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おばあちゃんとずっと一緒にいられたら

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「……帰るってどこに?」

  そう聞きながらもその答えをわたしは聞きたくなくて耳を塞ぎたくなった。

「……それはね、佐波ちゃんがまだ来たら駄目なところよ」


  おばあちゃんは、そう答え自身が作ったおはぎを美味しそうに頬張った。おばあちゃんの顔は食べている時の表情も幸せがじわりと溢れていて見ていると癒される。

「来たら駄目なところ……」

「うん、そうよ。佐波ちゃんは、これからも美味しい料理やデザートを食べたりたくさんの出会いを経験して生きていかなきゃならないものね」

「わ、わたし、おばあちゃんがいるところだったらそこに行きたいかも!」

  だって、会社も解雇されたしこれからの人生いいことがあるか分からないのだから。


  それだったらと思ってしまう……。

「おばあちゃんはね佐波ちゃんに会いたかっただからこうしておはぎも作ったしお好み焼きだって……」

「お好み焼きってそう言えば」

  わたしは、おばあちゃんが急須から注いだほうじ茶を澄ました顔でズズズッと飲んでいる神本さんの綺麗な横顔と口の周りにおはぎのあんこをくっつけているひよこちゃんの顔をちらりと見た。

  わたしの視線に気がついたらしい神本さんがこちらを見て、「俺の顔に何かついていますか?」と言った。

「えっと、お好み焼きのことなんですけど」

「お好み焼きのことですか?  それがどうかしましたか?」

  神本さんはすっとぼけて口笛をヒューヒューと吹いた。その綺麗な顔にも似合わないしそれに、先程お好み焼きについて『喜んで頂けて良かった』と言ったのに何を今更とぼけているのかなと思うとおかしくなる。

  神本さんは何を考えているのか分からない人だなと思う。
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