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秋
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11月も半ばになり、肌寒くなってきた今日このごろ。夏休み明けからやたらと噂になっていた私と及川くんの話題も、少し落ち着きを見せていた。
「いやぁ、平和だねぇ、楓音ちゃん」
昼休みのポカポカな窓際で気持ち良さそうな顔をして、及川くんがまどろんでいる。
「平和だねぇじゃなくて。進路希望、もう出した?」
「相変わらず真面目だねぇ、楓音ちゃんは。俺らまだ2年じゃん。何、行きたい大学でもあんの?」
「まだ、考え中だけど…」
「まぁ、どこでも行けるでしょ。楓音ちゃんなら」
なんだろう、この余裕。学年一位だからかしら。(ただ、学年二位の私には、そんな余裕生まれてこないけども)
「つーか、この時期の進路希望調査なんて、先生たちがクラス分けの参考にするだけでしょうが…。ん…?それって、何気に大事か…?」
急に及川くんが真面目な表情になる。
「楓音ちゃん、何学部行きたいの」
「え、何、急に…。まだ決めてないけど…」
「でも、数学苦手じゃ理系じゃないよね」
「まぁ…、うん」
「そっかー、でも俺、確実に理系だよなぁ」
そうなのだ。及川くんは恐ろしく理系科目に強く、数式を解いているときはまるでパズルを解くかのように楽しそうだ。
「文系と理系じゃ、同じクラスになれないと思わない?」
あー、なるほど。
そこを気にしていたのね。
「いいんじゃない?別に同じクラスじゃなくても」
「何言ってんの!いつ第2の鈴木くんが現れるかもわかんないのに…!」
真剣にそう言った及川くんは、話の流れからしておそらく真剣ではない理由で、進路希望調査の内容を考え始めたようだった。
「ところで楓音ちゃん、その後、鈴木くんとはどうなの」
廊下側の席で読書をしている鈴木くんを見ながら、及川くんが聞いた。中間テスト後の席替えで、鈴木くんとあたしは廊下側と窓側の対極に席が離れたのだ。
「普通に、元通りだけど…」
「え…?普通に話してんの…?」
「うん。謝ってくれたから」
そうなのだ。
中間テストのゲームの一件は、あのあとすぐに鈴木くんが謝ってくれた。
好きだと言ったことも、ちゃんと諦めるから忘れていい、クラスでも予備校でも会うのに気まずいのは嫌だから、これからも友達として関わっていきたい、そう言ってくれた鈴木くんに私は同意して、あの一件は許すことにしたのだ。
「ふーん。鈴木くんって、やっぱ油断できないよね」
「ん…?」
「まぁ、楓音ちゃんが優しすぎるのも問題だけど」
そう言うと、及川くんは私のほっぺをムギュっと一回だけつねってから、自分のクラスに帰っていった。
及川くんと付き合い始めて、早4ヶ月。
毎日一緒にいるものの、私は及川くんの本心がわからなかった。
鈴木くんとの一件とか、さっきのような振る舞いとか、はたからみたら、愛されているように見えるのかもしれない。
ただ、始まりがあんなだっただけに、及川くんのことを、いまいち信用出来ないのだ。
及川くんが人並みな男の子ならまだしも、学年一位の成績に、スポーツ万能、あの容姿。
なぜ私が?と、どうしても思ってしまう。
放課後。
いつもの帰り道を及川くんと歩く。
「ねぇ、楓音ちゃん」
「ん?」
「もうすぐ、期末テストだけどさ」
あ…
そういえば、もうそんな時期…
「俺、鈴木くんに意地悪しちゃった」
「え…?」
「負けたらもう楓音ちゃんに話しかけないでって、言ってきちゃった。さっき」
「へ…?」
「やりすぎかなーと思ったけど、俺の知らない間に元に戻ってるし、なんか意地悪したくなっちゃったんだよね」
「い、意地悪って…」
「というわけだから、楓音ちゃんとは今回は休戦。俺らの勝負を見守ってね」
そう言うと、及川くんはにっこり笑った。
