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第一部

第六話 お約束的な…村での準備期間

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 俺達は一度マイネア村に戻り、旅支度をした。
 まぁ、転移魔法があるので戻ろうと思えば何時でも戻れるのだが、ただ勇者になりたての場合だけは別だった。
 これは二人の勇者で経験した事だが、なりたての勇者の場合はやる事が多すぎるのだった。
 まず、国王陛下に挨拶をしに行き…次に冒険者ギルドでパーティー登録してから勇者の序列に参加。
 さらに王国側と冒険者ギルドから新人勇者の指定クエストが多数あり、そのクエストをどれだけ達成出来たかによって序列が上昇し、さらにその序列に達成するとその序列に留まれるかどうかというクエストがあり、それをクリアしないとその場に留まれるか、序列が下がるかという事が待っている。
 なので、当分の間はマイネア村には戻っては来れないのだった。

 「新人勇者は、ざっとこんな流れだ。」
 「結構やる事が多いね?」
 「新人勇者の場合のクエストは、最低でも十個あると思った方が良い。」
 「別に毎日クエストをしなくても良いんだよね?」
 「いや、期限があるから…ほぼ毎日クエストがあると思った方が良い。」
 「うげ~~~面倒臭いなぁ!」

 この課題のクエストをクリア出来るかによって、今後の勇者としての評価を得る物なので…
 多少面倒なのは仕方が無いし、他の序列上位の勇者達は皆経験しているからな。
 だが最初さえクリアすれば、その後はそれ程ノルマに追われる事も無いので自分のペースでクエストを請ける事が出来る様になる。
 貴族や王族に変に目を付けられなければの話だが?

 「お兄ちゃんが過去に勇者のクエストをやった時に一番面倒だったのは何?」
 「一番面倒だったものか、そうだな…?討伐クエストも面倒だったが、一番面倒だったのはダンジョン探索だな。」
 「ダンジョン探索?」

 ダンジョン探査のクエストは、勇者になった者達に課せられる最も面倒なクエストである。
 過去に二度経験をしたが、それほど深い階層ではないがダンジョン探索を行ってから、ダンジョンコアを見つけ出してギルドに持って帰るという物だった。
 ダンジョン探索と言っても当然魔物との戦いもあるし、ダンジョンコアがある場所には必ずダンジョンボスもいる。
 ソイツを倒してダンジョンコアを持って帰る訳だが、二回ともかなり面倒だった記憶しかない。

 「私達だけでダンジョン探索って平気かな?」
 「戦力的に言えば、もう1人欲しい所だな。アタッカーは居てもタンクがいないからなぁ…」
 「村の誰かがパーティーに加わってくれないかなぁ?」
 「戦いが出来る者は殆ど自警団にいるからなぁ、自警団のメンバーから借りるとなると村の警備に負担が出るかもしれないし…」
 
 自警団に所属してなくて、村の出身者でタンクが出来そうな奴と言えば…?
 
 「あ、一人いたな!」
 「テクティノス、当てようか?それはゴードンの事だろ?」
 「あぁ、確かにゴードンの事だが…あいつに事情を話しても参加してくれるだろうか?」
 「う~~~ん?」

 俺とシーリア以外に、この村には同じ年のゴードンという青年がいる。
 取り立てて仲が良かった訳でも無く、俺もシーリスも幼い頃は動きが鈍くて図体がデカいゴードンを良くからかって虐めていた。
 なので非常に頼み辛い上に、今でも根に持っている可能性がある。
 村が魔物の襲撃に遭った時も、当然ゴードンの両親も同じ様に被害に遭ってから、ゴードンは1人で誰にも頼らずに生活をして居る。
 その頃には、虐める事は無くなったが誰とも口を聞かずに1人で生活をして送っているという話だが?

 「シーリア、最後にゴードンに会ったのはいつだ?」
 「アイツの家は村の離れに合って滅多に会わないからなぁ…」
 「ゴードンさんなら私はいつも会っているよ!つい先日にも料理のお裾分けをしたしね。」
 「マリアネート、ゴードンと会っていたのか?」
 「口数は少ないけど、とっても良い人だよ…ね、クライヴ!」
 「あぁ、ゴードンさんから森での狩りの仕方を色々教えて貰っていたからね。」
 
 これは俺やシーリスが頼むより、マリアネートとクライヴが頼んだ方が了解を得るのではないだろうか?
 俺達だと嫌われている可能性があるだろうしなぁ。
 すると、マリアネートが俺の心配を払拭する様に言った。 

 「ゴードンさんは、魔物の襲撃の後にお兄ちゃんやシーリアさんが遊びに来てくれなくなって寂しいって言っていたよ。」
 「あぁ、忙しそうにしている二人に声を掛けるのは悪い気がすると言ってね。」

