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ルーピー村とこれからのわたし達
しおりを挟む紅茶をゆっくり飲み心を落ち着かせたわたしは、この世界を探検することにした。
「ルーピー村は素朴な村ですが自然があり良いところですよ」
マルコーリさんはにっこりと笑った。
「そうなんですね。わたし、自然があるところって好きですよ」
「それは良かった。これ、お昼ごはんにどうぞ」
そう言ってマルコーリさんはポシェット型の鞄を差し出した。
「ありがとうございます」
受け取るとズシッと重たい。ポシェットの中には何が入っているのだろうか。こんなに良くしてくれるマルコーリさんに感謝をしなくてはと思った。
「そういえばシロリンはどこに行ったんでしょうね?」
「あ、姿が見えないですね」
わたしは、部屋の中をぐるりと見渡した。けれど、シロリンの姿は見当たらない。
「爪とぎをしてなきゃ良いのですがね。サーリーと一緒に出かけるんですよね」
「はい、お出かけと言って喜んでいました」
わたし達がそんな話をしていると。
「お待たせしました~にゃん」
シロリンの元気な声が聞こえてきた。その声に振り返ると、頭に真っ赤なリボンを付けピンク色のワンピースに身を包んでいるシロリンが立っていた。
「シロリンちゃん! どうしてワンピースを着ているのよ?」
「うふふ、女の子はお洒落をしなくてはですにゃん!」
シロリンちゃんはそう言ってウィンクをした。
「……そうなのね」
確かに可愛らしいのだけど、どこから調達してきたのやらとわたしは首を傾げる。
「シロリン、僕のぬいぐるみの服をかっぱらいましたね」
「あはは、バレましたかにゃん」
「当たり前ですよ。まあ、可愛らしいから許してあげますよ」
「うふふ、可愛らしいなんて嬉しいにゃん」
シロリンは肉球のある可愛らしい手で頭をぽりぽり掻いている。どうやら照れているようだ。
「シロリンも出かけるんですよね? これ、お昼に食べてください」
マルコーリさんは、笑いながらシロリンにわたしとお揃いのポシェット型の鞄を差し出した。
「わ~い、ありがとう!」
シロリンは受け取りポシェットを斜めにかけた。
「では、ゆっくり楽しんで来てくださいね」
「はい、ありがとうございます。楽しんできますね。さあ、シロリンちゃん行こう!」
「はい、行きましょう!」
「いってらっしゃい」
わたし達はマルコーリさんの優しい笑顔に見送られ木製の扉を開けた。
さあ、楽しい村の散策が始まります。
外に出ると柔らかい風が頬を撫でた。今の季節は春なのだろうか。空を見上げると青空が広がっていた。
「良い天気だね」
「はい、お散歩日和ですにゃん」
わたしとシロリンはしばらくの間空を見上げていた。
空は青くてとても綺麗でなんだか涙が出そうになった。こんなにリアルな夢ってないよね。わたしは、知らない世界に紛れ込んでしまったのかな?
「砂織ちゃん、どうしたの?」
気がつくとシロリンがわたしの顔をじっと見ていた。その目は海の色みたいに青くて綺麗で吸い込まれそうになった。
「ううん、大丈夫だよ。故郷を思い出していたのよ」
「故郷、それはフラーンズ家のことかな?」
「……違うよ。もっと、もっと遠い世界を思い出していたんだよ」
そう、もっともっともっと遠い世界を思い出していた。わたしの住んでいた日本とそれから大切な誰かを……。
わたしは、何かを忘れているのかもしれない。
わたしは、日本の街で幸せに暮らしていた。まあ、幸せといっても平凡な人生だったけれど。
紅茶の香りが漂うカフェでわたしは、働いていた。子供の頃から紅茶が好きで大人になったらカフェで働きたいなと思っていた。
そして、紅茶の香りが漂うカフェで働く小さな夢を叶えた。
わたしはささやかな幸せの中で過ごしていた。そして、いつか小さなお店を持ちたいなという夢もあった。
空を見上げているとそんなことを思い出した。
「ねえ、砂織ちゃん遠い世界ってどこなのかな?」
「……それは、この空に繋がっているのか分からない世界だよ」
シロリンちゃんの問いに答えると、切ない気持ちになり胸がきゅーっとなった。
気がつくとわたしの頬に涙が伝っていた。どうして涙が溢れてくるのか分からなかった。
「砂織ちゃん大丈夫?」
シロリンの肉球のある手がわたしの背中を撫でた。
「あ、うん。シロリンちゃんごめんね。大丈夫だよ。さあ、このルーピー村を探検しようね」
わたしは、手の甲で涙を拭いそして、笑顔を作った。こうなったらこの世界を楽しまなくてはね。
泣いていても始まらない。わたしは、にっこりと笑い歩き出した。
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