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4話
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湊が生きた16年はとても静かなものだった。
外を駆け回るより1人で本を読む方が好きで外から聞こえる楽しげな声をどこか別の世界からのように感じていた幼少期。
家に帰っても親は仕事でおらず顔を合わせない日の方が多いくらいであった。
休み時間は読書、放課後や休日は図書館に通って本を読み漁る日々を送っていた湊には1つの夢があった。
それは文字をなぞるだけで冒険や恋愛、はては未来に宇宙にだって行ける本を自分の手で書き上げること。
寂しさを物語の経験で埋めていたからこそ抱いた夢だった。
しかし現実はそう優しくない。
いくつコンクールに応募しても受賞者の欄に湊の名前が載ることは無かった。
それでも、まだ才能がないと諦めるには早いだろうと自分に言い聞かせながら書き続けた。
中学3年生の冬、受験勉強の合間に書き上げた小説が中高生対象のコンクールで奨励賞を受賞した。
ついに認められた気がしてただただ嬉しかった。
ここから作家としての才能が開花していくのだと舞い上がりもした。
けれどそんな浮かれた気持ちはすぐに沈むこととなる。
無事合格できた高校で同じクラスとなった少女によって。
篠原 美月葉
それは湊が応募したコンクールの受賞者一覧に必ずと言っていいほど並んでいた名前。
彼が奨励賞を受賞したコンクールで大賞を受賞していたのも彼女であった。
ただ並んだ名前を見るのと実際の人物を目の当たりにするのとでは感じ方がまったく異なる。
濡羽色の長い髪を三つ編みにして背筋の伸びた凛とした佇まいは大和撫子を思わせる美少女。
さらに人を寄せ付けない独特の雰囲気を醸し出しており、才能のある者のオーラのようなものを湊は感じていた。
それから彼女の受賞作を読んだが、嫉妬や悔しさを抱く余地もないほど素晴らしい作品でただただこれは敵わないと痛感した。
圧倒的な才能を目の前にして彼の心はぽっきり折れて書きかけの小説とともに夢を捨て去ってしまったのだった…。
筆を折った湊だったがそれで変わったことなどほんの些細なもので。
友達もいない彼がすることはやはり読書だった。
けれど目標も自信も失った湊はより暗く俯くようになり厄介な連中に目を付けられいじめの対象になってしまう。
とはいってもまだ直接的な暴力はなく教科書を入れたままのバックを池に捨てられたり陰口を言われたりという具合のもの。
正義感が強くクラス委員長でもあった熊谷なんかは目につけば注意をしてくれていたがなくなることはなかった。
席替えによって美月葉と隣の席になった湊は希乃葉が教科書を借りに来た時実はとても驚いていた。
なぜなら美月葉はクラスメイトとは必要最低限の会話をしようとせず人との関わりが煩わしいというような態度をとることすらあったからだ。
友人がほしくても作れない湊とは違い、友人などいらないという印象だったのだ。
そんな彼女と教科書を貸し借りするような気の知れた友人がいるとは思ってもみなかったのである。
だから、普段の湊であれば絶対に気にせず読書に集中しただろうについ気になってしまい声をかけたのだ。
(やっぱり、名前くらいは知っておきたかったな…)
暗闇の中で湊はそんなことを思う。
出会いから別れまでが怒涛の展開かつ早すぎだ。
いっそ笑えてくるな、なんて考えていると暗闇に光が射しこむ。
次いで草木が風に揺れる音と、ギュイギュイやらビィビィやらあまり爽やかではない鳥(?)の囀りが聞こえてくる。
重い瞼をこじ開けると、金の絹糸のような髪が朝日で煌めく特徴的な長い耳を持った美しい女性が彼の顔覗き込んでいた。
外を駆け回るより1人で本を読む方が好きで外から聞こえる楽しげな声をどこか別の世界からのように感じていた幼少期。
家に帰っても親は仕事でおらず顔を合わせない日の方が多いくらいであった。
休み時間は読書、放課後や休日は図書館に通って本を読み漁る日々を送っていた湊には1つの夢があった。
それは文字をなぞるだけで冒険や恋愛、はては未来に宇宙にだって行ける本を自分の手で書き上げること。
寂しさを物語の経験で埋めていたからこそ抱いた夢だった。
しかし現実はそう優しくない。
いくつコンクールに応募しても受賞者の欄に湊の名前が載ることは無かった。
それでも、まだ才能がないと諦めるには早いだろうと自分に言い聞かせながら書き続けた。
中学3年生の冬、受験勉強の合間に書き上げた小説が中高生対象のコンクールで奨励賞を受賞した。
ついに認められた気がしてただただ嬉しかった。
ここから作家としての才能が開花していくのだと舞い上がりもした。
けれどそんな浮かれた気持ちはすぐに沈むこととなる。
無事合格できた高校で同じクラスとなった少女によって。
篠原 美月葉
それは湊が応募したコンクールの受賞者一覧に必ずと言っていいほど並んでいた名前。
彼が奨励賞を受賞したコンクールで大賞を受賞していたのも彼女であった。
ただ並んだ名前を見るのと実際の人物を目の当たりにするのとでは感じ方がまったく異なる。
濡羽色の長い髪を三つ編みにして背筋の伸びた凛とした佇まいは大和撫子を思わせる美少女。
さらに人を寄せ付けない独特の雰囲気を醸し出しており、才能のある者のオーラのようなものを湊は感じていた。
それから彼女の受賞作を読んだが、嫉妬や悔しさを抱く余地もないほど素晴らしい作品でただただこれは敵わないと痛感した。
圧倒的な才能を目の前にして彼の心はぽっきり折れて書きかけの小説とともに夢を捨て去ってしまったのだった…。
筆を折った湊だったがそれで変わったことなどほんの些細なもので。
友達もいない彼がすることはやはり読書だった。
けれど目標も自信も失った湊はより暗く俯くようになり厄介な連中に目を付けられいじめの対象になってしまう。
とはいってもまだ直接的な暴力はなく教科書を入れたままのバックを池に捨てられたり陰口を言われたりという具合のもの。
正義感が強くクラス委員長でもあった熊谷なんかは目につけば注意をしてくれていたがなくなることはなかった。
席替えによって美月葉と隣の席になった湊は希乃葉が教科書を借りに来た時実はとても驚いていた。
なぜなら美月葉はクラスメイトとは必要最低限の会話をしようとせず人との関わりが煩わしいというような態度をとることすらあったからだ。
友人がほしくても作れない湊とは違い、友人などいらないという印象だったのだ。
そんな彼女と教科書を貸し借りするような気の知れた友人がいるとは思ってもみなかったのである。
だから、普段の湊であれば絶対に気にせず読書に集中しただろうについ気になってしまい声をかけたのだ。
(やっぱり、名前くらいは知っておきたかったな…)
暗闇の中で湊はそんなことを思う。
出会いから別れまでが怒涛の展開かつ早すぎだ。
いっそ笑えてくるな、なんて考えていると暗闇に光が射しこむ。
次いで草木が風に揺れる音と、ギュイギュイやらビィビィやらあまり爽やかではない鳥(?)の囀りが聞こえてくる。
重い瞼をこじ開けると、金の絹糸のような髪が朝日で煌めく特徴的な長い耳を持った美しい女性が彼の顔覗き込んでいた。
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