上 下
24 / 54
最高にうまい食堂

みどりの弱点

しおりを挟む
 「それがね、大浴場でね!」

 「大浴場?」

 「うん。そう、このみどりちゃんがね~」

 あ、あの事か……。

 「ま、真理子! 先を続けなくてもいい!」

 わたしは、焦りながら真理子を睨む。睨むが効き目は無しのようだ。

 「あのね。みどりちゃんてばねバスタオルを体にぐるぐる巻きにしてお風呂に入るんだよ。なんでて聞いたら、恥ずかしいからだって。もうみどりちゃんの弱点を発見! て感じで嬉しかったよ~」

 「ははっ。ぐるぐる巻きですか~」

 亜利子ちゃんは目を丸くしている。

 「そうそうぐるぐる巻きだよ~あの姿見せてあげたかったなあ」

 酷い! 真理子の奴許せない!


 「ま、ま、真理子酷~い!」

 わたしの目の前に湯気が立っている沖縄そばがある。

 すっかり、沖縄そばを食べることを忘れていたではないか。

 「え~だって、面白かったよ~写真を撮りたかったぐらいだよ」

 「わたしも見たかったなあ」

 わたしの目の前に座る亜利子ちゃんは笑いながら沖縄そばを食べている。

 「ち、ちょっと二人とも……」

 「でも、なんだかんだ言いながら楽しそうじゃないですか」

 そうかな、亜利子ちゃん。少なくても今は楽しくない。今の気分は真理子をバスタオルでぐるぐる巻きにしてやりたいという心境なんだよ。

 それから、暫くの間この話題で盛り上がった。真理子と亜利子ちゃんがね。

 わたしが無言で沖縄そばを食べていることにようやく気がついたらしい真理子は、

 「ごめんね。みどりちゃん。ちょっと悪ふざけし過ぎちゃったかな? 許してね」

 こちらの方を振り向き手をあわせて謝った。

 沖縄そばは今日も美味しい。いつ食べても美味しい。この沖縄そばに免じて特別に許してあげよう。

 「許してあげるよ。特別にだよ~沖縄そばに感謝してよね」

 「ありがとう~みどりちゃん~沖縄そばさん」

 なんて言ってわたしに飛びついてくる真理子。暑苦しいではないか。

 わいわい騒ぎながらの夕ご飯。

 目の前にはとびっきり美味しい『沖縄そば定食』島唐辛子も大量に入れたから、物凄く美味しい。

 真理子に亜利子ちゃんという友達が二人もいる。

 真理子には今日も呆れたけれど、真理子がいるから、この沖縄の地でもなんとか頑張ることができるのかもしれない。

 「いらしゃいませ~」

 おばちゃんの威勢のよい声がした。それとほぼ同時に。

 「あれ? お嬢さん達! え~と、並木さんに梅木さんに、そして亜利子ちゃん」

 その声に振り返ると宮代さんが作業着姿でニコニコしながら立っていた。


 「宮代さん! こんばんは」とわたし達三人は挨拶をした。

 「久しぶりですね。というか、数日ぶりですね」とわたしは言った。

 宮代さんはわたし達の隣のテーブルの上に鞄を置きながら、「またまた会えて嬉しいよ」と笑顔を浮かべている。

 「ご飯を注文してくるさー」

 と言って券売機の方へと宮代さんが向かってからようやく気がついた。

 「ねえ、亜利子ちゃん」

 「なんですか?」

 「宮代さん、亜利子ちゃんのことを名前で呼んでなかった?」

 「あ、本当だ!」

 真理子も気がついた様子だ。

 「そうなんですよ。実はわたし、最高にうまい食堂に何度か一人でも来てるんですよ。そしたら、宮代さんと何度か会って、亜利子ちゃんって呼ばれるようになったんです!」

 なんとまあ、亜利子ちゃんは既に沖縄生活を満喫しているようだ。

 「亜利子ちゃんは、沖縄生活の先輩だね!」と真理子は、ぼそっと呟いた。

 「そうだね! 確かに」

 「やったーわたしも遂に、お二人の先輩なんだ、なんでも聞いてくださいよ!」

 なんて言いながら亜利子ちゃんは笑っている。

 沖縄そばを食い逃げしたりして変わったことをする子だけど、行動力は抜群なのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ガラスペンを透かせば、君が

深水千世
ファンタジー
「おばあちゃんと住んでくれる?」 受験に失敗し、両親が離婚した渡瀬薫は、母親の一言で札幌から群馬県にやってきた。 彼女を待っていたのはガラス工房を営む親子に二匹の猫、そして初めて会う祖母だった。 風変わりな面々と暮らすうち、ガラス工房にはちょっと不思議な秘密があると知る。 やがて、ゆきばのない想いの行方を見届けるうち、薫に少しずつ変化がおとずれる。実は彼女自身にも人知れず抱える想いがあったのだった……。

猫と幼なじみ

鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。 ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。 ※小説家になろうでも公開中※

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

古からの侵略者

久保 倫
キャラ文芸
 永倉 有希は漫画家志望の18歳。高校卒業後、反対する両親とケンカしながら漫画を描く日々だった。  そんな状況を見かねた福岡市在住で漫画家の叔母に招きに応じて福岡に来るも、貝塚駅でひったくりにあってしまう。  バッグを奪って逃げるひったくり犯を蹴り倒し、バッグを奪い返してくれたのは、イケメンの空手家、壬生 朗だった。  イケメンとの出会いに、ときめく永倉だが、ここから、思いもよらぬ戦いに巻き込まれることを知る由もなかった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

あなたが幸せなことがわたしの幸せです

音瀬
ライト文芸
誰もが憧れるような人気者圭歌と大人しい美雨、幼馴染の先輩後輩がお互いを想いあい助け合う。無邪気な高校時代から大人まで、同性の恋愛の現状と葛藤、暖かい愛があふれる切ない人生の物語。 普段本を読まない方でも親しみやすい話にするため、会話が基本の小説になってます。 ●圭歌(けいか) 主人公。 昔から明るく男勝りな性格。サバサバしているが周りをよく見ていて、人気者。 当の本人は恋愛に興味がなく、友達と過ごすのが楽しいと感じている。 美雨とは昔からの知り合いでご近所、部活が一緒。 ●美雨(みう) 圭歌の1つ上の先輩。 普段はマイペースで静か、部活ではいなくてはならない存在。 恋愛にはずっと興味がなく、圭歌とは性格は違うのになぜか昔から仲良し。 ●ゆい 圭歌の中学時代からの友達。クラスも部活も一緒で少し抜けているところがあるが、妹っぽさがありかわいい。いつも圭歌と司の三人で行動することが多い。 ●司(つかさ) 圭歌の高校からの友達。クラスが一緒。 クールで凛とした雰囲気で女子に人気。圭歌とゆいとは高校からの仲だが、席が近く意気投合。三人組で過ごすことが多い。 ●理佐 美雨の親友。とても明るくて前向きな性格。いつも美雨を親目線で支えている。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

処理中です...