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~王位継承権~

兄と弟

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「随分と楽しそうだな」
「─…!?」

その声に振り向くと、わたくしのすぐ後ろにサイラス殿下が立っていた。

「で、殿下…!」
「兄上…!?」

クラウス王子とわたくしは、ほぼ同時に声を上げる。声を掛けられるまで全く気が付かなかった。

「で、殿下、なぜここに…?」
「部下がここにいる貴女達を見かけて伝えに来た」

それはサイラス殿下を避けていたわたくしの居場所を、部下の方が突き止めて報告されたということだろうか。

今の時間は執務室で公務の最中だったはずだ。それを中断して、こんな所までご足労いただいただなんて…

「クラウス。なぜこんなところでロザリアと茶を?」

サイラス殿下が先に声を掛けたのは、クラウス王子に対する言葉だった。いつもより声のトーンが厳しい。ピリッとした空気に目の前のクラウス王子が小さく怯む。

その表情を見て心の中で謝る。怒りの矛先は恐らくわたくしなのに、とばっちりで大好きなサイラス殿下にこんな態度を取られるなんて、本当に申し訳ない。

義姉あね上とお茶をするのに、兄上の許可がいるんだ? 随分と心が狭いんじゃない?」

あぁ、クラウス王子の憎まれ口が。こんな時にツンデレを発動しなくてもいいのに。

「心の広い狭いの話ではない。王族として人目につく場所での行動には気をつけろという話だ」
「人目のない場所で僕と義姉あね上が二人きりになる方が問題だと思うけど?」

…もう。ああ言えばこう言う。もう少しサイラス殿下を慕う素振りを見せればいいのに。随分と拗らせている。

「まったく。わかっている癖に、どうしてお前はいつもそうなんだ…」

その口ぶりから、クラウス王子はいつもこんな感じなのだということが伺える。この様子だと彼の本音はサイラス殿下には伝わっていないのかもしれない。

「ロザリア」
「は、はい…っ!」

急に名を呼ばれ、ドキッとする。そうね、次はわたくしの番。恐る恐るサイラス殿下を見ると、エスコートの手を差し出された。

「あ、あの…?」
「部屋に戻ろう」
「は、はい…!」

大人しく自分の手を添え、椅子から立ち上がる。そうか。ここにはクラウス王子がいる。他にもいつ誰が通るかわからないし、こんな場所ではサイラス殿下もわたくしの閨の粗相を咎められないのだろう。

サイラス殿下に手を引かれ、庭園を後にする。大きい手が少し痛いぐらいにしっかりと握られている。これではもう逃げられない。もちろん、こうなってしまっては、もはや逃げるつもりもないけれど。
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