上 下
4 / 86
運命が動く

懐かしい笑顔

しおりを挟む
「あ、はい……ごめんなさい。気安く英美利ちゃんなんて呼んでしまって」

  わたしはチラリと英美利ちゃんの美しい目を見て言った。

「ううん、英美利ちゃんでいいよ。それより、葉月ちゃん久しぶりだね」

  英美利ちゃんはにっこりと天使のような微笑みを浮かべた。相変わらずうっとりするような美しさだ。

「何年ぶりでしょうか?」

「う~ん、わたしがアイドルになってからは町ですれ違ったくらいだったかな?  もう何年もまともに話してないね」

  英美利ちゃんは顎に人差し指を当ててうーんと考えるポーズを取る。その姿は女優だけありまるで映画の中の一コマのように見えた。

  そんな英美利ちゃんを綺麗だなと惚れ惚れしながらじーと見ていると、

「浜本~お茶の用意をお願い~早く~」と扉に向かって英美利ちゃんは叫んだ。

  「なんだよ、英美利うるさいな。なんで俺がお茶を淹れなきゃないけないんだよ」

  浜本と呼ばれた三十代半ばくらいの男性が嫌そうな顔をして部屋に入ってきた。

「葉月ちゃんにお茶を淹れてあげてよ」

「あーん、あ、どうも英美利のマネージャーの浜本です」

  浜本さんは、わたしに気づきぺこりと頭を下げた。

  わたしも慌ててぺこりと頭を下げ、「はじめまして、成田葉月です。わたしがお茶を淹れます。お手伝いさんの仕事で来ましたし」と言った。

「葉月ちゃん、いいのよ。今日は、仕事の説明だけで来てもらったんだから。浜本~早くお茶を淹れてよ!」

  英美利ちゃんは、わたしに天使の微笑みを向け、浜本さんを急かす。

「英美利分かったよ。淹れたらいいんだろ。いつも偉そうなその態度がムカつくんだよ」

「美人なわたしがお願いしているのよ。さっさとしなさいよ」

  英美利ちゃんは腰に手を当ててふんぞり返る。

「はい、はい。英美利様。美人なのも今だけだぞ。そのうちしわくちゃのババアになるんだよ」

  浜本さんは、ふんっと鼻息を荒くしてドスンドスンと大股で歩き部屋を出て行った。

  「しわくちゃのババアになるんだよってなんて失礼な奴なのよ!  あ、葉月ちゃん、座って」

  英美利ちゃんは、キッと目を三角にしてそれからソファーを指差しわたしに座るように勧めた。

「浜本は本当に頭にくるよ。このわたしにあんなことを言うなんてね」

  「いつも浜本さんはあんな感じなんですか?」

  わたしは勧められたソファに座りながら言った。ソファは柔らかくて座り心地がとても良かった。これはきっと高級な素材を使っているな。ふかふかだもん。

「うん、そうだよ。わたしを馬鹿にして頭にくるよ。あ、葉月ちゃん敬語なんて使わなくていいからね。学生時代の頃の話し方でいいからね」

  英美利ちゃんは花のような笑顔を浮かべて言った。

「あ、はい。うん、じゃあ、お言葉に甘えて……」

  わたしもにっこり笑った。

「浜本のことは脇に置いといて、久しぶりだから仕事の話をする前に昔話でもしようよ」

「……あ、うん」

  昔話か……。あまり思い出したくないこともあるけれど。英美利ちゃんはどう思っているのだろうか。

  「でも、葉月ちゃんが元気そうで良かった。たまにね葉月ちゃんどうしてるかなって思い出すこともあったんだよ」

  英美利ちゃんは女優の顔からわたしのよく知っている学生時代の懐かしい表情に戻る。

「本当に……思い出してくれたりしていたの?  わたしはテレビで英美利ちゃんをよく見かけていてコメディ女優として活躍していて凄いなと思っていたよ」

「あははっ、コメディ女優って……わたしはコメディ女優なんかじゃなくてこの美しい顔が活かせる絶世の美女役をやりたかったのに人生って思った通りにならないよね」

  英美利ちゃんは、ふぅーと息を吐いた。

  相変わらず英美利ちゃんは自分に自信があって羨ましいなと思う。まあ、これだけの美女だとそうなるのかもしれないけれど。

「それがね、浜本の奴がコメディ作品の仕事ばかり取ってくるんだよ。マネージャー失格だよね」

  英美利ちゃんは鼻息を荒くして言った。

「そうなんだ。でも大活躍してるからいいじゃない」と、わたしが言ったところで扉がガチャリと開いた。

  浜本さんがお盆にティーカップを載せて立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語

菱沼あゆ
ライト文芸
「俺が寝るまで話し続けろ。  先に寝たら、どうなるのかわかってるんだろうな」  複雑な家庭環境で育った那智は、ある日、ひょんなことから、不眠症の上司、辰巳遥人を毎晩、膝枕して寝かしつけることになる。  職場では鬼のように恐ろしいうえに婚約者もいる遥人に膝枕なんて、恐怖でしかない、と怯える那智だったが。  やがて、遥人の不眠症の原因に気づき――。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...