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ゲームのはじまり

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「早野サンってさぁ、男嫌いでしょ」

背後から突然そんな声が聞こえて。振り向くとそこに、最近隣のクラスに転校してきた男の子が立っていた。

「な…っ、突然、何…?」

「俺のこと知ってる?」

「知っ…てるけど…」

「お…、意外。男子に興味なさそうなのに」

確かに、興味はない。
が、彼は今ちょっとした有名人なのだ。

転校してきてまだ一ヶ月も経っていないけど、季節外れな転校生が異様にカッコいいと、主に女子の間で噂の拡がり方が尋常ではなかった。

あれだけ話題に挙げられていたら、噂に疎い私でも気付くし、うちの学年で彼を知らない女子はいないのではないだろうか。

「なんで、私のことなんて知ってるの…?」

「フルネームで知ってるよ。早野楓音かのんさんでしょ?」

意味がわからない。女子に大人気の転校生が、なぜ私なんかの名前をフルネームで覚えているのか。

「クラスの男子が言ってた。早野サン、すげー頭いいんでしょ。入学以来、学年トップから落ちたことないって」

「え…、うん…」

クラスの男子…
良い言われ方はされていないだろうと想像はつく。

時代遅れのおしゃれ感皆無の眼鏡に、毛量の多い長い髪を無理矢理まとめた三つ編み。校則をきっちり守った膝下丈のスカート。

外見終わってるガリ勉女子とか、そんな噂話でもしていたのを聞いて、興味本位で話し掛けにきたのだろうか。

からかわれるのは慣れている。こういう顔が綺麗な人は、私みたいな子を見下して、平気で傷つくことを言うのだ。

「男嫌いな早野サンに、一つ提案があるんですけど」

「あのね。私、別に男嫌いってワケじゃ…」

早くどこかに言ってほしい。どうでもいい事でからかわれるのは時間の無駄だ。

「ゲームしようよ」

「は…?」

「来月の期末試験、勝負しよ。俺が勝ったら、付き合ってよ」

「はい?」

「俺が負けたら、パシりでも下僕でもなんでもするってことで。はい、約束」

「ちょっ…!?」

勝手に人の腕を掴んだかと思ったら、強引に指きりげんまんをされた。

「じゃあね」

「な…、待…っ!」

振り向くこともなく、ヒラヒラと手を振って彼は行ってしまった。

付き合うって言った…?
私と、あんな軽そうな男の子が…?

そんなバカな…


一ヶ月後。

「はい、終わりだ。後ろから解答用紙まわせー」

試験終了のチャイムが鳴って、試験官の先生の言葉とともに、最後の科目の試験が終わった。

一ヶ月前のあの一方的な約束。不本意な約束とはいえ、冷静に考えれば、意味のあるものとは思えなかった。私が負けなければいい訳で、そんなのは朝飯前だ。だって私は入学以来ずっと1位をキープしている。

自慢じゃないけど、オシャレにも男の子にも興味のない私は勉強ばっかりしている。負ける訳がないし、これで負けたら、私にはなんの価値もない。


一週間後。

運動会の順位付けさえどうこう言われる昨今にも関わらず、進学校であるうちの高校は上位10名の成績が貼り出されることになっていた。

朝一番、登校ついでに確認した学年掲示板。
入学以来、不動の私の位置に彼の名前があった。

「おはよ、早野サン。今日から俺の彼女だね」

「嘘…」

「よろしくね?」

唖然とする私に、ニコっと笑いかけて、及川くんはそう言った。

「え…、どういうこと…」

「いやー、俺、結構頭いいんだよね」

結構どころではない。こんなに簡単に1位を取るなんて、なんのために私は日々あんなに努力をして…

「約束だよね。今日から彼女」

「や…、あの…」

「今さら嫌とかなしね。指きりげんまんしたし」

「いや…、あなたが私を彼女にする意味がわからないんですけど…」

「そう…?」

不思議そうな顔をして、彼は私を眺めた。

「なんていうか、早野サンみたいな子を開発するのって楽しそうじゃない?」

そう言って微笑んだ。
その微笑みに、私は身の危険を感じた。
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