19 / 86
お姉ちゃんと英美利
どうしたらいいの?
しおりを挟むわたしは、慌てて三階の角部屋に向かう。
「成田さ~ん、成田葉月さんはいますか?
成田葉月さ~ん。成田葉月さんはお留守ですか? 葉月さ~ん、葉月さ~ん、成田葉月さ~ん 」
ドンドンドン! ドンドンドン! ドンドンドンドン!
ドンドンドンと扉を何度も何度も激しく叩く音とわたしの名前を大きな声で呼び叫ぶその声が聞こえてきた。
うわぁーこの声は……。
これは大変だ。勘弁してよとわたしは角部屋に向い走る。近所迷惑だよ。
わたしの部屋の前に辿り着くと、手に真っ赤なバッグを持ちグレーのワンピース着た女性が立っていた。
「お姉ちゃん! うるさいよ、お願いだから部屋の前でさけばないでよ~近所迷惑だよ」
わたしは眉根を寄せながら言った。
「あ、葉月ちゃんだ~」
わたしの声に振り返ったお姉ちゃんの顔は、さっきまで泣いていたのだろう目が真っ赤だった。けれど、わたしの顔を見るとパッと花が開いたような笑顔になった。
「葉月ちゃんだじゃないわよ。取り敢えず部屋の中に入って!」
わたしは、にっこりと笑うお姉ちゃんの腕を掴んだ。
「ちょっと葉月ちゃん痛いよ。久しぶりに会ったのに何よその顔は怖いよ。お姉ちゃ~ん久しぶりって言ってくれるのが普通じゃない? 葉月ちゃんは冷たい、冷たい、冷たいよ……葉月ちゃんが冷たいよ……」
お姉ちゃんはわたしのことを冷たいと言ったかと思うと、うわぁーん、うわぁーんと泣き出した。
「ち、ちょっとお姉ちゃん! 泣かないでよ……」
わたしは、慌てて鞄から鍵を取り出し部屋の扉を開けた。そして、お姉ちゃんの腕をグイッと引っ張り部屋の中に押し込んだ。
「葉月ちゃんは、わたしに会いにも来てくれないよ~冷たい、葉月ちゃんは本当に冷たいよ~」
部屋に入ったお姉ちゃんは、
床にしゃがみ込み、うわぁーんうわぁーんと泣きながら床をバンバン叩いた。お姉ちゃんの真っ赤なバッグは床に転がっている。
わたしはどうしたら良いのやらとその場に立ち尽くした。
「ねえ、お姉ちゃん。お母さんが心配しているよ。何かあったの?」
わたしは、お姉ちゃんにティッシュペーパーを差し出しながら言った。
「どうして心配するのよ? わたしは大人だよ。葉月ちゃんなんて一人暮らしをしているんだよ。毎日家に居ないのよ。これって変じゃない? 不公平だよ」
お姉ちゃんは、わたしが渡したティッシュペーパーで鼻をチーンとかみながら言った。
「……それは、わたしは一人暮らしをしているから家に居ないのは当たり前だけど……お姉ちゃんは実家に住んでるのに帰ってこないからお母さん心配しているんだよ」
「だから、それがおかしいのよ!」
お姉ちゃんは泣いていたかと思うと今度は鋭い目つきでわたしを睨んだ。
「……」
何だろう? お姉ちゃんは一体どうしたというのだろうか?
「葉月ちゃんはいいよね。あっさり一人暮らしをしちゃってね。わたし、一人暮らしをしたいと言ったのよ。そしたら、お母さんが駄目だって言うんだよ。ねえ、葉月ちゃんどうしてかな?」
お姉ちゃんは、わたしの目をじっと見つめた。その目には哀しみの色が見え隠れしていた。
「それは、その……」
なんて答えたらいいのか分からないよ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
すこやか食堂のゆかいな人々
山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。
母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。
心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。
短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。
そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。
一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。
やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。
じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる