば信じるかもしれないしな!」
僕はミレイとラキを見ると頷いた。
ただ?
「ハーネスト村は私は一度は行ってみたいと思っていたんです。あそこのチョコレートという食べ物が気になっていたので…」
「チョコレートが食べたいのか?まだストックがあるから食べてみるか?」
僕は空間魔法から取り出して、ミレイとラキに渡してあげた。
2人は口に入れると、とろけそうな顔をして食べていた。
まぁ、この世界に甘味は極端に少ない。
大体の甘味は貴族の元に行くし、平民にはあまり出回らない。
平民に出回る物といったら、ジャムか素朴な味のクッキーくらいしかない。
そもそも、砂糖が高級品過ぎて庶民には手が出ないからだった。
ハーネスト村では、甘みが強い野菜から抽出した糖を使用しているので…それが砂糖の代わりになっていた。
「それで、出発を早めるという話だが?」
「今日の午後には発とうと思う。」
「用意をする物は殆どないから、今すぐでも良いが?」
「いや、僕は色々と仕掛ける事があるから午後からの方が都合が良い。それと、皆には用意をして貰いたい物があるので、金を渡すから購入して来て欲しい。」
「食材でも購入してくるのか?」
「いや、食材関連は既に用意してある。欲しいのは、馬車の中の内装関係だ。」
「あの馬車は屋根も取り付けたし、壁も覆っているだろ?それ以外に何が必要だ?」
「今は麻袋の中に藁を入れたクッションを用意してあるだけだが、この街で本物の綿のクッションを買っておいてほしんだよ。麻袋のクッションでも多少は紛れるだろうけど、綿のクッションだと柔らかさがまるで違うからな。」
馬車を手に入れてから、テントを使う回数が減ったのは良いが…内装がまだ完璧では無かった。
欲を言えばベッドを備え付けたい所だが、そこまでのスペースは無いので、せめてクッションくらいは備えておいても良いだろう。
「買い物係りは、ミレイとダーネリアとルーナリアが行ってくれ。ミレイはこの街にも詳しいだろうし、何より値段交渉には強みがあるしな。」
「そういう事なら任せて下さい!」
「ブレイドとラキには、馬車の見張りと馬の餌やりを頼む。」
「わかった!」
「これから3時間後に街の入り口に集合だ。ブレイドとラキは僕と一緒に街の入り口に向かおう。」
「そういえば馬車はどうした?この街に来た時にはなかったが?」
「空間魔法の収納のストレージの中に入っている。空間魔法の収納は本来は生物は入れられないのだが、馬に従魔契約を施してあるのでストレージに入れる事が可能になった。」
「テイト、お前って本当に何でもありだな!」
僕達は宿を引き払ってから散開した。
僕とブレイドとラキは、まず入り口に向かってから馬車をストレージから出した。
ミレイとダーネリアとルーナリアは必要な物を揃える為に店の方に、僕は仕掛けをする為に冒険者ギルドに赴いた。
そこで僕は色々と罠を仕掛ける為に受付嬢やギルドマスターのサトリに協力を要請した。
さらに冒険者達にも口裏を合わせてもらう為に、報酬として酒場の酒を奢り、さらにクラーケンの足とマウンテンキャンサーを数匹提供した。
食べ方を説明してから実際に冒険者に喰わせると、快く引き受けてくれた。
そしてマウンテンキャンサーの味を占めた冒険者達は、マウンテンキャンサー討伐隊を組んでから、まだギャルクラド山に戻る前のマウンテンキャンサーを狩る為に旅立って行ったのだった。
「やっとの思いでこの街に来てから、また戻ると思えば心も折れるだろうからな。それに僕の向かった先がハーネスト村と知れば、絶対に答えが出るまでに時間が掛かるだろうし。」
今回はミレイとラキにも協力をして貰った。
2人にはこの街を出る際に、故郷に戻るではなくハーネスト村に行くという風に伝える様にしてくれと頼んでおいた。
そしてハルーラ村で食堂をオープンした際には大々的に宣伝を約束を条件にしておいたのだった。
テオドールに着くまでには、トール達には邪魔されたくないからね。
