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チャプター03-03
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リップルは、悪い夢を見て顔を上げた。
けれどここは、惑星ゼリアのとある食堂で、犯罪者が大勢いる大部屋の中央席であり、先程まで食事を取っていた。リップルは、ミアの食事が長いということで、居眠りをしていた。
ミアは、相変わらず、得体の知らない果実にかぶりついており、食事は終わっていなかった。そんなミアは、急に顔を上げたこちらに少し驚いている様子で、食事の手を止めていた。
彼女に、悪い夢か、と聞かれれば、そうだ、としか答えられなかった。ランスはまだ、助けを求めている最中で、そんなランスが処刑されるような内容を見てしまったのだ。そういったことを思わせる言いまわしで、夢の内容も軽く伝えてみた。
そんな言葉に、ミアは、こちらを安心させるような言葉をかけてくれた。それは、楽観視とかではなく、すぐには殺さない、と予測からくる言葉だった。
確かに、拉致であれば、利用価値はあるのだ。でも、そんな利用価値がなくなれば、どうなるかわからない。新たな利用価値を見出されてしまうのか、本当に処刑されてしまうのか。
リップルは、惑星シストンにいる時から、サリーの死に対する怒りと、それ以降のランスの拉致のおかげで、一睡もしていなかった。今この場での仮眠により、久々に眠りについたような気がしていた。
「そういえば、あの時はどうして、命を張ってまで私のことを守ろうとしたの?」ミアが、果実の上に座って聞いてきた。「まだ、お友達にもなってなかったのに」
「……わからない」リップルは、自分自身の反射的な行動に、まだ理解していない部分はあった。思わず、といったことがただ行動に出るだけなのだ。「その時の、気分なのかな。……一つ言えるなら、他人に迷惑をかける人が嫌いでね。その被害に遭おうとしてる人を目の前にすると、防ごうと動いちゃうんだ」
「私、ながーく生きてるけど、そこまでしてくれる人はいないよー」ミアは、こちらの行動に疑問を持つように、時折首をかしげていた。「外交と開拓が重要視されている今の時代に、自分の身は自分で守れ、っていうのが生命体の掟で、皆もそれに納得しているし」
「どうだろう。まだ、ミアは交流経験が少ないから、そういう人とは会えていないんじゃないかな? まだまだ、変わり者はたくさんいる」リップルは笑った。「それとも、ミア自体が変わり者扱いされて、大臣から交流の機会を減らされたかな?」
「お察しが良いね」ミアは笑った。「とにかく遊びたい私は、惑星外活動を求めたんだけど、大臣に拒否されてた。言うことを聞かない妖精だから、ってね。だから、外交権もあまり与えられなかったんだー。あのラルー大臣め」
「その気持ち、わからなくはないな」リップルも、ミアの発言には共感できた。「集団行動をすると、少数派は潰されるんだ」
「リップルの笑顔と咄嗟の判断能力を見て、私も賞金稼ぎになりたい、って思った。ながーく生きていると、ちょっとは、激しいことはしたいじゃん?」
「だから、反銀河連邦団の襲撃情報に、俺と大臣の仲介交渉をしてくれたんだな」リップルは納得した。「変わり者のミアの積極的な外交意識が無ければ、警戒心の強い妖精達とも仲良くなれなかったよ」
「それに、リップルは良い男だったし」ミアは言った。「自分の命は自分で守れ、っていうそんな時代に、身を張ってまで他人の命を守るリップルを、放ってはおけないからね」
「ありがとう」リップルは微笑みながら、ミアの小さな手とハイタッチした。
「この果実、安物の割には美味しいよ」ミアの話は終わり、今度は果実を紹介してきた。
空腹も感じ始めた頃合いだったため、ミアが勧めてくれた果実に手を伸ばした。
とたんに、目の前に黄色い輝きが現れた。
それは、紐状になったレーザーで、そんなレーザーが、果実に手を伸ばしたその手首に巻きつくと、何者かによって引っ張られてしまった。
リップルは、引っ張られた方向へと吹き飛び、周囲のテーブルをなぎ倒して、床に背中を打ちつけてしまった。また、立ち上がろうとしたところで、両足首にもレーザーが巻かれ、身動きが取れなくなってしまった。巨大生物や戦車を捕らえるための兵器である捕獲光線が、こちらを対象に展開されていた。
周囲の人相の悪い客ですら逃げていき、それとは逆に、黒ずくめの武装した奇襲兵が数人、店内へと突入してきた。
「援護するよ!」ミアが身体を光らせて飛行を開始し、こちらに向かって来た。
「待て!」リップルは、彼女に注意をした。
けれど、遅かった。奇襲兵が、手に持っていた円盤機器を床に滑らせ、ミアの真下で停止させると、円柱型の光壁を展開させた。
「うっ!」ミアは、円盤機器から展開される捕獲光壁に閉じ込められてしまった。
また、違法な技術を使っているのか、光壁のなかでは細かい稲妻も展開されており、ミアの呼吸器に悪影響を与えていた。ミアは、喉に両手を当て、呼吸ができていない姿をさらけ出すこととなった。
「ミアだけは離せ!」リップルは強い口調で言い放った。「呼吸ができてない!」
妖精族は、電子機器に弱いため、機械の性能によっては熱量で囲まれることの影響で、呼吸困難になってしまうのだ。
リップルは片腕と両足を捕獲されたうえ、床で横に倒されているため、この状況の打破ができないかと急いで辺りを見渡した。そばにいる奇襲兵達は、惑星フィーシーで襲撃をしていた反銀河連邦団の一員と見て間違いはなかった。たまたま、この惑星でも鉢合わせしていたようで、最短時間でここに来たようだ。
奇襲兵に囲まれてしまうと、こちらの片手を確保している奇襲兵が、捕獲銃を持ったまま接近して見下ろしてきた。
「ミアは離せ」リップルは、ミアが倒れてしまったところを確認した。
「わかっているな」と奇襲兵の一人。「惑星フィーシーの資源と、ここまでの航海費を渡せば、すぐに帰る。妖精は諦めろ。すぐに変わりも見つかるだろ」
「これだから、無能は困る」リップルは言い返した。「こっちの番だ」その瞬間に、空いている左手の手のひらを開き、腰に備えていた雷刀を念力で引き寄せた。
リップルは雷刀を展開すると、最寄りの奇襲兵の腕を切断して、捕獲光線銃をも破壊した。それにより、両手が動かせるようになり、本来の剣術で敵兵を倒していこうと考えた。
だが、立ち上がろうとしたところで、両足を引っ張られてしまい、引きずられてしまった。その時に、ミアと円盤機器を目の当たりにし、その機器を潰そうと念力を展開した。その時は、機器の軽度の破損により、ミアの意識もなんとか戻り、立ち上がろうとしてくれていた。
けれど、さらに両足を引っ張られ、念力の対象がずれてしまうと、ミアはまたしても呼吸停止状態となってしまった。
さらなる追い打ちがあり、こちらの両足を捕らえている捕獲光線銃が飛行して天井に接着されると、リップルは天井に宙づり状態となってしまった。そこへ、複数の奇襲兵が電気棒を持って襲い掛かって来た。
