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 船長に向かって、もう大丈夫だという意味を込めて頷く。それに頷き返した船長と共に、薄く笑いながらこちらを眺めていた殿下へと歩く。
 ざわりと周りがどよめく。一応、パーティーの主旨としては私の快気祝いのために集まってくれた彼らに、全く状況が理解できないことになってしまい少し申し訳ない。
 一定の距離を空けて、殿下の前に立ち止まる。随分と暗い色になってしまった紫の瞳が、私を見据えて目を細める。

「守りの精霊石、か。そこの彼が用意したものかな?効いてなさそうだし、おかしいとは思っていたんだ」
「分かってる上で使ってたのか?」
「精霊石にもレベルがあるからね。私の持ってるものの方が強ければ、いずれこちらが勝つ。ま、どうやらそちらの方が強かったようだけど」

 そう言いながら、殿下が耳につけていたピアスを取る。それに填まっている石が、どうやら彼の使っていた精霊石のようだ。
 そっとネックレスを握る。これが、船長があれから守ってくれていたのだ。側におらずとも守ってくれるとは、船長はやっぱり少し過保護だ。おかげでどんどん好きになっていく。
 とかなんとか考えていたら、殿下が外したピアスを砕いた。その行動に驚いていれば、小声で船長が教えてくれた。
 洗脳系の精霊石というのは、その存在は一般的には知られていない。それは犯罪を減らすための措置だという。王族なんかは護身用として所持を許されているが、石を許可なく所持しているのも、護身以外のことに使用するのも犯罪なのだと。
 今石を壊したのは、つまり証拠隠滅と言うことだ。石が砕けてしまえば、それが果たして精霊石だったのか、ただの宝石かは分からなくなる。
 いくら私が洗脳されかけてました!と言っても、証拠品がなければ権力を使わずともなかったことにできる。なるほど、流石にやるな。

「しかし、いくらエストラントの国王だとしても、人の婚約者と三曲も連続で続けて踊るなど失礼ではありませんか?もしや、人の婚約者を横から奪おうなどと考えている訳では…ございませんよね?」

 周りに聞こえる程度の声量で、殿下がそう言った。どうやら船長の立場を悪くさせ、私を取り返そうという判断らしい。周りがヒソヒソと会話をする。
 殿下も船長がエストラント国王本人ではないことは分かってるだろう。だからこそ、正体を明かさせる為にわざわざ聞こえるよう言ったのだ。
 なんとも性格が悪いと言うか、前世から考えてもそこまでするなんて思わなかった私は、どうするのだと船長を見上げる。
 不適に笑った船長に何か策があるのかと安心するが、次に放たれた言葉に耳を疑った。

「そうだと言ったら、どうする?」
「え!?」
「は?」

 予想外の返しに、私も殿下も固まる。船長も周りに聞こえるように返したため、ざわめきが一際大きくなった。

「あの、船長?間違ってはないかも知れないけど、今の返しは余計な誤解を生む気が…」
「あってっからいいだろ。それになぁ、ウィスカード殿下よ。残念ながら、お国同士の関係性での脅しは俺には通じねぇぜ」
「…それは、何故かな?」

 こそこそとする私とは反対に、全く会話を隠す気がなく喋る船長。イーヴォは何をしているのだろうか。
 怪訝そうにする殿下に向かって、私の肩を抱き寄せて船長が言いはなった。

「我ら夜波の海賊団!!拐われた仲間クルーを助けに来た!!」

 その声と同時、エストラントの服を着た人物が三人、私たちを守るように側に立った。聞かなくてもわかる。先程船長が言っていた、一緒に来たという三人だろう。
 殿下の近衛騎士が慌てて武器を構えるが、それはこちらも同じだった。各々武器を構える中、ドミニク副船長が私の剣を差し出してきた。

「ほら船長ー。いつまでもくっついてないで、あんたも準備してください?ほらアレク、これ君の武器」
「ん?あぁ。悪い」
「い、いえ…ダイジョブです…副船長、ありがとう!」

 ドミニク副船長に言われて、ようやく私は船長に密着していたことに気づく。パッと離されたのが少し残念だが、熱い顔を誤魔化すように剣を受け取った。
 余裕は無さそうなので、受け取った剣でドレスを裂く。周りの皆にギョッとされたが、中に別の服を着ていると分かりほっとしていた。
 ただし、船長には軽く頭を叩かれたが。だって、ドレス動きにくいんだもん。

「助けに来た、ね…どうやら僕の方が悪役みたいじゃないか。姫役がそっちに居るなら、さながら僕は猫王と言うわけか」
「は?猫?」
「殿下!殿下ー!ジ◯リで例えても誰も分かりませんよ!と言うか、私がハルで船長がバロン役なんですか!?」
「ピッタリじゃない?一人多いけど、お供も居るし」
「……じゃあ、ロイド隊長はあの参謀っぽい猫…?」
「いや、どちらかと言うとあの下っ端っぼい方じゃない?」
「確かに!」
「なぁ、気ぃ抜けるから余計な話止めてもらっていいか?」
「はーい」
「あはは。仕切り直そうか」
「………もういい」

 思わず始まる茶番に、船長が深いため息をついた。
 いや、確かに雰囲気ぶち壊した自覚はある。うん。なんかごめんなさい。











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