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第一章 就職活動に敗れたわたしは……

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  東京都下の片隅にひっそりと佇むカフェがある。その名も『梅子うめこばあちゃんのゆったりカフェヘようこそ』というとても長ったらしくて、変な名前のカフェ。

  このカフェのオーナーはわたしのおばあちゃん梅子なのだ。

  そして、このカフェの隣におばあちゃんの家がある。家自体はなんの変哲もない二階建てなんだけれどその家の住人が変わり者だらけなのだ。

  わたしは、この長ったらしくて変な名前のカフェで働くことになった。しかも変わり者ばかりの集まりであるおばあちゃんの家に住むことになってしまった。

  どうしてそのようなことになったのか。それは簡単にいうとわたしが就職活動に敗れたからなのだ。



  就職を諦めてフリーターか派遣社員になろうとしていたその時、おばあちゃんから『家《うち》の店を手伝わないか?』との誘いがあった。

  わたしは正直迷った。

  だって、新宿あたりの都心でアルバイトか派遣の仕事でも探そうかなと思っていたのだから。

  おばあちゃんのカフェは一応東京都だけど高尾駅にある。高尾駅は東京都八王子市だけれど高尾山の玄関口なのでなんだか田舎だというイメージがある。

  わたしは現在八王子市の八王子駅近辺に住んでいて、ファッションビル等が建ち並び駅前は栄えている。高尾駅は八王子駅から下り方面の二つ先の駅で電車に乗ると七分ですぐ近くではあるのだけれど。

  若い女の子であれば、田舎で働くよりも都会で働きたいと思うのが普通だと思う。

わたしも、例に漏れず下り方面で働くよりも上り方面の新宿方面で働きたかったのが正直な気持ちなんだけれど……。



  おばあちゃんの好意を断るのもなんだかなと思ったし、気心知れたおばあちゃんの元で働いてみるのもいいかなと思い承諾した。

  わたしは、自宅からおばあちゃんのカフェに通うつもりだった。それなのに部屋ならいっぱい空いてるわよ。家の仕事は朝が早いからねと言って嫌がるわたしを無理やりおばあちゃんの家に住まわそうとする。おばあちゃんってば強引だよ。

  両親もおばあちゃんうちなら安心だね、『いってらっしゃい~』なんてわたしを追い出すんだから酷いと思う

  そんなこんなでわたしはおばあちゃんの家に住むことになった。


  今、わたしはおばあちゃん家の玄関の前に立っている。ああ、もう嫌だなと思いながら門柱に取りつけられているチャイムに手を伸ばし鳴らそうとしたその時、突然玄関の扉がガチャと勢いよく開いた。すると、今時流行らない金髪ヘアの佐美さみさんがドタバタと出てきたのでぶつかりそうになった。

  佐美さんは、わたしに気がつき、「あら、るり子ちゃん」と言ったかと思うと、「探して」と言った。

佐美さんは、いつもこうだ。突然単語を呟くのだ。

「え?  何を探すの」と首を横に傾げるわたしに佐美さんは、さも当然というように「だから、うちのタマに決まっているでしょう」と答えた。


「うちのタマって佐美さん、タマがどうかしたの?」

「タマの奴が脱走したんだってば。早く探さないとあの子が車に轢かれてぺっしゃんこになってもいいの?」

「佐美さん、タマに何かしたんでしょう?」

「え?   なにもしてないわよ。タマの鼻をつまんであげただけよ」

両手を横に広げて分かりませんのポーズをとる佐美さん。

なんて、なんて人なんだろうか!  呆れてしまいふぅーと溜め息が出る。

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