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私たちと殿下たちの間にいつの間にか立っていたドミニク副船長に、ロイド隊長含めた騎士たちが警戒する。本当に、瞬きをしたらいつの間にか立っていたのだ。
ポリポリと頭を掻いている副船長の表情は、後ろにいる私には見えない。しかし、殿下が驚きに目を見開いた表情は見えた。ボソリと何かを呟いたようだが、小さすぎて聞こえなかった。
「うん。本当なら、仕方ないからね。見逃すつもりだったんだけど、流石にやり過ぎだから。"上"からお達しが来ちゃった」
「…言っている意味が、よく分からないな?一体なんの話を…」
「分からなくてもいいよ。おれの事情は、異物である君には関係ないからね。でも、残念だなぁ。出来ればこんなことしたくなかったんだけど」
そう言って副船長が、殿下へと手を翳す。途端、強い光が私たちの視界を刺す。眩しさし目を瞑り、光が収まって目を開けば殿下がその場に倒れていた。
誰もが唖然として動けない中、副船長だけがこちらを振り返って飄々と口を開く。
「アレクが忘れてくれって言うから、忘れさせたよ~。それが一番良さそうだったし、これ以上は本当に"処分"の命令が下っちゃうから。ピッタリの妥協案」
「…ぇ、つまり、どういうこと…?」
「ウィスカード殿下は、もう前のことを覚えてないってこと。勿論、君への執着も。あ、この世界で過ごした記憶はあるよ!ただ、ここ数年は何してたっけ?ってあやふやになってるかもだけど」
「ハッ!き、貴様!殿下に何をした!?」
あっけらかんと笑ってそう言う副船長に、正気に返ったロイド隊長が剣を抜いて構えた。それに怯むことなく、副船長は仕方がなさそうに微笑む。
その表情が見えて、何故か懐かしいと思った。
「気を失ってるだけだよ。早く連れて帰ったら?これ以上おれらは手出しをしないよ。ね?船長ー」
「あぁ。大人しく手を引くなら、な。言っとくが俺らにはそこに仲間がいるからな。数的にも、そっちの頭がぶっ倒れてることを考えても、引く方が賢明だとおもうが?」
「くっ…おい、お前たち。行くぞ!」
船長の言葉に、大人しく他の騎士を連れて離れていくロイド隊長。…やっぱり、ちょろいな。
何だか一気に静かになった気がする浜辺。船長以外は何も言うことが出来ず、ただ副船長を見ていた。一体彼が何をしたのか、全く状況に理解が追い付かないのだ。
そこにふわりと風が吹いた。横を見れば、人型のイーヴォが姿を現していた。その表情はどこか呆れ気味で、困惑する私たちに構わず副船長へと近づく。
「いいのか?あの王子をあのまま返して」
「記憶を消したから大丈夫じゃないかな。連れてこい、なんて命令は来てないよ」
「あっそう」
「ところで、君の休暇はいつ終わるの?おれにばっか仕事が回ってくるから、早く帰ってきて欲しいんだけど」
「お前はどうせこっちウロウロしてるだけだろうが。つーか、オレはもう帰りたくても帰れねぇんだけど」
「え?あれ、ホントだ。ふざけてるだけかと思ってた。じゃあ次のロードってもしかしておれ?めんどくさい」
「お前がふざけんな。ちゃんと確認しろバカ」
ポンポンと二人だけで進む会話。特に私は意味が分からなくて、船長を助けを求めるように見上げる。それに気づいた船長が、ため息とともに二人の会話にストップをかけた。
「おい、話は取り敢えず船の上でやれ。さっさと離れるぞ。食料は?」
「はーい。皆が買ってるはずだよ」
「そうか。おらテメェら!海に帰るぞ!」
「「「アイサー…?」」」
「む、もしや私はこのままなんですか?」
「船乗ったらほどいてやるよ」
パンパンと船長が手を叩いた音で、遅れて正気に戻った三人と陛下。船に近づけば、見張りが気づいてくれたのか既に橋がかけられていた。
二週間程だが、久しぶりに戻ってきた船に安堵する。他のクルーたちが、大喜びで私を迎え入れてくれる。
帰ってきた、という感じがしてじんわりと嬉しさが込み上げてくる。
人型のイーヴォには皆驚かなかったところを見るに、既に正体は明かしていたのだろう。もしかしたら、ストルさんとのゴタゴタの時に既に明かしていたのかもしれないが。
潮の匂いと、波に揺れる甲板。二年、いや、もう少しで三年になるが、既にこの船が第二の故郷のようなものになっている。
忘れ物はないかと確認して、問題ないと船が出航する。離れていく陸を眺めながら、殿下の前世の記憶を消したと言った副船長の言葉を思い出す。
本当に忘れたのなら、少し寂しいとは感じるがそれで良かったのだろうと思う。美緒との思い出は、私が覚えているから。それでいい。
記憶という枷がなくなり、これから彼が幸せになることを願って。
宴だなんだと騒ぎ始める皆に笑って、私は陸へ背を向けた。気になることは沢山あるが、一先ず帰ってきたことを喜ぶべく騒ぎへと飛び込む。
そしてその後、ストルさんの料理が滅茶苦茶美味しいことに驚くのだった。力も体力もある家庭的なイケメンとか、レックのお兄さんモテ要素多すぎない??
