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本編

28、昔は誰でもヤンチャだった

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 あの日から、早二週間。季節は秋になっている。召喚されたのが春の終わりごろだったので、四ヶ月はたったな。
 まぁ、この国は少々気温が変わりにくいとのことで、正直春も夏も変わんなかったように思える。変化といえば、最近少し肌寒くなったぐらいか?
 余談だが、この世界の一週間は元の世界と一緒である。魔法の属性で分けられており、月~日の順番で火水土風闇光聖となる。一月は30日で、春夏秋冬に三ヶ月ずつ。春の一月ひとつき二月ふたつき 三月みつきと数えるらしい。
 日本で当てはめると、春の一月は三月で、夏の一月は六月と言ったところだろうか。

 まぁ、それは置いといて。今は秋の一月。あれから二週間が経った訳だが、今ここにみゃーのはいない。
 つい先日、ようやく「勇者御一行」の仲間の怪我が治り、新しい魔導師を仲間に入れて旅立ったところである。ちなみにあの女魔導師は、他にも色々問題を起こしていたらしく、処刑されてしまった。
 なんでも、他の魔導師にも嫌がらせをして勇者の仲間になったとか。しかも、裏でヤバいこともしていたというので、妥当な判断なのだろう。
 みゃーのも変なのに好かれるもんだよなぁ…

 この二週間のうちの4/5をみゃーのにくっつかれて過ごした俺にとっては、ようやくのびのびと出来る気がして少し楽だ。あんな神経質になってるみゃーの、久しぶりに見た気がする。
 勇者御一行が魔王討伐に向かったので、あの日大変だったと言うみゃーのについて、赤目さんとルーファスさんに聞いてみた。
 そして、泣いて取り乱していたみゃーのの姿を聞かされてしまった。現在、俺の中には後悔の念がずっと渦巻いている。
 やっちまった。今までそんなこと無かったから気づかなかったが、昔は多少無茶をしてもあれがいた。だからみゃーのがパニックを起こす事もなかったのだろうが、今ここには俺しかいない。
 昔から離れるのを嫌がってはいたが、ここまでとは思わなかった。確かに、一度「二人が居なくなったら、僕死んじゃうから。早く帰ってきてね」とか言ってたけど、あれ本気だったの。マジか。

 今は騎士団訓練場の隅の木陰で休憩中なのだが、正直休憩どころじゃなかった。幼馴染みである彼の将来がとても心配だ。え、生きていける?彼奴、今後一人で生きていける?
 座り込んで唸っていれば、いつの間にか赤目さんが近くまで来ていた。いつの間に。

「どうした?やはり、まだ体調が…」
「大丈夫。そっちじゃなくて、みゃーののこと考えてた。俺がいつまでも面倒見れる訳じゃないからさ」
「あぁ…そう言えば、彼奴はお前が前に話していた奴の弟なんだよな?」
「うん、そうだよ」
「今更だが、平気なのか?」

 それはつまり、あれを思い出して辛くないのか?ってことかな?正直、辛いとかはない。なんか鍵がかかってるように、あれの記憶はあまり出てこない。いい思い出として処理されているものはたまに出てくるが。
 平気だと言えば、そうかと返ってきた。俺の隣に赤目さんも座ろうとするので、少しずれて木陰に入れてあげる。秋と言っても、昼過ぎは日が強いからな。

「…ずっと気になっていたんだ。勇者が言う兄と、お前が言うあれとやらが本当に同一人物なのか。勇者にとって、兄が随分と大事な存在らしいというのは見て分かるからな」
「同一人物ですよ。まぁ、俺が赤目さんに話したのは二年前のあの時のことだけだから……あれは、俺にとってもいい兄貴だったんだよ。仏頂面で、口悪くて、しょっちゅう喧嘩を売っては俺に押し付けてきたけど…」
「それは果たしていい兄なのか?」
「面倒見はいい方だったよ。俺やみゃーのが怪我すると、怒りながら手当てしてくれるんだけど…文句がウザくて、毎回俺と彼奴で喧嘩して怪我増やしてたな。いやー、あの頃は若かった」
「今も若いだろう、お前」

 気分的な問題よ、赤目さん。昔の記憶を少しずつ思い出すたび、黒歴史が掘り起こされて辛いが、よくよく考えれば幼馴染み自体が俺の黒歴史のようなものなので、気にしないでおく。
 だって、そう思ったら俺の過去全部黒歴史の塊になる。なんか悲しいから考えるのやめよう。
 遠い目をしていたのか、赤目さんが訝しんで俺の顔を覗く気配がした。

「…どうした?」
「ナンデモナイヨ……まぁ、あれでしょ?みゃーのが兄を慕ってるのが、俺の話を聞いた赤目さん的にはよく分かんないってことだよな?」
「そうだな。そう言うことだ」
「昔色々あったっつーのもあるけど、みゃーのにとってはあれが唯一の家族だから、かな。彼奴しか居なかったんだ。今は俺も家族入りしてるらしいけど…」

 昔の話は長いのでしないが、簡潔に言えば俺が彼奴ら兄弟に出会った時には、既に彼奴らの家族はお互いだけだった。
 そこを俺が拾った感じで仲間入りしたんだが…今思うと拾ったってなんだ。いや、二人だけで公園に居たもんだから、捨て犬感覚で拾って飯を与えたんだ。
 そんで、しばらく家に泊めてたらお隣の家の子供ってことを知った。でも、隣はしばらく誰も帰ってきてないし、鍵も閉まっていて入れなかった。
 まぁ、窓壊して侵入したんだけど。親にめっちゃ怒られたけど。
 通帳も何もかも全部残っていたのに、彼奴らの親は帰ってこなかった。飯は家で食わせていたが、家賃とかもある。通帳にはかなり金額が残っていたし、家にあった連絡先から親戚にも連絡が取れた。
 ただ、何がどうなったのかは知らないが、彼奴らはまだ幼いのに二人きりであの家で暮らすことになった。
 たまに親戚の人が顔を出していたが、誰かが一緒に住むこともなく、子供がたった二人きり。

 俺はあの二人を拾ったということもあり、初めは主人的な感覚で二人と遊んでいた。そのうちに、あれが長男、俺が次男、みゃーのが三男で兄弟のように遊ぶようになり、小学の年長に上がる頃には三兄弟として扱われていた。
 そんなこんなで、十年近く一緒に成長していった俺たちだが、いつの間にかみゃーのは俺たち二人だけに依存していくようになってしまった。可愛い弟が懐いているだけだと思っていたが、一人になるのを異常なほど嫌がっていた。
 まぁ、女子には悪いイメージしかないし、彼奴らの周りの大人もろくなの居なかったしな。兄二人─一応俺は女だから姉かもしれない─に依存するのも仕方ないっちゃないか。

 会話をやめて、少しだけ物思いに更ける。涼しい風が上の木葉を揺らすおかげで、地面の光がチラチラと動く。

 最近、昔のことを思い出すたびに思うことがある。多分みゃーのも思っていることだし、きっと彼奴は気づいているんだろう。
 あの時の恐怖が消えた訳じゃない。あの時の絶望が消えた訳でもない。あの時感じたことは、思い出そうとすれば鮮明に思い出せる。それでも、もうあれほど怖く感じないのは、やっぱり誰かに話したからだろうか。
 赤目さんに、話したからだろうか。

「…なぁ、赤目さん」
「なんだ」

 死にかけたらしいと聞いて、一つだけ後悔したことがある。


「俺がさ、もしも帰りたいって言ったら、赤目さんどう思う?」


 隣で息を飲む音が聞こえた。





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