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帰れない
夢の中
しおりを挟むそれからしばらくの間穏やかな気持ちで過ごすことができたのでわたしはほっとした。
ゆっくりゆったりこの休日を過ごそう。わたしはベッドに横になりごろごろしたり読書をする。そのうち眠くなりウトウトした。
ゆったりした時間が流れやっと心が落ち着いた。小説も書かなきゃなと思うのだけど、気がつくとやっぱり眠たくて眠りの世界に落ちていく。
夢の中のわたしは浴衣を着ていた。浴衣の柄ははっきりしない。
『亜沙美ちゃ~ん』と紫陽花柄の浴衣姿の美奈がツインテールの髪を揺らし手を振りながらこちらに向かって来る。
『美奈ちゃん久しぶりだね』と言ってわたしも手を振る。
『亜沙美ちゃんもツインテールなんだね』と美奈が笑顔で言ったのでわたしはびっくりした。
『えっ?』
わたしは、慌てて自分の頭を触る。すると、頭のてっぺんの左右二つの結び目のゴムに手が触れる。
『わ、わたしツインテールヘアだよ。どうして~』
わたしは思わず大きな声を上げてしまった。
『あはは、亜沙美ちゃんってばどうしてそんなにびっくりしているの? 変な亜沙美ちゃん~』
美奈は首を横に傾げ不思議そうにわたしの顔を見た。
『だ、だって、ツインテールに結んだ覚えがないんだもん』
そうだ。これは夢なんだから記憶がないのだ。だから不思議なことではないのだ。
『亜沙美ちゃんもツインテールがよく似合うね』
『……そうかな? 美奈ちゃんの方が似合っているよ』
わたしは、美奈のぱっちりした丸くて大きな目、ふっくらしたほっぺたをじっと眺めて言った。
『うふふ、まあ、わたしはこのヘアスタイルお気に入りだけどね』
そう言いながら笑う美奈はやっぱり可愛らしかった。
思い出した。わたしは椿柄の浴衣を着ているんだ。でも待てよあれは高校時代の夏祭りの浴衣だ。
これは夢の中なんだから必ずしも同じとは限らない。夢の中のわたしは浴衣の柄を確認するけれどぼやけてよく見えなかった。
雨が窓を叩く音で目が覚めた。
夢の中の美奈のツインテールと紫陽花柄の浴衣の映像がくっきり残っている。夢の中にまでも浴衣が出てきて嫌になる。
ただ、アザミじゃなくて良かったとわたしは胸を撫で下ろした。
わたしは、トイレに行きたくなり薄暗くて長い廊下を歩いている。歩くとミシミシギシギシと音が鳴る。
トイレで用を足しドアを開けると美奈が立っていた。「わっ!」とわたしは思わず声を出してしまった。
「ちょっと亜沙美ちゃんってば大きな声を出さないでよね。そんなにびっくりした?」
「あ、うん、人がいると思っていなかったから。ごめんね」
人がいたことにもびっくりしたけれど、それより先程夢の中で会った美奈が目の前にいたのでよりびっくりしたのだった。
「あ、そうだ。亜沙美ちゃんお茶でも飲もうよ。わたしトイレに行くからリビングで待っててね」
そう言ってトイレの中に入っていく美奈のツインテールが揺れる後ろ姿を見送った。
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