上 下
22 / 47
第二章

第五話 旅の目的(勇者は魔王をと討伐、なら僕は?)

しおりを挟む
 「最後にもう1度だけ確認するけど…本当に良いんだね?」
 「はい、私はダン様に着いて行きます!」

 ここまで決心が堅いのなら断る理由はない。
 バルバトス一家は、心配そうな顔で見ていた。
 だが、レイリアの決心は硬く、何を言われても覆す感じが無いのは見てわかる。
 僕もいずれパーティを作ろうと思っていたから、少し予定が早まったけど…まぁ良いだろう。

 「ダン殿…分かっているとは思うがくれぐれも…」
 「大丈夫ですよ! 亡くなった妹が生きていたら、レイリアさんと同じ年だし、妹に手を出すような真似はしませんって…」

 妹という言葉にガイウスが反応した。
 そういえば、ガイウスの妹だったんだけか…?
 よし、先程の腹いせに少し意地悪をしてみよう。

 「レイリアさん…いや、レイリア、僕の事はこれからは「お兄ちゃん」と呼んでくれよ。 血の繋がった兄妹…というには無理があるかもしれないが、旅をする上で兄妹と言った方が話が早いから…」
 「うん、わかりました! ダンお兄ちゃん!」

 ガイウスは僕を睨みながら、こめかみ辺りがピクピクしていた。
 どうやら、ガイウス的には兄の立場を取られたと思って、気が気じゃないのだろう。
 とんだシスコンだな、ガイウス!

 「さて、今後の目的を話すね。 まず、このままサーディリアン聖王国に向かおうと思います。 テルシア王国の冒険者ギルドのギルドマスターから、サーディリアン聖王国の冒険者ギルドのギルドマスター宛に紹介状を預かっているのと、アルカディア王女様から、サーディリアン聖王国の王妃殿下当ての手紙を受け取っていますので…」
 「その後はどうするんだ?」
 「そうですねぇ…? まず、サーディリアン聖王国の冒険者ギルドで依頼をしながら路銀を稼いで、その後は船で大陸を渡り、聖竜国グランディオを目指そうかと思っています。 聖竜国グランディオの冒険者ギルドのギルドマスター宛の紹介状も受け取っていますので…」

 バルバトスは考えていた。
 そして紙に文字を書き入れると、それを包んで僕に渡してきた。

 「エルドナート大陸の帰らずの森に行く事があれば、そこの族長にこの手紙を渡してほしい。」
 「帰らずの森と言うと…エルフの王国がある場所ですよね? そんな場所にレイリアを連れて行っても平気なのでしょうか?」

 エルフ族から見ると、エルヴ族という種族は…元は同じエルフ族だったが、強靭な肉体を得る為に禁忌の肉喰いを行い、エルフ族からは【穢れた者】という烙印を押されているという。
 現在のエルフ族の族長は、そんな閉鎖的な考えを捨てて、他種族との交流をしているという話だが?

 「現在のエルフ族の族長は、話に理解のある方だ! 多少偏見に見られる事もあるかもしれないが、問題はないだろう…」
 「わかりました! 確かにお受け致します…が、行くのはかなり先になると思いますが、宜しいでしょうか?」
 「問題ない! レイリアを頼むぞ!」
 「待ってくれ‼」

 僕等は立ち上がり、部屋を出ようとすると…ガイウスが声を掛けて来た。
 これは…俺も連れていけと言わんばかりの表情だな?

 「俺も一緒に連れて行って…」
 「断る!」

 僕はガイウスの頼みをバッサリ斬り捨てた。
 ガイウスは断られるという事を微塵も感じていなかったので、呆気に取られていた。
 そして気を取り直すと、再びお願いして来た。

 「何故だ⁉」
 「だって、ガイウスさん…弱いじゃん。」
 「くっ…」
 「ガイウスの気持ちは分からなくもないが、お前が一緒ではダン殿の足を引っ張るだけだぞ!」
 「なら、俺と勝負をしろ!」
 「それも断る! 勝てる勝負をしたところで時間の無駄だし、意味がない…」
 
 ガイウスは酷く落ち込んだ。
 気持ちは分からなくもない。
 長い年月を妹は眠ったままで、つい先日に目覚めているからだ。
 家族思いのエルヴ族にとっては…?

