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第一部

第二十話 お約束的な…誰だっけ?

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 最初はてっきり、闇ギルドの幹部に近い奴等だと思っていた。
 …と思っていたんだけど、それが違うというのが判明したのは…その日の夕方だった。
 俺が宿に入ろうとした際に声を掛けられ連れて来られた場所は、繁華街から少し離れた廃墟エリアだった。
 そこで俺は、連れて来た奴のリーダーらしき女から突然こんな事を言われた。

 「良く来たわね、テクト・バーグライド!」
 「誰だ…お前?」

 俺の冒険者用の登録名を知っているという事は、冒険者ギルドの冒険者という事になるが?
 俺はこんな女は知らんし、会った記憶もない。
 こういう場合は、コイツが誰なのかを知る為の方法として二種類ある。
 1、適当な名前を言って当たれば良し!外れれば継続して適当な名前を言って、向こうが言うまで待つ。
 2、当てる気が無くて、尋ねたら思わず怒り出す様な職業と名前を言う。
 俺は方法として、2を選択した。

 「あ、思い出した!お前は…娼館の蜂蜜館のキャサリンちゃんだ!」
 「誰よそれ⁉︎」
 「じゃあ、バーバラちゃん?」
 「ワタシは娼婦じゃ無いわ‼︎」
 「なら奴隷か?でも、奴隷なんか買った事がないしな?」
 「誰が奴隷よ⁉︎」
 「娼婦でも無く、奴隷でも無い…とすると?スラムの乞食?」
 「誰が乞食よ‼︎」
 
 誰だか口を割らないな…。
 見た目は少し歳食った盗賊か?
 冒険者には見えないが、仮に冒険者としてどこかであったかな?
 ダメだ、全く覚えがない。

 「いい加減にお前の名前を言え!」
 「名前が知りたかったら当ててみなさい!」
 「別に知りたくもないし、興味も無いので俺は帰る。」

 俺は向きを変えてアクセラレーションでダッシュした。
 急に接近してきたような奴等だ、これからは場を弁えずに接して来るだろう。
 ならその時に相手にすれば良い。
 俺はダッシュでその場から逃げ出した。
 翌日…案の定というか、昨日の連中が宿屋から出たらまた来て言った。

 「姉さんが昨日の場所で待っているから来い!」
 「その姉さんというのがどこの誰だか言ってくれた行ってやる。」
 「良いから来い!」
 「話にならないから断わる。」

 俺は歩き出してから適当な場所で撒こうとしたが、懲りずに着いてきた。
 なので、適当に歩いていると仲間と連携をとっていたのか…昨日の女が目の前に現れた。

 「ワタシを無視するなんて良い度胸じゃない!」
 「お褒めに預かり光栄です。」
 「ふざけた態度ね!」
 「それで、お前は一体誰だ?」
 「昨日も言ったけど、当ててみなさい。」

 またこのやり取りか…。
 昨日と違い、背後には逃げられない様に囲まれていた。

 「分からんから聞いているんだが?」
 「あなたとワタシは直接な面識はないわ!」
 「それならわかる訳ねぇだろ!お前…頭おかしいのか?」
 「ワタシとあなたは直接の面識が無い…でも、ワタシの依頼者の名前ならあなたにも心当たりがある筈よ?」
 「依頼者?誰だそれ?」
 「サンデルマン伯爵令息よ!」
 「知らんし、聞いたことも無い。」
 「良く思い出しなさいよ。」
 「だから知らんって言ってんだろ!知らない奴の事を思い出せと言われても、何を思い出せというんだよ‼︎」
 
 俺は振り返って帰ろうとしたが、しつこく配下が道を塞いでいた。

 「昨日は逃げられたけど、今日は逃さないわよ!今日こそは依頼者に会ってもらうわ!」
 「ここに居るのか?」
 「いえ、あなたにはある場所に来てもらうわ。」
 「お前達に付き合うほど、暇じゃ無いんだよ!」
 「伯爵令息は言ったわ、逆らう様ならば痛め付けても構わないとね。」
 「そうか…」

 俺は剣を抜いてからアクセラレーションを使うと、周囲にいるこの女の配下を皆殺しにした。

 「残るはお前だけだ、オバハン!」
 「あなたは人も殺せない様な奴だって…」
 「誰から聞いたか知らなねぇが、クエストで護衛任務とかしていれば山賊の類とかとの戦闘にもなるし、殺した事がないとでも思ったか?それに、痛め付けても…という事は、お前等の言っている事も山賊や盗賊と大差が無いんだ。まさか人に危害を加えようとしている奴が自分達は何も無いとか思っていたのか?」
 「話が違うわよ!こんな奴だとは…」
 「いい加減、そのサンデルマンっていうのが誰だか言え!事と次第によっては生かしてやるよ。」
 「依頼者を裏切る様な真似は…」
 「そうか!」

 俺は女を切り捨てた。
 そしてその場をすぐに立ち去った。
 恐らくサンデルマン伯爵令息というのは、ギザリスとは別の奴だろう。
 ギザリスの家名は、ドルグランドと言っていたからな。
 
 ギサリスにクルーシス、そして別な貴族か…?
 元勇者の誰か…という線は考え難いが、一体誰なのだろうか?
 また別な厄介ごとが増えたみたいだった。
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