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帰れない

小説の中に

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  キラキラと輝いていた青春時代の思い出をあの小説の中にわたしは真空パックしたかったのかもしれない。そう、『オレンジ色の夕日とわたしの青春』という小説の中に。

  現実世界のわたしは、毎日がつまらなくてこの先どんな人生を歩んでいけば良いのかなと悩んだ。そんな時小説を書きたいなと思ったのだったかな。

  ほんの少し前のことなのになぜだかはっきり思い出せない。

「亜沙美、高校生の頃から小説を書きたいなと言ってたよな」

「え?  そうだったかな?」

「え~マジで忘れているのか?」

「うん、忘れていた。じゃあ、わたしは、高校生の頃からの夢が叶ったのかな?」

  わたしが目を見開き聞くと松木は、

「夢が叶ったのかなって、おい、信じられないことを言うよな。高校時代から小説を書きたいなと俺に話していたよね」と言って松木は溜め息をついた。

「……そうだったかな。ごめんね、忘れていたよ」

「呆れたよ。『オレンジ色の夕日とわたしの青春』が出版できた時も高校時代からの夢が叶ったねって喜びあったじゃないか」

  松木は眉間に皺を寄せ呆れたようにわたしの顔をじっと見た。

「……そ、そんな怖い顔で見ないでよ」

  松木の奴はそれはもう怖い顔でじとーっ見るのだから恐ろしい。

「だって、俺の喜び損みたいじゃないか」

「ごめんね。喜んでくれてたなんて嬉しいよ」とわたしは、顔の前で両手を合わせ謝った。

「もういいよ。それに……俺も最近何か忘れているような気もするんだよね」

「忘れている?」

  松木のその言葉がなんだか気になった。

「うん、忘れていると言うのか……俺も高校時代のことを思い出そうとすると何かを忘れているなと感じることがあるんだよ」

  松木はそう言ってペットボトルのミルクティーを飲んだ。その顔を見ると高校時代の今よりちょっと幼い松木の顔と重なって見えた。

  わたしは、はっとした。そう、あることに気がついた。

「ねえ、松木!!」

「亜沙美、大きな声を出すなよ。なんだよ聞こえているぞ」

「わたし気がついたよ!!」

「だから亜沙美うるさいよ!」

  松木は眉間に皺を寄せ嫌な顔をしているけれど、わたしは、気にせず大きな声で言った。

「この同窓会に参加しているメンバーは全員あの夏祭りで会っているよ!!」

「え!?  それって」

  松木は目をまん丸くさせた。

「うん、あの夏祭りで会った人しかこの同窓会に来てないよ……」とわたしは、答えた。

 わたしは、自分の言ったその言葉にドキドキした。だって、あの夏祭りで会った人しかこの同窓会に参加していないなんてやっぱり変だ。絶対におかしい。

「……考えてみるとそうだよな」

「やっぱり松木もそう思うよね?」

「ああ、だけど偶然じゃないのかな?」

  松木は顎に手を当ててうーんと唸った。

「……本当に偶然なのかな?」

「偶然じゃないのならそれは一体なんなんだよ」

「……それはよく分からないけど何らかの見えない力が働いたとか」

  そう答えた自分の言葉もなんだかわたしは、良く分からないのだった。

 
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