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美衣佐がわからない

返して!

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「あれ?  当近さん教室に入らないの?」

  引き戸の引き手に手をかけたまま突っ立っているわたしに美衣佐が不思議そうに聞いてきた。

「あ、うん、入るよ……」

  わたしは返事をしながら引き手にかけた手を横に動かしガラガラと開けた。

  美衣佐と一緒に登校すると、あの日の美衣佐の笑い声がよみがえってくる。わたしの気持ちなんて気づきもしない美衣佐は、教室に足を踏み入れると、

「おはよう~」とクラス全体に挨拶をした。

「美衣佐ちゃんおはよう~」
「牧内さん、おはよう~」
「おはよう~」

  とすでに登校していたクラスメイト達が口々に挨拶をした。このクラスにぱっと綺麗な艶やかな花が咲く瞬間だった。

  窓際の自分の席に腰を下ろしたわたしは、通学カバンから筆記用具とそれから交換日記を取り出した。

  隣の席の美衣佐は窓際の一番前の席に座っている三竹さんと何やら話している。見たくもない光景だ。

  わたしは、二人を視界に入れたくないので通学カバンから小説を取り出し読む。

  なかなか面白い内容のミステリーホラー小説だったのでわたしは、のめり込むように読んだ。気がつくと美衣佐と三竹さんのことなんてすっかり忘れて夢中になった。わたしは本の中の住人になっていた。

「あれ?  可愛らしいノートだね」と誰かが言っているみたいだったけれど、わたしは、気にしないで本を読み続けた。


「いちご柄でふわふわした肌触りのいいノートだね。これ当近さんのノートかな?  可愛い~」

  今、とんでもないことを話す声が聞こえてきたような気がした。

  わたしは、本から顔を上げた。すると、三竹さんがわたしと美衣佐の交換日記を手に取っているではないか。

「あ、それ!!」

  わたしは、大きな声を上げてしまった。

「当近さんっていちご柄が好きだったんだね。美衣佐ちゃんと同じだね~」

  三竹さんは、わたしの叫び声なんて気にする素振りも見せず交換日記のページを捲ろうとした。

「ち、ちょっと!!  触らないでよ」

  わたしは、椅子から立ち上がり三竹さんが捲ろうとしている交換日記に手を伸ばした。

  三竹さんのちょっと吊り上がり気味の目とわたしの目がぶつかり合う。

  わたしは、伸ばしたその手で三竹さんが持っている交換日記をパッと取り返した。

無我夢中だったのでまさか、交換日記の角が三竹さんの顎にパコンっと当たると思ってはいなかった。

「い、痛いよ!  当近さんってば何するのよ」

「えっ、あ、ご、ごめんね」

  怒りたいのはわたしの方だったけれど、三竹さんの鬼のような形相があまりに怖くて謝った。それに交換日記が顎にぶつかり痛そうだったので。

「ごめんねじゃないわよ!  めちゃくちゃ痛かったんだからね」

  三竹さんは顎をさすりながらわたしを睨み付けた。

「あれ?  真紀ちゃんどうしたの?」

   教室の後ろの引き戸をガラガラと開けて入って来た美衣佐が首を横に傾げながらわたしと三竹さんの顔を交互に見た。

「可愛いノートを見せてもらおうとしただけなのに当近さんってばノートの角で叩くんだよ。美衣佐ちゃんトイレになんて行ってる場合じゃないよ」

  三竹さんはそう言ってわたしをギロッと睨みそれから席に戻ってきた美衣佐の顔に視線を移した。
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