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奈美ちゃんと英美利ちゃん

お姉ちゃんの気持ちとタコさんウインナー

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「じゃあ、このタコさんウインナー食べてみてね」

  奈美ちゃんはうさぎ柄の紙皿にタコさんウウインナーや卵焼きなどを一人分ずつ菜箸で取り分けてくれた。そして、わたし達の目の前に順番に置いてくれた。

「……懐かしい」

  お姉ちゃんは、タコさんウインナーなどが盛られたうさぎ柄の紙皿をじっと見つめながら言った。

「うふふ、懐かしいよね。中学時代、順子ちゃんと一緒に食べるお弁当は楽しくて美味しかったな」

  奈美ちゃんは、タコさんウインナーを口に運び食べた。その表情は幸せそうだ。

「……わたしは……楽しかったけれど、楽しくなかったよ」

  お姉ちゃんはポツリと呟きそして、タコさんウインナーを食べた。

  タコさんウインナーを食べるお姉ちゃんに皆の視線が集まる。

「そっか……わたしは楽しかったよ。だけど、順子ちゃんは楽しくなかったんだね?」

  奈美ちゃんの顔は悲しげに曇った。

「だって、奈美ちゃんは優しすぎるから……それにいつもニコニコ笑っていたのも気に入らなかったよ」

  お姉ちゃんは、二つ目のタコさんウインナーをぱくっと食べながら呟いた。

  「……だって、人見知りが激しかった中学生のわたしは順子ちゃんに声をかけられて嬉しかったよ。だから、ずっとニコニコ笑っていたんだよ」

「うん、確か前に奈美ちゃんそう言ってたよね。でも……」

  お姉ちゃんは、真っ赤な可愛らしいタコさんウインナーにお箸を刺した。何度も何度もタコさんウインナーにお箸を刺した。

「順子ちゃん、やめなさいよ!  タコさんウインナーが可哀相だよ」

  それまで黙っていた英美利ちゃんが言った。

「タコさんウインナーが可哀相なんだ。ふ~ん、英美利ちゃんの口からそんな言葉が聞けるなんてね。ふ~ん」

  お姉ちゃんは、お箸で突き刺し穴ボコになってしまった可哀相なタコさんウインナーをぱくっと食べた。

「あ~美味しいな」

  そう言って笑うお姉ちゃんの笑顔はなんだか魔女みたいに見えて怖い。

  
  お姉ちゃんは、タコさんウインナーをぱくぱくと食べている。そんなお姉ちゃんをわたし達三人はじっと眺めた。

  黙々とタコさんウインナーを食べ続けるお姉ちゃん。その心の中は一体どうなっているのだろうか。

「あ~あ、順子ちゃんって本当に面倒くさい子だよね」

  英美利ちゃんは、タコさんウインナーを食べながら言った。英美利ちゃんのタコさんウウインナーを食べるその姿は絵に描いたように綺麗だった。

「何ですって!  中学時代、奈美ちゃんの教科書を破いたり意地悪なことばかりしていたくせに! 英美利ちゃん、あなたこそ面倒くさい子だったじゃないの」

  お姉ちゃんは、卵焼きを口に運び一口で食べた。

  英美利ちゃんはふぅーと溜め息をつき、「今を生きようよ」と言った。

  わたしもお姉ちゃんに今、この瞬間を大事にしてもらいたいなと思った。
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