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ドンドンと叩かれるドアの音をBGMに、部屋に用意していたらしいいつもの服に着替えた三人。朱色のターバンはそのままの船長が、何処からかロープを取り出した。
そしてそのロープで、リグニス陛下をぐるぐる巻きにする。一応加減はしているようだが、先程からかわれた恨みか少しきつく縛っているようだ。
「ちょっと、痛いんですが?」
「ちゃんと縛っとかねぇと人質になんねぇだろ?ほら、俺とお前って見た目似てるし、余計な詮索されねぇようにさ」
「別に、上の貴族になればなるほど貴方の存在は察せられてるんですから余計な気遣いたたたたたた」
「おーっと、悪ぃなぁ?つい力が入っちまったぁ」
ギリギリと締められるロープに、陛下が声を上げる。ドミニク副船長に止められて、ようやく終わる。
と言うか、何してるんだろうこの人たち。
マルズに聞けば、今回のことで流石にリグニス陛下悪評がつくからそのカモフラージュで今から人質にするらしい。そもそも私は、船長と陛下の関係が物凄く気になるのだが。
しかしドアの外からは怒声が聞こえてくる。今は聞いてる暇ないだろうと、おとなしく脱出に集中することにした。
…簀巻き姿のリグニス陛下が気になるとか、言ってられない。
「どうやって逃げる予定なんですか?」
「今、スーフェが城内でルートを作ってる筈だ。エストラントの服を着ている奴が疑われて捕まっている可能性はあるが…彼奴なら騒ぎが始まる前に別の服に着替えてるだろ」
「あぁ、来てるらしいのにいないと思ったら…」
「取り合えず、ここ三階だから窓から逃げるよ。梯子ならあるし」
「窓から!?」
「このまま出てってもすぐ捕まるに決まってんだろ」
簀巻きの陛下を肩に担いだ船長が、部屋についているテラスのガラスドアを開ける。
マルズの言う通り、ここは三階である。勿論下にはクッションになるようなものはないし、登ることも降りることもできない。窓の外にはまだ騎士は来ていないし、ドアから出るよりマシかも知れないが…
「梯子があっても、流石に三階分の長さはありませんよね?どうやって降りるんですか?」
「は?降りるわけねぇだろ」
「えっ」
「アレクは船長の次ね。落ちそうになっても、下にはおれらがいるし、上に船長がいれば安心でしょ」
「まさかの上!?」
梯子を登って屋根に上がる船長。陛下を抱えたまま登るとか器用だな。
押されておずおずと登る。意外と梯子って怖いんだなぁと思うが、下で副隊長たちが支えてくれているし、上には船長がいる。手が届く範囲だったら、私が足を滑らせても掴んでくれるだろう。
その安心があったからか、無事私も屋根に上がることができた。他の三人も上がって来て、最後にストルさんが梯子を回収し抱える。
重くないのかと思ったが、角材より軽いと言われた。流石、元造船所勤め。力仕事は得意なのだろう。
流石に屋根に騎士が待機している訳がなく、正門の反対側まで難なく近づけた私たち。船上で鍛えた体幹って凄い。多少バランスを取るのに苦労したが、スムーズに屋根の上を移動できた。
とある部屋の上まで来れば、窓から誰かが顔を出して上を見ていた。髪を後ろに撫で付け、使用人の服を着ているのは船医のスーフェさんだった。
そこはテラスがないため先に陛下を中へ入れ、船長が屋根の縁を掴んでひょいっと軽く飛び込む。そのあと窓の縁に足と手をかけて、私を手招きする。
まさかと思ったが、どうやら船長が引っ張ってくれるらしい。滅茶苦茶に怖いが、しかしここで躊躇し騎士が来たら本末転倒だ。
覚悟を決め、船長に手を伸ばす。腕を掴まれれば一瞬浮遊感がしたものの、すぐに船長の胸に抱き込まれていた。
ぎゃあ~~~~~~!!!
三回目ではあるが、さっきまでは後ろからだったと言うか、肩だけと言うか、もうちょっと軽い接触だったと言うか、いやもう、ああ~~~!