リップルは、念力で足元を破壊することよりも敵兵に対応することにし、宙づりのまま雷刀を構えて、幾度となく接近してくる敵兵を切っていった。逆さまの状態でも、敵兵の棒を弾き飛ばし、身体を切る。これを何度も繰り返し、少なくとも八人は撃退した。時折、背中を叩かれて全身に痺れが走るも、通常の人間とは違い、そこまでの麻痺は起きず、叩いてきたその敵兵も、こちらの雷刀で切りつけて倒した。
集中力を取り戻したところで、周囲の敵兵を念力で吹き飛ばすと、まず雷刀を光線に接触させて切ろうとした。けれど、雷刀と光線が接触したとしても激しい火花を発生させるだけで、光線を切断させることはできなかった。また、上体を天井へと持ち上げても、足元にある捕獲光線を起動している銃に、雷刀は届かなかった。そのうえ、この場で念力を使って天井ごと破壊しようと考えたものの、時間が掛かることが予想され、自分自身の解放はあとまわしにするしかなかった。
ミアの呼吸を楽にさせることを最優先し、宙づりのまま手のひらをミアのほうへと向け、念力を展開した。円盤機器に圧力をかけて、内部の基盤を破壊していった。けれど、その基盤は予想以上に頑丈で、時間が掛かりそうだった。かろうじて、念力を展開しているあいだは、ミアの呼吸が戻り、彼女もなんとか自力で立ち上がろうとしていた。
そこで、巨大な足音が聞こえた。その足音は、巨体を表すような地響きを起こしているにも関わらず、歩幅と速度は異常にはやかった。すぐに、この食堂の壁が爆発し、砂埃がリップルを襲った。瓦礫などの破片がリップルに当たるも、リップルは怯まずに念力を展開し続けて、ミアの解放を急いだ。
砂埃から、太く輝く赤い雷刀が左右に一本ずつ飛び出し、そんな回転する巨大独狐の形をした刃は急接近してきた。
その瞬間に、リップルはミアを捕らえている円盤機器を念力で破壊することができ、彼女を開放させた。続けて、雷刀を構えなおして、何者かによる赤い雷刀の奇襲に対応しようとしたものの、すでに赤い雷刀はこちらの胴体を切断しようとしている距離にあり、間に合わなかった。
そこで、優秀なミアが、妖術で光壁を展開し、リップルの全身を、赤い雷刀による奇襲から守った。赤い雷刀は激しく火花を散らしながら上へとずれて、天井と捕獲光線銃を破壊してくれた。おかげで、リップルの両足も解放され、散らかった床へと落ちた。
リップルは、うまく床へと着地すると、こちらの肩にミアが乗ったことを確認して、砂埃のなかを駆け抜けて、食堂の厨房へと走った。とたんに、今度は大きな銃声がこだまし、低速連射から発射される無数の大口径熱量弾が、リップルの背中を追った。
厨房の奥へと進むと、裏路地へと出られそうな金属扉があり、そこに体当たりをして、外へと飛び出した。目の当たりにしたのは、不気味な照明が点在する建物の隙間路地で、放置された四輪車両や粗大ゴミが目立ち、頭上には錆びついた階段も無数にあった。リップルはすぐさま、四輪車両の上にのぼって、そこからさらに高く跳躍し、適当な階段へと飛び移った。
続けて、食堂の厨房が爆発すると、先程まで足場にしていた四輪車両が激しく横転し、そこから黒い巨人が現れた。それは、惑星フィーシーに派遣されていた二足歩行型戦車のウォーカーとは違い、巨人そのものだった。一般男性の数倍はありそうな身長と肉体は、人工筋肉と機械を組み合わせた、対戦車専用無人二足歩行ロボットだった。これまでにも何度も破壊工作に起用してきたのか、傷だらけであるのも見てわかった。
そんな巨人がこちらを追跡する姿に、リップルは、あの司令官が遠隔操作する二機目のロボットだと悟った。どれほど遠隔操作の技術を得てきたのか、その巨人の動きは機敏で、操作が巧みだった。見たこともない巨大な雷刀を振りまわし、周囲の物を破壊しては、こちらを標的として殺そうとしていた。
リップルは、もう一度別の階段へと飛び移ってから、近くの室外機に手のひらを向け、念力を展開し、その室外機を巨人へと吹き飛ばした。巨人は、両腕で顔を塞いだことによって、片手に備わっていた機関銃に室外機が衝突し、その機関銃が破損していた。
リップルは、幾度となく跳躍し、いくつかある階段を飛び移り、近くのビルの屋上へと身体を転がすように着地した。
「大丈夫?」ミアが言った。
「俺よりも、ミアでしょ」リップルは、外套をはたいて埃を落とした。
「私は大丈夫。回復がはやいから」ミアは、こちらのそばを浮遊してついてきた。
「俺も大丈夫。でも、あのデカい奴が厄介だ。反銀河連邦の技術だから、余計に手ごわいぞ」そう答え、屋上を走った。「平面のここなら、戦いやすいかな」
「惑星フィーシーにいたウォーカーと違うの?」ミアからさらに質問があった。
「違う。前のは、人が入って操縦するタイプ」リップルは、走りながら答えた。「今のタイプは、遠隔操作型の無人で、有人機より機敏に動ける」
予想どおり、あの巨人の追撃は続くこととなった。頭上を移動する物音が聞こえると、目の前に巨人が着地してきた。膨大な熱量を持つ脚力なのか、一度の跳躍だけで、食堂の裏口からこちらのいる屋上までやってきた。そして、目の前に着地し、見事にこちらの回避路を妨げる。
「賞金稼ぎめ」あの司令官の声が巨人から聞こえた。惑星フィーシーにいたロボットと同じ声である。「惑星フィーシーで、なぜ、俺達の邪魔をした?」
「しつこいぞ」リップルは立ち止まった。「他人に迷惑をかけることは、やめておけ」
「ふん、偽善者め」巨人は時折、巨大な雷刀を振りまわし、威圧を謀った。「人を騙して、金儲けか?」
「それは、お前だろ」リップルは反論した。「都合の良い個人解釈を、こっちに押しつけんなよ」
「そうよ!」ミアも腹を立てていた。「墜落したふりをして、私達の土地に勝手に基地をつくってさ!」
「自分の身を守ることはできるかな?」司令官が操る巨人は、太い雷刀を振りまわした。
リップルも雷刀を展開すると高く跳躍して、巨人の頭上を飛び越えて背後へまわった。そこで胴体を真横に切ろうとしたが、相手は大きいだけではなかった。すぐさま赤い雷刀が目の前を遮り、こちらの雷刀が弾かれてしまった。また、機械任せの素早い動きで、真上から雷刀が振り下ろされた。
とたんにミアの光壁妖術が展開し、巨人の雷刀を膜で覆い、振り下ろしたその速度を低下させてくれた。おかげで、リップルの防御は間に合い、相手の雷刀を受け止めることができた。
相手の予想以上の科学技術は、団体の規模の大きさを改めて実感した。これだけ大きな図体であれば、もう少し動きが鈍くても良いはずである。相手は、関節展開技術が優れている機械巨人だった。
巨人は、手首を回転させた。その回転を主とする剣術に切り替わり、的を絞らせない立ちまわりをしてきた。おかげで、こちらがうまく攻められない状態が続き、背後で攻撃を仕掛けるミアの妖術光線も弾かれてしまった。
力強い雷刀の大振りで、リップルは自身が切られないように雷刀で防ぐも、吹き飛ばされてしまった。
なんとか攻略できないか、と歯を食いしばり、もう一度攻めに転じた。
※※※
ブーチは、自身の船の操縦室に座り、水分補給をしていた。けれど、のんびりする気持ちはなく、静かな時間を過ごしていくうちに、サリーの死を受け入れ始めていた。
