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お姉ちゃん
中川英美利のコメディドラマ『泥にまみれ雨に打たれる女』
しおりを挟む中川英美利のコメディドラマ『泥にまみれ雨に打たれる女』が放送される時間だ。英美利ちゃんは今回はどんなコメディな姿を見せてくれるのだろうか?
想像すると可笑しくなり笑ってしまった。
「あはは! 英美利ちゃんのすっ転ぶ姿が見られると思うと可笑しくて笑えてくるよ」
お姉ちゃんはそう言いながら手を叩き、唐揚げにお箸をブスブスと刺した。
「こら、順子! 唐揚げにお箸をブスブス刺すのは止めなさい!」
「あはは! だって~英美利ちゃんのすっ転ぶ姿を想像するとあまりにも可笑しくて」
お姉ちゃんはブスブスと刺した唐揚げを口に運び食べた。
「さあ、テレビを点けるよ~」
わたしは、テレビのリモコンを手に取り電源ボタンを押した。
さあ、中川英美利のコメディドラマ『泥にまみれ雨に打たれる女』の始まりの時間です。
チャララーンと音楽が流れ中川英美利が画面に映し出された。
『わたしは泥にまみれても雨に打たれても負けないわよ!』これは英美利ちゃんの名台詞だ。
「あはは、笑えるんだけど」
お姉ちゃんは英美利ちゃんがアップに映し出された画面を指差し笑った。
テレビ画面の中の英美利ちゃんはお姉ちゃんに笑われていることなどもちろん知らず迫真の笑える演技を繰り広げている。
『泥が何よ! 雨がどうしたと言うのよ』
英美利ちゃんは傘も持たず激しい雨に打たれ目も開けているのも辛そうな表情を浮かべている。
雨はどんどん激しさを増し英美利ちゃんはびしょ濡れになっている。美女中川英美利は雨に打たれる凄まじい演技を披露した。
『わたしは、雨になんて負けない! もちろん泥にまみれても負けないんだからーー!』
英美利ちゃんの叫び声が部屋中に響き渡った。
これはダメだ。もうダメだ。笑ってしまう。
だって、テレビ画面の中の英美利ちゃんは何を思ったのか、
『雨よ風よ、そして泥水よ~そんなものにこのわたしは負けやしないんだから』と叫んだかと思うと、泥がたまった水たまりにバッシャーンと飛び込んだのだ。
「あははっ! 英美利ちゃんってば可笑しいよ」
わたしは手を叩き笑った。
そして、お姉ちゃんは唐揚げにお箸をブスブスと刺しながら「英美利ちゃんってば最高だよ~」と言って涙を流しながら笑っている。
「こら、順子! 唐揚げにお箸をブスブスと刺すのは止めなさい」
お母さんはお姉ちゃんに注意をしながらも笑っている。やはり英美利ちゃんは最高のコメディ女優なのだ。本人にそんなことを言うときっと怒るとは思うけれど。
画面の中の英美利ちゃんは、泥がたまった水たまりから顔を上げた。その姿は正に泥にまみれても美しい女性の姿だった。のかな……?
『次回もお楽しみにね』
英美利ちゃんは泥にまみれたその顔のままにっこりと微笑んだ。そんな英美利ちゃんはやっぱり美しかった……とは言えないのかもしれない。
だけど、中川英美利は最高に素晴らしい女優になったなとわたしは思った。
チャララーンとドラマの主題歌が流れた。テレビの画面には英美利ちゃんの様々な表情が映し出されている。綺麗な英美利ちゃんもドジな英美利ちゃんもそして、泥にまみれた英美利ちゃんのその姿も。
その全てが中川英美利であった。
わたしが幼い頃から憧れていた近所のお姉さんだった英美利ちゃん。近くにいても遠くて、だけど近寄りたくて、でもやっぱり近寄りがたくもあった。
そんな英美利ちゃんに憧れては自分には無いオーラを持っている英美利ちゃんが羨ましくて嫉妬していたのかもしれない。
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