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第一部

第二十六話 お約束的な決戦!後編

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 「貴様等…テクトに何をしてやがる‼︎」
 「旦那をよくも‼︎」

 ギザリスとクルーシスは、アーヴァインとアダンによってぶっ飛ばされて行った。
 そしてアーヴァインがガイネスとミーリアを牽制していると、俺はアダンとその仲間達に救い出されてから、ティルティアから回復魔法を受けた。
 そう、アーヴァインとティルティアは…俺と同時期に冒険者になり、何度かクエストを行った仲間だった。

 「テクト!」
 「何だ?」

 俺はアーヴァインに殴られた。

 「痛ってぇーな、怪我人に何をするんだよ!」
 「お前…俺達を巻き込まない為にこんな大事を隠していた事に腹が立ったんだよ‼︎」
 「なら、他にやり方があるだろう!何故殴る?」
 「口で言うより早いからだ!」

 アーヴァインの奴、滅茶苦茶な理由で殴りやがって…。
 まぁ、一番仲の良いコイツ等に黙っていた俺も悪いが。

 「まぁ、俺はこれで気分が晴れたわけではないからな、続きは後にしてやる!」
 「怪我人を殴っておいて、まだ何かする気かよ?」
 「あぁ、コイツ等を始末してからな!」

 アーヴァインが闇ギルドの者達を指差して言った。
 するとギザリスがこちらに向かって叫んできた。

 『おい、そこにいる勇者達よ!真の敵はテクトだ‼︎アイツは魔王軍の幹部でアンデットのリッチで…人に化けていてお前達を欺いていたんだ‼︎』
 「「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」
 「「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」

 両軍から呆れた声が聞こえた。
 闇ギルドの者達は、まだあんなハッタリを信じていたのかという呆れから来たもので、勇者陣営からは何言ってんだコイツは?…という声だった。

 「お前は…元勇者だったギザリスだろ?お前…頭大丈夫か?」
 「何をしている勇者達よ、勇者の役目は魔王を倒す事にあるだろ…」
 「お前…仮にテクトがリッチだったとしたらだぞ、リッチ程度では日の下では生きていられないんだよ。エルダーリッチとかではない限りはな!」
 「お前は誰から旦那がアンデットなんて聞いたんですかい?」
 「それはテクトが…なぁ、お前等!」
 「まだそんな嘘を信じていたんですか?」
 「奴のハッタリに決まっているでしょう。」

 ギザリスは闇ギルドの者達に言われて顔を真っ赤にしていた。
 ギザリスは勇者達も自分達の味方に付けられると本気で思っていた様だった。

 「まぁ、あんな馬鹿は放っておいて…お前等、闇ギルドの奴等を葬るぞ!」
 「ならアーヴァイン、アドバイスがあるが聞いてくれるか?」
 「何だ、テクトのいう事なら信じるさ。」
 「闇ギルドの幹部は今確認できる中では五人いる。全てを確認していたわけではないが、奴等のジョブは全員忍者だと思った方が良い!」
 「忍者か…面白い!」
 「ところで結構な人数がいるが、一体どれだけの数がいるんだ?」
 「お前の妹と二人の勇者以外の序列十五位以上の勇者に全て召集をかけた。それと冒険者時代の仲間達にもな‼︎」
 
 俺は拡声魔法で周りに叫んだ。

 『序列六位以上の勇者は、闇ギルド幹部の討伐にあたってくれ!それ以外の者達は、闇ギルドの奴等の相手を頼む!雑魚も混じっているからと言って油断をするなよ、この戦いが終わったら…酒と食い物を全て奢ってやるよ‼︎』
 「俺とティルティアには他に追加するぞ!」
 「お前等は相変わらずガメツイな…財布が許せる金額での頼みにしてくれ。」
 「その言葉…忘れるなよ!」

 アーヴァインは大きく息を吸い込んでから叫んだ。

 『お前等…行くぞ‼︎』
 「「「「「「「「オォォォォ!!!」」」」」」」」」

 勇者達と冒険者達、情報屋の者達は闇ギルドの者達に向かって行った。
 そして闇ギルドの者達も迎え撃った。
 両軍は激突し、激しい戦いが繰り広げてやれていた。
 俺は味方に対して強化魔法を放っておいた。
 序列上位の勇者達やベテラン冒険者は大して心配はしてないが、それ以下の勇者達の中には対人戦に未経験な者達もいると思っての対処だったが、どうやら役割は分かっているらしく普通に対応していた。
 そして俺は戦いに加わろうとしたが、怪我がまだ完全に回復していないという事で、勇者パーティーのヒーラーに捕まって治療を施されていた。