せっかく鈴木くんが謝ってくれたのに、この人は…
やっと少し平和な日々が戻ってきたかと思っていたのに、またひと騒ぎ起きそうな予感がした。
「いやぁ、平和だねぇ、楓音ちゃん」
昼休みのポカポカな窓際で気持ち良さそうな顔をして、及川くんがまどろんでいる。
「平和だねぇじゃなくて。進路希望、もう出した?」
「相変わらず真面目だねぇ、楓音ちゃんは。俺らまだ2年じゃん。何、行きたい大学でもあんの?」
「まだ、考え中だけど…」
「まぁ、どこでも行けるでしょ。楓音ちゃんなら」
なんだろう、この余裕。学年一位だからかしら。(ただ、学年二位の私には、そんな余裕生まれてこないけども)
「つーか、この時期の進路希望調査なんて、先生たちがクラス分けの参考にするだけでしょうが…。ん…?それって、何気に大事か…?」
急に及川くんが真面目な表情になる。
「楓音ちゃん、何学部行きたいの」
「え、何、急に…。まだ決めてないけど…」
「でも、数学苦手じゃ理系じゃないよね」
「まぁ…、うん」
「そっかー、でも俺、確実に理系だよなぁ」
そうなのだ。及川くんは恐ろしく理系科目に強く、数式を解いているときはまるでパズルを解くかのように楽しそうだ。
「文系と理系じゃ、同じクラスになれないと思わない?」
あー、なるほど。
そこを気にしていたのね。
「いいんじゃない?別に同じクラスじゃなくても」
「何言ってんの!いつ第2の鈴木くんが現れるかもわかんないのに…!」
真剣にそう言った及川くんは、話の流れからしておそらく真剣ではない理由で、進路希望調査の内容を考え始めたようだった。
「ところで楓音ちゃん、その後、鈴木くんとはどうなの」
廊下側の席で読書をしている鈴木くんを見ながら、及川くんが聞いた。中間テスト後の席替えで、鈴木くんとあたしは廊下側と窓側の対極に席が離れたのだ。
「普通に、元通りだけど…」
「え…?普通に話してんの…?」
「うん。謝ってくれたから」
そうなのだ。
中間テストのゲームの一件は、あのあとすぐに鈴木くんが謝ってくれた。
好きだと言ったことも、ちゃんと諦めるから忘れていい、クラスでも予備校でも会うのに気まずいのは嫌だから、これからも友達として関わっていきたい、そう言ってくれた鈴木くんに私は同意して、あの一件は許すことにしたのだ。
「ふーん。鈴木くんって、やっぱ油断できないよね」
「ん…?」
「まぁ、楓音ちゃんが優しすぎるのも問題だけど」
そう言うと、及川くんは私のほっぺをムギュっと一回だけつねってから、自分のクラスに帰っていった。
及川くんと付き合い始めて、早4ヶ月。
毎日一緒にいるものの、私は及川くんの本心がわからなかった。
鈴木くんとの一件とか、さっきのような振る舞いとか、はたからみたら、愛されているように見えるのかもしれない。
ただ、始まりがあんなだっただけに、及川くんのことを、いまいち信用出来ないのだ。
及川くんが人並みな男の子ならまだしも、学年一位の成績に、スポーツ万能、あの容姿。
なぜ私が?と、どうしても思ってしまう。
放課後。
いつもの帰り道を及川くんと歩く。
「ねぇ、楓音ちゃん」
「ん?」
「もうすぐ、期末テストだけどさ」
あ…
そういえば、もうそんな時期…
「俺、鈴木くんに意地悪しちゃった」
「え…?」
「負けたらもう楓音ちゃんに話しかけないでって、言ってきちゃった。さっき」
「へ…?」
「やりすぎかなーと思ったけど、俺の知らない間に元に戻ってるし、なんか意地悪したくなっちゃったんだよね」
「い、意地悪って…」
「というわけだから、楓音ちゃんとは今回は休戦。俺らの勝負を見守ってね」
そう言うと、及川くんはにっこり笑った。
せっかく鈴木くんが謝ってくれたのに、この人は…
やっと少し平和な日々が戻ってきたかと思っていたのに、またひと騒ぎ起きそうな予感がした。
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