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7話

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(守護なんて言うくらいだし守ってくれるんだろうけど…どれだけの効果があるか知りたいよね…。まあ、これの効果を知れるときってことは危険に晒されなきゃいけないってことだし、発動する機会がないならそれはそれでいいか)

…なんて考えたのが悪かったのだろう。

ガサッ

草むらから猿のような獣が顔を出した。

(フラグ回収早すぎでしょ…)

青ざめたサキと眠る湊を見つけ襲い掛かってくる。
サキはスキルで出した分身のようなものだと希乃葉は考えているが実際この身に何か起きたとき本体がどうなるのかは分からない。
痛みは感じるのか、命は本体と共有なのか、何も分からない。

鋭い爪が迫る。

痛いのは嫌だ。死ぬのも嫌だ。

(だけど、目の前で佐倉くんがまた傷を負うのはもっと嫌!)

無防備に眠る湊を庇うように抱き込み短剣に祈る。

(私たちをどうかお守りください…!)

途端、短剣が眩しい光を放ち獣は吹き飛ぶ。
すぐ体勢を立て直したが目の前のサキたちが見えていないようで首を傾げて去っていく。

「は~すごいなこの剣…」

それから何度か動物が現れたがすぐ剣の守護を発動させれば気づかれることも無くやり過ごすことが出来た。
朝になり湊が目覚め随分可愛い反応をするものだから笑ってしまう。

少し話をしていると目の前に突然『蜃気楼解除まで残り1:00』と表示が出る。

「え、」

1分という短いリミットに慌てる。
説明もそこそこにその場を去ろうだなんて不自然にもほどがあるが気にしていられない。

「せめて、名前を教えてもらえませんか…?」

希乃葉だよ、と答えそうになるのをぐっとこらえて蜃気楼につけた名前のサキであると答えた。
そして表示されていたカウントが0になると視界が暗転し、ベッドの上で希乃葉として目を覚まし今に至る。

(これでよかったんだよね…)

湊は確実にこの国に追い出されている。
今現在もこの国に丁重に扱われていて繋がりのある希乃葉だと知っていい感情を持つとは思えない。
であれば初対面で現地民らしきエルフの方がきっと信用してくれる。

別れ際に湊が放った言葉を思い返す。

『…ごめん、ただ、今日初めて話した同級生をそこまで気遣う必要はないよ。…先、行くね』

(確かに私はただの同級生でしかないけど、ほうっておくことなんてできない)

余計なお節介であったとしてもこれは乗り掛かった船。
ここから支援して絶対一緒に元の世界へ帰るのだ。

まずは自分ができることを把握しようともう一度ステータスを表示させる。


種族:人間

名前:宮崎 希乃葉 年齢:16 性別:女

状態:健康

ジョブ:傍観者 Lv?

スキル:鑑定 傍観 蜃気楼

サブスキル:治癒 空間収納

称号:勇者 


サブスキルという項目が増えてサキで使えたスキルが並んでいる。
なるほど、蜃気楼で習得したものはサブスキルとして使用可能になるらしい。

(空間収納も気になるけど、今の状態で蜃気楼って使えるのかな?)

先程は傍観状態から蜃気楼を使いあの場にサキとして干渉したわけだが希乃葉として使うとどうなるのか、とスキルを発動してみる。
するとサキのステータス画面が現れた。

種族:エルフ

名前:サキ Lv1

年齢:25 性別:女

状態:健康

ジョブ:回復術師 Lv2

スキル:治癒 

サブスキル:鑑定 空間収納

称号:蜃気楼

体力:50/50 魔力5/10 気力10/10

(蜃気楼の情報が見れるってわけか。ん?ジョブレベルがあがって、魔力が減ってる…佐倉くんを治癒したから?)

だとすれば減った魔力は回復するのか、ジョブのLvと名前横のLvの違いはなんなのか、そもそも傍観や蜃気楼のスキルを使用しているとき本体はどうなっているのか、と気になることばかりだ。

「悩んでも分かんないな」

とにかく情報収集をしよう。

思い立ったが吉日とベッドから立ち上がろうとして持ってきてしまった数学の教科書が目に入る。

「…ちゃんと返すからね」

傍らの机に鍵付きの引き出しがあったので大切に仕舞い込む。
丁度そのとき扉がノックされ迎えの侍女が訪ねてきた。

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