 「リールー、もう治ったから開放してくれ!」
 「ダメよ、テクトは目を離したら怪我ばかりするんだから。」
 「お前のお節介焼きは、冒険者時代から変わらねぇな?」
 「こら、年上に向かってお前なんて言わないの!」
 「いま、四十前だったっけ?」
 「私はまだ三十前よ‼」

 怒らせてから隙を見て逃げ出そうとしたが、この白魔道士は簡単には逃がしてはくれない。
 アーヴァイン、ティルティア、ガイアス、リールー、俺の五人は冒険者時代に良くつるんでいた。
 今回参加してくれた冒険者のリーダーがガイアスで、俺達はこの場で揃う事が出来た。
 俺の為に…と思っていたが、恐らくだがアーヴァインとガイアスは報酬以上の物を望むだろう。
 何を要求されるのかが不安だった。

 「それよりも見て、皆のお陰で闇ギルドの連中は劣勢に追い込まれているわよ!」
 「序列三位と四位は何となくで知っているが、六位の奴も中々の強さだな。」
 
 さすがに勇者を名乗るだけの事はある。
 忍者との戦い方も心得ていて、苦戦する事なく追い込んでいた。
 そしてギザリスやクルーシスも情報屋連中に追い込まれて行っている。
 冒険者達も次々と闇ギルドの幹部の配下を倒して行った。
 これで、残りはあと少し…と思っていたが?

 「おい、闇獣を解き放て!」
 
 ギザレスの一言で、奥にあった大きな檻の扉が開いた。
 その中から闇獣のベヒーモスが姿を現した。

 「馬鹿な!ベヒーモスが人の手で飼いならされる事があって堪るか!」
 「あんなのが出てきたら、戦況がひっくり返るわ!」
 
 闇獣が冒険者達と情報屋達の間に入り、爪での一撃を入れた。
 するとベテラン冒険者や手練れの情報屋達は上手く躱したが、それ以外の者達はベヒーモスに踏み潰されたのだった。
 ギザリスは高笑いしながら勇者達を攻撃する様に命令すると、ベヒーモスはアーヴァイン達に迫って行った。
 幹部と戦いながらベヒーモスを相手にするのは流石に無理がある。
 俺は…弱体魔法の挑発を放って、ベヒーモスの気をこちらに向けた。

 「テクト、何を考えているの⁉」
 「リールーは、そこにいる者達を誘導してくれ!アイツは俺が倒す‼」

 今日は流石に魔力を使い過ぎた。
 だが、これ以上…俺の為に皆が傷つくのは見たくなかった。

 「体が持つか解らんが、皆をこれ以上…死なせない!右手に雷属性、左手に氷属性、中央に土属性…複合統一魔法・アブソリュート・ゼロォォォォォォォ!!!」
 
 ベヒーモスは炎属性を持つ魔獣なので、万が一を考えてブレイズエクゼキショーナーは使えなかった。
 なので、氷系の極大魔法を放つと…ベヒーモスは巨大な氷の柱に閉じ込められて凍っていた。
 
 「ガイアス、トドメを刺してくれ!」
 「おぉ!皆行くぞ‼」

 ガイアスと冒険者達は、氷の柱を一斉に破壊した。
 すると、氷の柱が砕けるのと同時に…中に氷漬けされたベヒーモスも砕け散ったのだった。
 おれは片膝を対いて、激しい疲労と倦怠感に襲われていた。

 「テクト、髪が白くなっているわ!」
 「問題…ない、これは代償だからな。」

 ベヒーモスという切り札を失った闇ギルドの者達は、どんどん追い詰められていった。
 そして闇ギルドの者達を全て葬られると、残ったのは…ギザリスとクルーシスのパーティーだった。

 「形勢逆転…だな!」
 「アーヴァイン、だいぶ息切れしているみたいだが大丈夫か?」
 「忍者にだいぶ手古摺らされたからな。」
 
 俺は奴等のパーティーを見ると、縄で拘束されていた。
 奴等は俺を見ると青い顔をしていた。
 そりゃあそうだろ、さっきは自分達が優勢だと思って好き勝手に殴っていた者が目の前にいるのだから。

 「んで、コイツ等はどうするんだ?」
 「ギザリスとクルーシスは、王国に引き渡す。伯爵家襲撃や子爵家襲撃など、他にもたくさんの罪があるだろうからな。どうせ極刑は免れないだろうし…俺が手を下すまでもない。」
 「な…なぁ、助けてくれないか?」
 「お前さぁ、さっきは俺の事を散々殴っていた癖に許しを乞える立場だと思っているのか?」
 「あの時の事は謝るから、な!な!」
 「それにお前を野放しにすると、他にも被害が及ぶからな。裁判で自分の罪を明るみにされてから死を待ってろ。」
 