サリーとは、銀河連邦の連邦軍操縦士の試験で出会い、お互いに合格をしていた。けれど、ある程度の期間を過ごしたあと、サリーが退役をしてしまうのだ。
彼女は言っていた。毎日を違う過ごし方で生活がしたい、と。
当時のこちらは、サリーのその言葉に、まだ意味を理解していなかった。優秀成績で合格したこちらとサリーは、高給取りではあり、休暇が取れれば好きな買い物ができたのは間違いなかった。そのうえ、少し節約した生活を送ったならば、自家用機だって購入できるところまで昇格していたのだ。けれど、サリーは連邦軍の操縦士生活に納得していなかったのだ。
それとなく、サリーのあの言葉の意味を知ったのは、退役したあとのサリーの笑顔だった。彼女は、個人送迎事業を立ち上げ、銀河連邦の便利屋を務めていた。そしてある日、休暇をとっていたこちらを誘い、サリーと共に水上都市の惑星へと行き、海底に沈むリップルを回収。その後、リップルとの出会いをきっかけに、銀河連邦の人権を返上。賞金稼ぎの小団体を立ち上げて、リップルを相棒に活動を始めた。そんな彼女は、生き生きとしていた。安定した生活に刺激がなかったのか。それとも、連邦の憲章下での生活で生きがいを見つけられなかったのか。もしくは、賞金稼ぎをしていたほうが楽しく過ごせる自分を見つけられたのか。
連邦の人権を返納した者は、どこからも保証を得られず、自力で生活をしなくてはいけないのだ。そんな死と隣り合わせの毎日でも、サリーは楽しそうだった。
気づけば、こちらも退役をして、賞金稼ぎ団体に向けた送迎屋になっていた。また、サリーの扱う小型船を、こちらの船で長距離輸送をする仕事をしている時は、楽しかったのだ。リップルとは、そこから、仕事仲間としてつき合うようになった。
「リップルはブーチを笑わせられる少年、だったね。サリー、面白いことを言うじゃない」
ブーチは、かつて路地にいた絵師に依頼していた、こちらとサリーの似顔絵の一枚絵を手に取り、これまでの思い出を懐かしんだ。そして、リップルの笑顔が、こちらとサリーにとって、いかに大事かを実感していた。
※※※
リップルは、もう一度、巨人の背後にまわった。ミアが妖術光線で視線を逸らしてくれたと思い、背中を一刀両断しようと目論んだ。けれど、それはまだ軽率な判断だった。
巨人は、片手で雷刀を振りまわしてミアの光線を防ぎながら、もう片方の手でこちらの胸倉を掴んだのだ。その力は、こちらの力ではほどけないほどの強さだった。
リップルは、振りまわされながらも、雷刀を相手の手首に当てた。レーザーが上手く金属部分を溶かしてくれたものの、半分まで切ったところで、振り下ろされてしまった。機械巨人の力は異常で、こちらの身体は、屋上床にめり込んでしまった。さすがに、この力には全身に痛みを感じたが、すぐに穴から飛び出して戦線に復帰した。
巨人は、こちらとミアに雷刀の先端を向けて止まった。
「仲間がここに来るぞ。観念しろ、罪人が」と巨人。そして彼は、こちらを鋭く睨んだ。「……銀河連邦の軍人を七人殺した経歴を持つ特殊人間。俺達と組めば良かったものを」
「……え?」ミアが内心驚いていた。
「……」リップルは、その情報には沈黙した。
「どうした?」話の主導権を握ったと思い込んだ司令官は、勝ち誇っている様子だった。「友人の前で事実を言われて、動揺でもしたか?」
そこでしばらく、睨み合いが続いた。
やはり、反銀河連邦団であったとしても、銀河連邦の一部と裏で繋がりがあるのは確かだった。こちらの情報を抜き出し、相手を動揺させて、心理的に戦闘能力を下げる作戦を立ててきた。けれど、ここでわかるのは、相手が自身の不利を悟った、ということである。右手首を半分切断し、戦術がうまく組めない状態にしたおかげで、仲間を呼び出す手段にも手を出した。
「水上都市の惑星で、逃走中の事故で海底に沈み、死亡した。……憲章上の死亡扱いだな。お前がまだ生きていることを、連邦に知らせても良いかもな」
リップルは、一瞬こそは動揺したものの、すぐに冷静さを取り戻した。
もう少し、巨人のどこかを損傷させれば、故障へ追い込むことができる。
「おい、ここの座標がわからないのか?」巨人は、応援を要請した仲間達に確認を取り出した。しかし、相手からの応答はなく、巨人自身に異変が起きていることに気づいた。「……小さな賞金稼ぎめ。通信障害を起こしたな?」
「知らねえよ」リップルは首を傾げた。「その巨体の整備不良を恨みな」
すると、外野から熱量弾の発射音が聞こえ、黄色の熱量弾が巨人の背中に命中した。
それを合図かのように、リップルとミアは、巨人から距離を置いて体勢を整えた。
「誰だ!」巨人は、部外者からの攻撃に納得がいかず、素早く周囲を見た。
リップルは、ブーチが拳銃を持って来てくれたのか、と予想したが、それは違った。
巨人と同じように辺りを見渡すと、こちらの上空で、論理原動機を意味する青白い光を放ちながら浮遊している機械人間、俗に言うロボットがいた。
「僕のことは観測できますか?」浮遊しているロボットは、機械音声で喋りながら、巨人を挑発しながら周囲を飛行した。
「誰だ?」巨人は視覚障害も発生したのか、ロボットをうまく見ることができていなかった。
「どうも」ロボットは旋回飛行をやめて、もう一度浮遊をすると、声をかけてきた。「さっきの青年ですね?」
リップルは、こちらを知っているロボットということで、あの雑貨屋にいたピッキングロボットを思い出した。あの不審な視線をこちらに差してきた倉庫のロボットである。
「ハッキングか」巨人は、ロボットが妨害行為をしていることを把握した。
リップルは気を引き締め、すぐに前方へ跳躍し、巨人に接近した。それは、巨人がすぐに自身に巻き起こった妨害を打破し、飛行をしながら妨害をするロボットを認識したからだ。その隙を狙い、強襲をしかけようと考えていた。
しかし、巨人の戦闘能力はまだ健在であり、相手に感づかれ、すぐに雷刀を振り下ろされた。
攻撃か防御か悩んだものの、すぐに攻撃に転ずるべきだ、と判断できた。それは、ミアによる光線と、ロボットによる熱量弾によって、巨人が怯んだからだ。半分まで切っていた右手首をすべて切断し、連続して、左右に伸びる雷刀のうちの片方も切断させ、このビルから右手首と雷刀部品を落下させた。続いて、ミアが光壁をつくって、巨人が反撃する雷刀の軌道を妨害してくれたおかげで、リップルの攻撃がさらに命中し、胴体にも切れ目を入れることができた。
一方で、飛行するロボットの片腕から強力な熱量弾が発射された。その熱量弾が巨人の胴体に命中したことにより、切れ目がさらに割けて、上半身と下半身がわかれるように破壊された。
リップルとミアは、それらの破片から逃れるように距離を置いた。巨人は、電力供給を失ったことで、完全停止してしまった。
そして、破壊された巨人の上に、援護をしてくれたロボットが着陸した。そのロボットは、油汚れでやや黒色に変色しているが、薄い緑色を基本とした全体に、上腕部と脚部が白色のだった。胸部には、収納のように見える部材交換扉がある。
