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花火大会

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花火大会の日、約束通り5時に迎えに来た及川くんは、丁寧な挨拶といつもの笑顔でがっちりお母さんの心を掴み、そんなお母さんに急かされるようにして、私は家を出た。

「だから言ったじゃん、大丈夫だって」

「お母さんまで、たらしこむなんて…」

「楓音ちゃん本人が一番頑なだからね。周りから攻めていかないと」

悪びれる様子もなく、にこっと笑う。
ゲーム感覚で付き合い出したくせに、果たしてどこまで本気なんだか…

「てか、楓音ちゃん、似合うね。浴衣」

「そ、そうかな?」

「うん。照れた顔もいいね。いつもそれくらい素直ならいいのに」

「な…っ!?」

「怒らない、怒らない。せっかく可愛いんだから」

そう言うと、及川くんがあたしの手を握った。

「ちょっ、何勝手に繋いで…っ」

「はぐれたら困るでしょ」

「いや、はぐれたら、帰るでしょ」

「ひど…。俺、今日この手絶対離せないじゃん」

そう言って及川くんが私の手をギュッと握る。男の子とこんな風に手を繋ぐのは初めてで、骨張った大きい手にドキッとする。

「こ、子供じゃないから、繋いでなくてもはぐれないってば…!」

「子供じゃないんだから、隙を見てナンパされたりするかもしれないじゃん」

むしろその可能性が圧倒的に高いのは及川くんではないかと思う…

「あ、ほら。楓音ちゃん、何食べる?」

花火大会らしく、河べりへ続く道にはたくさんの屋台が出ていた。

「あ!りんごあめとか好き」

「りんごあめは食べる姿がアレだから駄目」

「は…?」

「ほら、わたあめは?買ってあげるから」

「え!ほんと…!?」

「うん。てか、いつも俺がいくら頑張っても冷たい表情なのに、わたあめぐらいでそんな嬉しそうな表情するんだね、楓音ちゃん」

「え…、いや…」

悲しそうな及川くんの表情に、何故か罪悪感。
だって、いつも無茶なことばっかり言うから…

「はい、わたあめ」

「あ…、ありがとう」

「わたあめピンクだから、浴衣姿に合うね。よし!ヨーヨーも買おう。赤いやつ」

「え…!?ちょ…っ」

及川くんの言うままに連れまわされ、気づくと私たちはいくつもの屋台をハシゴしていた。

時刻は7時少し前。
河べりへ移動すると、芝生に座って花火を待った。

「及川くんって、お祭り好きなんだね」

「え…? やだなぁ、学年一の秀才に向かって何言ってんの、楓音ちゃん」

「だって、目がキラキラしてたよ。射的もすごくうまかったし、ねぇ」

そう言って、取ってもらったぬいぐるみのウサちゃんに話し掛ける。お祭りで誰かと屋台をハシゴするなんて初めてのことで、楽しくて、私も少し浮かれている。

「見たかっただけだよ、そういう可愛い姿が」

「へ…?」

「楽しそうで、よかった」

その瞬間、最初の花火がパーンと夜空を飾った。歓声とともに、人々の視線が空を向く。

大きく花を開いて柳のように落ちていく無数のオレンジ色の光。

花火ってこんなに綺麗だっただろうか。
私が浴衣を着て、誰かとこの空を見上げているなんて、不思議な気分だ。

さりげなく絡んできた指。
それは、恋人つなぎというものだったけど、嫌ではない自分がいた。

心の片隅で、ドキドキと鳴る心臓の音を感じていた。
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