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わたしの中の英美利
桜色のスカート
しおりを挟むわたしはブルドックに似たおばさんに一度ならず二度までも食べたいなと思っていたものを横取りされた。
それがちょっと悔しくてイライラするのでわたしは、お菓子売り場をぐるぐる周りポテトチップスやクッキー等をカゴの中にポンポンと入れた。
他に買い忘れた物はないかなとカゴの中を確認する。化粧水が切れてることを思い出し化粧品売り場に向かった。
わたしは化粧品の陳列棚の前に立ちよく買っている化粧水を手に取ろうとしたその時、キラキラ輝くオーラーを感じた。
これはと視線を上にあげると中川英美利が微笑んでいる。
「え、英美利ちゃん!」
そうなのだ。英美利ちゃんが微笑んでいたのだ。と言うか英美利ちゃんの写真がPOPになっているのだった。
英美利ちゃんの『わたし英美利と綺麗な時間を過ごしましょうって』って声が聞こえてきそうだ。
この商品はテレビで観た化粧品だ。わたしは、英美利ちゃんの顔ばかりを見ていてなんの化粧品だったのか気にしていなかった。
チークのコマーシャルだったんだ。
写真をよく見ると英美利ちゃんのほっぺたはピンク色でふわっとしていて可愛らしいではないか。
わたしは、チークを手に取り買おうかなと考えた。このチークを使うとわたしも可愛らしくなれるのではと言う錯覚に陥る。
わたしは、中川英美利のPOPとチークを交互に眺めた。
このピンク色のチークは、わたしが欲しかったあの桜色のスカートのカラーと似ている。買おうかなとお値段を確認すると三千円と書いてある。
高いではないか。チークに三千円はちょっと高いよ。写真の英美利ちゃんに抗議したくなる。
でも、まあいいか買おう。幸い英美利ちゃん宅の仕事は時給千六百円なのでなんとかなる。わたしはチークをカゴの中に入れた。
レジでお会計を済ませたわたしは、その足でファッションビルへ向かった。
そして、わたしは目的のアパレル店へ直行した。そうなのだあの桜色のスカートを買うことにしたのだ。
桜色のスカートがまだ売られていますようにと願いながら店に入った。
「いらっしゃいませ~」と店員さんの元気な声がわたしを迎えてくれた。
先日飾られていたコーナーに桜色のスカートはなくて紫色のスカートが飾られていた。
わたしが欲しいのはこれじゃない。あの桜色のスカートは売り切れてしまったのかなと肩を落とし何気なくワゴンに目を向けると桜色のスカートがあったのだ。
「あったよ~」
わたしは嬉しくなり桜色のスカートを手に取った。そして、値札を見ると半額と赤色のシールが貼られているではないか。
これはもう買うしかない。
わたしはやっとの思いで桜色のスカートを手に入れたのだった。
店員さんはわたしのことを覚えていたか分からないけれど、「お客様のふわふわした可愛らしい雰囲気にぴったりですよ」と言ってにっこりと微笑んだ。
そして、半額商品のお買い上げだったが、店の外まで出てきて「ありがとうございました~」と見送ってくれたのだ。
わたしは何となく嬉しくなってショップの紙袋を振り回しながら家に帰った。
家に着くとわたしは早速買ってきた桜色のスカートを穿いた。柔らかい素材が肌に心地よくてこれはもうリラックスできるスカートなのだ。
「ふふっ、買って良かったな」
わたしは、全身鏡に映る自分に微笑んだ。それから英美利ちゃんとお揃いのチークを頬にぽんぽんとつけた。頬がほんのりとピンク色に染まりなんだか可愛らしい。
「わたし英美利と綺麗な時間を過ごしているわね」と英美利ちゃんの元気な声が聞こえてきそうだ。
でも、だけどと思う。
確かに鏡の中のわたしは可愛らしくなったけれど、中川英美利の圧倒的に美しくて可愛らしいあの姿とは比べ物にもならない。
まだ時々十代に見られる幼いわたしがにっこりと笑っているのだから。
それでもいいじゃない。わたしが英美利ちゃんになるなんて有り得ないし、英美利ちゃんだってわたしや奈美ちゃんになることだってできない。
世界に自分は一人しかいない。そう考えると心がふわりと軽くなった。
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