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雪降る洋館に閉じ込められた
夢とわたしとあの子
しおりを挟む「花音ちゃん、絶対にやめておいた方がいいよ」
「そっかな?」
花音ちゃんは呑気な顔で笑う。
「そうだよ、わたしは、本当に怖い思いをしたんだから」
「でも気になるじゃないの。わたしは怖いオカルトも好きなのよ~ふふっ」
「花音ちゃん、これは漫画や小説の世界の話ではないのよ。わたしも太郎君もそれはそれは生きるか死ぬかみたいな恐怖体験をしたんだからね」
「そー、なの?」
「そうなのよ。それより、この本お薦めだよ、面白くて目玉が飛び出しそうになるんだから」
わたしがさっきまでぺらぺらと捲っていた本を花音ちゃんに差し出した。
「未央ちゃんってば、わたし知っているよ~その本は足をぶらぶらさせながら、ぺらぺら捲って『ああ、退屈』って、未央ちゃんが机の上に投げ捨てた本でしよ。まったく未央ちゃんは面白いんだから」
花音ちゃんは、わたしが渡した本を受け取りながら笑った。
「わたしが読んだところはたまたま面白なくなかったのよ。クチコミで面白いって聞いたから大丈夫だよ」
「分かった、分かった。面白いのよね」
花音ちゃんは苦笑いを浮かべながらも大浴場に行くことはやめてくれたみたいなので、良かった。
それからしばらくの間、花音ちゃんも図書ルームの椅子に座り、わたしが貸した本を読んで過ごした。
わたしは図書ルームの中にある本を重厚感がある本棚から取り出して読んだけれどやっぱり今日は集中できない。
そうこうしているうちに、木の温もりが感じられる椅子が心地よくてわたしは気がつくと眠ってしまっていた。
夢のような現実のようでもある曖昧な光景が目に浮かんだ。
夕焼けの校舎。四階建ての小学校。オレンジ色の夕焼けが眩しい。小学生時代の皆がいる。そして、あの子里美もいる。
わたし達は校門を出て帰宅路の川沿いの道を歩く。わたしと里美は手を繋ぎ、笑顔で歩いている。
わたしと里美は仲良しだったんだと改めて思う。だけど、何かを思い出そうとするのに、また霧の中に隠れてしまう。
夢を見る度に毎回この映像が繰り返される。どうしてかな? 夕焼けの校舎とわたしと里美が手を繋ぎ歩いている。毎回見るこの夢。
夢と現実が交差する。夢か起きているのか分からない。
そして、突然場面が切り替わった。
あ、わたしが小学生の時に住んでいた家だ。そうそうここがわたしの家だった。ちなみに今のわたしは都内で一人暮らしをしている。
小さいながらわたしはこの家が好きだった。
赤い屋根に薄汚れた壁。たしか、昭和四十年前半に建てられた建物であると聞いた。当時から少し古ぼけていた。
だけど、どうしてこの頃の記憶があまりないのだろうか?
分からない。だけど、わたしの中で何か忘れたいことがあるようなそんな気がする。
わたしは幸せだった。幸せな子供だったはずなのに……。
あれ?
部屋の中だ。あれ? テーブルの前に……。
おかっぱ頭のあの子が座っている。あの子とは里美のことだ。里美が振り返りわたしに笑いかけた。里美はわたしに少し似た外見であり、だけど里美の方がわたしより少し可愛い。
違うそうじゃない。そうじゃない。里美は笑顔で誰とも仲良く出来た。だから、その笑顔がとても可愛らしく見えるのだ。
だけど、それが一体どうしたというのだ。
里美がわたしと似ていようが、わたしより笑顔が素敵であろうが、そんなことはわたしには関係ないことじゃないの?
なのになんだか、これが重要なことのような気がしてくるので不思議だ。
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