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ミケとわたし達

思い出せない

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「おばあちゃんどうしたの?」

 わたしは不安になりながら尋ねた。なんだか嫌な予感がして声もちょっと震えてしまう。

「おばあちゃんにゃん?」

 ミケも不安げにおばあちゃんを見ている。

 高男さんとムササビもおばあちゃんをじっと見ている。

 おばあちゃんはまだ頭を抱えうーんと唸っている。今、おばあちゃんの頭の中にどんな映像が浮かんでいるのだろうか?

「真歌ちゃんが……」
「え? わたしがどうしたのかな?」
「ミケちゃんを可愛いから欲しいなって言ってたのよ」
「それは、子供の頃のこと?」
「うん、そうよ」

 わたしは子供の頃ミケを欲しいと言ったことなんて覚えていない。そもそもミケの記憶もないのだから。

 それはそうと幼き日のわたしがミケを欲しいと言ったことに何か問題でもあるのかな。幼い子がぬいぐるみを欲しがることは普通のことだと思うけれど。

 おばあちゃんは今もうーんとブツブツ呟いている。

「真朝さん、お茶でも飲んで落ち着いてください。カモミールティーですよ」

 高男さんはいつの間にか新しいお茶の準備をしていた。新しいティーカップをテーブルに並べ、ティーポットからカモミールティーを注ぐ。

 すると、ちょっとリンゴに似たフルーティな香りがふわふわと漂う。癒やされる良い香りだ。

「あ、ありがとうございます」

 おばあちゃんは顔を上げ高男さんにお礼を言った。

「いえいえ、どうぞ飲んでください。皆さんもどうぞ」

「いただきます」と言ったおばあちゃんはティーカップを口につける。その姿は少女の姿なのでお肌ももちもちツヤツヤでとても可愛らしい。

 と、思ったその時。

「お、おばあちゃん」とわたしは大きな声を上げた。だって、おばあちゃんは元の姿に戻っていたのだから。

「えっ?」

 おばあちゃんはこちらを見て首を傾げ「このカモミールティーとても美味しいわ」と言った。

「おばあちゃん……戻っているよ」
「ん? 何が? 真歌ちゃんどうしたのかしら?」

 おばあちゃんはきょとんとした顔でわたしを見る。そのおばあちゃんの顔はわたしのよく知っている現在《いま》のおばあちゃんだった。

 みんなもびっくりしたように目を大きく見開きおばあちゃんを見ている。

「おばあちゃんがおばあちゃんに戻っているんだよ」

「わたしがわたしに?」

「あ、ごめん。言い方が変だったね。少女の姿から元のおばあちゃんの姿に戻っているんだよ」

「あら、嫌だわ。せっかく若返っていたのにわたしおばあちゃんに戻ってしまったのね。ちょっと残念だわ」

 おばあちゃんは手で頬に触れ残念そうに言った。どうやら少女姿の自分になっていたことをおばあちゃんは嬉しく思っていたようだ。

「おばあちゃん、残念かもしれないけど今はそれよりもっと大事なことがあるでしょ?」

「そ、そうよ。そうだったわ」

 おばあちゃんはハッと思い出したような表情になる。


「真歌ちゃんにミケちゃんを貸してあげたことがあるのよ。覚えていないかしら?」

「え! ミケちゃんをわたしに?」

 わたしは幼い頃の遠い記憶を辿る。すると、懐かしい記憶がじわじわと溢れ出てくる。

 おばあちゃんと夏休みに一緒に食べたスイカ。夏祭りの日の浴衣、おばあちゃんの盆踊りで優雅に踊る姿。

 食卓に並ぶおばあちゃんの手作りのご飯。そう言えば炊き込みご飯も美味しくて何度もおかわりしたな。

 幸せで楽しかった懐かしき思い出がふわふわと甦ってくる。けれど、ミケのことを思い出そうとするも何も浮かんでこない。

 どうしてかな? と思いながらミケに視線を向ける。ミケもこちらをみていてニコニコにゃんと笑っていた。

 そんなミケの顔をじっと見てもおばあちゃんの家でミケを見た記憶は甦ってこない。おばあちゃんの勘違いということはないのかな。

 だけど、おばあちゃんは大人で当時のわたしは子供だった。やっぱりおばあちゃんの記憶が正しいのかな。
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