上 下
54 / 60
美衣佐がわからない

再び美衣佐Side

しおりを挟む


  二階に辿り着くとわたしは木製の扉の前で深呼吸をする。当近さんとお兄ちゃんはこのカフェで何を話していたのだろうか。ちょっと気になる。

  わたしは、木製の扉を開けた。ドアベルががカランカランと鳴る。

「いらっしゃいませ~」と美間さんの明るい声が聞こえてきた。

  店内は今日も木の温もりを感じるゆったりした空間になっていた。お客さんは年齢も性別も様々でけっこういた。

「あら、美衣佐ちゃんじゃない。こんばんは」
「美間さんこんばんは」

  わたしは、店内のカウンター席に目を向けたのとほぼ同時にお兄ちゃんが振り向いた。

「あ、美衣佐」とびっくりしたように目を丸くした。

「お兄ちゃん今日はお客さんとして来たんだね?」

  わたしは、お兄ちゃんの左隣のカウンター席に腰を下ろす。きっと、さっきまで当近さんが座っていた席だ。

「うん、そうだよ」
「ふ~ん、そうなんだね」

「美衣佐ちゃんお冷やとメニュー表をどうぞ」

  美間さんがやって来てわたしの目の前にお冷やとメニュー表を置きパタパタと厨房へ戻った。

「お兄ちゃんもいるから海老ドリアでも食べようかな。どうせお母さんは帰り遅いだろうしね。お兄ちゃんも海老ドリア食べない?」

  わたしは開いたメニュー表の海老ドリアを指差し言った。

「あ、海老ドリアか……それさっき食べたから違うメニューにするよ」

「え!  お兄ちゃん海老ドリア食べたの?  それって当近さんとかな?」

「うん、そうだよ。って美衣佐どうして当近さんが来てたって知っているんだ?」

「お兄ちゃんってばどうしてそんなに驚いているのかな?  今、そこの階段で当近さんとすれ違ったんだよ」

  わたしは口元に手を当ててクスクス笑った。

「そっか、そうなんだね」

  お兄ちゃんのその目はちょっと泳いでいるように見えた。けれど気のせいかな。それより、

「ねえ、お兄ちゃん海老ドリアはわたしとだけ食べるって決めてなかった?」わたしは頬をぷくっと膨らませ言った。

「え?  そんなこと言ったかな?」
「言ったよ。大好きな海老ドリアはわたしとお兄ちゃんの特別メニューにしようねって」
「そうだったか。美衣佐ごめんね」



  わたしはお兄ちゃんが謝ってくれたので許した。わたしは海老ドリアを注文して、お兄ちゃんはナポリタンパスタだ。

  きっと、当近さんとも笑顔で食事をしたはずだけど、お兄ちゃんとこのニコニコカフェで食事をする時間はとても幸せだった。

  海老ドリアの海老はぷりぷりしていて美味しくて濃厚なホワイトソースもチーズも最高だった。今日は学校で当近さんと気まずくなってしまったけれど、この海老ドリアで帳消しだ。

「美衣佐あのな」、「お兄ちゃんあのね」とわたしとお兄ちゃんの言葉が重なった。

「あ、美衣佐なんだ?  先に言っていいよ」

  お兄ちゃんは優しくて先を譲ってくれる。

「わたしね楽しいことを思いついたんだよ」

  満面の笑みを浮かべるわたしの顔をお兄ちゃんはじっと見ている。

「ん?  楽しいことって何かな?」
「わたしの誕生日なんだけどね」
「何か欲しいものでもあるのかな?  バイト代で買えるものだったら大丈夫だよ」
「あはは、プレゼントも欲しいけど誕生日パーティーをこのカフェでやってほしいなって思ったんだよ」

  わたしはニコニコと笑い「ねっ、いいでしょ?」と聞いた。

「うん、大騒ぎしなければいいよ。一応美間さんに確認してみるね」
「ありがとう、お兄ちゃん大好きだよ~」
「あはは、大袈裟な奴だな」

  お兄ちゃんは包み込むような笑みを浮かべた。

「うふふ、それでね、当近さんもクリスマスが誕生日なんだ、誘ってOKしてくれたら合同誕生日会にしたいな」

  わたしは熱々の海老ドリアを食べ終え最高の誕生日パーティーにするんだからねとほくそ笑む。

  まだ、少し先だけど誕生日の十二月二十五日が楽しみだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

思い出を売った女

志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。 それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。 浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。 浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。 全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。 ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。 あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。 R15は保険です 他サイトでも公開しています 表紙は写真ACより引用しました

私と継母の極めて平凡な日常

当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。 残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。 「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」 そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。 そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~

浅葱
ライト文芸
小学生の頃、不注意で逃がしてしまったオカメインコと山の中の高校で再会した少年。 男子高校生たちと生き物たちのわちゃわちゃ青春物語、ここに開幕! オカメインコはおとなしく臆病だと言われているのに、再会したピー太は目つきも鋭く凶暴になっていた。 学校側に乞われて男子校の治安維持部隊をしているピー太。 ピー太、お前はいったいこの学校で何をやってるわけ? 頭がよすぎるのとサバイバル生活ですっかり強くなったオカメインコと、 なかなか背が伸びなくてちっちゃいとからかわれる高校生男子が織りなす物語です。 周りもなかなか個性的ですが、主人公以外にはBLっぽい内容もありますのでご注意ください。(主人公はBLになりません) ハッピーエンドです。R15は保険です。 表紙の写真は写真ACさんからお借りしました。

処理中です...