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第七章 吉田さんと動物達そして

5 夜には何が

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  調理場でみどりちゃんがゴーヤチャンプルーを手際よく炒めているのを眺めながらわたしはもやしを洗った。

  醤油の香ばしい香りがふわふわと漂い美味しそうだ。ゴーヤを入れなければいいのになと思いながらわたしが嫌いなゴーヤが炒められていく様子をぼんやりと眺めていた。

「真理子、もやしいつまで洗っているの?」

「あ、ごめん」

  わたしは、もやしをみどりちゃんに渡した。

  吉田さんと桃谷さんのことが気になる。

『元気と言ったらおかしいですが元気ですから大丈夫ですよ』と桃谷さんに言ったあの吉田さんの言葉はなんだったのだろうか?  どういう意味だったのかな?

  気になって仕方がない。桃谷さんの寂しそうな姿と吉田さんの優しい声と心配そうに見つめている表情が頭の中から離れない。

  そんなことを考えているとみどりちゃんが、「ゴーヤチャンプルー出来たよ」と言った。

  お皿の上には緑色のボツボツがあるゴーヤがてんこ盛りに盛られていた。


  
  桃谷さんがゴーヤチャンプルー定食を美味しそうに食べて、美味しかったですではまた来ますねと言って帰った後もずっと二人の会話が気になった。

  時々吉田さんの横顔をちらりと見るけれどいつもと変わった様子はない。鼻歌なんて歌いながら本の整理をしている吉田さん。

  わたしは気になり心配しているのが馬鹿らしくなってきた。ふんだ、ふんだ、いいもんねと本棚にハタキをぱたぱたとかける。ハタキって今どきレトロだなと思いながらかける。埃がふわりと舞った。

「梅木さん、俺の顔に何か付いていますか?」

  わたしが、吉田さんの顔をちらちら見ながらハタキをかけていると吉田さんがニヤリと笑って聞いた。

「あ、いえ、別に……吉田さんの顔は見てません。ハタキをかけているんですもん。あ、埃が付いているかも……」

  わたしは、そう言って作り笑いを浮かべた

「ふーん、そうですか?」

「はい」

「もし気になっていることがあるのなら答えられることであればお答えするのにな~」

「えっ、答えてくれるんですか?」

「あははっ、やっぱり気になっているんじゃないですか」

  吉田さんは悪戯っぽく笑った。

  「教えてもらえるんですか?」

   わたしは、吉田さんのちょっと悪戯っ子みたいになっている顔をちらりと上目遣いで見た。

「う~ん、どうしましょうかね?」

  吉田さんは右側の口角だけ上げてニタリと笑った。ちょっと意地悪ではないか。

「教えてくれるんですか?  どっちなんですか?」

「分かりました。では少しだけ教えて差し上げましょう」

  吉田さんはクスッと笑いそれからいつもの優しい猫が眠っている時の表情にそっくりな笑顔になった。

「あ、何の話ですか?」

  みどりちゃんが抱えていた本を机に置き話に加わった。

「仕方がないですね。二人はこの古書カフェ店の店長ですからお話しますね。あ、だけど夜まで待ってくださいね」

「夜まで?  どうしてですか?」

  わたしとみどりちゃんはほぼ同時に言った。

「それは、可愛らしい動物達にも関係あるからですよ」

「可愛らしい動物達って茶和ちゃん達のことですか?」

「はい、そうですよ。ちょっといろいろありまして……」

  吉田さんの顔は哀しいようななんとも言えない表情だ。

   茶和ちゃん達と関係ある話とは一体どういうことなのだろうか?  

  わたしは一体どんな話なのかなと気が気でなかった。この日は夜までの時間がとても長く感じられた。
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