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帰れない
カモミールティーと多香子
しおりを挟むわたしは今、美奈が淹れてくれた二杯目のお茶を飲んでいる。甘酸っぱくてほのかにりんごのような香りがしてほっと落ち着く。
「亜沙美ちゃん、カモミールティーよ。落ち着くでしょ?」
「うん、甘酸っぱくてりんごのような香りがするね」
「うふふ、カモミールティーは白と黄色の可愛いお花が咲く菊科の植物よ。不安な心を和らげる効果があるみたいなのよ」
美奈はそう言ってわたしの目の前の席に座り柔らかな笑みを浮かべた。
「そうなんだね。うん、ちょっと心が落ち着いたかも」
「なんでも古代から飲まれていたみたいなんだよ」
「だから落ち着くんだね」
わたしはもう一口カモミールティーを飲んだ。甘酸っぱい甘い香りと共に体がほわほわと温まり先程までの恐怖が和らいだ。
美奈もカモミールティーを飲み穏やかな笑みを浮かべている。ずっと、この穏やかな空間の中にいたいな。
わたしはほっこり気分でカモミールティーを飲んだ。心がゆったり落ち着いてきたその時、
「亜沙美ちゃんに美奈ちゃん居たんだね」と言いながら多香子がリビングに入ってきた。
「多香子ちゃんもカモミールティー飲む?」
「あ、うん、飲む」
「じゃあ、わたし淹れてくるね」
美奈は立ち上がりパタパタとツインテールを揺らしキッチンへ向かった。
「ちょっと暇だったからお茶でも飲みながら手紙でも書こうかなと思ってね」
多香子は言いながら椅子に腰を下ろし筆記用具と提灯のポストカードをテーブルに置いた。
「た、多香子ちゃんそれは!」
多香子が、闇夜にころんとした丸型のオレンジ色の提灯が明かりを灯し浮かんでいるポストカードをテーブルに置いたものだからわたしは、ビクッとした。
「あ、これね。雨で暇だから自分宛の手紙でも書こうかなと思ったのよ」
多香子は笑みを浮かべわたしの顔を見た。
「それ、オレンジ色の提灯柄だよ」
「うん、亜沙美ちゃんも知っているでしょ。お土産屋で買ったポストカードだよ。あ、そう言えば亜沙美ちゃんは提灯柄が怖いんだよね」
「……うん、怖いよ」
「提灯キーホルダーがひとりでに動いたんだよね。でもそれはオーナーさんに預けたんでしょ?」
「う、うんそうなんだけど……」
わたしは、ボールペンをカチカチ鳴らしている多香子の手元を眺めながらオーナーさんに預けたオレンジ色の提灯キーホルダーが舞い戻りそして消えたことを言おうか言うまいか迷っていると、
「でもそっか、提灯キーホルダーがひとりでに動く現象が起きたんだから怖いよね」と納得したように多香子は縦に首を振り頷いている。
そして、多香子は「手紙ここで書いたら駄目かな?」と聞いた。
「……そんなことないよ。ポストカードとキーホルダーは別物だから」とわたしは答えた。
「亜沙美ちゃんが大丈夫ならここで書くね」
多香子は微笑みを浮かべた。
「お待たせ~カモミールティーだよ~」
美奈がキッチンからリビングに戻ってきた。
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