 俺は剣を抜くと、ギザリスとクルーシスの両腕と両足を斬り飛ばした。
 二人は悲痛な叫び声を上げていた。

 「ただし、腕や足はいらないよな?首と胴が繋がってさぇいれば、質疑応答は可能だろうしな。」
 「お前等は今殺されない分を感謝するんだな!テクトが冒険者時代のあだ名は、地獄の拷問官だからな。」
 「やめろアーヴァイン、あれは盗賊限定の拷問方法だ。」

 とっ捕まえた盗賊に弱体魔法のオンパレードを喰らわせて、苦しめながら嘲笑っている姿を見た仲間から、そんなあだ名を付けられる様になった。
 あまりにも強力で最低な弱体魔法だったので普段の使用は控えていたが、罪人なら何をしても良いだろうと思って使いまくっていたらそう呼ばれる様になっていた。
 今となっては苦い歴史である。

 「さて、後はコイツ等だが?」
 「主犯のギザリスとクルーシスだから、コイツ等は許すとか言わないよな?」
 「メイスで殴って来たり、火魔法で皮膚を焼かれたコイツ等を俺が許すと思うか?」
 「お前等…テクトにそんな事をしたのか?終わったな…」

 俺をいたぶってくれた奴等は、案の定許しを乞う為に心にも無い事のオンパレードを言っていたが、アーヴァインや他の勇者達も全く耳を貸さずに去って行った。
 するとそこに残った者達は、絶望的な表情を浮かべていた。

 「安心しろよ、俺はお前達に危害を加えるつもりは一切無いから。同じ事をしていたぶったりするのは、程度の低いお前等と同格扱いされるからな。なので、お前達はある場所に送るので、そこから脱出出来たらお前達は自由だ!」
 「送るってどこによ?」
 「俺が少年期を過ごしてきた魔境の森だ。方向感覚は一切狂い、周りにはSランククラスの魔物や魔獣が生息していて、気を抜くとすぐに死ぬ様な場所だ。」
 「魔境の森って…デスフォレストの事よね?Sランクパーティーでも入ったら生きて戻れる可能性が低いという。」
 
 俺はミーリアたちの足元に魔法陣を展開した。
 
 「大丈夫だ、俺でも脱出に一年八か月を要したが…こうして生きて出られたのだから。」
 「やめてよ!それ以外だったら何でも言う事を聞くから!」
 「なら、俺に嬲り殺される方が良いのか?言っておくが、転送を拒否するのなら待っているのは拷問地獄だぞ。お前等は死ぬまで一生人体実験として生きる事になるのだが、そっちの方が良いか?」
 「貴方に人の情という物は無いの?」
 「嘲笑いながら俺の顔を火魔法で焦がした奴がそれを言うかね?」
 「あの時は悪かったわ。」
 「謝罪は受け取りましたので、無地に脱出して自由を手に入れてくれ!転送魔法・魔境の森!」

 俺は転送魔法でかつて二年近く過ごしてきた忌まわしい場所に送った。
 運が良ければ生きて出られる…が、運だけであそこから脱出はまず不可能だ。
 本来なら直接手を下したかったが、拷問紛いの事をしてアーヴァインにまた不名誉なあだ名を付けられたくは無いしな。

 「テクト、お前は少年時代にあの森で生きていたなんて初耳だぞ!」
 「あれ?言ってなかったっけ?」
 「お前が強い理由が何となく分かったよ。それよりも、アイツ等を送って生きて出でられると思うのか?」
 「仲間同士で団結すれば出られるんじゃないのか?協調性が全く無い奴等だから、可能性はないだろうけど。」

 俺もあのクソババァに魔法を叩き込まれていなかったら、多分初日に死んでいただろう。
 あの森はそういう場所だ。
 奴等が生きて出られる事はまずないが、少しでも俺に苦痛を負わせたことを後悔させるのなら画期的な場所だろう。

 「さてと、戦いも終わったし…帰るとするか。今日は俺の奢りだから、好きに騒いでくれ‼」
 
 すると助けに来てくれた者達は、歓喜の声を上げていた。
 そして俺達は冒険者ギルドに着くと、事前に連絡しておいた王国騎士が来て、ギザリスとクルーシスの身柄を引き渡した。
 その後、宴会が行われて…アダンから返して貰った金貨の大半を失う羽目になった。
 まぁ、コイツ等のお陰で助かったのは確かだし、これ位なら安いものか。

 そして俺は翌日、ギルマスに呼び出されるのだった。
 理由は…アレしかないよな?
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