「こんばんは。僕の名前は、ポンコツ。正確には、人材不足企業支援企画EG補助三号機、という型番です。倉庫作業員のためにつくられた二足歩行型機体ですが、色々と改良はされています」とガラクタを集めたような単純なオモチャの見た目で、彼は胸を張っていた。
そこで、夜空がにぎやかになってきた。それは、赤い照明が目立つ戦闘機が低空飛行していることだった。それも、十数機。先程までの戦闘中に、巨人からの応援要請の発信が再開されたのか、こちらの位置を掴んだと思われた。こちらに向かってくるのは、反銀河連邦団の短距離型の小型戦闘機である。
「ポンコツ、って呼ぶのも変じゃない」ミアがリップルの肩に座って言った。
「EG三号機でも良いですよ」とロボット。
「……どうして、今の喧嘩を手伝った?」リップルは、名前など気にしてはいなかった。ただ、こちらを助ける行動に疑問があった。「この街じゃ、喧嘩なんて無数にあるだろうし」
「あなたの言っていた、惑星マシスに、僕も関心があります」ロボットは、表情こそは変わらないが、笑顔で喋っているようだった。続けて、自己紹介が始まった。「あなたにとって、良い人材になれる、と思いまして。高所飛行、情報網侵入、火器攻撃、これらを習得しています。ハッキングは、レベル八まで。火器攻撃は、クラス五までの光壁なら破壊が可能」
すると、戦闘機の一機が、急接近しながら熱量弾を連射してきた。
その攻撃に対し、ミアが球体光壁を展開し、熱量弾を弾いてくれた。
また、EG三号機と名乗るロボットは、腕を空に向けて銃口を開放すると、大口径熱量弾を発射した。たちまち、正面にしていた戦闘機の片翼に命中し、その戦闘機は回転しながら墜落していった。
「この惑星から出ますか? 同行させてくれたら、協力します」とロボット。
「採用だ!」リップルは笑顔で答えた。「俺はリップル。一緒に惑星マシスに行こう!」
「エギー!」ミアがひらめいたように言った。「ポンコツじゃなくて、エギーって名前!」
「エギー、ですね。承知いたしました。それじゃあ、まずはここから脱出しましょう!」エギーという名前になったロボットは、ガッツポーズを見せてくれた。
※※※
ブーチは、サリーとの思い出の一枚絵をシートポケットに収めた。リップルの帰りが遅くなっても、不安になることはないものの、退屈な時間が訪れようとしており、一人で買い物にでも出ようかと考えていた。足元にある引き出しに納めていたサリーの拳銃を手に取り、それを腰に備えた。そして、買い物へと向かうために、船の電源を落とそうとした。
そこで、無線機に着信が入り、リップルからの報告がようやく来た、と通信を繋げた。
「はい、なに?」ブーチはスイッチに指を当て、スピーカーに顔を近づけた。
「ごめん、急いでポイント一三三の四八、高度五〇〇に来て! 緊急ということで!」とリップルの声。
「え? どういうこと!」ブーチは、緊急無線にも慣れているため、慌てることなく、手際よく原動機を起動させながら運転席に乗った。「あんた、翼でも生やして飛んでるの?」
「北に向かってちょっとずつポイントがずれてるから、気をつけて。あと、格納庫ハッチは開放したままで合流」
「ここが連邦所属の惑星だったら、行政職員の怒りを買って、憲章違反になるよ!」ブーチは、停船所の燃料パイプが外れた合図の青信号になったことを確認して、すぐに船を浮上させ、船首を目標地点へと向けた。
「空で迷ったら、花火を目印にして!」そこでリップルからの通信は途絶えてしまった。
※※※
リップルは、ブーチとの通信をきった。そして、エギーの背中に乗って飛行していることに興奮していた。それは、誰かに追われてるような好奇心ある活動のほかに、新たな仲間が増えたことで、気分が高まっていた。
「うひょー、こんな不安定な乗り物があるなんてー!」ミアもリップルの襟にしがみつきながら、高所からの絶景に驚いていた。
ただ、油断してはならないのは、同じ高度で飛行する、反銀河連邦団の戦闘機の存在だった。無法地帯のこの惑星であるため、爆発性の高い熱量を積んだ飛行機を街の上空で飛ばしても、大半の浮浪者は文句を言わないのだ。おかげで、流れ弾を気にしない彼らの戦闘機からは、熱量弾の乱射が行われた。
「北方の海上を飛行して。落下物の発生で、下の人を巻き込む可能性がある」リップルはエギーに注意喚起した。
「了解しました。リップル殿」エギーは、北の方角へと上昇をしながら進んでくれた。
思いのほか高速で移動するため、ここでのミアの球体光壁の展開も役に立った。風圧による視認障害がなくなり、周囲を飛びまわる戦闘機を確認することができた。
そこで、一機の戦闘機が背後にくっつき、熱量弾を連射してきた。ある程度は球体光壁によって守られたものの、防御が間に合わずに貫通する熱量弾に関しては、リップルが雷刀で弾き返した。
また、前方に位置した戦闘機に至っては、エギーが光線を発射して見事に命中させ、海へと墜落させていた。
「ねえ、ねえ、リップル!」ミアが珍しく真剣な顔をした。「無事にこの惑星から出られたら、あの巨人の中身の司令官が言ってたこと、詳しく話してよね」
「……わかったよ」リップルは、敵の熱量弾を弾き返しながら返事をした。
きっと、あの反銀河連邦団の司令官が口にした、七人の軍人を殺した、という話が予想された。
「なんの話をしているのかわからないけれど、戦闘機より大きな船が接近してきますよ!」エギーが探知機による情報収集を行ったのか、船の接近報告をしてくれた。
「了解。その船が、後部の格納庫ハッチを開放させながら並走してくれるから、そのハッチに飛び込んで」と今の計画をエギーに伝えた。
※※※
空中で熱量弾の撃ち合いが展開されているのを見たのは、久しぶりだった。おかげで、リップルが、花火を目印にしろ、と言った意味を理解することもできた。
「いったい、なんなの?」ブーチは、反銀河連邦団の戦闘機に追われている、黒い物体を目の当たりにした。まだ接近をしていないため、その黒い物体がなんなのかはわからなかったが、その黒い物体を囲む黄色に光る球体光壁から、妖術を展開しているミアがいることは確信できた。
そして、ミアがいるということは、黒い飛行体にしがみついているのがリップルであるのは予想できた。熱量弾が飛び交うところへ突っ込むのは、好ましくない状況であるが、リップル達が危険な立場であるならば、助けに行く必要があった。依頼者として、また、友人として。
ブーチは、速度を上げて、前方にした戦闘機に体当たりをしながら、リップルのいる黒い物体へと接近を始めた。相手の戦闘機に体当たりをして破壊したことにより、ほかの戦闘機がこちらの船を敵視し始め、こちらにも攻撃を始めてきた。
今のこの船には、基礎光壁しかないため、ある程度の攻撃を受けてしまうと、光壁出力が追いつかず、それが高威力の熱量弾であるなら、直接的に攻撃を受けてしまうのである。よって、船体の一部が破損する音も聞こえ始めた。
そんな状況下で一つのスイッチを叩き、飛行中の異常を知らせる警告音を響かせながら、格納庫ハッチを緊急開放させた。そのハッチを開けることで減速も見られ、速度を維持するために、さらに推進力を上げた。
「リップル、来たよ! ハッチを開けた!」ブーチは、繋がりにくい通信に叫んだ。
