どうかわたしのお兄ちゃんを生き返らせて

展望台とお兄ちゃんの願い

悔しい

  俺は悔しい。だけど史砂に何かをされてからでは遅すぎる。

  カラスは、真っ黒な羽をまるで人間の手のように顔まで持ってきて、考えるポーズをキメた。

  なんとも面倒くさい奴なんだ。腹が立って仕方がない。

『ではでは、教えてあげよう』カラスはカーッカーカーッと鳴き、それから。

  それから、とんでもないことを言った。

  それは……。


  それは……。


『お前の友達を犠牲にするんだな』

  と言ったのだった。

「俺の友達を犠牲にするって、どういうことなんだ？」

  俺の声は震えていたかもしれない。手にも脇にも嫌な汗をかいている。

『お前の友達に、友という奴がいるだろう？  そいつを史砂の変わりに犠牲にするのだ』

「友を……。史砂の変わりに犠牲にするってどういうことなんだ？」

  俺は身を乗り出して聞いた。

『言葉の通りだよ。史敏』

  カラスは低くてよく通る声でそう言ったのだった。



ーーーーー

  お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。わたしは、日記をここまで読むととても辛くて辛くて涙が溢れてきた。

  わたしの変わりに友君を犠牲にしろって言われたお兄ちゃん。

   なんてことなの。これはなんてことなの。

   お兄ちゃんもわたしと同じ目に遭っていたなんて。わたしとお兄ちゃんはそんなにいけないことをしたのかな？

  でも、カラスからしたらそうだよね……。
  ごめんなさいでは、許されないよね。

  お兄ちゃんは、友君を犠牲にしろって言われてどうしたんだろう？

  わたしは、日記帳のページを捲った。

  

  友を史砂の変わりにするなんて、そんな馬鹿なことってあるのか。

  史砂は俺の大切な妹で、友は俺の大切な親友なんだからどちらも犠牲になんて出来ない。

  俺が黙っているとカラスは、

『どうした？  史敏、どうしたんだ』と低くてよく通るゾクゾクする声で言った。

  

「犠牲にするってどういうことなんだ？」

  俺は、必死になりながら聞いた。

『それは……。それは、決まっているだろう』

  カラスは、当たり前だと言わんばかりの口調で言った。

  そして、カラスが続けて言った言葉は、そうその言葉は。


『史砂の変わりに友を殺す！』

  カラスは、友を殺すと言った。友を殺すと……。そんな馬鹿な、そんな馬鹿なことってあるのか。


「ふざけるな、友は俺の大切な友達なんだ！」

  俺はカラスに向かって大きな声で怒鳴り散らした。

  ふざけるなよ、ふざけるな。友は大切な友達なんだから。

『史敏、その友はお前にとって大切な友達だったんだな。それはよく分かった、だけどな、よく聞け俺の俺達の命も大切な命だったんだ！  分かるよな。史敏』

  カラスは、そのつぶらな瞳を見開き、そして黄色の光をピカッと光らせた。


  
  空が真っ暗になり風が強く吹いた。

  どちらをと言われても俺は、答えることなんて出来ない。

               俺には出来ない。

『何故、答えないんだ』

  カラスは、俺にジリジリと近寄って来る。

  俺は、近くにある小石を拾いカラスに投げようとした。

  すると、空が割れてピカピカと光った。