バナナとリンゴが机の上から同時に滑り落ちたら

英美利ちゃんは好きだけど嫌い

英美利ちゃんが帰ってきた

「英美利様、おかえりなさいませ」

  雪本さんは深く頭を下げた。

「英美利ちゃん、おかえりなさい」

  わたしは、にっこりと笑った。

「ただいま～今日は仕事が早く終わったんだよ。ケーキ買ってきたから一緒に食べましょう」

  英美利ちゃんは嬉しそうにケーキの箱をわたし達に見せた。

「英美利様、ありがとうございます。ケーキを買ってきてくださるなんてわたしは感激でございます」

  雪本さんは、天にも昇る気持ちになっているのかふわふわと天界にでも昇っていきそうなほど嬉しそうに微笑んでいた。

「ありがとう。英美利ちゃん」

  わたしも笑顔で挨拶をした。

「あ、あれ？  ゴキブリ用の殺虫剤が床に転がっているんだけど……どうして？」

  英美利ちゃんは不思議そうに首を傾げた。

「……英美利様、申し訳ありません。その……ゴ、ゴ……」

「ゴ、ゴって何なの？」

「はい、その……ゴ、ゴキブリが出てしまいました。申し訳ありません」

  雪本さんはそう言って大袈裟に頭を下げた。

  「えっ！  えーーーーーーー！  わたしの部屋にゴ、ゴキブリが出たですって！」

  英美利ちゃんは手に持っていたケーキの箱をぽとりと床に落っことしてしまった。

「え、英美利様……大変申し訳ございません。わたし雪本が英美利様のお部屋を守りきれずに……」

  雪本さんは、深々と頭を下げた。

「雪本さんのせいじゃないわよ。ゴキブリが出たことがショックなだけよ。退治してくれたのよね？  それならいいわよ。ケーキを食べましょう」

  英美利ちゃんは、床に落っことしてしまったケーキの箱を拾いながら言った。

「ありがとうございます。英美利様」

  雪本さんはもう一度深々と頭を下げた。

「わたしは着替えてくるからお茶の準備をしてね」

  英美利ちゃんは、ケーキの箱をテーブルに置き、台所から出て行った。

「英美利様はやはりお優しいわ」

  雪本さんはぽつりと呟いた。