黒い物体へと接近し、並走することができた。リップルがしがみついている物体をしっかりと見てみると、連邦の工業団地で時々見かけたことがある人型安物ロボットだということがわかった。また、かなり油汚れがついていたのか、それは黒い物体ではなく、薄い緑色の機体だった。その機体が、この船の格納庫ハッチのある後方へとまわった。
そこで、敵機の攻撃もさらに受けることとなり、複数ある計器のうちのいくつかが、赤枠を鋭い針で指し示していた。飛行中によるハッチ開放で、いくつかの機器に負荷もかかり、嫌な音が船内を響かせた。また、操縦席まで強風が入ってくると、廃棄物を燃やすような不快な臭いまで鼻を突いた。そして、船内の後部で大きな機械が倒れるような音がした。
「乗った! ハッチ閉めて!」リップルからの合図が、船内後方と通信機から同時に聞こえた。
ブーチは、スイッチをもう一度叩いてハッチを閉鎖した。
ブーチ達の乗る船は、敵機に追われながらも、惑星ゼリアから宇宙空間へと飛び去り、自慢の回避技術で、反銀河連邦団の短距離戦闘機から逃げきった。
けれどここは、惑星ゼリアのとある食堂で、犯罪者が大勢いる大部屋の中央席であり、先程まで食事を取っていた。リップルは、ミアの食事が長いということで、居眠りをしていた。
ミアは、相変わらず、得体の知らない果実にかぶりついており、食事は終わっていなかった。そんなミアは、急に顔を上げたこちらに少し驚いている様子で、食事の手を止めていた。
彼女に、悪い夢か、と聞かれれば、そうだ、としか答えられなかった。ランスはまだ、助けを求めている最中で、そんなランスが処刑されるような内容を見てしまったのだ。そういったことを思わせる言いまわしで、夢の内容も軽く伝えてみた。
そんな言葉に、ミアは、こちらを安心させるような言葉をかけてくれた。それは、楽観視とかではなく、すぐには殺さない、と予測からくる言葉だった。
確かに、拉致であれば、利用価値はあるのだ。でも、そんな利用価値がなくなれば、どうなるかわからない。新たな利用価値を見出されてしまうのか、本当に処刑されてしまうのか。
リップルは、惑星シストンにいる時から、サリーの死に対する怒りと、それ以降のランスの拉致のおかげで、一睡もしていなかった。今この場での仮眠により、久々に眠りについたような気がしていた。
「そういえば、あの時はどうして、命を張ってまで私のことを守ろうとしたの?」ミアが、果実の上に座って聞いてきた。「まだ、お友達にもなってなかったのに」
「……わからない」リップルは、自分自身の反射的な行動に、まだ理解していない部分はあった。思わず、といったことがただ行動に出るだけなのだ。「その時の、気分なのかな。……一つ言えるなら、他人に迷惑をかける人が嫌いでね。その被害に遭おうとしてる人を目の前にすると、防ごうと動いちゃうんだ」
「私、ながーく生きてるけど、そこまでしてくれる人はいないよー」ミアは、こちらの行動に疑問を持つように、時折首をかしげていた。「外交と開拓が重要視されている今の時代に、自分の身は自分で守れ、っていうのが生命体の掟で、皆もそれに納得しているし」
「どうだろう。まだ、ミアは交流経験が少ないから、そういう人とは会えていないんじゃないかな? まだまだ、変わり者はたくさんいる」リップルは笑った。「それとも、ミア自体が変わり者扱いされて、大臣から交流の機会を減らされたかな?」
「お察しが良いね」ミアは笑った。「とにかく遊びたい私は、惑星外活動を求めたんだけど、大臣に拒否されてた。言うことを聞かない妖精だから、ってね。だから、外交権もあまり与えられなかったんだー。あのラルー大臣め」
「その気持ち、わからなくはないな」リップルも、ミアの発言には共感できた。「集団行動をすると、少数派は潰されるんだ」
「リップルの笑顔と咄嗟の判断能力を見て、私も賞金稼ぎになりたい、って思った。ながーく生きていると、ちょっとは、激しいことはしたいじゃん?」
「だから、反銀河連邦団の襲撃情報に、俺と大臣の仲介交渉をしてくれたんだな」リップルは納得した。「変わり者のミアの積極的な外交意識が無ければ、警戒心の強い妖精達とも仲良くなれなかったよ」
「それに、リップルは良い男だったし」ミアは言った。「自分の命は自分で守れ、っていうそんな時代に、身を張ってまで他人の命を守るリップルを、放ってはおけないからね」
「ありがとう」リップルは微笑みながら、ミアの小さな手とハイタッチした。
「この果実、安物の割には美味しいよ」ミアの話は終わり、今度は果実を紹介してきた。
空腹も感じ始めた頃合いだったため、ミアが勧めてくれた果実に手を伸ばした。
とたんに、目の前に黄色い輝きが現れた。
それは、紐状になったレーザーで、そんなレーザーが、果実に手を伸ばしたその手首に巻きつくと、何者かによって引っ張られてしまった。
リップルは、引っ張られた方向へと吹き飛び、周囲のテーブルをなぎ倒して、床に背中を打ちつけてしまった。また、立ち上がろうとしたところで、両足首にもレーザーが巻かれ、身動きが取れなくなってしまった。巨大生物や戦車を捕らえるための兵器である捕獲光線が、こちらを対象に展開されていた。
周囲の人相の悪い客ですら逃げていき、それとは逆に、黒ずくめの武装した奇襲兵が数人、店内へと突入してきた。
「援護するよ!」ミアが身体を光らせて飛行を開始し、こちらに向かって来た。
「待て!」リップルは、彼女に注意をした。
けれど、遅かった。奇襲兵が、手に持っていた円盤機器を床に滑らせ、ミアの真下で停止させると、円柱型の光壁を展開させた。
「うっ!」ミアは、円盤機器から展開される捕獲光壁に閉じ込められてしまった。
また、違法な技術を使っているのか、光壁のなかでは細かい稲妻も展開されており、ミアの呼吸器に悪影響を与えていた。ミアは、喉に両手を当て、呼吸ができていない姿をさらけ出すこととなった。
「ミアだけは離せ!」リップルは強い口調で言い放った。「呼吸ができてない!」
妖精族は、電子機器に弱いため、機械の性能によっては熱量で囲まれることの影響で、呼吸困難になってしまうのだ。
リップルは片腕と両足を捕獲されたうえ、床で横に倒されているため、この状況の打破ができないかと急いで辺りを見渡した。そばにいる奇襲兵達は、惑星フィーシーで襲撃をしていた反銀河連邦団の一員と見て間違いはなかった。たまたま、この惑星でも鉢合わせしていたようで、最短時間でここに来たようだ。
奇襲兵に囲まれてしまうと、こちらの片手を確保している奇襲兵が、捕獲銃を持ったまま接近して見下ろしてきた。
「ミアは離せ」リップルは、ミアが倒れてしまったところを確認した。
「わかっているな」と奇襲兵の一人。「惑星フィーシーの資源と、ここまでの航海費を渡せば、すぐに帰る。妖精は諦めろ。すぐに変わりも見つかるだろ」
「これだから、無能は困る」リップルは言い返した。「こっちの番だ」その瞬間に、空いている左手の手のひらを開き、腰に備えていた雷刀を念力で引き寄せた。
リップルは雷刀を展開すると、最寄りの奇襲兵の腕を切断して、捕獲光線銃をも破壊した。それにより、両手が動かせるようになり、本来の剣術で敵兵を倒していこうと考えた。