ポリポリと頭を掻いている副船長の表情は、後ろにいる私には見えない。しかし、殿下が驚きに目を見開いた表情は見えた。ボソリと何かを呟いたようだが、小さすぎて聞こえなかった。
「うん。本当なら、仕方ないからね。見逃すつもりだったんだけど、流石にやり過ぎだから。"上"からお達しが来ちゃった」
「…言っている意味が、よく分からないな?一体なんの話を…」
「分からなくてもいいよ。おれの事情は、異物である君には関係ないからね。でも、残念だなぁ。出来ればこんなことしたくなかったんだけど」
そう言って副船長が、殿下へと手を翳す。途端、強い光が私たちの視界を刺す。眩しさし目を瞑り、光が収まって目を開けば殿下がその場に倒れていた。
誰もが唖然として動けない中、副船長だけがこちらを振り返って飄々と口を開く。
「アレクが忘れてくれって言うから、忘れさせたよ~。それが一番良さそうだったし、これ以上は本当に"処分"の命令が下っちゃうから。ピッタリの妥協案」
「…ぇ、つまり、どういうこと…?」
「ウィスカード殿下は、もう前のことを覚えてないってこと。勿論、君への執着も。あ、この世界で過ごした記憶はあるよ!ただ、ここ数年は何してたっけ?ってあやふやになってるかもだけど」
「ハッ!き、貴様!殿下に何をした!?」
あっけらかんと笑ってそう言う副船長に、正気に返ったロイド隊長が剣を抜いて構えた。それに怯むことなく、副船長は仕方がなさそうに微笑む。
その表情が見えて、何故か懐かしいと思った。
「気を失ってるだけだよ。早く連れて帰ったら?これ以上おれらは手出しをしないよ。ね?船長ー」
「あぁ。大人しく手を引くなら、な。言っとくが俺らにはそこに仲間がいるからな。数的にも、そっちの頭がぶっ倒れてることを考えても、引く方が賢明だとおもうが?」
「くっ…おい、お前たち。行くぞ!」
船長の言葉に、大人しく他の騎士を連れて離れていくロイド隊長。…やっぱり、ちょろいな。
何だか一気に静かになった気がする浜辺。船長以外は何も言うことが出来ず、ただ副船長を見ていた。一体彼が何をしたのか、全く状況に理解が追い付かないのだ。
そこにふわりと風が吹いた。横を見れば、人型のイーヴォが姿を現していた。その表情はどこか呆れ気味で、困惑する私たちに構わず副船長へと近づく。
「いいのか?あの王子をあのまま返して」
「記憶を消したから大丈夫じゃないかな。連れてこい、なんて命令は来てないよ」
「あっそう」
「ところで、君の休暇はいつ終わるの?おれにばっか仕事が回ってくるから、早く帰ってきて欲しいんだけど」
「お前はどうせこっちウロウロしてるだけだろうが。つーか、オレはもう帰りたくても帰れねぇんだけど」
「え?あれ、ホントだ。ふざけてるだけかと思ってた。じゃあ次のロードってもしかしておれ?めんどくさい」
「お前がふざけんな。ちゃんと確認しろバカ」
ポンポンと二人だけで進む会話。特に私は意味が分からなくて、船長を助けを求めるように見上げる。それに気づいた船長が、ため息とともに二人の会話にストップをかけた。
「おい、話は取り敢えず船の上でやれ。さっさと離れるぞ。食料は?」
「はーい。皆が買ってるはずだよ」
「そうか。おらテメェら!海に帰るぞ!」
「「「アイサー…?」」」
「む、もしや私はこのままなんですか?」
「船乗ったらほどいてやるよ」
パンパンと船長が手を叩いた音で、遅れて正気に戻った三人と陛下。船に近づけば、見張りが気づいてくれたのか既に橋がかけられていた。
二週間程だが、久しぶりに戻ってきた船に安堵する。他のクルーたちが、大喜びで私を迎え入れてくれる。
帰ってきた、という感じがしてじんわりと嬉しさが込み上げてくる。
人型のイーヴォには皆驚かなかったところを見るに、既に正体は明かしていたのだろう。もしかしたら、ストルさんとのゴタゴタの時に既に明かしていたのかもしれないが。
潮の匂いと、波に揺れる甲板。二年、いや、もう少しで三年になるが、既にこの船が第二の故郷のようなものになっている。
忘れ物はないかと確認して、問題ないと船が出航する。離れていく陸を眺めながら、殿下の前世の記憶を消したと言った副船長の言葉を思い出す。
本当に忘れたのなら、少し寂しいとは感じるがそれで良かったのだろうと思う。美緒との思い出は、私が覚えているから。それでいい。
記憶という枷がなくなり、これから彼が幸せになることを願って。
宴だなんだと騒ぎ始める皆に笑って、私は陸へ背を向けた。気になることは沢山あるが、一先ず帰ってきたことを喜ぶべく騒ぎへと飛び込む。
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