僕は馬車に向かうと、ミレイ達が来るまでの間に馬車を整備した。
ここまで改造すれば、当分の間は手を入れなくても大丈夫だろうからだ。
そしてしばらくしてからミレイ達と合流して、バルーデンの街を出発したのだった。
「これで…ハルーラ食材の野菜煮込みシチューが食べられる!」
「テイトが楽しみにしていたくらいだからな、俺も正直興味はある!」
「私達は少し不安です。」
「そういえば、ダーネリアとルーナリアの故郷だっけか?」
「あの両親が大金を手に入れて、まだ村にいるとは考えられないんですよね。何処かに引っ越してくれていないかな?」
この世界の住人は、村での生活を好む者はいない。
余程の物好きか、離れられない理由がない限りは、纏まった金が入れば街に移住したがるからだ。
街の城壁に比べて、村の周囲を囲っている壁は意外と脆い。
貴族が領地で治めている村とかなら別だが、そういった庇護が無いと木の板を立てて囲っているだけなのだ。
村の中にも自警団はいるが、冒険者程の実力がない為に纏まった数の魔物が襲ってくると簡単に村は崩壊する。
そうなって滅んだ村も少なくは無いのだった。
「売られてから10年近く経っているんだろ?流石に見た目も変わっているし、気付かないとは思うが?」
「ダーネリアとルーナリアは、両親に未練があったりするのか?」
「いいえ、全く!」
「私達は不吉な双子という事で、幼い頃から両親に邪険に扱われて来たので。」
「なら懸念する事は無いんじゃないか?」
「別な懸念材料があるけどな、英雄パーティーの一員だという事に気付いた場合、利用をしてくる可能性も無くは無いからな。」
そんな話をしていると、前方の方から土煙が上がっていた。
また何かの魔物が向かって来ているのかと思っていたら、馬車を囲んでいる騎士が3匹の小型のドラゴンに囲まれて戦っていたのだった。
「騎士がいるという事は、あれは貴族の馬車か?」
「あの紋章は、フォンマール伯爵家の紋章だな。」
「さすが元貴族!詳しいな。」
「言っている場合か!助けに入るぞ‼」
僕は馬車を少し離れた場所に停車させた。
馬車には結界を張ってから、貴族馬車の方に向かったのだった。
ブレイドは挑発スキルを使用して、ドラゴンを引き付けた。
ダーネリアは弱体魔法を、ルーナリアは怪我した騎士に回復魔法を、僕とブレイドはその隙に片っ端からドラゴンを討伐して行った。
「済まない、助かった!」
「まさかこんな場所にドラゴンが出現するとは思っていなくてな!君達は強いな…」
「私達は英雄テイトのパーティーです。」
「何と!2つの英雄の称号を得た冒険者のか⁉」
僕はドラゴンを見てブレイドに話した。
「これは、オーガストリザードだな。高級食材で貴族の美食家が好むと有名な奴だ。」
「これがオーガストリザードだったのか!だが奴等は、本来沼地に生息する奴じゃなかったか?」
「だよな?こんな荒れた地には普通は出ないんだが。」
僕はオーガストリザードを解体していた。
すると、貴族馬車の中から貴族令嬢が出て来て挨拶をしていた。
「危ない所を助けていただき、誠にありがとうございました。わたくしはフォンマール伯爵の長女のミファレト・フォンマールと申します。まさかこんな場所で護衛の騎士ですら歯が立たない魔物に出くわすとは思わなくて、それを討伐したのが今巷で有名な英雄テイト様のパーティーとは!」
ミファレトは、馬車の中にブレイドとダーネリアとルーナリアを招き入れた。
僕もオーガストリザードの解体が終わってから、空間魔法に収納した後に貴族馬車に向かったが?
「すいません、僕も入れて欲しいのですが。」
すると扉が開いてミファレトが声を掛けて来た。
「申し訳ないですが、テイト様のパーティーの方をお招きしておりますので、従者の方は御遠慮願いますわ!」
ミファレトはそれだけ言うと扉を閉めた。
僕はその場で立ち尽くしていた。
僕がテイトなのだが、まさかブレイドの事を僕と勘違いしていないか?
