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第二十一話 ヴァッシュ殿下…接触を始める?

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 今日も…ヴァッシュ殿下は私達に部屋に来た。

 だけど私は事前にドレクス達に、王族達の接近を禁止させる様に取り計らった。

 「王族と関係を持てれば、この先…依頼にも影響があるとは思うんだが?」

 「王族は権力に物を言わせて平民の女性を従わせようとするからね…私の事をどう思われているかは分からないけどメナスは可愛いからね。 船に乗っている間は暇だから、寝床を共にしろとか命令されたら…ノースファティルガルドに到着する頃には、私とメナスは妊娠させられているかも知れないけど、それでも良いの?」

 「王族とはそんなに横暴な奴らなのか⁉︎」

 「王族って理不尽な人達が多いし、どんなに断っても権力を持って接触して来るからね、それに…ドレクスもキールス侯爵の貴族依頼の時に分かったでしょ?」

 「あぁ、あのハゲか!」

 自分の事を棚に上げてハゲって…(笑)

 キールス侯爵というのは、依頼で呼ばれた時に冒険者をあまりよく思わない典型的な気質があった。

 しかも…報酬額も極端に低く、更には私とメナスの事を舐め回す様な視線で見てきた上に、奴隷として買ってやるからと言ってきた位だった。

 その時はドレクスがキレてキールス侯爵をボコボコにしてくれたお陰で事なきを得たんだけど…。

 「王族は貴族より横暴だから、平民の私達なんか…人では無く、物としか見ていないわよ‼︎」

 「分かった。」

 それ以降はドレクス達が私達に接触をして来ようとするヴァッシュ殿下を遠ざけてくれていた。

 な~んて、本当は全くの嘘なんだけどね。

 フレマアージュ王国のヴァッシュ殿下は、優王子という異名があり…気性の激しい第一王子のナイブズ殿下とは真逆で国民から慕われている王子だった。

 ドレクス達もその事は聞き及んでいるみたいだったんだけど、その辺は私が勝手に捏造した。

 ヴァッシュ王子は優しい笑みを浮かべて近付いてきて、裏では権力を使用して女性に乱暴をして何人も始末しているという話をしておいた。

 多少心が痛んだけど、元婚にいつバレるかも知れないかという恐怖感があるんだから、相手側には極力情報を与える様な真似はしたくは無かった。

 そう思っていたんだけどねぇ…?

 この日の私は甲板に出ていた。

 メナスは本さえ有れば部屋から1歩も出なくても平気だという体質とは違い、私は1日は1回外の空気に触れたいと思っていた。

 今迄は誰かしらが護衛に付いていたんだけど、フレクスとレドナースは二日酔いに加えて船酔いを誘発し動けずにいて、ドレクスはメナスに付きっきりになるので今日は1人だった。

 そんなドレクスだけど、「何かあったら大声で叫べ!」と言ってくれたので安心していたし…この高速船は前半部が客室スペースで、後半部が貨物スペースになっていて…王族の二人は客室で私達の部屋は貨物スペース側なので接点があまりないと思っていた。

 そんな感じで油断をしていたら…気が付くと、背後にヴァッシュ殿下が立っていた。

 「やっと…お話が出来そうですね。」

 「私には話す事がないので…」

 私はそう言ってヴァッシュ殿下から離れようとしたけど、ヴァッシュ殿下は私が行こうとする通路を塞ぐ様な形で立ち塞がった。

 「待って下さい! 僕は純粋に貴女と話を…」

 「話す事はないと言っているじゃない! なのでそこをどいて下さい‼︎」

 私は強めの口調で言ったけど、ヴァッシュ殿下は道を開けてくれなかった。

 私は後ろから逃亡を図ろうと考えたけど、ここは行き止まりなので逃げ道が無かった。

 ヴァッシュ殿下はゆっくりと私の方に近付いて来た。

 このまま捕まる訳にもいかないし、魔法で攻撃をしよう物なら今後の活動に影響だってある。

 なので私は…ある方法を取る事にした。
 
 私は船全体に伝わる拡声魔法でこう叫んだ。

 「きゃぁぁぁぁぁぁ! 助けて~~~、~~~‼︎」

 私の拡声魔法での叫びを聞き付けて、船員やドレクスが飛んで来た。

 ヴァッシュ殿下はあたふたと取り乱していた。

 私は飛んで来たドレクスとメナスの元に行くと、震えるフリをしながらメナスに抱き付いた。

 「ヴァッシュ殿下…一体何をされているのですか⁉︎」

 「ち、違う。 僕は純粋に彼女と話をしたくて…」

 「そうなのか、ファスティア?」

 メナスとドレクスは心配そうに私に声を掛けて来たので、私はヴァッシュ殿下に都合の悪くなる演技をした。

 「船員達と商人達は言いくるめているから君の味方はこの船には居ない。 それにこんな場所で叫んだ所で誰も助けに来ないと言われて、私に近付いて身体を触ろうとして来て…」

 「僕はそんな事は考えてもいないし、そんな事をする気もない! ただ純粋に話をしたくて…」

 ヴァッシュ殿下は言い訳をしているが、船員達や商人達はヴァッシュ殿下に疑いの目を向けていた。

 そして後から到着したカリオスがヴァッシュ殿下に近付いた。

 私はカリオスに顔を見られない様にメナスの身体に顔を埋めると、メナスは私の頭を撫でてくれた。

 「ヴァッシュ殿下、幾ら船旅が退屈だからと言って…そんな行為に走るのはどうかと思うが?」

 「違うんだカリオス殿下! 僕はそんな気は全くなくて…」

 私はドレクスとメナスに連れて行かれる様に部屋に戻った。

 私はこうして事なきを得た。

 その後、ヴァッシュ殿下はというと…?

 私達との接近禁止を敷かれて、船に乗っている間は監視される事になり…ノースファティルガルドに着くまでに1度も会う事はなかった。
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