上 下
4 / 111

美川よしおです

しおりを挟む
目の前に座っている男性は得意げな顔でふふんと鼻を鳴らしている。わたしは悔しくてなんだか負けたような気がして男性の顔を睨んだ。

「改めまして美川みかわよしおです」

  この人いきなり自己紹介をしているよ。呆れてしまう。わたしが黙っていると、眉目秀麗な男性こと美川さんが、

美川みかわよしおです」ともう一度自己紹介をしてくるではないか。

「……はい。そうですか」

「はいそうですかって君。自己紹介されたら自分も名乗るが常識ではないか?」

  そう言ってどや顔になる美川さん。

「わたしは幸川愛可さちかわあいかですけど。でも常識って言うのでしたら美川さんこそ食堂に来たら食事を注文するのが常識だと思いますよ」

  美川さんは何も注文しないで席に座っているのだから。

「あ、そうでしたね。美味しそうにご飯を食べている愛可さんの幸せそうな笑顔に感動して忘れていましたよ。それにしても名前も素晴らしいじゃないですか」

「……それはありがとうございます。それより食事を早く注文した方がいいんじゃないんですか?」

「それもそうですね。う~ん、何を食べようかな?」

  美川さんはメニュー表を開き眉間に皺を寄せて食事を選んでいる。難しい考え事でもしている時に見せるような表情なのだ。

「俺、関東出身なんですけど沖縄料理が好きなんですよ。う~ん、沖縄そばも美味しそうだけどタコライスも気になるな~あ、ちょっと待てよゴーヤチャンプルーも食べたいな」

  美川さんはそう言いながらうんうん唸る。この人がメニューを選び終えるのをわたしはじっと待っていなければならないのかなと思うと溜め息が出る。

  そうだ、わたしには沖縄ちゃんぽんがあるではないか。さっきは食べ残してしまいそうになってごめんね。心の中でごめんねと手を合わせわたしはスプーンを手に取った。

  そして、わたしはスプーンで具とご飯をすくい口に運んだ。

  卵がとろーん。そして、もやしがシャキシャキしている。うん、やっぱり美味しい。わたしは美味しいものが食べられて幸せだな。

  うふふと幸せな気持ちになっていると、

「うん、やっぱりその笑顔だよ。素晴らしいぞ」

「え?」

  顔を上げると美川さんが、わたしの顔をじっと見ていた。

「その美味しそうに食べる顔に俺はぐぐ~ぐ~っと惹かれたんだ」

「……はぁ、そうなんですか……あ、ありがとうございます」

  あんなに真剣な表情で見ていたメニュー表は脇によけられている。

  そして、

「愛可さんに頼みたいと思っていた仕事なんだけど」

美川さんはそう言いながら名刺を差し出してきた。

  その名刺に書かれていたのは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある雪の日に…

こひな
ライト文芸
あの日……貴方がいなくなったあの日に、私は自分の道を歩き始めたのかもしれない…

アーコレードへようこそ

松穂
ライト文芸
洋食レストラン『アーコレード(Accolade)』慧徳学園前店のひよっこ店長、水奈瀬葵。  楽しいスタッフや温かいお客様に囲まれて毎日大忙し。  やっと軌道に乗り始めたこの時期、突然のマネージャー交代?  異名サイボーグの新任上司とは?  葵の抱える過去の傷とは?  変化する日常と動き出す人間模様。  二人の間にめでたく恋情は芽生えるのか?  どこか懐かしくて最高に美味しい洋食料理とご一緒に、一読いかがですか。  ※ 完結いたしました。ありがとうございました。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

影の消えた夏

柴野日向
ライト文芸
 逢坂陽向は世間から隠されて育ってきた。多くを諦めてきた陽向だったが、恋人である千宙さえも奪われかけ、相手の殺害を企てる。だが、陽向の行動を一人の青年が引きとめた。凪という名の彼は、ある島でのアルバイトを持ち掛ける。自暴自棄になった陽向は仕事を引き受け島に渡るが、そこに住むのは人ではない者たちだった。

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

夢見るディナータイム

あろまりん
ライト文芸
いらっしゃいませ。 ここは小さなレストラン。 きっと貴方をご満足させられる1品に出会えることでしょう。 『理想の場所』へようこそ! ****************** 『第3回ライト文芸大賞』にて『読者賞』をいただきました! 皆様が読んでくれたおかげです!ありがとうございます😊 こちらの作品は、かつて二次創作として自サイトにてアップしていた作品を改稿したものとなります。 無断転載・複写はお断りいたします。 更新日は5日おきになります。 こちらは完結しておりますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。 とりあえず、最終話は50皿目となります。 その後、SSを3話載せております。 楽しんで読んでいただければと思います😤 表紙はフリー素材よりいただいております。

黒き翼と、つなげる命(みらい)

和泉ユウキ
ライト文芸
月が煌々と輝く闇の中。 黒い艶やかな髪をなびかせたその女性は、無感動に言い放った。 「あなた、――死ぬのは、恐い?」 それは、愛を知らずに育った青年と、死ぬことを知らずに生きた女性の、静かに始まる物語。 *カクヨムにも掲載しています

処理中です...