 「ダン殿、愚息が迷惑を掛けた…」
 「いえ…では、僕等は行きますね。」
 「ここからどうやってサーディリアンに行くつもりだ?」
 「ロンバークさんがサーディリアンに戻るという事なので、護衛として一緒の馬車に乗せて貰う事に昨日お話をしておきました。」
 
 僕はそういうと、部屋を出て集落の入り口にいるロンバークの馬車に向かった…のだが…
 
 「ダン殿、待ってくれ! 料理の話がまだ終わってないぞ⁉」
 「あれ? その話でしたら、盾に使っている金属を譲って下さいと言ったら、エルヴ族の宝だといってくれなかったじゃないですか…」
 「ダン殿の料理の味を知ってしまったら、もう前には戻れないんだ! これを渡すから頼む!」
 
 僕はバルバトスから、小石程度の銀色の金属を受け取った。
 手の平にある小石程度の金属をバルバトスに返した。
 
 「さて、行きますか!」
 「待ってくれ! これを…」

 バルバトスは、先程よりは若干大きい金属を渡してきたが、僕はその場で返した。
 料理を教えるのは構わないけど、報酬がこれっぽっちでは話にならない。
 …というか、どこまでセコイのだろうと思った。
 バルバトスは、鍛冶工房に走って行くと、小岩程度の大きさの金属を持って来た…のだが?

 「あの、バルバトスさん…僕の事を馬鹿にしていませんか? これ、銀じゃないですか‼ 先程の金属を見た時には、ハルモニア鋼とありましたけど?」
 「そういえば、ダン殿は鑑定が使えたんだっけか…」
 
 完全に舐められているな…?
 よし、早く集落を出よう!
 そう思っていたのだが、バルバトスはとんでもない行動に出た。
 身に付けている衣服を脱ぎだして、裸になって土下座をして頼み込んで来た。
 周りの者達は呆気に取られ、レイリアも父親を冷めた目つきで見ていた。

 「ダンお兄ちゃん…アレはほっといてもう行きましょう…」
 「良いの? アレは一応…君のお父さんなんだけど?」
 「私の父は、誇り高く…気高く…自慢出来る素晴らしい人でした!」
 「レイリアよ…俺の事をそこまで!」
 「ですが、アレに…誇りも気高さすらありません。 なので、アレは父ではありません!」

 レイリアは僕の手を取り馬車に乗り込むと、ロンバークの馬車は発車した。
 まぁ、お別れは済んでいるだろうし…僕としてはどちらでも良いのだが?
 去り行く馬車の中からバルバトスを見ると、哀れというしかなかった。
 まぁ、あそこまでやって報われないのもねぇ…?

 「私はレイリアって言います!」
 「私はサシャだよ! 宜しくね、レイリアお姉ちゃん!」

 こっちはこっちで、先程の事が無かったように振る舞っている。
 まぁ、アレは忘れよう。
 僕等は、サーディリアン聖王国に向かって馬車を進んで行ったのだった。
 新たな国…楽しみだ!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~

イノセス
ファンタジー
手から炎を出すパイロキネシス。一瞬で長距離を移動するテレポート。人や物の記憶を読むサイコメトリー。 そんな超能力と呼ばれる能力を、誰しも1つだけ授かった現代。その日本の片田舎に、主人公は転生しました。 転生してすぐに、この世界の異常さに驚きます。それは、女性ばかりが強力な超能力を授かり、男性は性能も威力も弱かったからです。 男の子として生まれた主人公も、授かった超能力は最低最弱と呼ばれる物でした。 しかし、彼は諦めません。最弱の能力と呼ばれようと、何とか使いこなそうと努力します。努力して工夫して、時に負けて、彼は己の能力をひたすら磨き続けます。 全ては、この世界の異常を直すため。 彼は己の限界すら突破して、この世界の壁を貫くため、今日も盾を回し続けます。 ※小説家になろう にも投稿しています。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...