こうなることを予想出来なかった私が悪いと、どうにか心を落ち着かせる。あ、服がいつものだからか潮の匂いが強くなった。船長の匂いもす…………私は変態か。
船長から離れ、ブンブンと頭を振って切り替えようとする。なんと言うか、恋心を自覚したからちょっとしたスキンシップでも照れそうなのに、何かサービスが過剰じゃない?
今日だけで三回も船長と密着するとか、ご褒美なのか何かの試練なのか。うんうんと考えていれば、何やら生暖かい視線を感じた。
そちらを見れば、スーフェさんが何かを察したように微笑んで私を見ていた。ちらりと船長を見てから、もう一度私を見る。そして、そっとサムズアップをかました。
勘のいい大人は嫌いだよ!!!
部屋から出て近くの階段を降りる。私たちが最初に入った部屋の反対側だからか、あまり人はいなかった。
スーフェさんはどうやらリグニス陛下の付き人の一人として潜入したあと、使用人の服を盗…お借りして成り済ましていたらしい。
そしで逃げ道に最適なルートを探し、使用人たちと他の貴族に避難だと遠くのルートを示し人払いもしていたようだ。
バッチリ裏工作してもらっていたおかげで、殆ど人がいない廊下を走る。それでも担当箇所に待機している騎士なんかはいるわけで。
そんな彼らはストルさんが持つ梯子に凪ぎ払われていった。何で回収したんだろうと思ってたけど、それ武器なの??
王城の廊下だから広いため、長い梯子でもある程度使えるようだ。リーチが長いからか、こちらに辿り着く前に思い切り梯子で殴られ、勢いで壁にぶつかり気絶する騎士たち。
的確に頭を狙っていますが、もしやストルさん慣れてる?角材とか振り回したりしてないよね?
城の裏から脱出する頃には折れて短くなった梯子を見て、私は何だか申し訳なくなった。梯子よ、ごめんね…
満身創痍の梯子を投げ捨て、私たちは港へと向かった。私が、船長たちと出会ったあの港へと。
そしてそのロープで、リグニス陛下をぐるぐる巻きにする。一応加減はしているようだが、先程からかわれた恨みか少しきつく縛っているようだ。
「ちょっと、痛いんですが?」
「ちゃんと縛っとかねぇと人質になんねぇだろ?ほら、俺とお前って見た目似てるし、余計な詮索されねぇようにさ」
「別に、上の貴族になればなるほど貴方の存在は察せられてるんですから余計な気遣いたたたたたた」
「おーっと、悪ぃなぁ?つい力が入っちまったぁ」
ギリギリと締められるロープに、陛下が声を上げる。ドミニク副船長に止められて、ようやく終わる。
と言うか、何してるんだろうこの人たち。
マルズに聞けば、今回のことで流石にリグニス陛下悪評がつくからそのカモフラージュで今から人質にするらしい。そもそも私は、船長と陛下の関係が物凄く気になるのだが。
しかしドアの外からは怒声が聞こえてくる。今は聞いてる暇ないだろうと、おとなしく脱出に集中することにした。
…簀巻き姿のリグニス陛下が気になるとか、言ってられない。
「どうやって逃げる予定なんですか?」
「今、スーフェが城内でルートを作ってる筈だ。エストラントの服を着ている奴が疑われて捕まっている可能性はあるが…彼奴なら騒ぎが始まる前に別の服に着替えてるだろ」
「あぁ、来てるらしいのにいないと思ったら…」
「取り合えず、ここ三階だから窓から逃げるよ。梯子ならあるし」
「窓から!?」
「このまま出てってもすぐ捕まるに決まってんだろ」
簀巻きの陛下を肩に担いだ船長が、部屋についているテラスのガラスドアを開ける。
マルズの言う通り、ここは三階である。勿論下にはクッションになるようなものはないし、登ることも降りることもできない。窓の外にはまだ騎士は来ていないし、ドアから出るよりマシかも知れないが…
「梯子があっても、流石に三階分の長さはありませんよね?どうやって降りるんですか?」
