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運命が動く

平凡なわたしの毎日

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  春のオレンジ色に輝く夕焼け空がキラキラと輝きとても綺麗だった。

「では、明日から頑張ってくださいね」と浜本さんが挨拶をし、「はい、頑張ります」とわたしは答え、各々の電車に乗り家路に着いた。

  わたしは駅前のスーパーに寄りおばさん達に混ざり安い食材の争奪戦に加わる。

「ちょっと、それはわたしのお刺身よ」

  振り返るとブルドッグみたいな顔をしたおばさんが眉間に深い皺を寄せてわたしを睨みわたしが掴んだ半額シールの貼られたお刺身のパックを引っ張ってくる。

「えっ、でも……わたしが先に取りましたよ」

「いいえ、そのお刺身はわたしが一度カゴに入れたのよ」

「はい?  でも、今ここに置かれてましたけど……」

「半額になるのを待ってたのよ。で、半額セールが始まったから一度そこに置いたのよ」

  おばさんは納得のいかない屁理屈をこねる。

「そんなの屁理屈です!」

「何ですって?  あなたこのわたしの言ってることが間違っていると言うの」

  おばさんは大きな声を上げた。

「……おばさんにこのお刺身譲りますよ」

  
  買い物を終え食材のたくさん入った重たい袋を抱え川沿いの道をてくてく歩く。桜の花びらが春の風に吹かれてさらさらと舞う。

  おばさんの迫力に負けたわたしはお刺身を譲り納豆を買った。

 七階建てのマンション前に立つ。英美利ちゃんの立派な豪邸からこの家に帰って来るとなんだか惨めな気持ちになった。

  英美利ちゃんはみんなから愛されて幸せな人生を送っている。欲しい物はきっとなんだって手に入る。羨ましいな。半額シールの貼られたお刺身の取り合いなんてすることもないだろう。

  それにしてもどうしてお刺身を食べるつもりが納豆になってしまったのだろうか。自分が惨めに思えてくる。

「あ~嫌になる~おばさんにお刺身も奪われた~」

  わたしは扉の前で思わず叫んでしまった。

  
  いけない扉の前で叫んでいると苦情を言われてしまうかもしれない。わたしは慌てて鞄から猫のキャラクターが付いた部屋の鍵を取り出して扉を開けた。

  誰も居ない真っ暗な部屋に向かって「ただいま」と声を掛ける。もちろん返事はなくてシーンとしたままだ。

  いつものようにベッドの上でわたしの帰りを待っているぬいぐるみの猫ぴーちゃんに、「ただいま」と挨拶をして頭を撫でた。

  台所のテーブルの上に買ってきた食材の入っているスーパーの袋をドサッと置く。今日の夕飯は納豆ご飯と冷蔵庫の中にある野菜を使い炒め物でも作ろう。

  次の給料日まで節約しないと。

  キッチンに立ち炒め物を作る。キャベツともやしの炒め物だ。

「いただきます」と手を合わせてテーブルに並べたキャベツともやしの炒め物とマヨネーズをたっぷりかけた納豆を食べる。お米だけはたくさんあったのでお茶碗にご飯をてんこ盛りに盛った。

  今頃英美利ちゃんは贅沢な食事をしているのだろうなと想像する。優雅に微笑みを浮かべる英美利ちゃんの笑顔がぱっと頭に浮かんだ。


  「悔しい~ううん、悔しくなんてないもんね。マヨネーズをたっぷりかけた納豆は美味しいんだもん」

  わたしは、お箸でマヨネーズをかけた納豆をぐるぐるぐるーと何回も混ぜた。熱々のご飯と納豆は良く合う。納豆にマヨネーズをかけるとまろやかになり美味しい。質素な食事ではあるけれどなんだか幸せな気持ちになった。

  ご飯を三杯食べたわたしはお腹が一杯になり満足した。緑茶をごくりと飲んでごちそうさまでした。

  明日の英美利ちゃん宅の仕事に備えて今日は早く寝ようかな。

  布団に入り見た夢は美しい英美利ちゃんと浜本さんが楽しそうに会話をしている夢だった。夢の中のわたしはそんな二人のやり取りを眺めてクスクス笑っていた。

 そう、笑っていたんだけど……

  突然、お姉ちゃんが夢の中に現れてゾクリとして嫌な気持ちになった。お姉ちゃんなんて見たくもない思い出したくもないと思ったところで目が覚めた。

  良い天気の朝だった。
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