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帰れない
美奈の優しい声と浴衣
しおりを挟むわたしはリビングの椅子に体から力が抜けた状態でぐったりと座っている。
壁掛け時計のカチコチカチコチ音が耳障りだ。
「亜沙美ちゃん、紅茶を淹れたよ」
美奈がわたしの目の前に湯気の立った紅茶を置いた。
「美奈ちゃんありがとう」
「亜沙美ちゃん、紅茶を飲んで落ち着いてね」と言いながら美奈はテーブルに自分の紅茶を置き座った。
わたしは、美奈の淹れてくれた紅茶をゆっくり飲む。紅茶の優しい温もりが体にじわじわと行き渡り少し落ち着いた。
「亜沙美ちゃん、この同窓会に来てからなんか様子がおかしいね。何か心配ごとがあるんだったら言ってね」
美奈は飲んでいたティーカップをテーブルにゆっくり置き言った。
「……う、うん。いろいろあってちょっと疲れているのかも」
「いろいろってどんなこと?」
美奈はわたしに優しい眼差しを向けた。
「……美奈ちゃんも知っているオレンジ色の提灯キーホルダーのことや他にもちょっと……」
「提灯キーホルダーは確かに不思議だし不気味だよね。わたしも気になるよ。まだ、他にも何かあるの?」
「う、うん……」
「どんなことでも気になることがあったら言ってみて」
美奈のその声はとても優しかった。
「美奈ちゃんありがとう」
わたしは、あの恐ろしい夢のことやアザミ柄の浴衣のことなど話してみようかなと思った。
「……美奈ちゃん聞いてくれる」
「うん、もちろん聞くよ」
「わたしね、怖い夢を見るんだ」
わたしは言いながら膝の上に置いている自分の手をぎゅっと握った。その手はちょっと冷たくて震えている。
「怖い夢?」
美奈は首を橫に傾げた。
「……うん、最近怖い夢を見るんだ。その夢は、オレンジ色の提灯が灯る定食屋にわたしはいるんだけど包丁を握っていて……その包丁から血がぽたり、ぽたりと」
わたしはここまで話して自分のその言葉にドキドキした。もうあの光景を思い出すと背筋が凍るようにゾクゾクする。
「えっ!? 包丁から血がぽたりって何それ! ちょっと気持ち悪いよ」
美奈はぎょっとした表情でわたしの顔を見た。
「……気持ち悪いよね」
「あ、うん、でも続きを話して。気になるよ」
「じゃあ話すよ。その包丁からぽたり、ぽたりと血が滴り落ち床の上は血の水たまりのようになっているんだよ。わたしは、自分が誰かを刺したんじゃないかなって恐怖に怯えている夢なんだよ」
今、ナイフを握るわたしの手と血の水たまりがありありと思い浮かび気持ち悪くて吐きそうになった。
「亜沙美ちゃん」
「み、美奈ちゃん、わたしあの夢が怖くてたまらないよ」
そう言って美奈に視線を向けると紫陽花柄の浴衣を着ているように見えた。
「ど、ど、どうしてなの?」
恐怖でわたしの気が遠くなる。
「亜沙美ちゃん、ねえ、亜沙美ちゃん! 大丈夫?」
「あっ! わたし……」
恐る恐る目を開けると美奈が心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。紫陽花柄の浴衣は着ていない。良かったと胸を撫で下ろす。
「亜沙美ちゃんがカクンってなって勢いよくテーブルに突っ伏すからびっくりしたよ」
「わたし、一瞬気を失っていたみたい」
「さっき、亜沙美ちゃんが話していた夢怖いもんね。きっと疲れているんだよ。部屋に戻って寝た方がいいかもね」
美奈は眉間に皺を寄せわたしの顔を見た。
「……うん、でも」
部屋に戻っても紫陽花柄の浴衣やアザミ柄の浴衣にそれと、オレンジ色の提灯キーホルダーの夢を見そうだ。そうかと言ってリビングに居ても美奈の服装が突然紫陽花柄の浴衣姿に見えたりしそうで怖い。
「もう一杯お茶飲む?」
「うん、飲もうかな」
「じゃあ、わたし、美味しいお茶を淹れてくるね」
美奈はそう言ってパタパタとキッチンに向かった。美奈は良い子だと思う。優しくて思いやりがあるもの。
だがしかし、わたしは美奈という人間がよく分からない。高校時代からそうだった。子供のように無邪気でそれでいてミステリアスなイメージがする。美奈は不思議な存在なのだ。
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