だが、立ち上がろうとしたところで、両足を引っ張られてしまい、引きずられてしまった。その時に、ミアと円盤機器を目の当たりにし、その機器を潰そうと念力を展開した。その時は、機器の軽度の破損により、ミアの意識もなんとか戻り、立ち上がろうとしてくれていた。
けれど、さらに両足を引っ張られ、念力の対象がずれてしまうと、ミアはまたしても呼吸停止状態となってしまった。
さらなる追い打ちがあり、こちらの両足を捕らえている捕獲光線銃が飛行して天井に接着されると、リップルは天井に宙づり状態となってしまった。そこへ、複数の奇襲兵が電気棒を持って襲い掛かって来た。
リップルは、念力で足元を破壊することよりも敵兵に対応することにし、宙づりのまま雷刀を構えて、幾度となく接近してくる敵兵を切っていった。逆さまの状態でも、敵兵の棒を弾き飛ばし、身体を切る。これを何度も繰り返し、少なくとも八人は撃退した。時折、背中を叩かれて全身に痺れが走るも、通常の人間とは違い、そこまでの麻痺は起きず、叩いてきたその敵兵も、こちらの雷刀で切りつけて倒した。
集中力を取り戻したところで、周囲の敵兵を念力で吹き飛ばすと、まず雷刀を光線に接触させて切ろうとした。けれど、雷刀と光線が接触したとしても激しい火花を発生させるだけで、光線を切断させることはできなかった。また、上体を天井へと持ち上げても、足元にある捕獲光線を起動している銃に、雷刀は届かなかった。そのうえ、この場で念力を使って天井ごと破壊しようと考えたものの、時間が掛かることが予想され、自分自身の解放はあとまわしにするしかなかった。
ミアの呼吸を楽にさせることを最優先し、宙づりのまま手のひらをミアのほうへと向け、念力を展開した。円盤機器に圧力をかけて、内部の基盤を破壊していった。けれど、その基盤は予想以上に頑丈で、時間が掛かりそうだった。かろうじて、念力を展開しているあいだは、ミアの呼吸が戻り、彼女もなんとか自力で立ち上がろうとしていた。
そこで、巨大な足音が聞こえた。その足音は、巨体を表すような地響きを起こしているにも関わらず、歩幅と速度は異常にはやかった。すぐに、この食堂の壁が爆発し、砂埃がリップルを襲った。瓦礫などの破片がリップルに当たるも、リップルは怯まずに念力を展開し続けて、ミアの解放を急いだ。
砂埃から、太く輝く赤い雷刀が左右に一本ずつ飛び出し、そんな回転する巨大独狐の形をした刃は急接近してきた。
その瞬間に、リップルはミアを捕らえている円盤機器を念力で破壊することができ、彼女を開放させた。続けて、雷刀を構えなおして、何者かによる赤い雷刀の奇襲に対応しようとしたものの、すでに赤い雷刀はこちらの胴体を切断しようとしている距離にあり、間に合わなかった。
そこで、優秀なミアが、妖術で光壁を展開し、リップルの全身を、赤い雷刀による奇襲から守った。赤い雷刀は激しく火花を散らしながら上へとずれて、天井と捕獲光線銃を破壊してくれた。おかげで、リップルの両足も解放され、散らかった床へと落ちた。
リップルは、うまく床へと着地すると、こちらの肩にミアが乗ったことを確認して、砂埃のなかを駆け抜けて、食堂の厨房へと走った。とたんに、今度は大きな銃声がこだまし、低速連射から発射される無数の大口径熱量弾が、リップルの背中を追った。
厨房の奥へと進むと、裏路地へと出られそうな金属扉があり、そこに体当たりをして、外へと飛び出した。目の当たりにしたのは、不気味な照明が点在する建物の隙間路地で、放置された四輪車両や粗大ゴミが目立ち、頭上には錆びついた階段も無数にあった。リップルはすぐさま、四輪車両の上にのぼって、そこからさらに高く跳躍し、適当な階段へと飛び移った。
続けて、食堂の厨房が爆発すると、先程まで足場にしていた四輪車両が激しく横転し、そこから黒い巨人が現れた。それは、惑星フィーシーに派遣されていた二足歩行型戦車のウォーカーとは違い、巨人そのものだった。一般男性の数倍はありそうな身長と肉体は、人工筋肉と機械を組み合わせた、対戦車専用無人二足歩行ロボットだった。これまでにも何度も破壊工作に起用してきたのか、傷だらけであるのも見てわかった。
そんな巨人がこちらを追跡する姿に、リップルは、あの司令官が遠隔操作する二機目のロボットだと悟った。どれほど遠隔操作の技術を得てきたのか、その巨人の動きは機敏で、操作が巧みだった。見たこともない巨大な雷刀を振りまわし、周囲の物を破壊しては、こちらを標的として殺そうとしていた。
リップルは、もう一度別の階段へと飛び移ってから、近くの室外機に手のひらを向け、念力を展開し、その室外機を巨人へと吹き飛ばした。巨人は、両腕で顔を塞いだことによって、片手に備わっていた機関銃に室外機が衝突し、その機関銃が破損していた。
リップルは、幾度となく跳躍し、いくつかある階段を飛び移り、近くのビルの屋上へと身体を転がすように着地した。
「大丈夫?」ミアが言った。
「俺よりも、ミアでしょ」リップルは、外套をはたいて埃を落とした。
「私は大丈夫。回復がはやいから」ミアは、こちらのそばを浮遊してついてきた。
「俺も大丈夫。でも、あのデカい奴が厄介だ。反銀河連邦の技術だから、余計に手ごわいぞ」そう答え、屋上を走った。「平面のここなら、戦いやすいかな」
「惑星フィーシーにいたウォーカーと違うの?」ミアからさらに質問があった。
「違う。前のは、人が入って操縦するタイプ」リップルは、走りながら答えた。「今のタイプは、遠隔操作型の無人で、有人機より機敏に動ける」
予想どおり、あの巨人の追撃は続くこととなった。頭上を移動する物音が聞こえると、目の前に巨人が着地してきた。膨大な熱量を持つ脚力なのか、一度の跳躍だけで、食堂の裏口からこちらのいる屋上までやってきた。そして、目の前に着地し、見事にこちらの回避路を妨げる。
「賞金稼ぎめ」あの司令官の声が巨人から聞こえた。惑星フィーシーにいたロボットと同じ声である。「惑星フィーシーで、なぜ、俺達の邪魔をした?」
「しつこいぞ」リップルは立ち止まった。「他人に迷惑をかけることは、やめておけ」
「ふん、偽善者め」巨人は時折、巨大な雷刀を振りまわし、威圧を謀った。「人を騙して、金儲けか?」
「それは、お前だろ」リップルは反論した。「都合の良い個人解釈を、こっちに押しつけんなよ」
「そうよ!」ミアも腹を立てていた。「墜落したふりをして、私達の土地に勝手に基地をつくってさ!」
「自分の身を守ることはできるかな?」司令官が操る巨人は、太い雷刀を振りまわした。
リップルも雷刀を展開すると高く跳躍して、巨人の頭上を飛び越えて背後へまわった。そこで胴体を真横に切ろうとしたが、相手は大きいだけではなかった。すぐさま赤い雷刀が目の前を遮り、こちらの雷刀が弾かれてしまった。また、機械任せの素早い動きで、真上から雷刀が振り下ろされた。
とたんにミアの光壁妖術が展開し、巨人の雷刀を膜で覆い、振り下ろしたその速度を低下させてくれた。おかげで、リップルの防御は間に合い、相手の雷刀を受け止めることができた。
