高尾山で立ち寄ったカフェにはつくも神のぬいぐるみとムササビやもふもふがいました

つくも神のぬいぐるみミケ

納豆ご飯を食べると

  ミケは納豆ご飯を味わうように食べ懐かしそうに顔を綻ばせている。ミケのその黄色い目に何が映っているのだろうか。

  わたしはレトロチックでもふもふなミケをじっと見つめた。

「う～ん、納豆ご飯を食べていると懐かしさとにゃんとも言えない気持ちが込み上げてくるにゃん」

  ミケは口の周りをペロペロと舌なめずりしながら言った。納豆に何か思い出があるのかな？  と思ったのと同時にぬいぐるみのミケに舌があってびっくりしてしまった。

「ミケちゃん、今までに納豆を食べたことってあったの？」

「う～ん、それがにゃん……食べたことはないと思うんだけど……にゃん」

  ミケは首を横に振った。

「そっか、そう言えばミケちゃんの初めて口にした料理はムササビカフェ食堂の菜っ葉の煮物とお好み焼きだったよね？」

  食事をするのは初めてとミケは言っていた。けれど、あの時。

『うん、でもね、わたしこの菜っ葉の煮物もお好み焼きの味も知っているような気がするんだにゃん』と言ったことをわたしは思い出した。

「うん、あの食事が初めてだったと思うけどにゃん。でも、この納豆が懐かしくて遠い昔がよみがえってくるような感覚に陥るんだにゃん」

  ミケはそう言って遠い目をした。

  やっぱりミケは不思議な存在だな。


「遠い昔？」
「うん、遠い昔だにゃん……」

  ミケは納豆ご飯をもう一口ぱくっと食べ「うん、やっぱり懐かしい味がするにゃん」と言った。

  その表情はほくほく顔でそれでいて切なげにも見えた。

「そっか、ミケちゃんは、三毛猫のぬいぐるみに宿ったつくも神って言ってたもんね。百年以上大切にされていたんだよね」

「うん、わたしには長い～長い～歴史があるんだにゃん。でもね、あんまり覚えていないんだ……思い出しそうでいて心の何処か深いところに隠されてしまったみたいにゃんだよね」
 
  ミケはそう言って肉球のある可愛らしい手でここにだよという感じで胸にそっと触れた。

「ミケちゃんは誰に大切にされていたんだろうね？」

「うん、誰だろう？  優しい手がわたしを撫でてくれたことは覚えているんだにゃん……」

  そう言ったミケは顔を綻ばせた。

「きっと、ミケちゃんはとても大切にされていたね」

  ミケの表情を見ているとそのことがよくわかる。

「うん、そうだにゃん」

  ただ、ムササビカフェ食堂の棚で眠りについていたことは不思議ではあるけれど……。