 俺とシーリスは、地面に手を付いて後悔した。
 あんなに虐めていたのに、ゴードンはそれを遊んでくれていたと思っていたのか。
 しかもとっても良い奴だったという事に…俺達はゴードンになんていう事をしていたんだ‼

 「シーリア、これからゴードンの家に行くぞ!」
 「あぁ、私もそれに賛成だ。」
 
 俺とシーリアは、ゴードンの家に向かった。
 ゴードンの家は、村の離れの方にある広い土地で畑を耕しながら生活をしていた。
 ゴードンは俺達の顔を見ると、喜んだ表情をしながら来たのだった。

 「テクティノス、シーリア、良く来てくれたべ!」
 「ゴードン、久しぶりだな。」
 「んだ、二人が会いに来てくれなくなってから寂しかっただ!」
 
 俺とシーリアは、顔を合わせて無言で頷くとゴードンに言った。

 「ゴードン、今迄悪かった!俺達の事を殴ってくれ‼」
 「オラは…友達の事は殴れねぇだ!」
 
 俺とシーリアは、ゴードンから発せられた友達という言葉に良心が痛んで涙が出て来た。
 俺達はこんなにも純粋で心優しいゴードンを子供の頃に虐めていたのかという事に…。
 
 「それよりも、二人が会いに来てくれて嬉しいだ!今日はオラに会いに来てくれたのか?」
 
 無骨な顔のゴードンが、すっごい笑顔で話し掛けて来た。
 さすがに頼み事をするのは気が引けたが、俺は尋ねてみる事にした。

 「実はなゴードン、俺の妹のマリアネートが水の都オフィーリアの神殿で勇者に選ばれたんだ。」
 「マリアネートちゃんが勇者にか?」
 「あぁ…それで、旅立たなくてはいけなくてな。シーリアもクライヴもパーティーメンバーとして加わる事になった。」
 「そうだったのが…なら、もう皆には当分会えないんが。」
 「それで話なのだが、俺達のパーティーメンバーにはタンクという魔物の攻撃を引き付けられる存在がいなくてな、ゴードンに俺達の仲間になって貰えないかと思って誘いに来たんだが?」
 「オラがか⁉」
  
 俺はゴードンに鑑定魔法をしてみた。
 するとゴードンは、ジョブが重戦士だったのだが…それ以外にステータスがあり得ない程高かった。
 両手斧ランクSS、大盾ランクSS、防御力ランクS、筋力ランクS、HPランクSといったステータスだった。
 
 「なんなんだ、このステータスは⁉」
 「どうしたテクティノス、ゴードンに何が見えた?」
 「ゴードンのステータスを鑑定魔法でみたのだが、Sランク越えが複数所持している。」
 「な、なんだと⁉」
 「それ…凄いんだか?」

 ゴードンがパーティーに加わってくれるなら、申し分ない。
 ただ…?

 「オラがテクティノスやシーリア仲間になって一緒に行くのなら大歓迎だべ!」
 「ただ、少し困った事があってな…両手斧と大盾は一緒に持つ事が基本不可能なんだが?」
 「両手斧ってこれだべか?」

 ゴードンは薪割りで使っている斧を見せてくれた。
 普通の薪割りの斧と違って、その斧はグレートアックス並みに大きくて両手斧の部類に入るのだが…それを片手で軽々と振り回していたのだった。
  
 「ゴードン、片手で重くは無いのか?」
 「子供の頃から薪割りで使っているかんな!重くねぇべ!」
 「そうか…何ていう怪力だ。」
 「それで、テクティノス…オラは着いて行っても良いだべか?」
 「あぁ、こちらから頼みたいくらいだ!ゴードン、お前の力が必要だ!俺達の旅に着いて来てくれないか?」
 「オラは友達の頼みは断らねぇだ!オラが皆を守ってみせるだ‼」

 ゴードンの言葉を聞いて、俺とシーリアは涙を流していた。
 こんなにも良い奴を子供の頃は面白がって虐めていた事に…。

 「少し準備があるんで、待っていてくれ!すぐに済ませるかんな!」
 「なら、準備が終わったら俺の家に来てくれ。そこでゴードンを紹介…する必要は無いか、今後の事を話し合うとしよう。」
 「わかっただ!」

 俺とシーリアはゴードンの家を後にした。
 そして家で話し合っていると、ゴードンが合流してから俺達は早速王都に向かった。
 まずは王都にある知り合いの鍛冶工房でゴードンの武器や防具を揃え、他の者達の防具も誂えて貰った。
 金額は…それなりに掛かったが、装備に金を賭けるのは当たり前なので仕方がないと思った。

 そして俺達は王城に向かってから、国王陛下に謁見を申し入れてマリアネートが向かって行った。
 新たな勇者に選出された報告をしてから、戻って来ると…マリアネートはぐったりとした表情をしていた。
 何があったのかは何となく想像が出来る。
 そして次は冒険者ギルドでパーティー登録をするのだが、そこでお約束の展開が待ち受けているのだった。
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