相手の予想以上の科学技術は、団体の規模の大きさを改めて実感した。これだけ大きな図体であれば、もう少し動きが鈍くても良いはずである。相手は、関節展開技術が優れている機械巨人だった。
巨人は、手首を回転させた。その回転を主とする剣術に切り替わり、的を絞らせない立ちまわりをしてきた。おかげで、こちらがうまく攻められない状態が続き、背後で攻撃を仕掛けるミアの妖術光線も弾かれてしまった。
力強い雷刀の大振りで、リップルは自身が切られないように雷刀で防ぐも、吹き飛ばされてしまった。
なんとか攻略できないか、と歯を食いしばり、もう一度攻めに転じた。
※※※
ブーチは、自身の船の操縦室に座り、水分補給をしていた。けれど、のんびりする気持ちはなく、静かな時間を過ごしていくうちに、サリーの死を受け入れ始めていた。
サリーとは、銀河連邦の連邦軍操縦士の試験で出会い、お互いに合格をしていた。けれど、ある程度の期間を過ごしたあと、サリーが退役をしてしまうのだ。
彼女は言っていた。毎日を違う過ごし方で生活がしたい、と。
当時のこちらは、サリーのその言葉に、まだ意味を理解していなかった。優秀成績で合格したこちらとサリーは、高給取りではあり、休暇が取れれば好きな買い物ができたのは間違いなかった。そのうえ、少し節約した生活を送ったならば、自家用機だって購入できるところまで昇格していたのだ。けれど、サリーは連邦軍の操縦士生活に納得していなかったのだ。
それとなく、サリーのあの言葉の意味を知ったのは、退役したあとのサリーの笑顔だった。彼女は、個人送迎事業を立ち上げ、銀河連邦の便利屋を務めていた。そしてある日、休暇をとっていたこちらを誘い、サリーと共に水上都市の惑星へと行き、海底に沈むリップルを回収。その後、リップルとの出会いをきっかけに、銀河連邦の人権を返上。賞金稼ぎの小団体を立ち上げて、リップルを相棒に活動を始めた。そんな彼女は、生き生きとしていた。安定した生活に刺激がなかったのか。それとも、連邦の憲章下での生活で生きがいを見つけられなかったのか。もしくは、賞金稼ぎをしていたほうが楽しく過ごせる自分を見つけられたのか。
連邦の人権を返納した者は、どこからも保証を得られず、自力で生活をしなくてはいけないのだ。そんな死と隣り合わせの毎日でも、サリーは楽しそうだった。
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ブーチは、かつて路地にいた絵師に依頼していた、こちらとサリーの似顔絵の一枚絵を手に取り、これまでの思い出を懐かしんだ。そして、リップルの笑顔が、こちらとサリーにとって、いかに大事かを実感していた。
※※※
リップルは、もう一度、巨人の背後にまわった。ミアが妖術光線で視線を逸らしてくれたと思い、背中を一刀両断しようと目論んだ。けれど、それはまだ軽率な判断だった。
巨人は、片手で雷刀を振りまわしてミアの光線を防ぎながら、もう片方の手でこちらの胸倉を掴んだのだ。その力は、こちらの力ではほどけないほどの強さだった。
リップルは、振りまわされながらも、雷刀を相手の手首に当てた。レーザーが上手く金属部分を溶かしてくれたものの、半分まで切ったところで、振り下ろされてしまった。機械巨人の力は異常で、こちらの身体は、屋上床にめり込んでしまった。さすがに、この力には全身に痛みを感じたが、すぐに穴から飛び出して戦線に復帰した。
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すると、外野から熱量弾の発射音が聞こえ、黄色の熱量弾が巨人の背中に命中した。
それを合図かのように、リップルとミアは、巨人から距離を置いて体勢を整えた。
「誰だ!」巨人は、部外者からの攻撃に納得がいかず、素早く周囲を見た。
リップルは、ブーチが拳銃を持って来てくれたのか、と予想したが、それは違った。
巨人と同じように辺りを見渡すと、こちらの上空で、論理原動機を意味する青白い光を放ちながら浮遊している機械人間、俗に言うロボットがいた。
「僕のことは観測できますか?」浮遊しているロボットは、機械音声で喋りながら、巨人を挑発しながら周囲を飛行した。
「誰だ?」巨人は視覚障害も発生したのか、ロボットをうまく見ることができていなかった。
「どうも」ロボットは旋回飛行をやめて、もう一度浮遊をすると、声をかけてきた。「さっきの青年ですね?」
リップルは、こちらを知っているロボットということで、あの雑貨屋にいたピッキングロボットを思い出した。あの不審な視線をこちらに差してきた倉庫のロボットである。
「ハッキングか」巨人は、ロボットが妨害行為をしていることを把握した。
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攻撃か防御か悩んだものの、すぐに攻撃に転ずるべきだ、と判断できた。それは、ミアによる光線と、ロボットによる熱量弾によって、巨人が怯んだからだ。半分まで切っていた右手首をすべて切断し、連続して、左右に伸びる雷刀のうちの片方も切断させ、このビルから右手首と雷刀部品を落下させた。続いて、ミアが光壁をつくって、巨人が反撃する雷刀の軌道を妨害してくれたおかげで、リップルの攻撃がさらに命中し、胴体にも切れ目を入れることができた。
一方で、飛行するロボットの片腕から強力な熱量弾が発射された。その熱量弾が巨人の胴体に命中したことにより、切れ目がさらに割けて、上半身と下半身がわかれるように破壊された。
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そこで、夜空がにぎやかになってきた。それは、赤い照明が目立つ戦闘機が低空飛行していることだった。それも、十数機。先程までの戦闘中に、巨人からの応援要請の発信が再開されたのか、こちらの位置を掴んだと思われた。こちらに向かってくるのは、反銀河連邦団の短距離型の小型戦闘機である。
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すると、戦闘機の一機が、急接近しながら熱量弾を連射してきた。
その攻撃に対し、ミアが球体光壁を展開し、熱量弾を弾いてくれた。
また、EG三号機と名乗るロボットは、腕を空に向けて銃口を開放すると、大口径熱量弾を発射した。たちまち、正面にしていた戦闘機の片翼に命中し、その戦闘機は回転しながら墜落していった。
「この惑星から出ますか? 同行させてくれたら、協力します」とロボット。
「採用だ!」リップルは笑顔で答えた。「俺はリップル。一緒に惑星マシスに行こう!」
「エギー!」ミアがひらめいたように言った。「ポンコツじゃなくて、エギーって名前!」
「エギー、ですね。承知いたしました。それじゃあ、まずはここから脱出しましょう!」エギーという名前になったロボットは、ガッツポーズを見せてくれた。
※※※
ブーチは、サリーとの思い出の一枚絵をシートポケットに収めた。リップルの帰りが遅くなっても、不安になることはないものの、退屈な時間が訪れようとしており、一人で買い物にでも出ようかと考えていた。足元にある引き出しに納めていたサリーの拳銃を手に取り、それを腰に備えた。そして、買い物へと向かうために、船の電源を落とそうとした。