僕は仕方なく、遠くに停車している馬車を貴族馬車の近くに止めた。
そして再び貴族馬車の扉をノックした。
すると、またミファレトが出て…
「今は英雄様達とお話をしておりますの!従者風情が馴れ馴れしく馬車に触らないで戴けませんか!」
「いえ、僕は従者ではなくて…」
「お黙りなさい!たかが従者風情が、立場を弁えなさい!衛兵、この者を馬車から遠ざけて!」
「3人共、僕の事を説明してくれよ!」
「従者君は大人しく待っていていてね~!」
「すまないが、少し待っていてくれ。」
僕は護衛の騎士に連れられて馬車の前で解放された。
それにしてもダーネリアの奴、宿屋での仕返しか?
水に流したのではなかったのか?
僕はミレイとラキにもう少し時間が掛かりそうという事を告げた。
2時間くらい経過したのだが、まだ3人は開放されなかった。
僕の事は説明しているんだよね?
それにしては長いな。
僕は再び貴族の馬車に向かうと、そこには騎士が待ち構えていた。
「申し訳ないですが、中の3人にそろそろ出発したいから開放してくれないかと言って貰えませんか?」
「今はお嬢様がお話されておりますので、それは出来兼ねます。」
「悪いが、あんたらの事情なんて知らないよ。こっちは急いでいるから早くして欲しいんだ。」
「何事ですか、騒々しい!また従者風情ですか!」
「3人共行くぞ!もう待っていられないから。」
「行きたければ勝手に行けば良いでしょう!英雄様達はわたくしがお送り致しますので。」
「ですって、従者君ごめんなさいね~!」
「ダーネリア、1度目は笑って済ませたが2度目は笑えないぞ。」
「従者風情が身を弁えなさ…」
「うるせぇ!お前なんかに話をしてねぇんだよ!黙ってろ小娘風情が‼」
僕は魔力を最大限放出した。
伯爵令嬢に対しての不敬を感じた騎士達が此方に向かって来たので、威嚇する為に放った。
「お前達がそういう態度を取るのなら、好きにしろ!僕はミレイ達と先に行くが…ここでパーティーは本当に解散だ!」
「ちょ…」
「言っただろ、1度目は笑って済ませたと。」
「衛兵達よ、この無礼者を捕らえなさい!貴族のわたくしに向かっての発言を許しておけませんわ!」
「あんたも何か勘違いしているみたいだから、これだけは言っておく!」
僕はギルドカードを皆に見せてから言った。
「僕の名前はテイト、ランクはSランクでレベルは231、英雄の称号が2つある。そしてSランク冒険者には貴族位の爵位が与えられて、僕の爵位は侯爵だ!伯爵風情の小娘の分際で、侯爵に逆らう事が…いや、上位貴族に歯向かうという事がどういう事か解っているのか?この件は、フォンマール伯爵家に厳重に抗議をさせて戴くのでそのつもりで!」
「貴方が…テイト様だったのですか⁉」
「はい、そうですよ…従者風情で身の程を弁えろ、無礼者と散々罵ってくれた僕がテイトです。フォンマール伯爵家には抗議よりもいっその事潰すか!そうすれば、あんたもフォンマール伯爵家の人間は全て平民になって僕を怒らせた事を後悔しながら生きて行く事になるからな!」
ミファレトはようやく自分の仕出かした事の大きさに青い顔をしていた。
「さて、無礼者の従者風情は先に行く事にするよ。」
「待ってくれ!俺達もそっちの馬車に…」
「おや?誰ですか君達は?申し訳ありませんが、知り合いでもない方々に僕の馬車の乗車は許しておりませんので。」
僕は馬車に戻ってから、馬車を出発させた。
後ろからブレイドとダーネリアとルーナリアが追い掛けて来たが、全力で引き離した。
まぁ、例えはぐれてもダーネリアとルーナリアがハルーラ村の場所が分かるから平気だろ。
パーティー解散は嘘だが、僕を蔑ろにしてくれた礼はこうやって晴らさせて貰った。
「テイトさん、良いのですか?」
