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死んだお兄ちゃんに会いたい

お兄ちゃんがいた町……

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「お兄ちゃんに会いたいよ~」

  わたしの叫びも虚しく、会えたことなんて一度もない。

  と、思ったその時ガサガサッと音がした。なんだろう?   動物かな?

  違う……。

  人間らしい白い人影がわたしの前をサッと横切りそして、ふっと消えた!

  まさか、お兄ちゃん?  お兄ちゃんなの?


  
  その人影が見えた方向へとわたしは走り出した。

  かなりの勢いで走った。けれど、右を向いても左を向いても、お兄ちゃんらしき姿は見当たらなかった。

「お兄ちゃん~」

   どうして死んでしまったの。お兄ちゃん、どうして……。胸が苦しくなりどうにかなってしまいそうだ。今にでもこの胸がぱーんと破裂してしまうんじゃないかなと思うくらい苦しい。お兄ちゃんを思い出すと辛くなる。

  わたしは、哀しくて辛くて立っていられなくなり膝から崩れ落ち泣いた。

  涙が次から次へとこぼれ落ちた。こぼれ落ちた涙が止まらない。

  お兄ちゃんが死んでから一年が経っていた。

  

  ーーー

「ねえ、大人になったら東京に行きたいと思わない?  こんな何もない田舎ではなくて」

  遠くを見つめ輝きのある大きな瞳をキラキラさせてゆかりが言った。

「だよね、やっぱりこんな田舎じゃつまんないよね」

  真由まゆもゆかりに同調した。

「ねっ、史砂ふみさ」 と、ゆかりがわたしに聞いた。

  だけど、わたしは……。


  
「え!?  わたしは、ずっとこの町にいたいな」

  わたしの返事にゆかりが、

「え~どうして?  この町には何もないじゃない」

  と、言って不思議そうにわたしの顔を見た。

「だって、この町は、お兄ちゃんが生きていた町だから……。離れたくないの」

「あ……。ごめん」

「そうだったね……」

  ゆかりと真由は、そう言って沈黙した。

  わたしと、ゆかりと真由の三人は、石段の上に腰をかけて座っていた。

  いやだ、わたしってば、二人に気を遣わせてしまった。駄目だなわたしは……。

  そう思ったその時、風がゆらゆらと優しく吹いた。そして、ふと、お兄ちゃんの優しかった顔が思い浮かんだ。


  
「ゆかり、真由気にしないでね。わたしは、この町が好きだから離れたくないの。ほら、自然もあるしわたしはここが好きなんだ。それだけだよ」

  そう言ってわたしは笑顔を作ってみせた。

「そうだよね!  うん、それもありかもね。この町は、素朴なところがあっていいよね」

  ゆかりは、両腕をぐーんと上げて伸びをしながら言った。

「そうそう」

   真由も笑い頬に丸い可愛らしいえくぼができた。
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