そこで、無線機に着信が入り、リップルからの報告がようやく来た、と通信を繋げた。
「はい、なに?」ブーチはスイッチに指を当て、スピーカーに顔を近づけた。
「ごめん、急いでポイント一三三の四八、高度五〇〇に来て! 緊急ということで!」とリップルの声。
「え? どういうこと!」ブーチは、緊急無線にも慣れているため、慌てることなく、手際よく原動機を起動させながら運転席に乗った。「あんた、翼でも生やして飛んでるの?」
「北に向かってちょっとずつポイントがずれてるから、気をつけて。あと、格納庫ハッチは開放したままで合流」
「ここが連邦所属の惑星だったら、行政職員の怒りを買って、憲章違反になるよ!」ブーチは、停船所の燃料パイプが外れた合図の青信号になったことを確認して、すぐに船を浮上させ、船首を目標地点へと向けた。
「空で迷ったら、花火を目印にして!」そこでリップルからの通信は途絶えてしまった。
※※※
リップルは、ブーチとの通信をきった。そして、エギーの背中に乗って飛行していることに興奮していた。それは、誰かに追われてるような好奇心ある活動のほかに、新たな仲間が増えたことで、気分が高まっていた。
「うひょー、こんな不安定な乗り物があるなんてー!」ミアもリップルの襟にしがみつきながら、高所からの絶景に驚いていた。
ただ、油断してはならないのは、同じ高度で飛行する、反銀河連邦団の戦闘機の存在だった。無法地帯のこの惑星であるため、爆発性の高い熱量を積んだ飛行機を街の上空で飛ばしても、大半の浮浪者は文句を言わないのだ。おかげで、流れ弾を気にしない彼らの戦闘機からは、熱量弾の乱射が行われた。
「北方の海上を飛行して。落下物の発生で、下の人を巻き込む可能性がある」リップルはエギーに注意喚起した。
「了解しました。リップル殿」エギーは、北の方角へと上昇をしながら進んでくれた。
思いのほか高速で移動するため、ここでのミアの球体光壁の展開も役に立った。風圧による視認障害がなくなり、周囲を飛びまわる戦闘機を確認することができた。
そこで、一機の戦闘機が背後にくっつき、熱量弾を連射してきた。ある程度は球体光壁によって守られたものの、防御が間に合わずに貫通する熱量弾に関しては、リップルが雷刀で弾き返した。
また、前方に位置した戦闘機に至っては、エギーが光線を発射して見事に命中させ、海へと墜落させていた。
「ねえ、ねえ、リップル!」ミアが珍しく真剣な顔をした。「無事にこの惑星から出られたら、あの巨人の中身の司令官が言ってたこと、詳しく話してよね」
「……わかったよ」リップルは、敵の熱量弾を弾き返しながら返事をした。
きっと、あの反銀河連邦団の司令官が口にした、七人の軍人を殺した、という話が予想された。
「なんの話をしているのかわからないけれど、戦闘機より大きな船が接近してきますよ!」エギーが探知機による情報収集を行ったのか、船の接近報告をしてくれた。
「了解。その船が、後部の格納庫ハッチを開放させながら並走してくれるから、そのハッチに飛び込んで」と今の計画をエギーに伝えた。
※※※
空中で熱量弾の撃ち合いが展開されているのを見たのは、久しぶりだった。おかげで、リップルが、花火を目印にしろ、と言った意味を理解することもできた。
「いったい、なんなの?」ブーチは、反銀河連邦団の戦闘機に追われている、黒い物体を目の当たりにした。まだ接近をしていないため、その黒い物体がなんなのかはわからなかったが、その黒い物体を囲む黄色に光る球体光壁から、妖術を展開しているミアがいることは確信できた。
そして、ミアがいるということは、黒い飛行体にしがみついているのがリップルであるのは予想できた。熱量弾が飛び交うところへ突っ込むのは、好ましくない状況であるが、リップル達が危険な立場であるならば、助けに行く必要があった。依頼者として、また、友人として。
ブーチは、速度を上げて、前方にした戦闘機に体当たりをしながら、リップルのいる黒い物体へと接近を始めた。相手の戦闘機に体当たりをして破壊したことにより、ほかの戦闘機がこちらの船を敵視し始め、こちらにも攻撃を始めてきた。
今のこの船には、基礎光壁しかないため、ある程度の攻撃を受けてしまうと、光壁出力が追いつかず、それが高威力の熱量弾であるなら、直接的に攻撃を受けてしまうのである。よって、船体の一部が破損する音も聞こえ始めた。
そんな状況下で一つのスイッチを叩き、飛行中の異常を知らせる警告音を響かせながら、格納庫ハッチを緊急開放させた。そのハッチを開けることで減速も見られ、速度を維持するために、さらに推進力を上げた。
「リップル、来たよ! ハッチを開けた!」ブーチは、繋がりにくい通信に叫んだ。
黒い物体へと接近し、並走することができた。リップルがしがみついている物体をしっかりと見てみると、連邦の工業団地で時々見かけたことがある人型安物ロボットだということがわかった。また、かなり油汚れがついていたのか、それは黒い物体ではなく、薄い緑色の機体だった。その機体が、この船の格納庫ハッチのある後方へとまわった。
そこで、敵機の攻撃もさらに受けることとなり、複数ある計器のうちのいくつかが、赤枠を鋭い針で指し示していた。飛行中によるハッチ開放で、いくつかの機器に負荷もかかり、嫌な音が船内を響かせた。また、操縦席まで強風が入ってくると、廃棄物を燃やすような不快な臭いまで鼻を突いた。そして、船内の後部で大きな機械が倒れるような音がした。
「乗った! ハッチ閉めて!」リップルからの合図が、船内後方と通信機から同時に聞こえた。
ブーチは、スイッチをもう一度叩いてハッチを閉鎖した。
ブーチ達の乗る船は、敵機に追われながらも、惑星ゼリアから宇宙空間へと飛び去り、自慢の回避技術で、反銀河連邦団の短距離戦闘機から逃げきった。
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21歳で帝国軍事組織CTIQAに入隊した主人公は、すぐさまDeadNight(DN)という反乱組織との戦いに巻き込まれた。戦場で自身がDN支配地域の出身だと知り、衝撃を受けた。激しい戦闘の中で意識を失った主人公は、目覚めると2063年の未来世界にいた。
そこで主人公は、CTIQAが敗北し、新たな組織CREWが立ち上がったことを知る。DNはさらに強大化しており、CREWの隊長は主人公に協力を求めた。主人公は躊躇しながらも同意し、10年間新しい戦闘技術を学ぶ。
2073年、第21回DVC戦争が勃発。主人公は過去の経験と新しい技術を駆使して戦い、敵陣に単身で乗り込み、敵軍大将軍の代理者を倒した。この勝利により、両軍に退避命令が出された。主人公がCREW本部の総括官に呼び出され、主人公は自分の役割や、この終わりなき戦いの行方について考えを巡らせながら、総括官室へ向かう。それがはじまりだった。
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