「あぁ、いいのいいの!僕を馬鹿にしてくれた報いを受けさせる為に、アイツ等には走って来させればいいから。」
「確かに、ダーネリアのあの発言は何処か調子に乗っていましたからね。」
「ところで、フォンマール伯爵家ってどこにあるの?」
「フォンマール伯爵家は、バルーデンの街の中にありますが…まさか本当に潰されるおつもりですか?」
「相手の出方による。気に入らない態度を取ったら本気で潰すからね。とりあえず、ハルーラ村に着いたら向かうよ。」
「テイト兄ちゃん、馬車も追っ掛けて来ているけど?」
「うん、引き離そう!高速移動魔法・アクセラレーション!回復補助魔法・リジェネート!」
僕は馬達に補助魔法を掛けると、あっという間に後方の馬車が見えなくなる位に引き離して行った。
馬達のお陰で、本来なら3日掛かる所を日をまたいだ早朝にハルーラ村に到着したのだった。
「ここがハルーラ村か…僕のハーネスト村といい勝負だな。」
「久しぶりに帰って来たわ!けど、あまりあの時と変わってない気がするけど?」
「街と違って村では、余程の事が起きない限り変化は無いよ。それで、ミレイ達の家は何処だい?」
「案内しますね、こっちです。」
僕はミレイに家の方に案内された。
建物はまだ残ってはいたが、少し傷んでいる感じだった。
僕はクリーン魔法を家全体に施しすと、家の方は見事に復元をしたのだった。
「2階が住居で、1回が店になっているのか。」
「はい、あの頃のままで懐かしいですね。私達3人で街に行く前と何も変わりません。」
「…という事は、ラキはバルーデンの街で生まれたのか。」
「はい、なのでラキはこの家の事は聞いただけで実際は知らないんです。」
僕は店の中にバルーデンの街で使っていた調理器具などを空間魔法から取り出した。
ミレイとラキは、調理器具を店の中に設置していた。
僕は更に貯蔵庫に食材を取り出して置いた。
これで、ハルーラ食材の野菜煮込みシチューが食べられる!
そう思って待っていたのだが、煮込み料理というだけあって時間が掛かるみたいだった。
「じゃあ僕は、料理が出来るまでの間は外で待っている事にするよ。そろそろアイツ等も追い付いて来る頃だと思うしね。」
「あんなに引き離したのにすぐに来れるのですか?」
「僕が馬車の馬に掛けた魔法は、ダーネリアとルーナリアにも出来るからね。しばらく待っていれば…来たな!」
伯爵家の馬車と騎士の馬達が到着した。
その馬車からブレイド達とミファレト伯爵令嬢が降りて来た。
「あのテイト様、本当に申し訳ありま…」
「謝罪は不要だ!これからフォンマール伯爵家に乗り込むから…それと、そこに執事を借りるよ。話がスムーズになる様にな!」
僕は20代中盤位の執事の肩に触れた。
すると、ブレイド達が僕の所に来たのだが?
「テイト、本当にすまなかっ…」
「すいません、見ず知らずの方に呼び捨てにされる程、僕達は親しい間柄では無いですよね?」
「テイト君、本当にごめんなさい!調子に乗っていて…」
「僕の名前は従者君じゃなかったっけ?」
僕は執事を連れたまま、転移魔法でバルーデンの街に戻った。
そして執事に案内させて、フォンマール伯爵家の屋敷の前に来た。
「なんだ、この場所はベルガロン子爵家の目と鼻の先じゃないか!」
「あれ?子爵家がありませんが?」
「屋敷はつい先日ぶっ潰したし、子爵とホーンコッツ子爵令息は始末した。おたくの主人の伯爵も似た様な態度を取ったら、子爵家と同じ轍を踏むと思えよ!」
「・・・・・・・・・」
さてと、伯爵家に乗り込むとしますか!
どんな態度で出迎えてくれるのだろうかねぇ?
僕は楽しみで仕方がなかった。
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