「は?降りるわけねぇだろ」
「えっ」
「アレクは船長の次ね。落ちそうになっても、下にはおれらがいるし、上に船長がいれば安心でしょ」
「まさかの上!?」
梯子を登って屋根に上がる船長。陛下を抱えたまま登るとか器用だな。
押されておずおずと登る。意外と梯子って怖いんだなぁと思うが、下で副隊長たちが支えてくれているし、上には船長がいる。手が届く範囲だったら、私が足を滑らせても掴んでくれるだろう。
その安心があったからか、無事私も屋根に上がることができた。他の三人も上がって来て、最後にストルさんが梯子を回収し抱える。
重くないのかと思ったが、角材より軽いと言われた。流石、元造船所勤め。力仕事は得意なのだろう。
流石に屋根に騎士が待機している訳がなく、正門の反対側まで難なく近づけた私たち。船上で鍛えた体幹って凄い。多少バランスを取るのに苦労したが、スムーズに屋根の上を移動できた。
とある部屋の上まで来れば、窓から誰かが顔を出して上を見ていた。髪を後ろに撫で付け、使用人の服を着ているのは船医のスーフェさんだった。
そこはテラスがないため先に陛下を中へ入れ、船長が屋根の縁を掴んでひょいっと軽く飛び込む。そのあと窓の縁に足と手をかけて、私を手招きする。
まさかと思ったが、どうやら船長が引っ張ってくれるらしい。滅茶苦茶に怖いが、しかしここで躊躇し騎士が来たら本末転倒だ。
覚悟を決め、船長に手を伸ばす。腕を掴まれれば一瞬浮遊感がしたものの、すぐに船長の胸に抱き込まれていた。
ぎゃあ~~~~~~!!!
三回目ではあるが、さっきまでは後ろからだったと言うか、肩だけと言うか、もうちょっと軽い接触だったと言うか、いやもう、ああ~~~!
こうなることを予想出来なかった私が悪いと、どうにか心を落ち着かせる。あ、服がいつものだからか潮の匂いが強くなった。船長の匂いもす…………私は変態か。
船長から離れ、ブンブンと頭を振って切り替えようとする。なんと言うか、恋心を自覚したからちょっとしたスキンシップでも照れそうなのに、何かサービスが過剰じゃない?
今日だけで三回も船長と密着するとか、ご褒美なのか何かの試練なのか。うんうんと考えていれば、何やら生暖かい視線を感じた。
そちらを見れば、スーフェさんが何かを察したように微笑んで私を見ていた。ちらりと船長を見てから、もう一度私を見る。そして、そっとサムズアップをかました。
勘のいい大人は嫌いだよ!!!
部屋から出て近くの階段を降りる。私たちが最初に入った部屋の反対側だからか、あまり人はいなかった。
スーフェさんはどうやらリグニス陛下の付き人の一人として潜入したあと、使用人の服を盗…お借りして成り済ましていたらしい。
そしで逃げ道に最適なルートを探し、使用人たちと他の貴族に避難だと遠くのルートを示し人払いもしていたようだ。
バッチリ裏工作してもらっていたおかげで、殆ど人がいない廊下を走る。それでも担当箇所に待機している騎士なんかはいるわけで。
そんな彼らはストルさんが持つ梯子に凪ぎ払われていった。何で回収したんだろうと思ってたけど、それ武器なの??
王城の廊下だから広いため、長い梯子でもある程度使えるようだ。リーチが長いからか、こちらに辿り着く前に思い切り梯子で殴られ、勢いで壁にぶつかり気絶する騎士たち。
的確に頭を狙っていますが、もしやストルさん慣れてる?角材とか振り回したりしてないよね?
城の裏から脱出する頃には折れて短くなった梯子を見て、私は何だか申し訳なくなった。梯子よ、ごめんね…
満身創痍の梯子を投げ捨て、私たちは港へと向かった。私が、船長たちと出会ったあの港へと。
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