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雪降る洋館に閉じ込められた
後悔したくない
しおりを挟む再び、シーンと静まり返る。物音一つしない廊下に立っていると恐怖がじわじわじわじわと体の奥底から込み上げてきた。
どうしよう。どうしよう。大浴場には絶対に何かがいる。間違いなく……。
あれは嘘でも幻でもなく、わたしのこの目でしっかりと見た。あの血のようなドロドロとした赤黒いお湯と、まるで生きているかのような真っ黒な髪の毛。
太郎に一人で行かせたままでいいの?
わたしは自問する。
ダメだ。わたしが話したから太郎は大浴場に行った、恐いけれどこのままにしていたら、後で後悔する。一生後悔することになるかもしれない。
もうこれ以上は後悔したくない。あの子里美の時みたいに。一生自分の背中に背負うものをこれ以上重たくはしたくない。
「よし、行こう」
わたしは声を出して、一歩踏み出した。
そして、一歩一歩大浴場に近づく。恐くて恐ろしくて寒気がしてくる。薄暗い電灯の光が弱い廊下をそろりそろりと歩いていく。
我慢よ、我慢。後少しで大浴場に着くと思ったその時、
「ギャーギャーギャーギャーギャー」と悲鳴が聞こえた。太郎の声だ。
一体どうしたというのだろうか。やはりあの赤黒いお湯が太郎に向かって流れてきたのだろうか?
それとも真っ黒な髪の毛が太郎の身体に巻きついたのかななどいろいろ考えを巡らせながら、わたしは走った。走って走って猛烈な勢いで狂ったように走った。
もうこれ以上は速く走れないと思うほどに、足の回転を速くして走って走って走りまくった。
太郎の心配はもちろんしているけれど、それ以上に、『わたし自身が後悔はもうしたくない』と思う気持ちが一番強かった。
わたしは自分が一番大事。人の事は二の次なんだ、だけどそれはわたしだけではないはずだ。
こんな時でさえ、焦りを押さえきれないわたしと、どこか冷静なわたしの二つの感情がある。
そして、わたしは女湯の暖簾を潜り脱衣場の扉をそろりそろりと扉を開きながら、「太郎君、大丈夫? 何処にいるの?」と風呂場にいるはずの太郎に向かって呼び掛けた。
もう一度、「太郎君」と呼び掛けた。だけど返事がない。一体どうしたというのかな?
心配になり心臓がドキドキドキドキと早く打つのが分かった。落ち着いて、落ち着いて、吸って吐いてと深呼吸をして呼吸を整えた。
太郎はきっと大丈夫だよ。そうだよ、大丈夫。
わたしは、浴室の扉に手をかけて勇気をだして扉を開いた。
すると。
太郎は風呂場のタイルの上でうずくまっていた。
わたしは、びっくりして太郎に駆け寄った。
「太郎君、大丈夫~」
わたしが声を掛けても太郎は動かない。まさかまさか太郎は……。そんな馬鹿なことがあるはずもない。心配が最高潮まで達したその時、太郎は、
「未央ちゃん、ひっかかった~」
と言って舌を出して笑った。
は?
なんだって、なんだって。ひっかかった~ってそれは何かな……。
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