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きらりちゃん

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  温かいご飯と豆腐チャンプルーを食べていると幸せな気持ちになる。わたしは笑顔を浮かべ豆腐チャンプルーを食べた。

  美味しい料理を食べていると幸せ感に満たされる。

  こんなに美味しい料理を作ることができる斎川さんは素敵な女性だ。それなのにきらりちゃんはどうして笑顔になれないのかなと不思議になる。

  もしわたしのお母さんが斎川さんみたいに優しくて料理上手な人だったとしたら毎日笑顔で過ごせるのになとふと思った。

  そんなことを考えながらわたしは豆腐チャンプルーを食べた。

  豆腐チャンプルーはシンプルな炒め物だけどそれがまた良くて本当に美味しかった。

  そして、お腹もいっぱいになり心もからだも幸せ感に包まれた。

   それと、大好きな田舎のおばぁの笑顔も思い出した。

ごちそうさまでしたとわたしは満足して箸を置き紙ナプキンで口の周りを拭いた。

   とその時、

「幸せそうな顔しちゃって馬鹿みたい」と言う声が聞こえてきた。

  この声は……。

  わたしは、顔を上げ声の主を見た。すると、きらりちゃんがわたしの顔をじっと見ているではないか。

「ちょっと馬鹿みたいってどういうことなのかな?」

  わたしはむっとしながら聞いた。

「別に……お母さんの料理なんて大したことないのになと思っただけだよ」

「そうかな?  きらりちゃんのお母さんの料理はとても美味しいよ」

「ふーん、美味しいんだね。わたしはお母さんの料理より雑貨屋のおばぁの沖縄そばの方が好きだもん」

  きらりちゃんはそう言ったかと思うと出口に向かい歩き出した。

「あ、ちょっときらりちゃん!  言い逃げはずるいよ」

  わたしは慌てて立ち上がりきらりちゃんを追いかけた。

ちょっときらりちゃんってば待ってよ」

  わたしは斎川さんにごちそうさまでしただけ言ってきらりちゃんを追いかけた。

「お姉さん、どうして着いて来るのかな?」

  きらりちゃんは足をぴたりと止めこちらに振り返り言った。そして、わたしの顔をじっと見た。そのきらりちゃんの表情は眉間に深い皺が寄っていてとても怖いよ。

「だって、わたしのこと馬鹿みたいって言ったじゃない。それに、きらりちゃんのお母さんのご飯は美味しいよ」

「わ、わたしはお母さんのご飯なんて美味しくないんだから!」

  きらりちゃんはそう言ってわたしのことを睨みそして、踵を返し歩き出した。

  スタスタスタスタと歩くきらりちゃん。その後を追いかけるわたし。

「ちょっと着いて来ないでよ」

  きらりちゃんがくるりと振り返りわたしを睨んだ。

  そして、きらりちゃんは前に向き直りスタスタスタスタと歩く。わたしはその後を追いかける。

「あのね、着いて来ないでと言ってるんだけど」

  きらりちゃんはぴたりと立ち止まりわたしをキッと睨んだ。

「わたしも同じ方向なんだもん」

「ふーん、同じ方向なんだ。じゃあ聞くけどお姉さんはどこに行くのかな?」

  きらりちゃんの大きな目がわたしをじっと見ている。めちゃくちゃ怖いのですが……。


「それは……」

「はい、答えられないんだね。ぶっぶ~アウト!」

「えっ!  アウトって」

  憎たらしい小学生だよ。わたしは思わず叫びそうになった。

憎たらしい小学生のきらりちゃんは「ふん、着いてこないでよ」と言ってスタスタと歩き出した。

  ふんだ。これは仕事なんだからね。嫌だと言われても着いていくんだから。わたしはきらりちゃんの憎き小さな背中を睨みながらその後を追いかけた。

  きらりちゃんは振り返ることなくスピードを上げてスタスタと歩いていく。わたしも負けずにその後を追いかけた。

  小学生相手にムキになっているわたしってなんだかな。そんな自分が可笑しくてクスッと笑う。

  そして、今日もきらりちゃんは『沖縄の楽しい世界へめんそ~れ』の前で立ち止まり自動ドアからお店の中に入った。

  わたしもきらりちゃんの後に続きお店の中に入った。すると今日も外の暑さが嘘のように店内はひんやりとしていた。

  それから今日もきらりちゃんは、食券と書かれた沖縄そばの券売機の前に立っているのだった。

「あ~喉が渇いたな~」

  わたしはわざとらしい咳払いをしてきらりちゃんの隣に立った。

「……お姉さんってわたしのストーカーなんですか?」

  きらりちゃんはチラリとわたしの顔を見て言った。

「と、とんでもないよ。わたしは喉が渇いたんだもん。グァバ茶でも飲もうかなっと」

  わたしはにっこりと笑いながら答えた。けれど自分でもこれは怪しい人に見えるよねと思ったのだった。

「あ、そう。ご自由に」

  そう言ってきらりちゃんは沖縄そばと書かれたボタンに手を伸ばした。

  そんなきらりちゃんにわたしは。
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